矛盾あるかも。筆は遅いです
「お疲れ様です。虎杖特級呪術師!」
「おう」
元気よく挨拶をしてくる窓と呼ばれる呪術世界において労働を勤しむ青年に軽く挨拶を返す。深々と被ったパーカーフードの間から視線を目の前の山に向ける。
「この山奥から呪力反応があったんだな」
「はい!シムリア人との一件以来激減していた呪霊発生案件ですが数日前よりこの山奥から呪力発生を感知しました!既に呪霊による被害も出ています!」
「声デケー…」
元気ハツラツな窓職員の説明に苦笑しつつも手渡された資料を読む。
6月7日 午後13時40分
山に入った動画配信者が配信中に絶叫を上げ、上空へと何かに持ち上げられたように画面上より消失。以後動画はすぐさま動画サイトによって削除される。
6月8日 午前8時15分
山岳救助隊の一人が同上の捜索中に発狂。山奥へ走り出し、消息を絶つ。最終目撃地点に足首のみが発見される。これ以降呪霊案件としてまとめられ呪術師に調査依頼を出す。
6月8日 午後23時30分
才谷2級呪術師が派遣される。山奥まで行くと、社を発見。その社から異質な呪力の発生を検知。調査のため近付くと特級相当の呪霊に遭遇。片腕を失うが何とか生存し帰還。現在反転術式による治療を受けている。
曰く、「これまで感じたことのない呪力だった」とのこと
そこまで読んで虎杖は資料を閉じる。
呪力を持たない世界を目指し、シムリア人のマルやクロス、先輩の忘れ形見でもある乙骨兄妹によって再誕した世界で起きた初めてのイレギュラー。
まぁ、どうなるか予想できないなんてのは実行すると決めた時からわかってた。
東京大魔境の呪霊が成仏し、東京は現在復興の為に活気づいている。乙骨真剣と乙骨憂花の兄妹もシムリア人との共存の為に尽力して忙しい。
なら、このイレギュラーはこの事態に関わった老兵が請け負うのが筋だろう。
虎杖は資料を窓職員に返す。
「あんがと、ちょっと見てくるわ」
「では、他の呪術師にも出発すると伝えてきます!」
「いや、俺だけで行く」
チラリと、先程から此方を伺っている若い呪術師達を見る。
彼等は精々2級相当の呪術師だろうか、緊張した面持ちで汗を流している。
緊張か、或いは畏怖か。
勉強でもしてこいと上層部に言われたのだろう。虎杖悠仁がいればまず死にはしないとでも言われたのだろうか?
この世界に安全など存在しない。
「この呪力は山全体を覆っている。いつ何処から呪霊が襲ってくるか俺でも把握しづらい。嫌な言い方だけど、お守りしながら入るのは面倒だ」
呪術師達は一瞬顔を歪ませるが、直ぐに顔を見合わせ頷きいた。
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
「おう」
窓職員がアワアワとしているがそれを気にせず肩をたたく。
「つー理由だから、ちょっと行ってくる」
「し、しかし」
「大丈夫」
一呼吸。
かつての師を思い出し、ニヒルに笑う
「俺、最強だから」
遠回しに邪魔だと言われ、腹が立つ。しかし相手は虎杖悠仁。
化物がそう言うのなら歯向かうのも馬鹿馬鹿しい。
他の連中も同じように安堵した表情を浮かべている。
情けない奴らだと、軽蔑する。
でもしょうがないかもしれない。自分達は同じ等級の呪術師が死にかけて戻ったと聞いて恐れを抱いていた。
なのにどうだ。虎杖悠仁はまるで散歩に行くかのような雰囲気で山に入っていく。
格が違う。
在り方が違う。
あれが呪力を持たない人間が生まれてくる世界に調整したという噂は呪術師世界では有名な話で、そのせいで次の時代で廃業となる呪術師が多くいると聞いた。
自分もそうだ。御三家に比べれば歴史の浅い一族だが呪術師として生きてきたのに、自分の次の代で歴史が閉じると聞いた時は切に祈った。
虎杖悠仁の死を。
呪いを。
だがもうどうしようもないことだと、諦めも早くつき、こう祈ることにした。
精々一人で頑張って、一人で死んでくれ。
その願いが届いたかどうかは知らないが、
虎杖悠仁はこの日行方をくらませた