AVENGERS/GRAND ORDER: WHAT IF…? 作:3000回愛してる
時間。
空間。
現実。
それは一本の直線ではない。
無限の可能性を秘めたプリズムなのだ。
一つの選択が無数の現実に枝分かれし、君の知らない別の世界が産まれる。
私はウォッチャー。
果てしなく広がる新しい現実への案内人だ。
着いてくるがいい。そして問いかけろ─────もしも、と。
南極には、人類の営みを永遠に存在させることを目的とした秘密結社、人理継続保障機関フィニス・カルデアという組織が存在する。
その組織には、地球の"魂"──あくまであると仮定して──をコピーした「疑似地球環境モデル・カルデアス」と呼ばれる世紀の発明品がある。そのコピーの設定を100年後に定め、コピーに人類の活動の明かりがあれば大元である現実の地球でも100年後も営みが続いているといえ、それを確かめることで人類の存続を保証することが、カルデアの使命。
しかし、2015年に入り、突然カルデアスの観測上「2016年を最後に人類は絶滅する」という研究結果が証明された。その原因を同じくカルデアの発明品であるカルデアスを覗くためのレンズ「近未来観測レンズ・シバ」や「事象記録電脳魔ラプラス*1」「霊子演算装置トリスメギストス*2」を用いて、検証する中で、西暦2004年の日本のある地方都市に観測不能領域の出現を検知。
2012年のニューヨーク決戦における
しかし、過去の観測不能領域には現代からは手を出せない。故にテスト段階の
そのような組織のある南極に、1台の黒いヘリコプターが空から着陸した。
ヘリコプターから降りてきたのは目隠しをされた高校生程度の年齢の、黒髪の少年だった。
#序
『───塩基配列 ヒトゲノムと確認』
『───霊器属性 善性・中立と確認』
『ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。』
『ここは人理継続保障機関 カルデア。』
『指紋認証 声紋認証 遺伝子認証 クリア。』
『魔術回路の測定……認証しました。』
『登録名と一致します。』
『貴方を霊長類の一員である事を認めます。』
『はじめまして。』
『貴方は本日 最後の来館者です。』
『どうぞ、善き時間をお過ごしください。』
『……申し訳ございません。』
『入館手続き完了まであと180秒必要です。』
『その間模擬戦闘をお楽しみください。』
『レギュレーション:シニア』
『契約サーヴァント:セイバー ランサー アーチャー』
『スコアの記録はいたしません。』
『どうぞ気の向くまま、自由にお楽しみください。』
『英霊召喚システム フェイト 起動します。』
『180秒の間、マスターとして善い経験ができますよう。』
女性の声を用いたアナウンスを聞いた後、元々目隠しで何も見えていなかった俺の視界がより深く暗転した。
「……フォウ……フォーウ!」
…………。
犬のような、猫のような。なんとも言えない鳴き声が聞こえる。
その声に目を覚ますとやや近未来的な青みがかったグレーの壁と廊下と、頬を舐める白く、耳の長いウサギのような小動物。そして、こちらを覗き込む眼鏡をかけた薄紫色の髪の少女が見えた。
思考がまとまらないまま、ぼんやりとその知的だが儚げさを持つ少女の顔を見上げる。少女はそんな俺を不思議そうに覗き込みながら口を開いた。
「……朝でも夜でもありませんから、起きてください、先輩。お休みのようでしたが、通路で眠る理由がわかりません。すやすやと眠られていました。もしや硬い床でなければ眠れない性質なのですか?」
いや、見た目に反してだいぶ辛辣だった。
「いや…そういうわけじゃない。そもそもここで寝た記憶もないんだ」
マシュの手を借り立ち上がりながらそう答えていると、一人の男の声が聞こえた。
「そこにいたのか、マシュ。断りもなしに移動するのはよくない。じき所長の説明会も始まるというのに……おや?」
声をする方向に顔を向けると、そこには全身を深緑色の服で統一した、シルクハットの紳士然とした男がいた。
「君はもしや、今日から配属される48人目の新人さんか。私はレフ・ライノールという技師だ。随分とマシュと親しそうだったが、君の名前を教えてもらっても?」
「藤丸立香です」
「ほお、藤丸君か。レイシフト適正者、最後の48人目。ようこそカルデアへ。君は一般公募のようだけど、私と初対面ということは訓練はまだといったところかな?基礎的な説明は受けていると思うが……」
レイシフト適正やら一般公募やら。何を言っているのか全くわからない。ただ、俺は献血の際に誘われた海外でのボランティアに参加しただけで説明も受けていないし、そもそも目隠しをされて連れてこられている。
ほぼ拉致同然だ。
本当には高校一年生だし、海外まで行くようなボランティアなんか参加するつもりもなかった。
でも献血の後、東欧を巡る夏休みの旅行で事件に巻き込まれた時に
そこから思った。俺には彼らのように世界を救うなんて大それたことはできないし、力もない。でも前世で憧れ、今世で助けてくれた彼らのように他人のために何かをしてもいいんじゃないかって。だからボランティアに参加することにした。献血の男の人、やけに必死でボランティアを進めてきたし、人手も足りなそうだからね。
まあその結果説明もなく拉致同然で謎の場所に連れてこられて硬い床で寝るのが趣味なんですか?って言われてるわけだけど。
そのことを説明するとレフさんはまさか、素人なのかい?と驚いた顔をし、申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ない、君が数合わせに採用した一般枠だったとは。配慮に欠けた質問だった。だが、悲観しないでほしい。君たちレイシフト適正者は2015年においては今回集めた48人で全てだし、アベンジャーズの彼らにすら適正はない。今回のミッションは48人全員が必要で重要だ」
アベンジャーズ。俺が前世で好きだった映画で、今この世界でも現実に活躍しているヒーロー。前世の記憶がぼんやりしているせいか、詳しい話の内容は覚えてないけど、レイシフト適正?とか映画に出てきたか…?この人の話だと48人しか持ってない素質みたいだけど。
俺があまり話を理解してないことを察したのか、レフさんは詳しい話は今から説明会があるからそこで聞いて、それでも気になることがあれば説明会の後でレフさんに聞くか、薄紫色の髪の少女──先ほどマシュと呼ばれていた──に聞いてくれと言ってくれた。そのように話しているとレフさんは思い出したかのようにマシュに顔を向けた。
「ところで、マシュ。随分と親しそうだったが、何を話していたんだい?以前から面識が?」
「いえ、先輩とは初対面です。床で気持ちよさそうに寝ていらしたので声をかけてしまいました」
その話を聞いてレフさんは合点がいったというばかりに頷く。
「ああ、入館時のシュミレートかな。霊子ダイブは慣れていないと脳にくる。おそらくだけど……シュミレート後、意識がないまま、一種の夢遊状態でここまで歩いてきたんだろうね。医務室で検査を受けた方が良いだろうが、まもなく説明会が始まってしまう。見たところ目立った異常はないし、申し訳ないけど説明会に参加してもらうしかないね。所長に些細なことで目をつけられるのも良くない」
「レフ教授。私も説明会に参加しても許されるでしょうか?先輩がまた熟睡される可能性もありますし、管制室までご案内するべきかと」
「マシュがそうしたいならそうしなさい。………しかし、君をひとりにすると所長に叱られるからなあ……私も同席するか」
説明会に参加しないだけで後が心配になるような人間が所長なのか……。
すでに暗雲が立ち込めてきている気がする。
3人と1匹?で説明会のある会議室?大部屋?管制室?に向うため、やや無機質な、近未来的な廊下を歩いていたが、これまた近未来的な自動ドアでマシュの足が止まる。
「こちらが中央管制室です。先輩の番号は1桁のようですので入って最前列の席にお座りください」
「藤丸君。所長はまあ……癖があるけども、慣れてしまえば愛嬌がある。虎口に飛び込む気持ちで説明会を受けたまえ」
マシュとレフさんの話を受けて、やや緊張しながら俺は席に座った。
#序2
偉そうで神経質そうな白髪の女性、オルガマリー・アニムスフィアとかいった──面倒らしい人の話を聞き始めたが、その人の話は専門用語もあり、よくわからなかったため後でレフさんかマシュにでも聞こうと思い、一応は熱心に聞いている顔を作っていた。いたんだが……。
気づいたら白髪の女性にビンタされて部屋を追い出されていた。
じんじん腫れるほほを撫でながら歩いていると、マシュが心配したように覗き込む。
「……大丈夫ですか?先輩」
「ああ、大丈夫。眠っちゃった俺が悪いしね」
「シュミレートの影響がまだ残っているのかもしれませんね。ファーストミッションから外されてしまいましたし、あちらの先輩の部屋で休まれても良いかもしれません。私はAチームですので戻らないといけません。ですので、このフォウさんをよろしくお願いしますね」
フォウを肩に乗せて来た道を帰っていくマシュを見送りつつ、俺が案内された部屋に入るとそこにはフォークを加えている柔和そうなオレンジ色の髪の男がびっくりとしたこちらを見ていた。
「うぇぇぇ!?ここは空き部屋でボクのサボり場だぞ!?誰だい君は!?」
「あー、48人目の?レイシフト適正者らしい?藤丸立香です。ここが俺の部屋だってマシュに案内されたんですけど……」
「最後の一人の適正者が来ちゃったかぁ……。ああ、いやごめん。自己紹介が必要だね。はじめまして藤丸君。ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。みんなからはDr.ロマンとなぜか呼ばれているよ。君も遠慮なくロマンと呼んでくれ。これからよろしくね」
ニヘラと笑うDr.ロマン。さっきの神経質そうな所長と違ってかなり良い人そうだ。まあ追い出されたのはウトウトしてしまった俺が悪いんだけど……。
ドクターは俺の赤くなっている頬を見てははーんと何かを察したような顔をする。
「君、さては所長のカミナリを受けたね?ならボクと同類だ。何を隠そうボクも所長に叱られて待機中だったんだ。今からファーストミッションだから何かあったらすぐ出なきゃ行けないけど……所在ない同士、このままのんびり世間話でもして交友を深めようじゃないか!」
すごい。ファーストミッションの待機中なのにサボってアイドルのブログを見ながらケーキ食べてるのはかなり寛いでる。そのままロマニと雑談をしているとなんとなくこのボランティアに来た組織の全体像がわかって来た。
人理継続保障機関フィニス・カルデア。組織の名前をフルで見るとすごい怪しい組織だが、国際連合の出資を受けているちゃんとした組織らしい。まあつまり、ユニセフとかユネスコの仲間みたいなもんなのか?ただメインの出資はアニムスフィア家──神経質そうな所長が当主のヨーロッパの貴族からのものらしいが。
そんなカルデアがある場所は標高6000メートルの雪山の中に作られていること。
カルデアの目的は人類の未来を守ることであり、今日のファーストミッションは人類を脅かす存在をレイシフト、ようはタイムトラベルで排除することを目的としたものであること。
タイムトラベルってのが信じられない。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか『時を駆ける少女』か何かか?でも、今生きている世界は機械の鎧を纏い空を飛びビームを出すアイアンマンとか、NYに来た宇宙人とかがいる世界だし……。
世の中には知らないだけでずいぶんと進んだ技術があるらしい。
そんな真面目な話以外にも、ロマニはマギ☆マリという白髪の女性アイドルが好きだとか(確かに可愛かった)、俺がスターク・エキスポでトニー・スタークに会ってサインを貰った話(なんならここに持って来ている)とかで盛り上がっているとピピッという電子音がロマニのポケットから鳴った。
「ロマニ、後少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれ。Aチームは万全だが、Bチームが心配だ。レイシフト用コフィンの中はコックピット同然の狭い場所だから不安からくるものだろう」
「それは大変だね……麻酔が必要かな。すぐに向かうよ」
「今医務室だろ?そこからなら二分で到着できるはずだし、急いでくれ。頼んだよ」
レフさんの声はそこで途切れた。通信が終了したみたいだけだ、ここが、医務室……?疑いの目をロマニに向けるとややわたわたしながら言い訳をしました。
「……まあAチームは問題ないようだし、遅れても許されるよね。ここからは五分は最低でもかかるし……」
遅刻を正当化するロマニを見ていると、突然部屋の明かりが消えた。
直ぐに大きな爆発音と揺れる部屋。大きなアラート。
『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください。繰り返します──』
「今のは爆発音!?モニター、管制室を写してくれ!!」
ロマニの命令で暗闇の中に火の海の管制室が映し出された。
瓦礫が散乱しているし、めちゃくちゃな状態だ。
「藤丸。直ぐに避難してくれ。ボクは管制室に行く。もうじき隔壁が閉鎖するからね。その前にキミだけでも外に出るんだ」
そう言い残して外に出ていくロマニ。
……あまりの急展開で呆然とするしかない。
俺はどうすれば良い?このまま逃げるのが最善だろう。俺は何の力もない凡人だし、そもそもこの組織の人はちょっと会話しただけの他人だ。
そう考えて外に出ようとすると、それで良いのか?というようにこちらを見つめるフォウとかいう小動物と目があった。
少し逡巡する。
確かに、力のない凡人だし、カルデアのタイムスリップのやり方も、何で爆発が起こったのかも知らない一般人だ。
でも。
それでも。
そもそもここに来た目的は、2度目の人生、ただぼんやりと生きるのではなく───憧れた彼らのように他人のために何かをするためだろ。
レフさんやマシュ。少しだけ喋った間柄だけど、彼らの助けにはなれるかもしれない。それならここで動かないと。
そうして俺はロマニを追いかけるために外に出た。