陽が西に傾き、日没となりかけたころ断続的な銃声が静寂を切り裂いた。銃声は東京武偵校ほか付属施設から少し離れた廃屋から響いていた。
鉄骨で構成され、コンクリートで塗り固められた建屋の中で突入用の重装備に身を固めた武偵たちが至るところで倒れている。一部はゴホゴホと咳き込んだり、うめき声を上げているが、その多くは焦点の定まらない虚ろな目でどこかをぼんやりと見つめたまま動かない。もしかするとその何人かはすでに眼孔が開き、身体は冷たくなっているかもしれなかった。
そんな中、伏見八重(ふしみやえ)はところどころ支柱のむき出しになったコンクリート壁に身体を預けながら一人座り込んでいた。
突如、重々しい銃声が響き、八重はとっさに頭を抱えて床に伏せた。機関銃のような速い連射音が廃屋内を反響する。思わず、周囲が揺れているかのような錯覚に陥る。
少しすると銃声は収まり、辺りはしんと静まり返る。八重は身体を起こして身に纏っていた突入用装備の大半を外し、普段の防弾制服のみの丸腰となった。
みんなやられた今じゃ、ただの重石にしかならないや――。
と、周囲を見渡してから一度は外したホルスターを腰に装着する。八重のホルスターは古臭いウエスタン・スタイルでオールド・ウエストのガンマンたちが愛用したようなガンベルトのようなスタイルをしていた。が、提げている銃はリボルバーには違いないがダブルアクションであり、比較的新しいものだった。
ホルスターに手を伸ばし、銃杷を掴んでひっぱり上げる。途端、日暮れの赤い残光を受け、絞り込まれた白銀色のテーパー銃身が鈍く光る。
八重が手にした回転式拳銃――S&W・M686プラス・マウンテンガンは357マグナム実包が使用可能な七連発のダブルアクション・リボルバーで、銃身がかつてのS&W・357マグナムのようにテーパード・バレルとなっている。そのため、フル・ラグ銃身を備えたスタンダードのM686とはかなり印象が異なる。
八重はこのリボルバーを中古美品で入手し、トリガー、ハンマーの接点は八重自身の手によって磨き上げられ、綺麗にポリッシュされている。おかげでトリガー・プルは純正と同じだが、感じとしては多少滑らかだ。また、八重の手に合わない純正のホーグ・モノグリップは取り外され、代わりにパックマイヤー・SK―Lラバー・グリップが取り付けられている。メダリオンのない旧型なのは、八重が偶然所有していた私物を装着したためだった。
輪胴弾倉に装填された357マグナム実包はすべて撃発されていて全弾撃ち尽くした状態で、そのままでは何の役にも立たない。すぐさま、サムピースを押してシリンダーを左にせり出させる。撃発済みの七発は薬室に張り付いて排出が難しかったが、近くにあったコンクリート・ブロックにエジェクター・ロッドを数回押し付けてようやく取り出せた。
撃発後に薬莢が膨張し、薬室に張り付くため大抵の場合はモデルガンのように銃を傾けるだけで薬莢は落ちてこない。ましてや、フィクションのように易々と空薬莢を取り出せないことも多い。八重の場合は高圧の357マグナム実包を扱ったため、それが顕著に現れたようだった。
撃発済み実包の排出に成功した八重はガンベルト左手に設けられたスピード・ローダー・ホルダー部に手を伸ばした。ホルダーは二つあり、『ペイル・ライダー』でイーストウッドが用いていたガンベルトのシリンダー・ループのアイディアを拝借したものだった。
ホルダーの反対側には357口径の実包を挿しておけるカートリッジ・ループが縫い付けられている。今のところは一発も欠けていない。三十分ほど前にブルパップ・デザインのセミオートマチック・ショットガンを携えていたが、逃げ惑う最中にどこかで落としてしまったらしい。
HKS・587スピード・ローダーを用いて新しく七発分の357マグナム実包を装填すると、輪胴弾倉を元のように戻し、安堵のため息をこぼす。これで敵と対峙した際に生死の比率は五分となる
しかし、一応の武器があるとはいえ拳銃では自動小銃などのロング・ガンには太刀打ちできないのが事実だ。八重はどこかで落としたメイン・アームを探すよりも新たに銃を探すことを選んだ。
「せめて、ショットガンくらいあればなぁ……」
息を潜め、足音を忍ばせ、そろりそろりと辺りを探索する。手荒く動いて敵に見つかりたくはなかった。
部屋から部屋へ移る途中、横断しようとしていた通路の暗闇から微かに足音が聞こえた。八重は部屋から飛び出すのをやめ、身を屈めて耳を澄ました。足音は微量であるが、確実に近づいて来ているのがわかる。
おそらくは一人――そう早くも結論づけた八重は静かに通路を進む何者かが通り過ぎるのを待った。目論見どおり、相手は八重の存在に気づくことなく部屋の入り口を横目に素通りして行く。
チェスト・リグを身に付けた男の背中が見えるのを確認した途端、八重は物影から飛び出し、背後を取った。そして、警告もなく続けざまに引き金を二度絞る。狙いは両方の太腿だった。
ダブル・アクションのトリガーは一般に正確な射撃が難しいとされる。だが、ダブル・アクション・リボルバーに慣れきった八重の指は10メートル程度までならほぼ正確に狙った箇所を撃ち抜くことのできる技量を備えていた。
男は苦悶の声を上げて床へ伏し、罵声を上げながらも何とか反撃しようとしたが、それも叶わず八重の裸締めで早々にノックアウトされ、昏倒した。
一仕事を終えたように額の汗を拭った八重は視線を灰色の地面に横たわった自動小銃へと向ける。元は男のものだったが、文字通り、今は所有者の手から離れている。
八重は満足げな笑みを浮かべ、
「キル数追加、武器回収っと……」
疾走。辺りはまったくの無音で、ただアスファルトを蹴って進む乾いた足音が一定のテンポで響くだけ。
八重は奪った武器を手に、廃屋内を駆け巡っていた。奪った自動小銃はリトラクタブル・ストックを備えたHK33K。あるいは、HK33A3に近い外観をしていたが、セレクターはセミ・オートとセイフ・ポジションしかなく、またマガジン・キャッチがボタン式に変わっていた。そして、何よりもロアー・レシーバーにHK43の刻印が印されていることから、紛れもなく5.56ミリ実包を用いるG3ファミリーのスポーターモデルであることがわかる。八重はそれを理解するのに数分時間を要した。
八重のそれにはアッパー・レシーバー上にロー・ポジションのクロー・ロック・マウント・ベースが咬まされ、そのマウントにはイオテック・556ホロサイト・スコープがマウントされている。男から奪った後、すぐにホロサイトの照準がズレていないか確認したが、誤差は微々たるもので、少しの調整で事足りた。
施設内に人の気配はなく、八重は迷うことなくある一点目指して駆けていた。彼女の目指す場所はおよそ約三十分ほど前、銃と仲間を失くした場所だった。
問題の廊下は天井が崩れていて、ポッカリ開いた大穴から空が伺えた。今は暗闇と点々と光る星々しか視界には入らない。
八重はその様子を通路の曲がり角から覗き見ていた。天井から月光が差し込み、床に伏した武偵たちの姿を映し出す。至るところで見た者たちと同じように動く様子はない。
八重はふと不安になって右肩から提げた弾倉入れに触れた。それは間抜けな歩哨が腰に身に着けていたもので、弾帯のように予備の弾倉が四本取り付けられていた。しかし、サイズを合わせるのが面倒だったために適当にベルトを絞ってから、左腕と首を通した。
さっきは奇襲だったし、銃の射程も短かった。今回は相手がいることもわかってる。銃も正確に狙えるはず。
なら――。
一度深呼吸をして、八重は物陰から飛び出した。そして、敵のいるであろう場所へ向けHK43の引き金を三度引く。すぐに軽い反動が右肩を襲う。銃自体が元より308口径のG3ライフルであるから、重量や設計にはやや余裕がある。
が、八重はすぐに元いた曲がり角の壁面に姿を隠す。驚愕の表情を浮かべ、荒い吐息を整える。額から汗が伝っていった。
八重の狙いをつけた場所にはすでに敵はいなかった。八重たちのチームを襲ったのは古いマシンガンを一人で扱う機関銃手だった。早々、遠くへは移動できるはずもない。
グルグルと頭の中が混乱し、クエスチョンが飛び交い始める。なぜ、なぜ、なぜ――?
「惜しい」
八重が我に返ると同時に聞き慣れた重苦しい銃声が響き、弾痕が床を這った。「あと五分早かったら、マガジン・チェンジ中で仕留められるところだった」
やはり。八重は確信する。機関銃手は移動していなかった。それどころか待ち構えていたのである。おそらく、何か細工をしたに違いない。こちらからは死角となるように三脚付きの立射からバイポッドを用いた伏射に変えるなど説明はいくらでもつく。
が、確実なことが一つある。それは、相手が八重が戻ってくることを予期していたことだ。
「だよねぇ、やっぱわかるよねぇ……」
ため息をつき、空いた左手でセフティ・レバーのオンオフを繰り返す。銃口はダラリと下を向いていた。
「あの便利そうな半自動式散弾銃を落としたのは知ってる。で、どうやって私を仕留めるの。やっぱり、357の強装弾?」
相手がにやにやと笑っているのが声色でわかった。八重は挑発に乗り、叫び返す。
「そっちだってどうなのさ。古臭い機関銃使っちゃって。今どき7.92ミリマウザーのマシーネン・ゲヴェアーってどうよ? 錆が浮いてるのが目に浮かぶよ」
八重は気づかれないようにそろそろと物影から相手の様子を伺った。目を凝らすと暗闇の中に陥没した天井を過ぎてすぐ側にに壁に沿うように階段が併設されていたのが見えた。
相手は一度引き金を引けば何とかなるが、こちらは一発一発反動を感じながら引き金を引かねばならない。明らかに不利だった。
向こうに気づかれないよう、素早く視線を動かす。敵は全滅したときと同じく、三脚を立てて立射の体勢を取っていた。おそらく、こちらが覗き込まないのをいいことに悠々とトライポッドを立てていたに違いなかった。
だが、と八重はほくそ笑む。姿が見える以上手が届かないわけではない。例えば――。
「仕方ないね。回り道するとしよう。そこで待ってなよ」
言い終わると同時に八重は射線上に飛び出し、照星に敵の姿を捉えると数発見舞った。幸いにも言葉に騙されたのか照準をこちらへ向けていなかったらしい。相手の反撃は数秒遅れた。
くそっ。罵声と共に機関銃の発射音が鳴る。しかし、短い悲鳴と同時にすぐに銃撃はやんだ。八重は口元をニヤッと歪ませつつ階段へと走った。
月を背にしたのが運のツキだったね――。
八重のライフルの銃口は月光に浮かび上がったシルエットの腹部を捉えていた。
階段を一気に駆け上がる。逃げ出す前に機関銃手を仕留めなければ。
しかし、それだけを考えていたのが間違いだったのかもしれない。二階へたどり着く直前に八重は脛に緩い抵抗を感じた。が、それを無視して階段を上りきった。
銃声とともに八重の顔を銃弾がかすめたのはほぼ同時だった。思わず、うわっ、と情けない叫び声を上げて身体のバランスを崩し、そのままうつ伏せに倒れた。
軽い痛みに顔を歪ませながら視線を前へやると同時に、八重は舌打ちした。機関銃手の少女はダウンしておらず、今眼前で貪欲そうなピストルの銃口を八重へと向けていたからだ。
月光に照らされた少女が言う。「惜しいね、あと2、3メートル分足りなかった。トラップの存在考えた? 仕掛けておくのが常套」
手にした拳銃は古めかしい筒型の遊底を備えたサヴェージ・M1907中型オートマチックだろう。7.62ミリか9ミリかは暗くて判別できないが、例え32口径であれど額を撃ち抜かれてはどうにもできない。これは22ロング・ライフル実包だろうが変わらない。
少女は一度銃声を響かせ、悠々と床に設置された複雑な罠の先につけられた凶器を拾い上げた。それを太腿を撃たれ、痛みに悶える八重に見せ付けるように説明する。
「簡単に説明するなら、ワイヤーが引っ張られるとその先にある45口径のセミオートマチックピストルのダブル・アクション・トリガーが動いて発砲する仕組み」
と、手の先のコブラ・パトリオットを軽く弄び、どこかへ放り投げた。所詮、300ドル以下の粗悪なピストルであるからこの扱いでいいのかもしれない。
少女は八重にサヴェージの銃口を向けながらゆっくりと視線を戻す。人差し指をトリガーガードの中に差し入れ、指がトリガーを触れた。
「じゃあ――」
おやすみ。その言葉が続くより先に少女の身体は衝撃を受け、その場に崩れ落ちた。八重はもう一度ニヤッと笑い、重い身体を引きずり、倒れた彼女に近寄った。
視線を外している最中、八重は手早くホルスターからM686+MGを抜いて引き金を絞っていた。撃鉄の落ちたタイミングが偶然重なっただけで、本当は余所見をしているうちに撃つつもりだった。
機関銃手だった彼女は歯ぎしりしながらも立ち上がると何発か撃ってきた。が、狙いはバラバラで当たらない。
向こうは焦っている。八重は微笑みながら撃鉄を起こし、伏せ撃ちのまま彼女の頭に狙いをつけた。
が――。
『時間切れ! 模擬戦終了や! とっとと寝とるヤツ叩き起こして整列させい!』
廃ビルの各所に取り付けられたスピーカーから蘭豹のがなり声が響く。八重は無言のまま起こした撃鉄を戻すと、拳銃をホルスターへしまった。ガンスピンをする気にもなれなかった。
整列に引き続いての点呼終了後、参加した生徒たちはお互いに労いの言葉を掛け合い、得物を携えて帰路についた。しかし、歩いて帰る生徒はそう多くない。点呼と整列のためだけに無理やり叩き起こされた大半の『生き残れなかった』生徒は点呼終了後にバタバタと倒れて武偵病院へと運ばれていくためだ。
生き残れなかった理由は大半だが、生徒たちの話を統括すれば今回は『ある一箇所に留まって待ち伏せていた機関銃のゴム弾によるノック・ダウン』がもっとも多かったらしい。
帰路に着く生徒の中に一際異彩を放つ女子生徒がいた。黒髪を肩辺りで切り揃えた彼女は背中に縮小されたトライポッドを背負っていて、手には大柄な黒いハード・タイプのガンケースを抱えていた。
彼女は無言のままのそのそと寮へと移動する。今は誰とも話したくない。そんな気分だった。事実、そんなオーラを出しているから誰も彼女に声は掛けない。
が、一人だけ例外がいた。その『例外』は腰にガンベルトのようなホルスターを身に付け、近代的な銃器を差し込んでいる。
「やほー、玲」
伏見八重。強襲科在籍の二年生。無駄に陽気かつ元気な八重を見て彼女――玖崎玲(くざきれい)はため息をついた。
「夜だから静かにしてもらえる? 私、疲れてるから」
「やだ」
二文字で要求を突っぱねられ、玲はガンケースに顔を埋めた。
八重は玲の女子寮におけるルームメイトであり、同じ強襲科に在籍している。学年も同じであるが、性格はまったくの真逆でどこか咬み合わない。
「また、私のマシーネン・ゲヴェアーで追い掛け回されたいの?」
「はいはい、夜中なのに騒いですいませんでしたよサーセン」
部屋に着くと玲は床に新聞紙を敷くとガンケースの止め具を外し、中身を取り出した。中に入っていたのは筒のように細長く、レシーバー後部にラバー・バッドの取り付けられた簡単なパイプ・ストックの取り付けられた機関銃――ラインメタル・MG15と専用の75連サドルマガジンが五つ入っていた。
7.92ミリマウザー実包を使用するこの機関銃は元々航空機用に製造されたものだったが、余剰となったものは二脚と銃床を取り付けて地上部隊に配備された。その際に1000rpmという高速を誇った発射速度も850rpmほどに落とされている。これはヘッケラー・ウント・コッホ社の傑作短機関銃、MP5のフルオート発射速度より50rpm高く、米軍が採用したM16ライフルよりも50rpm低い。
「相変わらず古臭い機関銃」八重は呆れともなんともつかないため息をこぼす。「どうしてわざわざ古いの使うかな」
「コレクターの性」
「あ、そう」
玖崎玲は変わっている。銃器に関してはあまり最新のものを好まず、古いものに傾向している節があった。ただし、古ければいいというものでもない。メカニズムも独創的なものであればいいほどいいし、マイナーならマイナーであるほど俄然彼女の興味をそそった。
「……どうして、みんな機関銃を使わないのかしら」
「それはあなたが俗に言う変態だからです」
「今度はベッドの上でくんずほぐれつしてもいいんだけど」
「勘弁してください。私が夜通し攻められるのわかってるからやめてください」
冗談を交わしながら玲はMG15のフロント・サイトとマズル・ブースターを手始めに整備のために分解を始めた。ストックを固定しているマイナス・ネジをマイナス・ドライバーで外して、レシーバーから引き金、銃杷、遊底を含んだ後部レシーバーを取り外す。ボルト・アッセンブリーを外すためにまず、安全装置を解除してから柔らかい布のようなものへ押し付けながら取り外す必要があった。そうでもしなければ、内蔵されたスプリングで遊底を明後日の方向目がけて飛ばしてしまうためだ。最悪紛失もありえるために、玲は細心の注意を払ってボルト・アッセンブリーを分解する。布は手元にあったまだ汚れていないウエスを代用した。
ボルト・アッセンブリーには文字通り遊底と撃針、リコイル・スプリングが含まれていて、遊底はクリーニングを行い、スプリングは作動不良を起こさないよう少し伸ばしてやる必要がある。撃針は新しい予備部品と交換することにした。
汚れをウエスで拭き取り、内部部品にはスプレータイプのガンオイルを振りかけてやる。床に新聞紙を引いたのは飛び散った汚れやオイルで床が汚れることを嫌ったためだ。幸い床を汚すことはなかったが、手は黒々と煤けていた。
銃身にはボア・クリーニング溶液を数滴垂らし入れ、ブラシを取り付けたクリーニング・ロッドを数回往復させる。徐々に手応えが軽くなり、最後は綺麗なウエスを通して汚れを取る。たいていの小火器はこれで何とかなるが、フルオートとなると銃身に鉛カスがこびり付くことが多い。玲は念入りにその動作をあと二回繰り返した。
クリーニングが終わると、銃身とレシーバーを合体させてから遊底部を組み込んだトリガー・アッセンブリーを連結させ、最後はステア・ストックとマズル・ブースター、クモの巣のような照星を取り付け、整備は完了する。玲はどこかうっとりしながらその、細身の機関銃を見つめる。
「やっぱり、ドイツ製は造りが違う。例え、古い航空機用機関銃を陸上部隊用にコンバージョンしたものでもこのクオリティ」
ため息をつく。「これだからしばらく乗り換える気が起こらない」
「使い勝手の悪さも、玲にとってはアバタにエクボだもんね」
「私は古い銃火器と同じぐらい八重のことも好きだけど?」
「唐突にどういう意味なのか理解しかねる発言はやめてください」
その後、玲と八重との間で何もなく、二人は布団を被り明日に備えた。数分後に玲の静かな寝息が耳に入っても八重はなかなか寝付くことができなかった。
別に何か考え事をしていたわけでもない。ただ、元々寝付くのに最低でも三十分ほど掛かってしまうだけだった。その待ち時間がひどく退屈なために八重はよく考え事をする。
今夜は秋に控えた修学旅行I(キャラバン・ワン)に関してだ。何だかんだと言って八重と玲の仲は良好でどちらかと言えば腐れ縁という趣すら感じ始めていた。
玲とふざけあい、笑いあい、くだらない話をするのが八重は好きだった。そんな時間が続けばいいといつも切に感じていた。
修学旅行Iのとき、玲とどこを回ろうか。西日本を探索するのは初めてだから何か発見があるに違いない。おいしい和菓子もいっぱいあるはず。玲は和菓子が好きだったっけ。
そんな思いを巡らせているうちに、ふと不安になる。キャラバン・ワンが終わるとすぐにチーム編成が行われる。人数規定は二人から八人で、ナァナァで決まってしまうように思われるが、登録したチームは国際武偵連盟から公式に承認を受け、卒業後もそのチームで活動することが主となるために先を見越した編成を行う必要があった。
八重としては親友だと思っている玲と離れ離れになるのは嫌だった。今までずっと、進学で環境が変わるたびに交友関係がリセットされてきたこともあって、その思いは切実なものへと変わりつつある。だが、八重の得物は主として拳銃、それもやや時代遅れの感があるリボルバーだ。玲は玲で半ば趣味で選んでいるとしか思えないオールド・ガン、それも戦闘用の機関銃を主体としているからどう考えても釣り合いが合わない。
――機関銃手とリボルバーで組む武偵なんていない。
八重はベッドから這い出るとそのままベランダへ抜け出した。月は三日月が夜空にポッカリと浮かんでいて、少し肌寒く感じた。
チーム、どうすればいいんだろう。
先のことだが、そう遠くはない話だった。そして、いずれは答えを出さねばならない。
もし、八重は思う。もし、これから何か私と玲にとってプラスとなる『変化』が起こってくれたら――。
そこまで考えて、八重は自嘲するように自分を嘲った。そんなこと、起こるはずもない。奇跡や幸運の類に縁がないことは自分がよく知っている。
無言のまま月を眺め続けて、十分もしないうちに八重はベッドへ戻ると珍しくすぐに眠りについた。悩みが解決したからではなく、模擬戦から来た疲労による誘惑に負けたためだった。
初めまして、市木富嶽と申します。
兼ねてより考えていた緋弾のアリア二次創作をようやく始めることができたので、素直に嬉しいです。
ささやかではありますが、これを読んでくださった方が楽しんでいただけたら幸いです。
さて、ここハーメルンにて緋弾のアリアの二次創作を書かれている方は登場銃器の解説などをなさっている人も一部おられるそうで。
これに関してはどうしようか考えましたが、もし希望があれば付け足そうと思っています。付け足す際は後書きに追記することになると思います。
次話投稿は仕事になれていないため、先行き未定です。が、できることならば早く書き上げて投稿したいとは思っています。
では、また。