ようこそ実力主義の教室へ—坂柳有栖と結婚させるために作られた少年—   作:通りすがりの希望厨

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新連載です。とりあえずネタが尽きるまではこの小説を書こうかな...細かい設定については...次回以降に、ということで


ボクの生まれた意味

 

 「おはようございます。気分はいかがですか?」

 

生まれて初めてボクが聞いた声はそのような言葉だった。普通の生物であれば生まれた直後に明確な思考することすら出来ないだろう。だが、ボクは違った。こうして自分の状況を理解し、考えることができていた。それに対して疑問を感じられるほどにはボクは常識的な感性を持ってもいた。目の前にいるのは仮面を身につけ、厚手のコートを着ている女性だった。仮面は顔をすっぽりと覆っていて顔立ちもわからない。ただ、ボクは直感的に確信した。『この女性が、ボクを作った。』ということを。

 

 「どうやらちゃんと思考をできているようですね、No.637542...いえ、今回は名前が必要でした。確か以前決めた名前は......天定紫明。(あまさだしめい)君の名前です。覚えておいてくださいね。」

 

ボクがそのようなことを考えているとその女性はボクの名前を教えてくれる。天定......紫明......それがボクの名前。

 

 「私はNo.2。必要がないのでその他の名はありません。私たちはある一人の男によって作られた人造人間、ホムンクルスです。No.はそのまま作られた順番、君は637542番目に作られたホムンクルスということですね。」

 

ボクが自分の名前を頭の中で反芻しているとその女性は近くに置いてあった紙のような物を持ちながらそう言ってくる。荒唐無稽な話だ。素直にそう思った。しかし、それと同時に本当なのだとも感じた。自分でも何が理由かはわからない。ただ、そう確信した。

 

 「私たちにはさまざまな作品の世界を行き来できる技術があります。君より前に作られた私たちはすでに他の世界で暮らしていますよ。数多の世界を観測し、介入を重ね膨大な知識、経験を積み重ねることで究極の存在を作り出すのが私たちのオリジナルの目的でした。しかしオリジナルは既に自身のホムンクルスを作りすぎた影響により神経のかけらが一部残っているに過ぎません。今私たちの全体のリーダーは最初に作られた2人のプロトタイプ、つまり私とNo.1という事になります。」

 

荒唐無稽な話は続いていく。さまざまな作品、というのがなんなのかはボクにはわからなかった。しかし彼女の話を聞いて、なぜボクが生まれた直後からここまで思考できたのか、その理由は理解できた。最初から常識的な知識を植え付けられていたのだろう。その程度のこと、この女性......No.2の言うような技術を持っているのなら、簡単に出来るだろう。しかし......

 

 「そして今君はこう考えていることでしょう。なぜ最初からその知識を植え付けなかったのか、と。それにはもちろん理由があります。そしてそれは君が作られた理由でもある。」

 

No.2はボクの考えていることはお見通しとばかりに、ボクの考えを言い当てた。そしてある写真を渡してくる。そこには一人の少女が映っていた。年齢は16歳あたりだろうか。名も性格も、声も何もかもわからなかった。それなのに、ボクにはその少女がとても魅力的に感じた。

 

 「その子の名前は坂柳有栖。ある作品に出てくる少女です。私は最近その子が出てくる作品を知ったのですが、私はその子のことが欲しくなってしまった。しかし、以前他の世界の可愛い子供達を養子にしたことがあったのですが私の子供の扱いにお怒りになる方々と殺し合いになることが多々ありまして。私は無益な殺し合いを好みません。彼女を手に入れるのに私が介入してはまた同じことになる可能性が非常に高い。それは私としても望まぬところです。それ故に、君を作り出したのですよ。」

 

と彼女は話を続ける。その言葉を聞いてボクは初めて部屋の方へ意識を向けた。そこはまるで研究室のようでさまざまな資料や写真、何かの入ったフラスコ、そして人型の何か、そのようなものがあった。実験室とみて間違いなさそうだ。となるとNo.2が言っていた子供達の扱いと言うのは実験に使ったということだろうか。可愛いという理由だけで、わざわざ子供達を攫ったのだらうか。

 

 「心配せずともその子まで実験に使うつもりはありません。ただ、私の子供として欲しいのです。ここまで話せば、もう君がなんの目的で作られたのか、という部分は見えてきたでしょうか?」

 

とNo.2は聞いてくる。そしてボクは理解した。要するに、ボクにこの子と結婚しろということなのだろう。そのためにNo.2はボクを作り出した。正直、馬鹿げてると思った。子供として欲しいからという理由で生命を作り出し、この子にボクを恋愛的に好きにさせろと言っているのだ。そしてこの子を可愛がりたい、とかそういうことなのだろう。意味がわからない。

 

 「理解ができないでしょうね。しかしもう自覚しているでしょう?君は既に彼女に恋をしている。私がそうなるように作りましたから。」

 

No.2は語りかけてくる。......この込み上げる情熱も、彼女に対する感情も。全てはNo.2に仕組まれていたことということだ。No.2はどうやら倫理観が皆無らしい。罪悪感のかけらもない様子でそう言っているのだから。そしてそこまで仕組んでおいて彼女がボクのことを好きになるようにしろと言っている。人のやることではない。

 

 「何を思うかは自由です。ですが君にはもうその子のいる世界に行ってもらいます。時間軸を操るのは簡単ですが乱用しては時空が乱れ、取り返しのつかない事態に発展することもありますからね。君はその世界へ行き、彼女が入学する学校の試験を受けてもらいます。大丈夫、その試験は君にとっては簡単な物です。まぁそもそもあの学校、推薦がないと受からないのですがその辺りもちゃんと準備は済んでいますよ。入学後のことは君の判断に委ねます。強いて言うのであれば坂柳有栖とは仲良くしておくように、ということですがこれは言うまでもないでしょうし。」

 

No.2は続ける。選択肢はないのは簡単に理解できた。この人はボクを簡単に殺せる。いや、殺すなんて生やさしいものじゃないんだろう。人として、生命としての尊厳を肉体的にも精神的に踏み躙りまるで人間もただの素材かのように全てを有効活用する。そこまでする恐ろしさをボクは感じ取った。

 

 「...わかりました。ですが疑問があります。その世界に行ったとして、ボクの戸籍や家はどうするのですか?そこを教えられない限りはボクは安心してその貴方の言う使命を真っ当出来ません。」

 

そこで初めてボクは言葉を発した。抗う気力すら生まれなかった。No.2とボクの間では絶対に埋められない隔絶した差がある。例えボクがどれだけ努力しようともこの化け物には勝てない。だから従う。けど、そこだけはちゃんとしっかりさせておきたかった。

 

 「ああ、そのことですか。その件についてはご心配なく。戸籍は既に作ってありますし、家はアパートを一室借りています。入学するまではそこで暮らせるように手配してありますよ。資金も半年分はありますしスマホは使わなくなりますが最新機種を与えましょう。その他の必需品も私の方で揃えます。君はただその子をどう好きにさせるかだけを考えればいい。」

 

ボクの質問にNo.2は事細かく教えてくれた。そこまで聞いた後ボクは立ち上がる。小さい体だった。身長はおそらく150cm台後半といったところで腕も足も細い。髪は肩くらいまで伸びた髪は、薄い水色をしていた。

 

 「もう一つ質問があります。なんでボクに対してそこまで情報を渡したり資金を提供したりしているのですか?ただの捨て駒にしては随分と手厚いサポートですね。」

 

そうボクはNo.2に聞いた。答えがくるとは思っていない。ただ漠然と、なぜここまでするのだろうと疑問に思っただけだ。

 

 「ああ、そのことについてですか。それについては簡単です。今まで多くのホムンクルスを作ってきたのですが目的や情報を何も与えないより、情報を与えて自由に動かせた方が役割をこなしてくれることが多かったのです。今回は教えても仮にメリットにならずともデメリットにもなりえない。それに、手厚いフォローをした方が、君が私に対しての反抗心を抑えてくれるでしょう?もちろん、他にも多少の理由はありますが。」

 

しかしNo.2はボクの予想に反してボクの質問に答えた。なるほど......まぁ、それなら理解はできるな。

 

 「最後に、自分の容姿を確認するといい。それが終わり次第、試験会場に送ります。私との連絡はいつでも可能ですよ。仮に使えなくなったのなら、こちらで対処しましょう。」

 

と言いながら彼女は大きな鏡を何処からか出してきてボクの目の前におく。そこでボクは自分の顔を初めて見た。髪の質感は柔らかそうな印象を受け、髪型は俗に言うクラゲヘアというものだろうか。眉は緩やかな半円を描いていたが目つきは少し鋭かった。目の色も右目が白、左目が深い紫の珍しいオッドアイだった。自分で確認した通り身長は男性にしては低く、手足も細かった。しかし拳を強く握り締めればかなり強い力が出るのがわかる。感覚としての握力は右が40、左が44であろうか。力の入り方からして左手が利き手のようだ。最後に、服装は患者服のような物であった。

 

 「では、お気をつけて。大丈夫、きっとうまくいきますよ。」

 

最後にNo.2はそう言うとボクの目の前は真っ白になる。そして目を開ければそこは......既に先ほどの場所ではなく、試験会場の真ん前であった。看板には、高度育成高等学校と書いてあった。ここがボクの入る予定の高校らしい。とそのようなことを考えながらボクは自身の姿を見る。服は先ほどまでとは違い、どこかの中学校の制服を身につけていた。No.2はそこは重要視してないらしく情報はほとんど送られてきていなかった。ただ、学校に行くも行かないも自由であり、既に成績は操作してあるため、欠席した日もないことになっている。情報として送られてきたのは、その程度だった。

 

 「なんだかズルをしている気持ちになっちゃうな...」

 

そう呟きながらボクはその建物に入り、指定された席に座る。他にもたくさんの人たちが入ってくるのがわかったが、特に気にすることもなくボクは試験を受けた。No.2が言うように試験はボクにとっては簡単すぎるもので、途中であくびが出そうになった。面接もそこまで変わったことは聞かれず、ボクは無難に受け答えをした。そして試験科目が全て終わった後、ボクは立ち上がって帰ろうとしたその瞬間、ボクの視界の端っこの方で、あの少女...坂柳有栖が見えた。

 

 「あ、あの!」

 

ボクは気づいたら小走りで近づきながら話しかけていた。彼女はボクのことを認識するものの、その目には困惑が色が浮かんでいた。当然だ、ボクとは初対面なんだから。

 

 「ご、ごめんなさい。急に話しかけちゃって......ボクは天定紫明って言います。」

 

ボクは謝りながらそう自己紹介をする。今のボクは他の人から見たら変な人なんだろうってことは自分でも理解できた。でもその理性も彼女が視界に少し映っただけで吹き飛んで話しかけてしまった。

 

 「いえ、お気になさらずともいいですよ。自己紹介を返しておくと私は坂柳有栖です。それで、あまり落ち着きがない様子ですがなんの御用でしょう?」

 

そのように言う彼女の表情には先ほどの困惑はなかった。さすがと言うべきなのだろう。

 

 「す、すみません...ただ少し見たことがある人だったからつい...」

 

ボクはそう質問に答える。自分でもあまりいい答え方ではないとは理解していたが彼女を目の前にするとボクは冷静さを失ってしまうようで、上手い返しが思いつかなかった。

 

 「私を......?ニュースかそのあたりで知ったのでしょうけど、私のことを知っておきながら話しかけてくるのですね。」

 

そう彼女は返してくる。確か坂柳さんは理事長の娘なんだっけ...お嬢様なのは知ってるんだけどよくわからないままきちゃったな...と思いつつ、

 

 「あ、ごめんなさい!迷惑でしたか!?」

 

彼女が気分を害したのではないかと心配になり、謝った。やばいやばい!最初から悪印象を抱かれるのは本当にやばい!

 

 「ふふ、面白い方ですね。迷惑ではありませんよ。ただもう少しで家の者が迎えにくるのであまり話す時間がなく。もしお互いに入学できたのであればその時にまたお話しでもしましょうか。あなたが合格できたのであるのなら、ですけど。」

 

そう心配になっていたら彼女はそう返してくる。悪印象は持たれていない......のか?わからない......人の気持ちわかんないよお母さん......いやNo.2もわからないか?

 

 「すみません、時間が押しているので私は行きますね。ではまたお会いしましょう、天定さん。」

 

ボクが考えているうちに、彼女は一礼をし、杖をつきながら歩いて去って行った。なんと言うか...ところどころ傲慢さが見えてたような。まぁかわいいからいいけど。とそのようなことを考えながらボクは自身の部屋だと送られてきた情報のアパートへ向かう。どうやら例の学校に入学すると3年間完全に寮暮らしい。そのため、このアパートに愛着を持つ時間はないだろう。なんとも珍しいとは思ったがそういうこともあるかとボクは思い風呂に入る。

 

 「疲れたな...生まれてまだ1日も経ってないのに。」

 

ボクは湯船に浸かりながら呟く。坂柳さん、ボクに対してどんな印象持ったんだろう......考えだけ無駄なんだろうけど気になるな。だって元から植え付けられた物だとしてもこの気持ちは嘘じゃないし、気にするのは仕方ないこと......だよね?

 

 「はぁ......後は合格発表が来るまで普通に暮らしてればいいのか。変にボロを出さないように学校には行かない方がいいよね。......はぁ、どうしようかな......」

 

そのようなことをボクが呟くと、

 

 「それなら時間を少し飛ばしましょうか?」

 

横からそのようなNo.2の声が聞こえてくる。......うん?

 

 「おわぁ!?」

 

本気でビビりボクはそのような声を出しながらお湯に体を隠す。急に出てきた......なんなんだこの人......本当にボクを人間扱いしてないんじゃないか.......?

 

 「ああ、裸体を見られるのは嫌でしたか。これは失礼。それとしばらく暇なのであれば時間を少し飛ばすのはどうでしょう。時間を戻すと不都合が生じやすいですが、先に進めるだけなら、その間の記憶が失われるだけで済みますし、不都合も起きにくいですから。」

 

ボクの様子を気にすることもなくそうNo.2は言ってくる。いや、そんなことより出て行って欲しいんですけど.......

 

 「無言ということは肯定と受け取っておきますね。それとお風呂中に申し訳ない。次からは気をつけますね。まぁそこまで気楽にこれるわけでもないのでこのような事故は起きえないとは思いますが。」

 

そう言った後にNo.2はふっと姿を消す。な、なんなんだあの人......怖い......

 

 「......うん?」

 

そうボクが思いながら瞬きをしたその瞬間、ボクはいつのまにかバスに乗っていた。服は例の高校の制服だった......つまり、No.2は先ほど言った通り時間を飛ばしたらしい。なんだあの人。マジでなんだあの人。

 

 「......時間的に結構余裕のある状態で乗ったんだ。まぁその方がいいよね。」

 

ボクはそうNo.2への文句はありながらものんびりと登校した。到着したのは、入学式までまだ2時間近くもある時間だった。明らかに早すぎた。一応、校門は開いているらしく中に入ってみると数名の職員の人の姿が見える程度だ。おそるおそる敷地内に入りながらボクはクラス分けの紙を見る。この制服を着てるってことは、多分合格してるってことだろうけど、念のために確認しておかないと...

 

 「えっと.....Dじゃない......C、Bも違う......あ、Aだ。よかったぁ......ちゃんと合格してたぁ......」

 

自分の名前を見つけ、ボクは安堵した。とりあえずはこれで一安心、だよね。確かこの学校で気をつけなきゃいけないことは退学にならないことが一番だったはず......とりあえずは坂柳さんとの接触を優先して......って、そうだ!坂柳さんはどのクラスに......

 

 「A......同じクラスなんだ......」

 

クラスを確認したボクはそう安堵の声を漏らす。ふぅ......最初の関門は突破できた。ただ坂柳さんにボクを好きにさせる方法なんて全く思いつかないんだけどどうしたらいいんだろう......

 

 「と、そうだ。とりあえず教室に行かなきゃ。」

 

先に教室に向かうことにして、ボクは歩き始める。校舎内は広いものの、今自分が持ってきていた資料の中に、敷地内の地図があったため迷うなんてことにはならずに済んだ。でも広すぎるな......流石は名門校。

 

 「えっと......ボクの席はここか。一番前の端......なんとも言えないな。えっと横の人は......知らない人だ。まぁ仲良くなれたらいいな。」

 

なんて能天気なことを考えながらボクは席に座る。さて......多分No.2もこの先この物語がどう進むのかまではわかはないのだろう。ボクも正直何をすればいいのかはわからない。でも、数少ない情報によればこのクラスは多少の対立こそあれどだいたい坂柳さんが主導権を持つようになるらしい。ならボクは坂柳さんの側近的な役割を担っておきたいな。他の人にその役を奪われるのも嫌だし。......そういえば。

 

 「この学校、廊下とかはともかく見てきた範囲内だと室内にも監視カメラが付いてたな。」

 

そうボクは疑問に思ったことを口にした。不審者対策としては過剰な気がするし......もしかしてこれは生徒を守るためじゃなくて生徒を見張るためのもの......?いや、それはまだ決めつけるには早すぎる。ほかの部屋を確認してから判断した方がよさそうだ。

 

 「あら......私より先に来た人がいるとは聞いていましたがまさかあなただとは。」

 

そう声が聞こえてくる。この声は......

 

 「坂柳さん?」

 

そうボクは言いながら振り向くとそこには坂柳さん本人が自分の席に向かい座ろうとしていた。どうやら、話したいのならボクの方から近づいてこい、ということらしい。体が不自由なんだからそれくらいは当然かな。

 

 「坂柳さんも早いね。ボクはちょっと心配性で早めに来てたんだけど、坂柳さんはどうしてこんなに早くにきたの?」

 

ボクは自分の席を立ち、坂柳さんの席の方へ歩きながら尋ねた。ボクは万が一に備えて来たんだけど、坂柳さんはそういうタイプじゃないよね......

 

 「私は見ての通り体が不自由ですから、いつも早めに学校に来るようにしています。特に今日は入学式、遅れるなんてことは万が一にもあってはならないので。」

 

ボクが疑問に思っていると坂柳さんはそう答える。.......半分本当って感じかな。もう半分は私が1番優れてるんだぞってところの証明的な感じかそれとも別か......そこまでは判断出来ないな。

 

 「ああ、それならキツかったんじゃない?ほら、この学校広いし杖を使いながらだと時間がかかるんじゃないかって。」

 

ボクはそう考えながら、質問を投げかけてみる。とりあえず、当たり障りのない話題を選ばないと。最初から距離を詰めすぎるのは悪手だろうし。

 

 「何も問題はないと言えば嘘にはなりますけど、慣れているので大丈夫ですよ。それに、あなたもAクラスだったのですねり確認しておりませんでした。」

 

そう本当になんてことないと言った表情でそう言ってくる。流石にずっと使ってれば勝手も覚えてるってわけか。

 

 「はは、そもそも人が多いからね。自分の名前を確認するくらいが普通さ。特に君からしてみたらボクなんて一回会っただけの人だし。」

 

笑いながらボクはそう答える。君個人に目的があるボクみたいな例はともかくとして、ね。

 

 「あら、その言い方ではまるであなたからしたら私は一回会っただけの人ではないようですね。もしやあなたの方は私の名前を探していたりしたのですか?」

 

そんなことを考えていると坂柳さんはボクの考えを見透かしたかのように尋ねてきた。......流石、天才だね。ほんの少しの言葉の違和感も見逃さないか。

 

 「君自身に言われるとちょっと恥ずかしいけどね......でも探したのは事実だよ。同じクラスで喜んだりもしたし。」

 

ボクは素直にそう答えた。言ってから気づいたけど、変な方向に誤解されないかな...いやまぁ誤解ではないんだけど流石に気づかれるには早すぎるって言うか...

 

 「それならよかったですね、私と同じクラスで。私としてもあなたには興味はあったので、ちょうどよかったです。」

 

などとボクが考えていると、そのようなことを坂柳さんが言ってくる。......うん?

 

 「それって......」

 

その言葉の意味を深掘りしようとボクが声をかけようとすると、

 

 「一つお願いがあるのですが聞いていただけませんか?」

 

そう言う坂柳さんの言葉に遮られる。......お願い?坂柳さんからボクに?一体なんなんだろ。

 

 「それは構わないけど......お願いって?」

 

その内容を言うようにボクは促す。大抵のことなら受けはするけど度が過ぎるのは流石に断らないといけないかな...

 

 「今回私たちと一緒に入学してくるDクラスに綾小路という人物がいます。その人物に接触を試みて欲しいのです。」

 

ボクが返事を待っていると、彼女はそのような内容を口にした。綾小路......この世界での主人公、だったね。あんまり知らないけどすごいハイスペックだってことくらいは知っている。確かNo.2によれば身体能力、知識力共に人間の限界点に近いとか。

 

 「綾小路、ね......わかった、試してみるよ。」

 

彼の情報を思い出しながらそのお願いをボクは受ける。まぁ、ボク自身も興味があったしちょうどいいや。原作だと多分彼がこの子を好きにさせるんだろうけどどんな手を使ったのかな......やっぱり彼女を得意分野で負かした、ってところ?それとも何か他の理由で?...なんにしろ、警戒しないといけない相手だ。正直、少し怖さもある。だけど、坂柳さんがわざわざボクに頼んできた以上、断るわけにもいかないよね。

 

 「ありがとうございます。お礼は...その時に適切な物をご用意します。」

 

ボクが彼について考えていると彼女はそう言った。それから先は取引や駆け引きをするわけでもなく、他の人が来るまでボク達は軽い雑談や勉強の話をしていた。そして話して実感したことがある。それは、

 

 「あら、随分と間抜けなところがあるんですね。」

 

とか、

 

 「出来ないことを無理して背伸びをするからそうなるんです。自分の身の丈にあった行動を心がけた方がいいですよ。」

 

など、彼女はは結構心を抉ってくることを言ってくる。言葉がきっついなぁ......別にボクは構わないんだけど他の人にもこの調子なんでしょ?リーダーとして成立している時はともかく、それが崩れたりすることがあれば彼女は一気に孤立しちゃうんじゃ...と少しボクは心配しながらも口には出さず雑談を続ける。しばらくすれば人の歩いてくる音が聞こえてきたのでボクと坂柳さんは入学前から妙な噂が流れるのを避けたいと思い、坂柳さんは動かずボクがトイレに行くことにすることで会話を打ち切った。そしてそれからは特に特別なことが起きるわけでもなく、続々とボク達のクラスメイトが入ってくる。印象に残った生徒と言えば坂柳さんを除けばスキンヘッドの...確か葛城という苗字の人は妙に印象に残った。やっぱりスキンヘッドのせいだろうか。などとそのようなことを考えていると最後に担任らしき男性が入ってきたのでボクは姿勢を正しておく。

 

 「おはよう、新入生諸君。私はAクラスの担任を務める担任の真嶋智也だ。担当教科は英語だ。そしてまず初めに、この学校ではクラス替えは存在しない。卒業までの3年間お前達全員、私と共に学ぶことになるだろう。」

 

担任の先生の真嶋先生はまずそう説明してくる。3年間クラス替えなし、ね。珍しいとは思うけどそれにも理由があるのかな。それに、『なるだろう。』か...と考えている最中、真嶋先生の話は続き見覚えのある資料が回ってくる。確かこれは合格発表を受けてからもらった資料だったはずだ。書いてあることを要約すると、生徒は敷地内から出てはいけない、在学中は例外を除き外部との連絡は取れない、そしてSシステムというものが導入されるらしい。配られた学生証カード内にあるポイントが現金と同じように使えるらしい。外部に出られないというルールだからお金を入手する手段がないのでこんなシステムがあるのは当然といえば当然か。

 

 「そしてそのポイントは、学園の敷地内にあるものはなんでも購入可能だ。」

 

とそのような説明を付け足される。敷地内にある物ならなんでも、か。

 

 「何か買いたい物がある時は専用の機械にこの学生証を通すか、提示することでポイントが使用可能だ。そしてポイントは毎月1日に自動的に支給されることになっている。既に新入生全員には、平等に10万ポイントが支給されているはずだ。」

 

その言葉にクラスメイト達が軽くざわついた。少しの間観察していた時は全員優等生のような様子だったが、やはり高校生、それも1年生が急に10万もの大金をポンと渡されたのだ。動揺しない方がおかしい。正直言ってボクも驚いている。高校生に普通ここまで大金を渡すことがあるのだ、と。そしてそれと同時に”違和感”も感じ取った。

 

 「支給額に驚くのは無理はないと思う。だが、この学校では実力で生徒を測る。この学校に入学を果たした時点でお前達にはそれだけの価値と可能性があると判断された結果だ。遠慮なく使うといい。だが、このポイントは卒業後は全て回収される。現金化も出来ないことは覚えておくように。ポイントを何に使うのも自由であり、誰かにポイントを譲渡することも可能だ。ただし、無理にカツアゲをするような真似だけはしないように。学校側はいじめ問題に対して厳正な対応をとることを忘れないように。......さて、説明は以上だが何か質問をしたいものはいるか?」

 

真嶋先生は最後にそう言い終えると、すっと3つの手が挙がった。1人は葛城くん、もう1人は坂柳さん。そして最後の1人はボクだ。

 

 「先に葛城から聞こうか。」

 

3つの挙がった手に見て、真嶋先生は少し考えるような仕草をした後、葛城くんを最初に指名する。

 

 「来月支給されるポイントも10万ポイントなのでしょうか?また、支給されるポイントが、その後に変動することはあるのでしょうか?」

 

葛城くんは真嶋先生に質問した。それは、ボクも質問しようとしていたことの一つであった。

 

 「いい質問だな葛城。だが現時点でそれは答えることはできない、とだけ答えさせてもらう。」

 

そう真嶋先生は答えた。それはボクからしてみればほとんど答えを認めたように見えた。

 

 「私の質問は残念ながら葛城くんとほとんど同じでした。」

 

坂柳さんはそう言う。その言葉に真嶋先生は頷きだけを返すが何やら何やら期待しているような表情に見えた。

 

 「もう一つ疑問があるのですが......それは天定くんも同じことを考えていると思います。ですので彼の質問を、私が聞きたかった質問として扱ってください。」

 

坂柳さんは言葉を続けた。これは......彼女の思っていた通りの質問をしないと坂柳さんに泥を塗っちゃうな。だけどボクが聞きたいことは一つだけだ。

 

 「そうか、なら天定。お前は何を質問するんだ?」

 

ボクがそう考えていると真嶋先生はボクを指名した。その言葉にボクは一つ深呼吸した。

 

 「学校の敷地内にあるものならすべてポイントで買えると言うことですが、それは物だけなのでしょうか?」

 

そしてボクはその質問をする。元々するつもりの質問だったはずだが、その声は少し緊張していた。

 

 「......もう少し厳密に聞こう。」

 

真嶋先生は言う。その表情は明らかに『続けろ』と。そう言っていた。

 

 「いえ、ポイントで全てが買えると言うのなら......クラス替えや退学を防ぐことも可能なのではないかと思いまして。これらも買い物のうちに入るのでしょうか。それに先生の発言、3年間お前たちは同じクラスで学ぶことに『なるだろう。』でしたね。なぜ断定するような言葉でなく、『だろう』と言う言葉を使ったのでしょうか。ボクの考えすぎなら、そう言ってくださって構いません。」

 

と、ボクは続けた。多分ここがこの学校の肝だ。このボクの考えが合っているなら動き方も少し考えなきゃいけなくなるかもしれない。

 

 「......流石、試験でほぼ満点を取っただけはあるな。結論から言おう。お前の考えは合っている。クラス替えや退学を防ぐ方法は確かにある。それがポイントによって可能になるのもまた事実だ。相場は2000万ポイント。これ以上のことは今は俺からは説明できない。」

 

ボクがそう考えていると真嶋先生は質問に答えた。なるほどね......今はそれだけ聞ければ満足かな。とそう考えたボクは一度頭を下げた後席に座る。今、クラスメイトの視線はボクに集まっている。

 

 「他に質問のある者はいないな。では良い学生生活を送るといい。」

 

そう言い真嶋先生は退出した。それを確認したボクは周囲の視線が集まっていることにいたたまれなさを感じ、さっさと退出しようと考え、荷物をまとめていると、葛城くんが教卓に立つ。......多分あれだよね。

 

 「みんな、帰るのは待って欲しい。これから3年間の生活を共にするであろう仲間同士、一度自己紹介をしておいた方がいいと思う。差し支えなければ一人一人ここで自己紹介をして欲しい。」

 

と、ボクが嫌がったことそのものを葛城くんは提案してきた。ああ......今すっごい目立ってるのにそんな状況でしたくないな〜......そもそも自己紹介はあんまり得意じゃないんだよな......などと思いつつ、一応クラスメイトの名前は記憶していった。言い出しっぺの葛城くんから自己紹介をしているが正直に言えば印象に残った人はほとんどいなかった。やはり記憶に残るのは優秀な二人くらいのものか......

 

 「坂柳有栖です。先天性疾患を患っておりまして見ての通り杖が私の必需品です。しかし、みなさんに迷惑をかけるつもりはありません。どうかよろしくお願いしますね。」

 

とそんなことを考えていると坂柳さんが自己紹介をしていた。先天性疾患...体が不自由なのは知ってたけどそう言う理由だったんだね。

 

 「天定、お前の番だぞ。」

 

そのようなことを考えていたら横の男子から声をかけられた。.......はぁ、気乗りしない。仕方ないけどやるしかないかぁ。

 

 「天定紫明です。好きなことは歌うこと、嫌いなことは特にありません。好きな科目についてはどの科目も同じくらいです。得意なことは勉強と運動の両方ともできる方だと思います。3年間、よろしくお願いします。」

 

ボクは内心本当に気乗りしないながらも無難に自己紹介を済ませた。何か変なこと言ってないよね...などと不安になったが結果的には拍手で迎えられた。よかった、うまく行ったみたいだ。その後、全員の自己紹介が終わり今度こそボクは部屋に行こうとした瞬間、

 

 「天定くん。少し共に学校を見て回る者が欲しいですが構わないでしょうか?」

 

坂柳さんから聞かれる。......坂柳さんのほうから関わってきてくれるのは、願ったり叶ったりだけど、どう言うつもりなんだろ......

 

 「ボクは構わないけど......ボク以外にも人はいたんじゃない?」

 

その提案を受けながら自身の荷物を持ち、ついでに坂柳さんの荷物も持った。それに坂柳さんは、

 

 「あら、お優しい。それとあなたを選んだ理由ですが...いずれはお答えするかもしれませんね。今はとりあえず、私と匹敵する知力の持ち主に興味がある、ということで納得してください。」

 

要するに、今は答えるつもりはないということらしい。......ま、いいか。ボクの生まれた目的ははこの子にボクを好きにさせ、結婚までこぎつけること。ボク自身も植え付けられた感情とは言えちゃんと好きなんだし不誠実でもないだろう。とそのようなことを思いながらボクは彼女と共に校内を歩き始める。手始めに他クラスの様子を見てみたが、Bクラスは一人の女の子を中心にまとまっていた。あの子がリーダーってことか、いつか話してみたいな。次のCクラスからは暴力的な雰囲気が漂っていた。まだなんとも言えないがおそらく誰かが恐怖によってクラスはまとめることになるだろう。やだやだ、怖い怖い。あんまり巻き込まれたくはないかな。そして最後のDクラスだがなんとも普通の高校生たちだと言う雰囲気だった。ここが一番居心地のいいのかもしれないな。

 

 「......どのクラスも歯応えはなさそうですね。」

 

とそこまで確認した坂柳さんが一緒に歩きながらそう言ってくる。え?そうかなぁ...

 

 「ボクはどこもいいチームになれそうだと思ったよ?Bクラスはあのリーダーみたいな子が崩れない限りはいいチームになると思うしCクラスは完全なトップが出来れば案外侮れないと思う。Dクラスは確かにボクからみても4つのクラスの中で一番総合力は低く見えたけど、脅威になりそうな人物は何人かいたよ。」

 

ボクは素直な意見を返す。このクラス分けがどういう基準かはわからないけど、案外平等に分けられてるんじゃないのかな......いやまぁわかんないからなんとも言えないんだけど。

 

 「あなたは自身の実力を過小評価している節がありますね。運動能力はまだ判断出来ませんけど少なくともあなたは入学試験で私に匹敵する成績だったことをお忘れなく。」

 

彼女は言ってきた。......父親から自分の受験結果から筆記試験の点数が近い人を聞いたりしてたのかな?

 

 「君に褒められるなんて光栄だな。......それはそれとして、気づいたかい?」

 

笑いながら返した後、ボクはそう坂柳さんに質問をする。そのボクの質問に坂柳さんは頷き、

 

 「ええ、どの教室にも監視カメラはついていました。教室に行く前に軽く他の室内も見て回りましたがほとんどの部屋に監視カメラがついていた。明らかに過剰だと言える数でしたね。」

 

ボクの質問にそう答える。流石、ボクが言いたいことはわかってるみたいだね。

 

 「うん。同じ意見で安心したよ。やっぱりあのカメラは外敵からボクらを守るものではなく、ボクら自身を監視するためのものだろうね。」

 

ボクは自身の仮説が間違いないと言うことを確信して言う。坂柳さんが同じ意見ならひとまず安心だね。まぁボク1人でも同じ結論にはなったんだろうけど、念には念を入れるに越したことはないし。

 

 「この学校の目的がわかってきましたね。とはいえ、しばらくはおとなしく学園生活を送るしかないのですが。」

 

ボクが考えていると、坂柳さんはそう言った。あ......そろそろボク達の部屋がある場所に着いちゃうな......まぁいいや。初日としては十分な成果でしょ。

 

 「じゃ、ボクは部屋の整理とか夜ご飯の準備とかしないとだからここまででいいかな?」

 

ボクはある程度坂柳さんの顔色をうかがってから、そう言った。ダメって言われることはないとは思うけど......

 

 「そうですか。お互いに意見交換ができて、有意義な時間でした。これからもあなたは面白くあってくださいね。」

 

そう坂柳さんは最後にボクに対して言った。面白くあってか...難しい注文だなぁ。

 

 「あはは......どうすればいいかはわからないけど頑張るよ。じゃあ、また明日。」

 

ボクは苦笑いを浮かべながら、最後に優しく彼女に荷物を手渡した。そして手を振り自分の部屋へ向かう。そして自分の部屋である程度整理を終わらせた後、ベッドに寝転がった。

 

 「夜ご飯......抜いていいかな。」

 

色々あって疲れたボクはそう呟いて瞼を閉じた......




高度育成高等学校学生データベース

氏名:天定紫明
クラス:1年Aクラス
学籍番号:S01T004742
誕生日:8月28日

評価
学力:A +
知力:A −
判断力:B+
身体能力:A
協調性:C+

面接官からのコメント
非常に優れたポテンシャルの持ち主。面接時の対応は特段優れた部分のないが大きなミスもなかったため平均点近く。しかし筆記試験ではすべての教科で非常に高い点数を叩き出した。中学時代に大きな問題を起こしたという情報もなく、試験の内容から見て総合的にAクラスが妥当だと判断、配属とする。

担任メモ
非常に優れた頭脳を持ち、小柄ながら侮れない身体能力を持つ生徒。坂柳、葛城と並んでAクラスを引っ張っていけるような人材ではあるが、やや坂柳に執着をしているような様子が見受けられる。しかしその他は協調性がやや低い程度で目立った欠点もない、優秀な生徒

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