勝利の女神NIKKE REY   作:陽HARU

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4話

アークの地下深くに佇む中央政府の密室。過剰なほどの防音処理が施された室内で、俺は喉のモジュールを切り、本来の低い男性の声でアンダーソン副司令官へと報告を行っていた。

「――輸送機墜落の直前まで、マリアンの素体から外部通信の痕跡は検出されなかった。地上に降りてから侵食されたにしては、進行速度が異常すぎる。……副司令官、マリアンは地上に出る前、すでに『アーク内部』で侵食されていた可能性がある」

デスクの向こうで煙草の煙をくゆらせていたアンダーソンが、重々しく目を細める。

「アーク内部での侵食……事実とすれば、中央政府のセキュリティシステムが根底から揺らぐ大事だな。レイ、その疑念は心に留めておけ。現段階で騒ぎ立てればアーク全体が混乱に陥る」

「了解だ。……それと、あの新人指揮官のことだが」

「ああ」アンダーソンは深く頷いた。「マリアンを失うという極限状態の中、勝率12.3%のタイラント級を撃破して生還してみせた。……彼の指揮官としての資質、そして随伴していたラピとアニスの戦闘力。真のポテンシャルを測定する必要がある」

アンダーソンは立ち上がると、一枚のアクセスコードが記録されたデータチップを俺に投げ渡した。

「エリシオンのCEO、イングリッドのもとへ向かえ。シミュレーションルームでの戦闘適性テストを手配してある。お前も『試験型ニケ』として立ち会え」

◆

アーク内、エリシオン本社ビル・地下シミュレーションエリア。

「――ほう。あの状況から生還したのみならず、部隊の戦力をここまで引き出すとはな」

腕を組み、巨大なモニタールームの最前列で冷徹な視線を送る女性――エリシオン最高経営責任者、イングリッド。その傍らで、俺は完璧な女性声と可憐な制服姿の「極秘試作ニケ」へと戻り、壁際に静かに控えていた。

ガラスの向こうのシミュレーションルームでは、新人指揮官の指示のもと、ラピとアニスが次々と出現するホログラムのラプチャー群を鮮やかに掃討していく。

指揮官の判断速度、ニケの能力を限界まで引き出すタイミングの見極め、そして二機の連携。どれをとっても昨日任官したばかりの新人とは思えない凄みがあった。

テストが終了し、ホログラムが消える。息を切らせながらも凛とした表情で立つ指揮官たちのもとへ、モニタールームの扉が開き、アンダーソンとイングリッド、そして俺が歩み寄った。

「見事な戦闘分析と指揮だった、指揮官」

イングリッドが厳格な声で告げる。「エリシオンのCEOとして、君とカウンターズの能力を高く評価しよう」

「アンダーソン副司令官……! イングリッドCEOまで……」

指揮官が驚きに目を見張る。

「君たちの実力には非常に興味深いものがある」アンダーソンが静かに追従した。「故に、さらなるテストを行ってもらう。実戦における君たちの限界を見極めるための、地上派遣任務だ」

「地上派遣……!」

アニスが顔をしかめ、「ちょっと、戻ってきたばかりなんですけど!?」と声を上げかけたが、ラピがそれを手で制した。

「承諾いたします。……ですが、マリアンを失った現在のカウンターズは、規定のスクワッド最低運用人数を満たしていません」

「その懸念なら無用だ」

イングリッドの手招きに応じるように、シミュレーションルームの奥の扉が開き、けたたましい足音が響いた。

「初めまして、指揮官殿! エリシオン所属、火力こそが至高の真理! ネオンと申します!」

現れたのは、大きな眼鏡をかけ、自慢げに巨大なショットガンを掲げる小柄なニケだった。

「エリシオンからの補充人員だ」イングリッドがネオンを示しながら言った。「技術的・戦力的なバックアップとして、今日から君の部隊へ組み込む」

「火力……ですか?」指揮官が戸惑うように呟くと、ネオンは胸を張って頷いた。

「はい! 火力です! 銃弾と爆薬こそが地上を制するのです、指揮官殿!」

アニスが頭を抱えて溜め息をつく。「うわぁ……また妙なのが入ってきたわね……」

賑やかになる現場の片隅で、俺は特注AK-47のアタッチメントを静かに点検しながら、指揮官の表情を窺った。

マリアンを失った傷はまだ癒えていないはずだ。それでも、新しい仲間を受け入れ、前を向こうとする彼の瞳には、確固たる意志の光が宿っていた。

(アーク内部での侵食の影……そして、アンダーソンとイングリッドが仕掛ける新たな地上テスト……)

俺は喉のモジュールを微調整し、可憐な女性声で一歩前へと踏み出した。

「……中央政府直属、レイ。本任務におきましても、アンダーソン副司令官の指示に基づき、カウンターズの護衛および試作素体の運用テストとして同行させていただきます」

指揮官が俺を見つめ、小さく微笑んだ。

「よろしく頼むよ、ネオン、そしてレイ」

「はい! 火力でお応えします!」

『……了解いたしました』

新たな補充人員・ネオンを加え、不穏な謎と期待を孕んだまま、俺たちの次なる地上任務の火蓋が切られようとしていた。

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