君の好きだった世界で、もう一度。   作:霜月ルイ

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第1話「君の好きな世界」

 今日も、しずくの部屋でのんびりと過ごしている。

 

 大学の卒業を間近に控えた二月の休日。窓の外には冬らしい冷たい風が吹いているけれど、暖房の効いた室内は十分に暖かかった。ローテーブルの上には飲みかけのコーヒーと、二人でつまんでいたお菓子の袋が置かれている。

 

 僕はソファに背中を預けながら、隣でテレビに向かっている彼女を眺めていた。

 

 彼女の名前は、しずく。

 

 同じ大学に通う四年生で、付き合い始めてもうすぐ三年になる僕の恋人だ。

 

 そして、僕が知る限り、誰よりもポケモンが大好きな女の子でもある。

 

「……ねえ、しずく」

 

「んー?」

 

「まだやってるの?」

 

「うん! もうちょっと!」

 

「それ、一時間くらい前にも聞いた気がするんだけど」

 

「色違いってそんな簡単に出ないんだよ!」

 

 そう言いながら、しずくはコントローラーを握り直した。

 

 テレビに映っているのは『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』というゲーム。どうやら彼女は、普通とは色の違うポケモンを探しているらしい。

 

 本人曰く、色違い厳選という作業なのだそうだ。

 

 僕にはいまいち理解できない世界である。

 

「そもそも、色が違うだけでしょ?」

 

「……りょうま?」

 

「はい?」

 

「今、色が違う『だけ』って言った?」

 

「……言いました」

 

「愛が足りないんだよ、愛が!」

 

 彼女は頬を膨らませ、僕の肩を軽く叩いてきた。

 

 そんなに怒ることだろうか。いや、しずくにとってはそれくらい大切なことなのだろう。

 

「仕方ないじゃん。僕の愛は全部しずくに使ってるから、ポケモンの分が残ってないんだと思う」

 

「…………」

 

「……しずく?」

 

「そういうこと急に言うの、ずるくない?」

 

 こちらを睨むように見上げてきた彼女の頬は、ほんのり赤く染まっていた。

 

 付き合い始めて三年近く経つのに、こういうところは昔から変わらない。

 

「本当のことなんだけどな」

 

「……もう。ばか」

 

 そう言って、しずくは僕の肩に頭を預けた。

 

 さっきまで色違いに夢中だったくせに、こういうときだけ甘えてくるのだから困ったものだ。

 

 もっとも、そんな彼女が可愛くて仕方ない僕も、大概だと思う。

 

 しばらくすると、しずくは再びテレビに向き直った。

 

 僕はその横顔を見つめながら、ぬるくなったコーヒーを口に運ぶ。

 

 正直に言えば、僕はポケモンにそこまで詳しくない。

 

 しずくに勧められて『スカーレット』を買ったことはあるけれど、ストーリーを少し進めたところで止まっている。登場するポケモンの名前も、覚えているものの方が少ないと思う。

 

 それでも、しずくに付き合って『ポケモンGO』を遊んだり、最近では『Pokémon Champions』という対戦ゲームを始めたりしている。

 

 休日に散歩へ行こうと誘われたら、気づけば二時間もポケモンを捕まえながら歩いていたこともあった。

 

 あれはデートだったのだろうか。

 

 本人が楽しそうだったから、僕としては別に構わないのだけれど。

 

「あ、そうだ! りょうま、見て見て!」

 

「今度は何?」

 

「この子!」

 

 しずくがゲーム内のボックスを開き、一匹のポケモンを見せてくる。

 

 緑色の体に、キノコのような傘を被ったポケモンだった。

 

「……キノコ?」

 

「キノガッサ!」

 

「名前もキノコなんだ」

 

「違うってば! ちゃんと見てよ!」

 

 しずくは僕の腕を引っ張り、テレビの方へ向かせた。

 

「この子、めちゃくちゃ強いんだよ!」

 

「へえ。そうなの?」

 

「そう! キノコのほうしで相手を眠らせられるし、みねうちも使えるから、ポケモンの捕獲にもすっごく便利なの!」

 

「……つまり?」

 

「色違い厳選のお供!」

 

「なるほど。しずくの仕事仲間みたいなものか」

 

「そうそう! この子にはいつもお世話になってるんだよね!」

 

 画面に映るキノガッサを見ながら、しずくは嬉しそうに笑った。

 

 相変わらず、ポケモンのことになると説明が止まらなくなる。

 

「じゃあ、名前くらいは覚えておこうかな」

 

「ほんと?」

 

「うん。キノガッサ、でしょ?」

 

「正解!」

 

「ちなみに進化前は?」

 

「キノココ!」

 

「……そっちはもっとキノコだね」

 

「だからキノコばっかり言わない!」

 

 また肩を叩かれた。

 

 けれど、しずくはすぐに笑い出したので、僕もつられて笑ってしまう。

 

 こうして彼女の好きなものについて話を聞いている時間は、嫌いじゃない。

 

 むしろ、結構好きだったりする。

 

 僕の知らないことを、楽しそうに教えてくれる彼女。その表情を見ているだけで、なんだかこちらまで楽しい気持ちになるのだ。

 

 だから、ポケモンの名前を覚えることよりも、彼女がどれほど楽しそうに話していたかということの方が、僕の記憶には残っている。

 

「あっ!」

 

 突然、しずくが大きな声を上げた。

 

「出た! りょうま! 出たよ!」

 

「えっ、何が?」

 

「色違い! やっと出たぁ!」

 

 テレビを見れば、確かに先ほどまでとは色の違うポケモンが歩いていた。

 

 しずくは飛び跳ねるように喜び、慌ててコントローラーを操作し始める。

 

「逃げないでね……! お願い、捕まって……!」

 

 僕まで妙に緊張してしまった。

 

 そして数十秒後。

 

「やったぁぁ!」

 

 無事に捕獲できたらしい。

 

 しずくは満面の笑みを浮かべると、勢いよく僕に抱きついてきた。

 

「やった! やっと捕まえた!」

 

「おっと……! よかったね、しずく」

 

「うん!」

 

 そのまま僕の胸に顔を埋めて、嬉しそうに笑っている。

 

 たかがゲーム。

 

 そう思ってしまうこともある。

 

 でも、こうして何かに夢中になれる彼女のことは、少し羨ましくもあった。

 

 僕には、ここまで熱中できる趣味なんてないから。

 

「……よし!」

 

「ん?」

 

「じゃあ、次!」

 

「……次?」

 

 嫌な予感がした。

 

「チャンピオンズ! 新しいパーティ作ったから対戦しよ!」

 

「……また?」

 

「また!」

 

「さっきまであんなに厳選してたのに、元気だね……」

 

「ポケモンは別腹なの!」

 

「その理屈は初めて聞いたよ」

 

 結局、僕はスマートフォンを手に取った。

 

 しずくに誘われて始めたチャンピオンズだけれど、最近は僕もそれなりに楽しんでいる。

 

 といっても、自分で一からパーティを組めるほど詳しいわけじゃない。

 

 今使っているポケモンたちも、ほとんどしずくが選んでくれたものだ。

 

 本人曰く、初心者でも勝てるように考えてくれたらしい。

 

「じゃあ、今日は手加減なしだからね!」

 

「いつもしてないでしょ」

 

「えへへ、バレた?」

 

「そりゃね」

 

 そして、対戦が始まった。

 

 僕は覚えている範囲でタイプ相性を考えながら、慎重に技を選んでいく。

 

 しずくは対戦になると意外と負けず嫌いだ。

 

 普段はのんびりしているくせに、ゲーム中だけは妙に真剣な顔になる。

 

 それが面白くて、ついつい横顔を見てしまった。

 

「ちょっと! ちゃんと画面見て!」

 

「見てるって」

 

「絶対見てなかった!」

 

「しずくの方が面白いから」

 

「もう! そういうのは後!」

 

 怒られてしまった。

 

 しかし、今回は僕の方が上手く立ち回れたらしい。

 

 最後に残ったメガサーナイトが相手のポケモンを倒し、画面に勝利の表示が現れた。

 

「あーっ! 負けた! メガサナ強すぎ!」

 

「いや、しずくがこのパーティ組んだんじゃん」

 

「だって勝てた方が楽しいでしょ!?」

 

「じゃあ、負けた方は楽しくないの?」

 

「私はりょうまと対戦できるだけで楽しいからいいの!」

 

「……それ、ずるくない?」

 

「何が?」

 

「そんなこと言われたら、僕だって嬉しくなるじゃん」

 

 しずくは一瞬きょとんとしてから、満足そうに笑った。

 

「えへへ。じゃあ、もう一戦!」

 

「……今の感動を返して」

 

 どうやら、彼女の中では負けたまま終わるという選択肢は存在しないらしい。

 

「お願い! あと一回だけ!」

 

「……しずくのあと一回って、絶対一回じゃないんだよな」

 

「そんなことないもん!」

 

「昨日も三回くらい言ってたよ」

 

「……今日は本当に一回!」

 

「はいはい。しょうがないな」

 

 結局、そのあと三戦した。

 

 予想どおりである。

 

 対戦を終えた頃には、窓の外も少しずつ夕方の色に変わり始めていた。

 

「そういえばさ」

 

「ん?」

 

「さっき使ってたサーナイトって、最初は何なの?」

 

「あ、ラルトスだよ!」

 

「ラルトス?」

 

「そう! ちっちゃくて、すっごく可愛いの!」

 

 しずくはスマートフォンで画像を見せてくれた。

 

 そこには、緑色の髪のようなものを被った、小さなポケモンが映っていた。

 

「へえ。これがあのサーナイトになるんだ」

 

「そうだよ! すごいでしょ?」

 

「確かに。全然違うね」

 

「ポケモンってね、最初は頼りなくても、一緒に育てていくとすっごく強くなるんだよ」

 

「なるほどね」

 

「だから、見た目だけで弱そうとか言っちゃダメなんだからね?」

 

「……さっきのキノコのこと?」

 

「キノガッサ!」

 

「あはは、ごめん」

 

 しずくは呆れたようにため息をついたけれど、すぐに僕の肩へ寄りかかってきた。

 

「ほんと、りょうまってポケモンに詳しくないよね」

 

「まあね」

 

「でも、付き合ってくれるから好き」

 

「……ポケモンに?」

 

「りょうまに!」

 

「そっか。よかった」

 

 そう答えると、彼女は嬉しそうに僕の腕へ抱きついた。

 

 こういう時間が、僕は好きだ。

 

 ゲームの勝ち負けなんて、正直どうでもよかった。

 

 隣で彼女が笑っていてくれれば、それだけで十分だったから。

 

 しばらくして、しずくが天井を見上げながら呟いた。

 

「あーあ。ポケモンの世界に行けたらなぁ」

 

「……またそれ?」

 

「だって、絶対楽しいじゃん! 本物のポケモンと一緒に旅できるんだよ?」

 

「まあ、楽しそうではあるけど」

 

「私、絶対チャンピオンになれると思うんだよね!」

 

「……ずいぶん大きく出たね」

 

「だって、ポケモンのことならいっぱい知ってるもん!」

 

「知識だけでなれるものなの?」

 

「そこは努力と愛でなんとかする!」

 

「便利な言葉だなぁ、愛って」

 

 しずくは笑いながら僕の腕を揺らした。

 

「じゃあ、りょうまは? ポケモンの世界に行ったら何したい?」

 

「僕?」

 

「うん!」

 

「……最初の草むらで迷子になってそう」

 

「あはは! ありそう!」

 

「そこは否定してほしかったな」

 

「でも、りょうまは優しいから、きっとポケモンに好かれると思うよ?」

 

「そうかな」

 

「うん! 絶対!」

 

 妙な自信である。

 

 けれど、彼女にそう言ってもらえるのは嬉しかった。

 

「じゃあさ、もし私がチャンピオンになったら、ちゃんとお祝いしてくれる?」

 

「もちろん」

 

「ほんとに?」

 

「うん。チャンピオンになったら、僕が一番におめでとうって言ってあげるよ」

 

「……約束だからね?」

 

「約束」

 

 しずくは小指を差し出してきた。

 

 大学生にもなって指切りなんて、と思わなくもない。

 

 それでも僕は、彼女の小指に自分の小指を絡めた。

 

「指切りげんまん!」

 

「はいはい」

 

「はいは一回!」

 

「はい」

 

「もう!」

 

 そんなくだらないやり取りをしながら、二人で笑った。

 

 もし本当にポケモンの世界があるのなら、しずくはきっと夢中で冒険するのだろう。

 

 知らないポケモンを見つけるたびに目を輝かせ、初めて訪れる街で大はしゃぎして、強いトレーナーに出会えば迷わず勝負を挑む。

 

 その姿が簡単に想像できてしまった。

 

 そんな彼女を、隣で眺めているのも悪くないかもしれない。

 

 もっとも、そんな世界が本当にあるはずもないのだけれど。

 

     ◇

 

 夕食は、二人でカレーを作ることになった。

 

 しずくが野菜を切り、僕が鍋を担当する。交際して三年近くになると、こうした家事の分担も自然と決まっていた。

 

「りょうま、お肉もう入れた?」

 

「入れたよ」

 

「じゃあ、次これ!」

 

「はいはい」

 

「……なんか、こういうのいいね」

 

「ん?」

 

「一緒にご飯作るの」

 

 隣を見ると、しずくが嬉しそうに笑っていた。

 

「いつもやってるじゃん」

 

「そうだけどさ。なんか、新婚さんみたいじゃない?」

 

「……そうだね」

 

「えへへ」

 

 彼女は照れくさそうに笑い、再び包丁を動かし始めた。

 

 僕はそんな横顔を見ながら、少しだけ胸が温かくなるのを感じた。

 

 大学卒業まで、あと少し。

 

 就職先はすでに決まっているし、彼女も春から社会人になる。

 

 これから忙しくなるだろう。

 

 今までみたいに、好きなときに会えるとは限らない。

 

 それでも僕には、一つ考えていることがあった。

 

 まだ、しずくには内緒だけれど。

 

「ねえ、りょうま」

 

「どうしたの?」

 

「卒業したらさ、もっと一緒にいられるかな?」

 

「……どうだろう。仕事も始まるしね」

 

「えー! そこは『もちろん』って言ってよ!」

 

「もちろん」

 

「遅い!」

 

「あはは、ごめん」

 

 しずくは少し拗ねたように唇を尖らせた。

 

 けれど、すぐに柔らかな表情へ戻る。

 

「……でも、いつか一緒に住みたいね」

 

「……うん」

 

「毎日一緒にご飯食べて、ゲームして、休みの日は二人で出かけて……」

 

「今とあんまり変わらなくない?」

 

「違うよ!」

 

「何が?」

 

「……帰らなくていいんだもん」

 

 その言葉に、思わず手が止まった。

 

 しずくは少し俯きながら、続ける。

 

「りょうまが帰っちゃうと、やっぱりちょっと寂しいし」

 

「……そっか」

 

「だから、いつか一緒に暮らそうね」

 

 彼女は顔を上げた。

 

 真っ直ぐな瞳が、僕を見つめている。

 

「……うん。そうしよう」

 

「ほんと?」

 

「本当だよ」

 

「約束!」

 

「今日、約束多くない?」

 

「大事なことだから!」

 

 そう言って笑う彼女を見て、僕も自然と笑顔になった。

 

 実は、その約束を叶えるための準備は、もう少しずつ進めている。

 

 卒業式が終わったら、きちんと話そうと思っていた。

 

 だから、もう少しだけ待っていてほしい。

 

 そんなことを考えながら、僕はカレーをかき混ぜた。

 

 夕食を終えて、二人で食器を洗う。

 

 それからソファに並んで座り、何となくテレビを眺めた。

 

 しずくは僕の肩に寄りかかったまま、時折眠そうに目を擦っている。

 

「……眠いなら寝れば?」

 

「やだ」

 

「なんで?」

 

「りょうま、もうすぐ帰るでしょ?」

 

「まあ、そうだけど」

 

「じゃあ、もうちょっとこうしてる」

 

 彼女は僕の腕にぎゅっと抱きついた。

 

 僕は空いている手で、その頭を優しく撫でる。

 

 指の間を柔らかな髪が滑っていく。

 

 しずくは気持ちよさそうに目を細めた。

 

 こんな時間が、ずっと続けばいいのに。

 

 ふと、そんなことを思った。

 

     ◇

 

「じゃあ、そろそろ帰るね」

 

「……うん」

 

 玄関で靴を履いていると、しずくが少し寂しそうな顔をした。

 

「明日も連絡してね?」

 

「するよ」

 

「絶対だよ?」

 

「わかってるって」

 

「……あと、今度はチャンピオンズ負けないからね!」

 

「はいはい。楽しみにしてる」

 

「はいは一回!」

 

「……はい」

 

 最後までいつもどおりである。

 

 立ち上がると、しずくが僕の服の裾を引っ張った。

 

「……りょうま」

 

「ん?」

 

「……大好き!」

 

 満面の笑顔だった。

 

 僕は思わず笑って、彼女の額に軽く口づけた。

 

「……僕も大好きだよ」

 

「えへへ。気をつけて帰ってね!」

 

「うん。またね、しずく」

 

「またね!」

 

 玄関の扉が閉まる。

 

 僕は冷たい夜風に肩をすくめながら、駅へ向かって歩き始めた。

 

 しずくの部屋から僕のアパートまでは、電車も使って四十分ほど。

 

 近いようで、少し遠い。

 

 だからこそ、いつか二人で暮らせる日が楽しみだった。

 

 帰宅してシャワーを浴び、寝る準備を済ませる。

 

 そして、机の前に座った。

 

 引き出しを開けると、奥に小さな箱がしまってある。

 

 手に取って蓋を開ければ、中には一つの指輪が収まっていた。

 

 婚約指輪。

 

 卒業式が終わったら、しずくに渡すつもりで買ったものだ。

 

 初めて宝石店へ行ったときは、正直かなり緊張した。

 

 店員さんに相談しながら、何度も迷って選んだ指輪。

 

 決して高価なものではないけれど、今の僕にできる精いっぱいだった。

 

 喜んでくれるだろうか。

 

 それとも、泣いてしまうだろうか。

 

 もしかしたら、驚きすぎて何も言えなくなるかもしれない。

 

 そんな彼女の反応を想像して、思わず笑ってしまった。

 

 しずくは、ポケモンの世界に行けたらチャンピオンになりたいと言っていた。

 

 僕には、そんな大きな夢はない。

 

 ポケモンだって、彼女に誘われなければ、きっと今でもろくに知らなかったと思う。

 

 だけど、ひとつだけ。

 

 僕にも、叶えたい夢があった。

 

 それは、彼女と同じ家に帰って、同じ食卓を囲んで、何でもないことで笑い合うこと。

 

 そんな毎日を、ずっと続けていくことだった。

 

 引き出しの中の小さな箱を、そっと指先で撫でる。

 

 卒業式が終わったら、ちゃんと伝えよう。

 

 好きだって。

 

 これからも、ずっと一緒にいたいって。

 

 ……きっと、喜んでくれるよな。

 

 そう考えるだけで、自然と頬が緩んだ。

 

 あと少し。

 

 あと少しで、僕たちは新しい人生を歩き始める。

 

 彼女の隣にいられる未来を、僕は当たり前のように信じていた。




久しぶりに見たアニメに触発されて書きました。
感想、評価、お気に入りが執筆の励みになります。
書き溜め分全30話完結済みなので、ぼちぼち投稿していきます。

ポケモンしか書いてませんが、よかったらほかの作品もお手に取っていただけますと幸いです。
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