勝利の女神NIKKE REY   作:陽HARU

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チャプター2
5話


作戦目標――地上に存在する旧時代の大型水力発電所。

長年放棄されていたはずのその施設が、最近になって謎の稼働を開始したという。動力源の確保、そして不審な稼働原因を解明するため、俺たちは再び地上への足を踏み入れていた。

「いいですか指揮官殿! 火力とはロマン! 火力とは正義! 迷った時はすべてを吹き飛ばす重火力こそが解なのです!」

「ねえ……移動中くらい静かにできない? 弾薬の無駄遣い以前に耳がイカれそうなのだけど」

道中、新メンバーのネオンは一歩進むごとに暑苦しい「火力哲学」を熱弁し、アニスがうんざりした顔で頭を抱えていた。

(……やかましいな。だが、前線の雰囲気が少し明るくなっているのは確かか)

俺は喉のモジュールを通した透き通った女性声を保ちながら、隊列の最後尾で特注AK-47のアタッチメントを点検する。

……任官したての指揮官と、傷の癒えぬカウンターズ。そこへ投入されたエリシオンの火力バカ。アンダーソンとイングリッドの意図は読みきれないが、俺の役目は変わらない。

◆

「――全員、遮蔽物に身を隠してください」

ラピの低い警戒の声に、全員が物陰へと滑り込む。

目指す発電所が視界に捉えられたが、その広大な敷地の周囲は、見たこともない密度のラプチャーの群れによって完全に包囲されていた。

正面突破は不可能。シフティーの通信が途切れ途切れにレシーバーへ届く。

『指揮官様! 発電所の裏手に、建物の下水処理施設へと繋がる狭い排水路が存在します! そこならラプチャーの哨戒網を潜り抜けられるはずです!』

「了解だ。排水路から侵入する」

指揮官の決断により、俺たちは冷たく狭いダクト状の排水路へと這い進むことになった。金属の冷気と湿った泥の匂いが鼻をつく。

先頭はラピ、続いてマリアンの位置を引き継いだアニス、その直後に指揮官、そしてネオンと俺が続く。

「うぅ……狭いし服は汚れるし、最悪なんだけど……」

泥に塗れながら進むアニスが愚痴をこぼす。

その時、狭い管内にアニスのお尻がぴったりと嵌まるような体勢になり、すぐ後ろを這っていた指揮官が、思わずといった様子で呟いた。

「……ん? なんだか……臭うな」

「――ッ!!?」

一瞬でダクト内に緊張が走った。アニスの動きがピタリと止まる。

「し、指揮官……? 今、なんて言ったの……?」

ゆっくりと振り返るアニスの顔は真っ赤に染まり、瞳には殺意すら滲んでいた。

「あ、いや! アニスのことじゃなくて、排水路のドブの臭いが――」

「遅い! 言い訳は遅いわよ!! ニケだって汗腺のメカニズムはあるけど、私そんなに臭う!? 嘘でしょ!?」

パニックになりかけたアニスが自分のお尻や服の匂いを必死に嗅ぎ始め、狭いダクト内でドタバタと暴れ出す。

すぐ後ろで一部始終を見ていた俺は、暗視スコープ越しに冷ややかな視線を指揮官へと向けた。

(……この土壇場でニケの女の子の匂いに言及するか普通……? 呆れて物も言えん……)

「……アニス、指揮官。私語を慎んでください。ラプチャーに感知されます」

ラピの冷静な一言でどうにか前進が再開されたが、アニスはその後もずっと「私、臭くないわよね……?」と気に病み続けていた。

◆

苦労の末、ダクトを抜け出た一行は、発電所の心臓部であるメイン制御室へと辿り着いた。

室内には無数のモニターが青白く発光し、中央のメインコンソールには――言葉を失う光景が広がっていた。

「……嘘だろ……」

指揮官が息を呑む。

そこにいたのは、コンソールの前に立ち、多脚の触手でホログラムパネルを緻密に『操作』しているロード級ラプチャーの姿だった。

破壊や殺戮しか行わないはずのラプチャーが、人間のように機械を操作し、発電所を稼働させている。前例のない異常事態に、ラピがすぐさま判断を下す。

「……ラプチャーの知性と行動様式における重大な変異です。調査の任務は達成しました。直ちにアークへ帰還し、中央政府へ報告を――」

――ガァァンッ!!

その瞬間、室内の警告アラートが跳ね上がり、操作を行っていたラプチャーが鋭くこちらへと振り向いた。

「発見された! 迎撃してください!」

激しい乱戦が巻き起こる。制御室の狭い空間で銃弾が飛び交う中、異形のラプチャーから伸びた高出力のエネルギーブレードが、突撃したラピの胸部装甲を真っ向から貫いた!

「ラピっ!!」

激しい衝撃音とともにラピの体が壁へと叩きつけられ、火花を散らして動かなくなる。メインモニターの光に照らされた彼女の瞳から、光が消えていた。

「嘘だろ……ラピ……!? 返事をしろ、ラピ!!」

昨日マリアンを目の前で処刑したトラウマが蘇ったのか、指揮官はその場に崩れ落ち、動かなくなったラピを抱きかかえて呆然と立ち尽くしてしまった。

「指揮官、危ない!!」

追い打ちをかけようと迫るラプチャーの前に、俺は滑り込んだ。

――ドドドンッ!!

特注AK-47のアンダーバレル・グレネードを至近距離から叩き込む!

爆炎がラプチャーの視界を奪う隙に、俺はフェアリーテイルモデルの筋力を解放し、ラピの重い金属体を片腕で抱え上げて後方へ跳んだ。

「レイ……っ! ラピが……!」

動揺し、瞳の焦点を失っている指揮官。その頬を、アニスが激しく張り飛ばした。

――パァンッ!!

「しっかりしなさい、指揮官!!」

アニスが叫ぶ。

「ラピは死んでない! ニケのコアが生きていれば、アークに持ち帰れば修理できるの! あなたがここで諦めたら、本当に全員死ぬのよ!!」

アニスの決死の叱咤に、指揮官の瞳にカッと光が戻った。

「……すまない、アニス。……全員、退避だ! 発電所から脱出する!」

◆

「シャ、シャッターを破って地下から何かが来ます! 火力! 超巨大な火力反応です!!」

ネオンが悲鳴を上げる。

脱出路を駆け抜ける俺たちの足元で、発電所全体が地震のように大きく揺れ始めた。

――ズズズズズズズズッッ!!!!

床のコンクリートを粉砕し、地中を掘削しながら巨大な鋼鉄の巨躯が現れる。

巨大なドリルを先端に備え、全土を喰らい尽くすように迫る大型ラプチャー――グレイブディガー。

「なんなのよアレぇぇぇ!!?」

アニスが絶叫しながらアサルトライフルを連射するが、グレイブディガーの厚い掘削装甲には傷一つ付かない。

「弾幕を張れ! ネオン、最大火力で脚止めだ!」

「了解です! 火力全開でお応えします!!」

ネオンのショットガンが爆音を響かせ、俺もAK-47のフルオート射撃とレーザーポインターで弱点の掘削ノズルを正確に狙い撃つ。

指揮官の的確な退避指示のもと、俺たちは倒壊する発電所の瓦礫をすり抜け、猛追してくるグレイブディガーのドリルを紙一重でかわし続けた。

「……出入口が見えたぞ! 飛び込め!!」

爆煙と崩壊するコンクリートの嵐の中、俺たちは一丸となって屋外の雪原へと飛び出した。

直後、発電所の建造物が大音響とともに崩れ落ち、追撃してきていたグレイブディガーを瓦礫の底へと押し潰したのだった。

◆

荒々しい息を吐きながら、冷たい雪の上に倒れ込む面々。

傷つき動かないラピを抱え直し、俺は可憐な女性声を保ったまま、指揮官へと歩み寄った。

「……グレイブディガーの追撃、途絶えました。全員、無事です」

「ハァ……ハァ……助かった……」

指揮官は雪に膝をつき、胸を撫でおろした。そして、アニスとネオン、そして俺へと温かい視線を向ける。

「みんな、ありがとう。……ラピをアークへ連れて帰ろう。すぐに修理してもらうんだ」

「ええ……本当に心臓が止まるかと思ったわ……」

アニスが疲労困憊で座り込み、ふと自分の肩の匂いを嗅いで小さく顔を顰めた。「……ねえ指揮官、アークに帰ったら……私、真っ先にシャワー浴びていい……?」

「……もちろんだよ」指揮官が苦笑する。

そのやり取りを見つめながら、俺は胸の奥で静かに息を吐いた。

(ラプチャーが知性を持って機械を操作していた事実……。マリアンの件といい、地上で何かが確実に狂い始めている)

俺はAK-47のボルトを引き、冷たい地上からアークへと続く地下ルートを見つめた。

(……アンダーソンのオッサンに、また重い報告が増えそうだな)

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