勝利の女神:NIKKE REY   作:陽HARU

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チャプター4
9話


茜色の夕日が地平線に沈み、荒廃した地上には容赦のない夜の闇が降りてきていた。

追跡を継続したカウンターズとワードレスは、夜営の安全を確保するため、かろうじて骨組みの残る廃屋の中に身を潜めていた。外の警戒をラピやネオンに任せ、薄暗い室内に座り込む一同。

静寂の中、壁にもたれかかっていたミハラが、ぽつりと呟いた。

「……私たち、歪んだ歯車なのよね」

怪我の治療をするユニの傍らで、ミハラは自嘲気味に続ける。

「正常に組み上げられた機械は、綺麗に噛み合って社会を回す。でも、私たちワードレスは最初から規格が狂っている。普通の人間やニケとは、どうしても上手く付き合えない……」

ミハラが隣に座るユニを見つめた。

「でもね、この子だけは違う。同じように歪んだ歯車の私たち同士なら……驚くほど、ピッタリと噛み合うの。痛みを分け合い、傷を舐め合うことでしか生きられない、壊れた人形同士だけどね」

ミハラとユニの語り合い。その切なくも歪な絆に触れ、一同の間に漂っていた緊張の糸が少しだけ緩んだ。

特にユニは、先ほどまでの刺々しい態度を潜め、自分たちを人間として扱ってくれた指揮官の包容力に温もりを感じたのか、以前よりも明らかに指揮官へ懐くような眼差しを向けていた。

◆

だが、平穏は長く続かなかった。

――ピピピピッ!!

突発的な警告アラートが響き渡る。次の瞬間、闇夜を切り裂いて高速の銃弾が廃屋の壁を粉砕した。

「待ち伏せです! 狙撃型ラプチャー……! 指揮官様を狙っている!」

ラピの叫びと同時に、ミハラの能力で痛覚を共有されたユニが素早く対象の感覚を遮断し、辛うじて指揮官の急所を逸らす。

「くっ……! 明らかに私たちではなく、指揮官の命をピンポイントで狙っているわ……!」

冷や汗を流しながらラピが銃口を向ける。

激しい迎撃戦の末、どうにか狙撃型ラプチャーを撃退した一同は、荒い息を整えて束の間の安堵に浸っていた。

――その時だった。

「……見つけた」

背筋が凍るような、低く奇妙な濁音。

暗闇の中から、重い足音とともに現れた影。追跡し続けていた目標――トーカティブだった。

「なっ……!?」

巨大な体躯から放たれた膂力で、ラピが文字通り吹き飛ばされ、壁に激突して昏倒する。

だが、それ以上の衝撃が一同を襲った。

「……フフ……ククク……よくぞ、ここまで……追ってきたな、人間の虫どもよ……」

――喋った。

ラプチャーが、明確な人間の「人語」を操っている。前代未聞の光景に、アニスが絶句して震え上がった。

「言葉を喋るラプチャー……そんなの、聞いてないわよ……っ!」

「逃がさない……!」

ミハラとユニが即座にそれぞれの能力を発動し、トーカティブの神経系と行動を縛り付けて捕縛を試みる。

二人の特殊能力により、トーカティブの動きがガタリと鈍った。「いける……!」とアニスが踏み出そうとした、その瞬間――。

「――浅知恵だな、歪んだ人形が」

トーカティブは不気味に笑うと、なんと自らの痛覚と拘束の概念を力技で逆手に取り、ミハラとユニの能力干渉を逆にフィードバックさせて二人を戦闘不能に追い込んだ。

さらに、傷ついた肉体を瞬時にぐにゃりと自己修復していく。ラプチャーの枠組みから完全に逸脱したその怪異に、アニスは恐怖で立ちすくむしかなかった。

「グアァ……ッ!」

仲間たちが倒れる中、トーカティブの巨大な腕が伸び、恐怖に凍りつく指揮官の襟首を掴み上げて拉致しようとする。

「――させない!」

身を挺して間に割って入ったラピの攻撃を、トーカティブは片手で容易く弾き飛ばした。

その赤い瞳が、ラピと――そして後方に控える俺を捉え、狂気的な笑みを浮かべる。

「ほう……? これは驚いた。――貴様、フェアリーテイルモデルの『レッドフード』か……?」

ラピの姿を見て、トーカティブは愉快そうに喉を鳴らした。

さらに、その視線が俺へとスライドする。

「そして……そこの可憐な娘。いや、隠しても無駄だ。――貴様も『フェアリーテイルモデル』だな。しかも、俺の知らない……新しく造られた『最新の試作型』か……!」

「なっ……!?」

俺の正体――「フェアリーテイルモデルの次世代試験型素体」であることを見抜かれた。

冷や汗が背中を伝う。だが、感傷に浸る暇はない。トーカティブの巨腕が、指揮官を庇おうとした俺へと容赦なく振り下ろされた。

「ぐっ……!!」

フェアリーテイルモデルの圧倒的なフレーム出力を全開で受け止めたものの、凄まじい衝撃波に吹き飛ばされ、俺の体は廃屋のコンクリート柱を盛大に突き破って地面に激突した。

制服の布地が裂け、喉のモジュールから微かにノイズが漏れる。

(クソっ……流石に特異個体か……!)

「レイッ!!」

指揮官の悲鳴が響く。もはや退却すら不可能な絶望的状況。

ラピは血を流しながらも、最後の力を振り絞って立ち上がり、銃口を構えて絶叫した。

「指揮官だけでも……逃げなさい……っ!!」

全員が覚悟を決めた、その瞬間だった。

――ズドドンッ!!!!

夜の静寂を木端微塵に粉砕する、まるで艦砲射撃のような凄まじい轟音。

空気を切り裂く高圧の弾丸が、トーカティブの肩を正確に撃ち抜き、その巨体にぽっかりと大きな穴を開けた。

「ガァッ……!?」

自己修復の速度を完全に超越した破壊。トーカティブが驚愕の声を上げる。

暗闇の彼方から、巨大な対艦ライフルを軽々と携えた一人の「謎の白いニケ」がゆっくりと歩み寄ってきた。

「……自己修復が間に合わないか。厄介だな」

冷徹で、けれど圧倒的な存在感を放つ白いニケの銃撃に恐れをなしたのか、トーカティブは歪んだ笑みを残し、捨て台詞を吐いて夜の闇へと逃げ去っていった。

「待て……っ!」

ラピが追おうとするが、その足はもう限界だった。

辺りが再び静寂に包まれる中、救世主であるはずの謎の白いニケは、倒れている私たちを一瞥し、冷たく言い放った。

「……お前たちは帰れ」

それだけ言い残すと、彼女は振り返ることもなく、瞬く間に闇の向こうへと姿を消していったのだった。

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