「ダラさんってなろう小説の題材になりそうやね」
そう言いながら三十谷薫は手にした小説の頁をめくる。
応神町の山中にある古い家屋で自身の手荷物が占領するスペースで金髪の可愛らしい、美少女のような少年はゴロゴロしていた。
「なろ…なんじゃて?」
話を振られたダラさんと呼ばれた女性は「またわけわからんこと言うとるわ」とあきれた表情をしている。
とても美女とは言えないがそこはかとなく人の良さそうな雰囲気の女性はその豊満な胸を腕で支えつつ、少年の話に耳を傾ける。
「せやからなろう小説や。ネット小説で異世界で無双する話が多いねんけど、ダラさんは裏切られてから真の力を覚醒させて無双するザマァ系やなーって思ってん」
手にしていた小説の表紙をダラさんに見せる薫。
「お主、その本人にズバズバ嫌な過去を思い出させるのは友達なくすから出来るだけやめたほうがよいぞ」
と言いつつ、その本を6本の腕で器用に受け取る。
そう彼女は人で非ず。
腕は6本、下半身は巨大な蛇の胴体。口元は耳元まで裂けており、蛇の様相に酷似している。
彼女は屋跨斑【ヤマタギマダラ】。かつて一夜にして己が家族を、村民を鏖殺し、その後も多くを呪う大怪異である。
今では怨念は薄れ、本来の穏やかで優しい善良な性格を取り戻したが、すでにその在り方を受け入れた彼女は祟り神として恐れを振り撒きながらもこの応神町を見守る存在となっている。
さて、そんな彼女が手にした本なのだが
「家族と国に裏切られたけど怒りで最強の能力が目覚めたので取りあえず全部滅ぼして平穏に過ごします。今さら謝ってももう遅い」
「いや長いな!」
その恐ろしく長いタイトルに思わずツッコミを入れてしまう。
「長すぎじゃろう!もっとこう、短く纏められんものか?」
「いやいや、これ今メッチャ話題作やねん。コミカライズもしてるし、来年アニメ化もするねん」
「予想以上に人気!? 最近の若者はこういうのが好きなんか? 大丈夫?病んでない?」
「ザマァ系は序盤が鬱展開だけどそこ抜ければ爽快やで」
「復讐譚を爽快に描くのはどうなんじゃろう……」
怖いなぁ現代。と、思うダラさん。
「薫、何話しとんねん?」
ヌルっと家屋に現れる影が一つ。活発そうで凛々しい表情をした女受けが良さそうな、その身が纏う制服のスカートで実は少女であるとわかる彼女は三十谷日向【みそぎや ひなた】。
三十谷薫の姉であり、ダラさんに懐いている奇妙な人間の片割れだ。
この三十谷姉弟と関わってから、屋跨斑として畏怖されるべき彼女はダラさんとして現代の世と関わることが増え、面倒に思いつつも、失っていた人らしい事を謳歌できているのもこの姉弟のお陰である。
「姉ちゃん。実はカクカクシカジカで」
「マルマルウマウマか。理解した」
「いや漫画か!」
とまぁこんな感じで大怪異はのほほんと過ごしている。