グラウンド・ゼロ <U.O.S.S>   作:叛流

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※多少のアンチヘイトが混じり始めました。ご了承ください


#2『スミルナの埠頭にて』

「……今なんて言った?」

 と、興味なさげに手元の銃器雑誌へ目を落としていたポニーテールの少女が驚愕の表情を浮かべて顔を上げた。伏見八重は各個人個人に一部屋ずつ割り振られた装備科の作業場で冷や汗を掻いていた。八重の眼前にはつい先日の模擬戦の際に散弾銃を借りた銃工が作業台の椅子に腰掛け、追求の視線を恨めしげに送り続けている。

 八重は視線を極力合わさないようにしながら、申し訳なさそうに言った。

「いや、その……模擬戦に熱くなっちゃって、借りた散弾銃うっかり失くしちゃったんだよね――」

 瞬間、ポニーテールの銃工は作業台の上に置かれたコルト・Mk.IVシリーズ80・ガヴァメントモデル380を手に取ると、遊底をオーバー・アンド・メソッドで引き切った。遊底から手を放すと同時に薬室に380ACP実包の初弾が装填され、撃発準備が整う。ショート・リコイルのために遊底は軽く引くことができるため、同クラスのミドル・オートよりも使い勝手がいい。

 彼女は呑気に苦笑いする八重の目と鼻の先に9ミリの銃口を突きつけた。額に薄っすらと青筋を浮かべていることを八重は悟った。彼女はガヴァメント380の小柄な安全装置を押し上げてから

「あの散弾銃、今月のGun誌の原稿書くためにわざわざ自腹切って買ったんだが」

「えっと、その、それで……原稿は、どうされたんで――」

「一応完成はしてるよ。あとはそっちの感想聞いて付け足すだけだった」

 八重は内心安堵のため息をついた。彼女――篠崎柑那(しのさきかんな)は『奇天烈な人間が多い』装備科でも数少ない『正しい知識を持った堅実的な』ガンスミスである傍ら、銃火器の収集家でもあった。

 それが高じて、一年ほど前から現役武偵校生である傍ら、国際出版の銃器雑誌に寄稿するようになった。本人から聞く話によると、それなりに好評だという。

「ところで、君が失くしたそれはいくらだと思う?」

「えっと……」

 柑那は八重が答えるより先に、その値段をまくしたてた。

「原価で2400ドル――円とドルがイーコールだったとすれば24万円だ」

 まずい。八重は直感する。これはまずいことをしてしまった。

「24万円だぞ? 確かに装備科のツテでいくらか割引が利いたがそれでも20万前後だ。これからいろいろ使ってみるなり、他のやつに貸したりして自分なりの結論を出そうかとしていたんだが――」

「さて」柑那は八重の身体を頭から爪先まで一通り眺めた後「どうしてくれるんだ?」

 どうすればいい。焦りだけが八重の頭の中を支配していく。だが、答えはひどく簡単だった。

「も一回探してくる!」

 八重は一目散に駆け出し、作業場を後にした。その場を切り抜けること、端的に言えば逃走。それがもっとも優先されるべき事柄だった。

 部屋に一人残された柑那は苦笑いを浮かべながらガヴァメント380の弾倉を抜き、遊底を引いた。薬室のシルバー・チップは銃杷内に落下し、マグウェルから柑那の膝の上へと着地する。「初めからそう言えばよかったのに」

 

 それから数時間後、八重の探し物は生徒指導室内に設置された金庫のような紛失物一時保管庫の中から見つかった。到着があと数十分遅かったら売却され、教師の懐に入っていたと言う。

「次はこういうことがないようにな」

 八重を出迎えた生徒指導室の教師はどこか不満げに言った。おそらく、小さな金ヅルを目の前で失くしたからだ、と八重は考えていた。

「はい、次は銃を落としたりなんてしません」

 半ば棒読み気味でそそくさと生徒指導室から退散し、八重は廊下で安堵のため息をつく。と、同時に胸に抱えた散弾銃をひしと抱きしめる。これで柑那へ身体で返せと言われるようなこともない。

 柑那から借りた散弾銃、SRM・M1216はアメリカはアイダホ州に存在するSRM‐ARMSで製造されている口径12ゲージのセミ・オート・ショットガンで、セミ・オートマチック・タイプの散弾銃としては珍しくローラー・ロッキングを用いたディレード(遅動)・ブローバックを採用している。

 ユニークなのはそこだけでなく、スタイルはブル・パップを採用し、さらには16連発ものファイア・パワーに加え、着脱式弾倉という再装填の容易さを兼ね備えながらも通常のチューブ式弾倉を備えた散弾銃と何ら変わりないコンパクトさを保っている。

 言うなれば、至れりつくせりな最新式タクティカル・ショットガンであるが、欠点としてはやや脆いショット・シェルとは相性の悪いローラー・ロッキングと、その作動方式のためにハイ・ブラス――実包底部に硬い真鍮を用いているシェル――の実包しか使用を推奨されていないこと。そして、もっとも問題なのは価格が高いことだ。

 レンコンのような着脱式弾倉を採用するためにはローラー・ロッキング以外に採用可能な作動方式がなかったためにやむを得ないとも言える。二つ目の欠点はほとんどの自動式散弾銃にもハイ・ブラス実包の使用を推奨しているため、その事情を考えればさして問題ではない。オートを選ぶゆえの宿命と受け入れるしかない。

 そう考えれば最大の問題はやはり、日本円で二十万弱を誇る価格にあるように思えた。

「――というような感じがこのM1216の特徴だ」

 と、柑那は満足げな表情を浮かべ、腕の中にあるSRM・M1216の銃身を撫でる。

 再び柑那の作業場に戻った八重は落し物を届けると、柑那は誰にともなくSRM・M1216の解説を始めた。その饒舌さに八重は思わず、頷きながら話に聞き惚れていたのだ。

「ただ、慣れが必要なのはこのシリンダー部だ」柑那は空の四連式筒型弾倉をM1216に装着する。

「こいつはそのままでは回転しない。かといって、自動で動くわけでもない。回すにはインデックス・レバーを押しながら手で回してやる必要がある」

 要は手動だ。と、銃身下部先端にあるレバーを押しながら細長い輪胴弾倉を回転させる。弾倉は難なく時計回りに回転し、ショット・シェルが装填されていれば、すぐさま四発の12ゲージ散弾をバラ撒ける。その一列を撃ち終わったら同じようにレバーを押したまま弾倉を手で時計回りに回してやればいい。

 この特徴的な四本の四連発筒型弾倉を一つに束ねた弾倉でこの異色のブルパップ・セミオートマチック・ショットガンの火力は成り立っている。

「問題なのはこの弾倉だ。こいつをスムーズに回すには少々慣れがいる。今のところ校内で誰も仕入れようとしないからウチで代理販売をしようと思ったんだが――」

 ため息をついた柑那は八重に訊ねる。「ここで売れると思うか」

 少し考えるように首を傾げ、八重は屈託のない笑顔を浮かべ、答えた。

「無理なんじゃない?」

 柑那は大げさに肩をすくめ、もう一度ため息をついた。

 

 玖崎玲の得物は機関銃である。機関銃とは本来、戦争用のものであって間違っても都市の警官や対テロ特殊部隊が装備している代物ではない。

 が、この武装探偵の少女はなぜかそれを所有し、振り回している。銃検を通っているかも多少怪しいが、特に咎められることなく、玲は今日もフルオートで小銃弾を撃ち続けている。

 その日、玲は射場で専用サドル・マガジン三本分にあたる225発もの7.92ミリマウザー実包を撃ち切り、射場脇のメンテナンス・ルームで分解整備を行っていた。何分古いものであるから、時折様子を見る必要がある。そして、異常を見つければ即座に直す。それが少しでも銃を長生きさせる玲なりの手段だった。

 ガンケースにMG15を仕舞い込んだ玲はサークルタイプ標的紙数枚に目を通し、それらを破ってゴミ箱に捨てた。予想通り着弾は散らばっていた。

 元々、面を潰す銃火器なのだから当然と言えば当然であるし、そもそも機関銃に点を狙う命中精度を求めること自体がナンセンスだ。点を狙うなら、狙撃用にチューン・アップされたリピーター、あるいはシングル・ショット・ライフルを用いればそれで片がつく。

 重い、と内心ぼやきながら玲はガンケースを抱えて射場を後にした。左手首に巻いた腕時計を確認するとデジタルの表示は午後五時過ぎ数分を指していた。ため息をついてその場にガンケースを置く。心労からなのか、もう一度ため息がこぼれた。

 両手を膝について顔を俯かせ、目を閉じる。しばらくすると、駆け足が遠くから聞こえ、それは徐々に近づいてきた。

 顔を上げた先に伏見八重はいた。八重はいつものように惜しげもなくガンベルトタイプのホルスターをスカートの上へ巻きつけている。秘匿性の欠片もないが、武装していることを周囲に知らせることは時として威嚇になる。

 急いできたらしい八重は荒い呼吸を整えると「一緒に帰ろ」とだけ声を出した。玲は微笑みながら少し頷き、先を歩き始めた。

 

 二人は武偵校前停留所からバスへ乗り込み、しばらくは他愛のない会話を交わしていたが、途中、八重が玲の耳元で何かささやいた。その後、女子寮前より一つ前の停留所で二人はバスを降りた。

「たまには息抜きしないと」

 八重の提案は簡単だった。シンプルかつ、自分のことを気にかけて言ってくれているようで、その優しさが玲には嬉しかった。

 しかし、息抜きと言えど二人とも早く自室に戻りたかったのは事実で、手っ取り早くコンビニで買い食いすることにして目に入ったミニストップの扉を押した。

「何頼む?」

 飲食席のテーブルに向かい合う形で八重と玲は向かい合う。玲は丸椅子に腰掛けるなり、提げていたガンケースを下ろした。さすがに1キログラムを超える鉄の塊を提げ続けるのは苦痛に等しい。

「ソフトクリーム。バニラでお願い」

「オッケー。んじゃ、頼んでくるよ」

 と、八重はガンベルトを外さないままレジへと向かった。支払いを済ませてから少しの間のあと、戻ってきた八重の手には二人分のソフトクリームが握られていた。

「同じ……」

「いや、私も食べたかったんだよバニラ」

 そう言って玲に一つを手渡すなり、右手のそれに齧り付く。ソフトクリームはよく冷えていて、ほのかな甘みがささやかな幸せを感じさせる。

「うん、おいしい」

 そうね、と玲は冷めた様子で相づちを打つが、顔は嬉しそうに笑っていた。

 瞬く間に食べ終えた八重がなぜかおかわりにフライドポテトを頼むという珍妙な光景は見られたものの、特に変わったことはなく有意義な時間を過ごした。

 そろそろ帰ろう、と二人が席を立とうとした瞬間、店内で罵声が飛んだ。

「動くなッ! 金だ! 銭を出せ! ――おい、お前ら何見てんだッ、両手を頭の後ろに組んで床に伏せろ!」

 コンビニ強盗。八重と玲は指示に従いながら、相手の人数を数える。一味は四人。全員がSWATのしていそうな目出し帽を被り、手には野暮ったい二流品のリボルバーを握るものもいれば、タウルス・ジャッジのようなイロモノを持つ者もいる。が、残る二人は長い銃身を備えたベルサの22口径セミオートマチック・ピストルとベレッタ・モデル92Fを利き手に携えていた。

 一番血の気の荒そうなタウルス・ジャッジの男がレジにくたびれたカバンを置いて怒鳴る。「早く金詰めろって言ってんだろッ」

 途端、410ゲージ散弾の銃声が響く。が、狙いも付けずに引き金を早く引いたために狙いは目の前にいる店員を逸れ、後ろの棚に置かれていたレンジに命中した。轟音のような銃声にアルバイトらしい店員は思わず小水を漏らし、ガタガタと震えた。

「まずいね、これは……」

「そうね。このまま逃げられると後でお説教は間違いないでしょうね」

「え、そっちなの?」

 現場に居合わせた武偵は何をしてたんだ――事件発生後、現場に駆けつけた警官から度々浴びせられる常套句のような怒声だった。

 ――こうならないために、お前らみたいに腰に銃提げた民間人がいるんだろうが!

「――うん、まぁそうだね。そっちのほうが心配だね」

「でしょう?」

 八重は気づかれないように少し目線を上げ、改めて店内の状況を確認する。見張りらしい、リボルバーの男は玲と八重に向けて銃口をチラつかせてはいるが、視線はレジのほうへと向けられ終始ニヤついている。その手に握られた回転式拳銃をじっくり観察するとどことなく22口径のハイスタンダードのダブル・アクション9連発のように思えてきた。

 店の奥、急所となるミラーの置かれた場所で一組のアヴェックを脅しているベルサの男。ベレッタを手にした武装犯は雑誌コーナーの陰に身体を落とし、しきりに外の様子を探っている。どういうわけか通りに人の行き来はまったくなく、車は忙しなく走行を続けており、異変に気づく様子もない。

 小声で玲に状況を説明し、「玲はどう思う? 見張りも今ならザルだけど」と八重はアドヴァイスを求めるような問いかけをした。

「今動けるなら今しかないけれど――何か一瞬でも相手の注意を引ける何かが欲しい。そんなところかしら」

 残念だけど。八重は重いため息をこぼした。防弾制服といえど、それ単体での効果はそれほど高くなく、せいぜい弱装の22ロングライフル弾程度を止める程度の能力しかない。一部では高い防弾性能を発揮しているが、あくまでそれは衣類の下にさらに重ね着をしているからであって、普段はそこまで防護をしない。よって、防弾制服は所詮毛が生えた程度の効果しかない。二人はそう結論づけていた。

 そうこうしているうちに、小水でズボンをベタベタに濡らした店員が急かされ脅され次々にレジの金をあるだけ差し出された鞄へ放り込んでいく。時間はほとんど残されてはいなかった。

 何か気を引けないものか……。

 再び思考を巡らせ始める八重。八方塞がりだったが、一発の銃声で情勢は変わった。

 それはまさに唐突だった。外から銃声が鳴るより僅かに早く店のガラスを突き破り弾丸が店内にちびこんだ。

「畜生、何だってんだよ畜生ッ!」

 全員の注意が外に向けられ、それぞれが物陰に隠れる。これで隙を伺う必要はなくなった。

 八重は玲に目配せし、二人は素早く身体を起こすと腰に提げていた拳銃を抜き出すと、八重は撃鉄を起こすと同時にすぐ前に隠れていたハイスタンダードの男の銃目がけて撃った。弾は38S&Wスペシャル+Pだったが、犯人への多少の傷害はやむを得ない。向こうもそれを覚悟で押し入ったと考えるべきなのだから。

 銃を弾き飛ばされ、男は戦意を喪失し、叫び声を上げながら店の外へと駆け出て行った。

 玲も八重に多少遅れてサヴェージの遊底を引き切り、ベレッタの男の太腿目がけ32ACP実包をお見舞いする。逃げた男を引きとめようと立ち上がったところへ銃弾を撃ち込まれたのだから一瞬何が起きたかわからなかっただろう。男は激痛で半狂乱となり、しきりに痛い痛いと叫んでいた。手放したベレッタはどこかへ蹴飛ばし、男の手に当たらないようにした。

 ここに来てようやく以上に気づいたらしい残った二人――タウルスとベルサは罵声を上げながら二人の隠れた雑誌コーナー辺りを闇雲に盲射した。瞬間、アヴェックが悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込み、店員はレジの影へと隠れた。銃撃戦に巻き込まれるのは災難中の災難に違いない。

「お前は金持って逃げろッ」

 タウルスの罵声が響き、ベルサの男は正面から外へと走る。すかさず、八重は飛び出して止めようとするも410ゲージ散弾が飛び散り、下手に身動きが取れない。おまけに、相手は多少慣れているのかリロードにもたつく素振りがなかった。

 ベルサが入り口扉を押し開け、一目散に逃げていく。傍には現金の詰め込まれた鞄を抱えて。

「おいおい、出てくるならとっとと出てこいよッ! 俺だってとっとと逃げてぇんだからよッ」

 そう言うと、再びジャッジの引き金を絞り、散弾をバラ撒く。シングル・アクションで撃っているのか今度は的外れなところへは撃ってこなかった。

「犯人の一人には現金を奪われたうえで逃げられるし、そのうえに釘づけにされる――最悪ね、八重」

「まったくもってその通り」

 まったくもって。八重はM686+MGの撃鉄を起こし、トリガーをシングル・アクションに切り替え、隙を伺った。相手の弾はあと何発だろうか。

「どうした腰抜けどもッ」

 一発、二発。棚に並べられた品が飛散した鉛弾で吹っ飛ぶ。

「とっとと出て来いよッ」

 三発。確か、相手はすでに五発撃ったはず。八重はチャンスと見てすぐさま立ち上がり、ジャッジの男を仕留めようとした。

 しかし、八重を待ち受けていたのはジャッジとはまた別の銃口だった。それは八重の姿を捉えると男の手の中でひとしきり踊った。八重は銃口を捉えた途端、すぐに頭を下げた。銃弾はすぐ真上を掠めてガラスに穴を開ける。

 男の手には隠し持っていたらしいコルト・ジュニアが握られていた。八重はM686+MGの撃鉄を戻し、額に手を当てる。己の軽はずみな行動が憎らしかった。

 あれがもし、12ゲージの散弾だったら――。

「よし、お前らそこにいるのか。待ってろ、殺してやるぜ」

 相手も自棄(ヤケ)になっているのだろう。タウルスの引き金を絞り盲射しながら声は近づいてくる。玲は八重に目配せし、その場でプローンの姿勢を取った。二人の潜む雑誌売り場から出入り口までの距離は5メートルあるかないか。姿を見せたらともかく、身体を狙う。それしか打開策はないように思えた。

「武偵もただの人間にすぎない。だから、銃撃戦だって怖いし、死ぬのだって怖い。撃たれると痛い。武偵はスーパーマンでもないし、ましてやヒーローでもない。映画の警官は死ななくても実際は死ぬ確率も少なくはない。それと同じことよ」

 玲は人一倍そういうことに敏感だった。だから、彼女は機関銃で武装する。自分に降りかかる恐怖を打ち砕くために。

 タウルス・ジャッジの短い銃身が見え、二人は身構える。が、そこから男が動くことはなかった。

「おい、お前どうしたんだよ――!?」

 男が後ずさっていく。何事だろう。玲が半立ちとなり、様子を伺う。すると、八重へ楽しげに耳打ちした。

「レスキューが到着したみたい」

 ドアが押し開けられベルサを構えていた男が入ってくる。が、その両手は後ろで組まれお手上げ状態となっていた。

 その後ろから武偵校指定の制服を身に付けた女子生徒が入ってくる。艶のある黒髪をポニーテールに結わえ、どこか凛とした雰囲気を纏わせているが、もっとも目を引くのは彼女の手にしている銃だった。

 彼女はなぜか旧軍の九九式短小銃を構え、その銃口で男の後頭部を小突いている。男はガタガタと震えていた。

「外で待ち伏せてやがったんだ、こいつが……ライフル構えて……ッ」

 九九式の彼女は鼻で笑い、「別に待ち伏せていたわけじゃない」

「ただ通りがかっただけだ」

 と、九九式の銃床で男を殴りつけ、昏倒させ、気の短い最後の一人へと7.7ミリの銃口を向ける。ジャッジの男はブルブル震えながらタウルスを突き出している。

「ぶ、ぶ、ぶっ殺してやる!」

「やってみるといい」彼女は照星を目の高さまで上げ、嘲笑う。「ただ、それより先に私は引き金を引く」

 二人がやり取りをしている内に玲と八重は男の背後へと気づかれないよう、回り込んでいた。彼女もそれに気づいたのか、さらにブラフを掛ける。

「どうした、撃つんだろう? 私を殺して、金を奪い、逃げるんじゃないのか?」

「この野郎」男はジャッジの撃鉄を起こし、怒鳴った「いいぜ、殺してやるぜ! あの二人もろとも――」

「残念ながら、それはないね」

 八重がM686+MGの銃口を男の首筋に押し当てる。

「お疲れ様です、お馬鹿さん」

 続けて玲が男の前へ回りこみ、サヴェージで威嚇しながら男の武器を奪う。八重の見たとおりタウルス・ジャッジのほか、男のポケットの中には25ACP実包を使用するコルト・ジュニアが放り込まれていた。

 九九式を肩からスリングで提げた少女は武装解除された男の腕を後ろ手で組ませると懐から取り出した手錠で自由を奪った。

「畜生、お前ら武偵だろ! もう少し扱いってもんをな――」

 途端、彼女は九九式の銃床で勢いよく男の頬を殴った。無論、一撃で昏倒し、男は黙り込む。歯が何本か折れたかもしれない。口から血が流れ始めていた。

「黙っていろ、悪党」侮蔑するような眼差しで倒れた男を見る。「悪事を働くのは勝手だが、よく覚えておくといい。悪には常に代償が付きまとっている。例えば我々であり、お前のその後の人生がそうだ」

 数十分後、店の奥に隠れていた店長の通報で警察が到着した。銃撃戦になったにも関わらず、第三者の死傷者が出なかったのは幸いだった。




 15日ぶりの投稿となりました市木富嶽です。

 執筆速度が遅いことも関係しておりますが、本文を見て納得していただけたら幸いです。
 別に意識したつもりではないのですが、なぜか前話に近い文字数となってしまいました。話の進行速度が遅いのは仕様ですので気にしないでください。

 ベルサのオートマチックやハイスタンダードのダブルアクション・リボルバーなんて誰がわかるんだろう、と思いながら書いていましたが、詳細な銃の説明のリクエストがあればここに追記をしたいと思います。

 思えば、この作品には基本まともな銃は出てきません。だいたいマイナーなものばかりにする予定です。今のところサヴェージ・M1907やS&W・M686+MG、ラインメタル・MG15、コルト・ガヴァメント380が登場する緋弾のアリア二次作品は見たことがないのでおそらく初でしょう。
 それだけ私がマニアなのかもしれませんが、その辺は自分の感覚なのでなんとも言えません。

 おそらく、次話の投稿も遅くなるように思います。来週から三交代へと仕事が移行するので……。

 では、また。
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