トレセン学園、天気晴朗ナレドモ波高シ   作:はるたか㌠

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 リハビリがてら書いたウマ娘ハーレムものです。
 いろいろ試行錯誤してますが、ほのぼのハーレム……かな?


そのいち

 トレセン学園。

 全国、いや全世界から集うウマ娘達が日々を送る場所である。

 そして、彼女達を導くトレーナーも欠かせない存在。

 ベテランであれば、複数を担当する事も珍しくはない。

 その中に、一人の男性トレーナーがいた。

 まだ二十代の彼だが、メキメキと頭角を現し各方面から注目の的となっている。

 その結果として担当ウマ娘が、一人や二人ではないのである。

 その数、実に八人。

 

 ヤエノムテキ。

 デュランダル。

 メジロマックイーン。

 ライスシャワー。

 ナリタトップロード。

 アーモンドアイ。

 サトノダイヤモンド。

 ジェンティルドンナ。

 

 いずれも個性豊かで、実力も折り紙付きのウマ娘たちだ。

 そんな八人をまとめ上げているのだ、目立たない訳がない。

 ……もっとも、本人は自分がそれほど特別な立場にいるとは思っていないのだが。

 一見すると平和そのもののトレセン学園、その一角で物語は始まる。

 

 午前七時三十分。

 トレセン学園の一角にあるトレーナー室。

 まだ早朝と呼べる時間帯ではあるがその室内ではカタカタカタ、とキーボードを叩く音が響いている。

 

「……よし。これで今日のトレーニングメニューは完成っと」

 

 椅子の背もたれに身体を預け、トレーナーは大きく伸びをした。

 今日の予定は午前中に基礎トレーニング、午後は各自の課題に合わせた個別メニュー。

 八人も担当していると、スケジュール管理だけでも一苦労だ。

 しかし、彼はそれを苦に思ったことはなかった。

 彼にとっては担当するウマ娘の成長こそが喜びであり、それに伴う労苦など些事に過ぎなかった。

 

「さて、コーヒーでも淹れるか」

 

 そう呟きながら立ち上がろうとした、そのとき。

 コンコンとドアがノックされた。

 

「どうぞ」

「失礼いたします」

 

 扉の向こうから、凛とした声が聞こえた。

 姿を現したのはヤエノムテキ。

 勿論、彼が担当するウマ娘の一人だ。

 

「おはようございます、トレーナー殿。本日もよろしくお願いいたします!」

 

 見事な一礼。

 背筋が伸び、一部の隙もなかった。

 

「おはよう、ヤエノ。今日も早いな」

「はい! 日々の鍛錬に妥協は許されませんので!」

「ははっ、相変わらず真面目だな」

 

 トレーナーは笑いながら、机の上に置いてあった書類をまとめる。

 

「そうだ。昨日のトレーニングだけど、最後のフォームがかなり良くなってたぞ」

「ほ、本当でありますか!?」

「ああ。特に踏み込みが安定してきた。努力の成果だな」

「そ、そのようなお言葉をいただけるとは……!」

 

 ヤエノの耳がぴくりと動く。

 頬がほんのり赤くなった。

(トレーナー殿に……褒めていただけた……!)

 胸の奥が温かくなる。

 もっと褒めてほしい。

 もっと自分を見てほしい。

 そんな気持ちが湧き上がってくるが、ヤエノはそれを必死に抑え込んだ。

(いけません! これは鍛錬の成果を認めていただいただけ! 不純な考えを抱いてはなりません!)

 

「ヤエノ?」

 

 不意に黙り込んだヤエノを、訝しげに見るトレーナー。

 

「は、はいっ!」

「顔が赤いけど、暑いのか?」

「い、いえ! 体調に問題ありません!!」

「そうか? まだ朝だし、無理するなよ」

「お気遣い、感謝いたします!」

 

 ヤエノは心の中で、静かに頭を抱えた。

(うう、トレーナー殿のお顔を直視できない……。修業が足りないぞ、私!)

 ……と、そこに。

 

「失礼いたします、我が君!!」

 

 開け放たれたままのドアから、勢い良く誰かが飛び込んで来た。

 

「うおっ!?」

 

 思わず身体を仰け反らせたトレーナーの視界に、膝をついて頭を下げるウマ娘の姿が。

 デュランダルだった。

 その手には、バスケットがあった。

 

「おはようございます  本日の朝食をお持ちいたしました!」

「お? おお、ありがとう。わざわざ作ってくれたのか?」

「当然です! 貴方のお食事を整えることも、騎士たる私の務め!」

「いやぁ、助かるよ。最近忙しくて朝食を抜きがちだったからな」

「なっ……!?」

 

 デュランダルの表情が凍りついた。

 

「我が君。ずっと、朝食を抜いていたのですか?」

「え? いや、ほ、ホラ。たまに……な?」

「たまに、ではありません! 健康管理は何よりも重要です! 我が君のお身体に万が一のことがあれば、私は……!」

 

 そう言いながら、デュランダルは唇を噛んだ。

 

「わかったわかった。これからはちゃんと食べるよ」

「本当ですね!?」

「ああ、約束する」

 

 デュランダルは感激したように胸元へ手を当てた。

 

「それでこそ王。ありがたき幸せ……!」

 

 その様子を見ていたヤエノが、一歩前に出る。

 

「デュランダル殿。トレーナー殿の健康管理であれば、私も協力できます」

「おお! ヤエノ殿!」

 

 デュランダルはパッと顔を明るくした。

 

「それは心強い! では、今後は私とヤエノ殿でトレーナー様をお守りしましょう!」

「ええ。トレーナー殿の健康を守ることは重要ですからな!」

 

 二人は固く握手を交わした。

 

「うんうん。仲がいいな二人とも」

 

 その様子を見たトレーナーが微笑む。

 ヤエノとデュランダルは、思わず顔を見合わせた。

 

「「……はい?」」

 

 揃って何を言ってんだコイツという表情だったが、トレーナーは一向に気付く様子もなく。

 

「いや、二人が協力してくれるなら心強いよ。これからもよろしくな!」

「「は、はい!!」」

 

 二人の返事が重なった。

 しかし、互いの視線にはどこか複雑なものが混ざっていた。

(……この御方は、少々無防備すぎるのでは?)

(……トレーナー様は、誰にでもあのように優しいのだろうか)

 

 

◆◇◆

 

 

 そんな微妙な空気が漂い始めたところへ。

 

「ごきげんよう」

「おはようございます、トレーナーさん」

 

 優雅に挨拶をしながら、メジロマックイーンとサトノダイヤモンドが入ってきた。

 マックイーンは手に水筒を、ダイヤは小さな紙袋を持っている。

 

「おはよう、二人とも」

「あら、朝からお忙しそうですわね」

「まあ、いつものことだよ」

「でしたら、こちらをどうぞ」

 

 マックイーンが水筒を開け、マグカップに琥珀色の液体を注いだ。

 

「私が淹れた紅茶ですわ。朝の一杯にはちょうどよいかと」

「おっ、ありがとう。マックイーンの紅茶は美味しいからな」

「ふふっ。お褒めいただき光栄ですわ」

 

 マックイーンは優雅に微笑む。

 その隣でダイヤが紙袋を差し出した。

 

「トレーナーさん、こちらもどうぞ。昨日、評判のお店でスコーンを買ってきたんです」

「おお、ありがとう。みんなで食べようか」

「……みんなで、ですか?」

「うん。せっかくだしな」

 

 ダイヤの笑顔が一瞬だけ固まった。

 

「そう、ですね。皆さんにも召し上がっていただきましょう」

「うんうん。やっぱりみんなで食べる方が美味しいからな!」

 

 トレーナーはうんうんと頷く。

 マックイーンとダイヤは、小さく息を吐いた。

 

(……二人きりで楽しむつもりでしたのに)

(……なかなか手強いですね)

 

 二人とも表情には出さなかったが、そもそもそんな機微に聡い訳がないトレーナーだった。

 

「ところで、トレーナーさん」

 

 ダイヤがにこやかに尋ねる。

 

「今日のお昼はご予定がありますか?」

「いや、特にはないけど」

「でしたら、ご一緒にいかがですか?」

「いいな。みんなで食堂に行こうか」

「……トレーナーさん」

「ん?」

「いえ、何でもありません」

 

 ダイヤは微笑んだ。

 その笑顔の奥に、ほんの少しだけ残念そうな感情が浮かんでいた。

 

 

◆◇◆

 

 

「お兄さま。入っていい?」

 

 今度は控えめな声が聞こえた。

 扉の隙間から、ライスシャワーが顔を覗かせている。

 

「ああ、ライス。おはよう」

「お、おはよう……」

 

 ライスは小さく頭を下げる。

 その後ろには、ナリタトップロードの姿もあった。

 

「おはようございます、トレーナーさん!」

「おう、トップロード。二人とも一緒だったのか」

「はい! 途中でライスさんと会ったので、一緒に来ました!」

「そうかそうか」

 

 トレーナーは二人に椅子を勧める。 

 先に来ていた四人は、思い思いにソファーや手近な椅子に腰掛けていた。

 

「ありがとう、お兄さま」

「ありがとうございます!」

 

 ふと何かを思い出したようで、トレーナーは机の引き出しから小さな包みを取り出した。

 

「そうだ、ライス。これ」

「え……?」

 

 包みの中には、綺麗な包装紙に包まれた小さなクッキーが入っていた。

 

「昨日、購買で見つけたんだ。ライスが好きそうだと思ってな」

「ライスに……?」

「ああ。よかったら食べてくれ」

 

 ライスは包みを両手で受け取る。

 

「ありがとう……お兄さま。大切に食べるね」

「え?……いや、普通に食べてくれればいいぞ?」

「ううん……大切に食べたいの」

 

 ライスは嬉しそうに微笑んだ。

 

「良かったですね、ライスさん」

「うん!」

 

 トップロードも思わず笑顔になった。

 そして、トレーナーはトップロードにも声をかける。

 

「トップロードも、昨日の練習はよかったぞ」

「えっ!?」

「最後までフォームを崩さず走れていた。あれは立派な成長だ」

「ほ、本当ですか!?」

「本当だよ。自信を持っていい」

「ありがとうございます! もっと頑張ります!」

 

 トップロードの尻尾が嬉しそうに揺れる。

(トレーナーさんに認めてもらえた……!)

 その喜びを胸に、トップロードは拳を握った。

 ……そして、ふと思う。

(……でも、私だけを見てほしいって思うのは、わがままなのかな)

 そんな気持ちを、彼女はまだ口に出せずにいた。

 

 

◆◇◆

 

 

「おはよう、トレーナー」

 

 明るく軽やかな声。

 アーモンドアイが入ってきた。

 その後ろには、ジェンティルドンナ。

 

「ごきげんよう」

「おう。二人ともおはよう」

 

 アーモンドアイは室内を見回す。

 そして、トレーナーの机に置かれたバスケットに紅茶、焼き菓子に気づいた。

 

「あら。朝から随分と豪華ね」

「みんなが持ってきてくれたんだ。ありがたいよな」

「ふふっ。愛されてるわね、トレーナー」

「おう。いい担当に恵まれて幸せだよ」

「……そういう意味で言ったんじゃないんだけどな」

 

 アーモンドアイは小さく笑った。

 ジェンティルドンナはそんな彼女を横目で見ながら、トレーナーの前に立つ。

 

「トレーナー」

「ん?」

「本日のトレーニング終了後、お時間をいただけるかしら」

「もちろん。何か相談か?」

「ええ。少々、あなたと二人で話したいことがありますの」

「わかった。何時頃がいい?」

「夕刻で構いませんわ」

「了解。予定を空けておくよ」

 

 ジェンティルドンナは満足げに頷いた。

 その様子を見て、アーモンドアイが口元を緩める。

 

「あらあら。大胆ね」

「何か?」

「いいえ。何でもないわ」

 

 二人の間に、目に見えない火花が散った。

 

 

◆◇◆

 

 

 気がつけば、トレーナー室には八人全員が揃っていた。

 トレーナーは机の上を片付けながら、満足そうに頷く。

 

「いやぁ、本当に俺は恵まれてるな。みんなの担当になれて。熱心で、思いやりもあって。それに、みんな仲良しなのが最高だ」

「……ええ。その通りですわね」

 

 マックイーンが紅茶を口に運ぶ。

 トップロードが部屋を見渡しながら、首を傾げる。

 

「ただ……これだけ集まると、少々手狭にも感じますが」

「そうかな? 俺はこのくらいがちょうどいいと思うけどな」

「我が君のお傍にいられるのであれば、私は問題ありません!」

 

 デュランダルが胸を張る。

 

「そ、それは私も同じであります!」

 

 ヤエノも負けじと答える。

 

「ふふっ。本当に面白い人たちね」

 

 そんな二人を見て、アーモンドアイが笑う。

 ライスは小さく笑いながら、クッキーの包みを大事そうに抱えていた。

 ダイヤはそんな彼女を微笑ましく見つめる。

 ジェンティルドンナは優雅に腕を組み、トレーナーを見つめている。

 ……そして当の本人はというと。

 

「そうだ。みんな、さっきダイヤから誘われたんだが……今日の昼食は一緒にどうだ?」

 

その一言に、八人の反応は様々だった。

 

「ぜひ!」

「はい!」

「もちろんですわ」

「喜んで!」

「お兄さまと一緒なら嬉しいよ」

「異議なしです!」

「いいわね」

「ええ、構いませんわ」

 

 全員が快く返事をした。

 ……ただし、その心の内はそれぞれ違う。

 

(トレーナー殿と一緒に食事……!)

(我が君と食卓を囲む……なんと素晴らしい!)

(できれば二人きりがよろしいのですが……)

(次は二人きりのお誘いを成功させたいですね)

(お兄さまと一緒……えへへ)

(もっとトレーナーさんとお話ししたいな……)

(今日こそ少し踏み込んでみようかしら)

(ふふ……午後が楽しみですわ)

 

 八人の思惑が交差する。

 だがしかし。

 

「よし、賑やかな昼食になりそうだ。頑張ってこれを片付けないとな!」

 

 トレーナーはそう言って、何事もなかったかのように仕事へ戻った。

 八人は顔を見合わせる。

 

 ……そして、ほぼ同時に小さく息を吐いた。

 

「……トレーナーさん」

 

 マックイーンが呟く。

 

「本当に、罪なお方ですわね」

「ええ。まったくね」

 

 ダイヤとアーモンドアイが同意する。

 

「……ですが」

 

 ジェンティルドンナが口元に笑みを浮かべた。

 

「簡単に譲るつもりはありませんわ」

 

 その言葉に、ヤエノとデュランダルが反応する。

 

「当然であります!」

「私も同じです!」

 

 トップロードは慌てて両手を振った。

 

「ま、待ってください! まだ何も始まっていませんよ!?」

 

 ライスは少しだけ頬を赤くして、そっと呟いた。

 

「ライスも……頑張りたいな」

 

 八人の視線が、自然とトレーナーへ向く。

 本人は書類を確認しながら、デュランダルお手製のサンドイッチに手を伸ばしている。

 ふと、皆の視線に気づいたらしく。

 

「……ん? どうした、みんな?」

「「「「「「「「何でもありません(ないよ)!」」」」」」」」

 

 八人の声が綺麗に重なった。

 

「そうか? ならいいんだけど」

 

 トレーナーは首を傾げる。

 そして、再び書類へ視線を戻した。

 今日も、トレセン学園は平和である。

 ……少なくとも、トレーナー本人にとっては。




 需要がありそうならつづく……かも。
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