四十一の名を連れて、七つの国へ   作:霧中墓守

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第1話 神がおちた日

 玉京台は、人で埋まっていた。

 

 石畳の広場いっぱいに、璃月(リーユエ)の人々が肩を寄せ合っている。商人がいる。職人がいる。日に焼けた船乗りも、子どもの手を引いた母親もいる。誰もが同じ一点――広場の奥に据えられた祭壇を見つめていた。

 

「すごい人だな! 吟遊野郎の言ってたとおりだ!」

 

 宙に浮かんだパイモンが、人垣の頭越しに身を乗り出した。

 

「ほら蛍(ほたる)、もっと前に行こうぜ。一年に一回しか見られないんだからな!」

 

 蛍はうなずいて、人の間をすり抜けた。

 

 七星迎仙儀式。年に一度、この国の神――岩王帝君(がんおうていくん)が人々の前に降り立ち、その年の璃月の行く末を告げるのだという。

 

 神に会えば、兄の行方がわかるかもしれない。そのために、モンドからここまで旅をしてきた。

 

「あそこ、香炉の前に立ってるのが、璃月七星の『天権(てんちゅえん)』、凝光(ぎょうこう)だぞ。この儀式を仕切ってるんだ」

 

 パイモンが小声で指さす。白い髪を高く結い、金の飾りを日に光らせた女が、祭壇の前へ進み出たところだった。

 

 女が片手を空へ掲げる。

 

 あれほどざわめいていた広場が、水を打ったように静まり返った。

 

 蛍も空を仰いだ。

 

 雲の切れ間に、何かが見える。

 

「来た……! 帝君だ!」

 

 パイモンが息をのむ。

 

 巨大な影だった。長い胴、枝分かれした角、岩と琥珀を思わせる色の鱗。竜とも麒麟ともつかない威厳ある姿が、天からゆっくりと――

 

 ゆっくりと、ではなかった。

 

 影は風を裂く音を立てて、まっすぐに落ちてきた。

 

 玉京台の中央に、叩きつけられる。

 

 石畳が砕け、地鳴りが足の裏を突き上げた。舞い上がった土煙の向こうで、巨体はもう、ぴくりとも動かない。

 

 一拍の、空白。

 

 それから、悲鳴が玉京台を揺らした。

 

「帝君が……帝君が!」

 

「息を……息をしてないぞ!」

 

 その悲鳴の、ただなかで。

 

 蛍は見た。亡骸が落ちてきた空の、同じ一点に――黒い染みのようなものが三つ、にじむように現れるのを。

 

 染みは見る間に形を持ち、人の姿になった。いや、ひとつは、どう見ても人ではない。黒い衣をはためかせた、白い骨だ。

 

 三つの影は、亡骸を追うように落ちてくる。

 

「な、なんなんだよ、あれ……!?」

 

 パイモンの声が裏返った。

 

◇

 

(落ちてる落ちてる落ちてる!)

 

 モモンガは、落ちていた。

 

 眼下に広がるのは、見たこともない街だった。断崖にへばりつくように重なる赤い屋根。その向こうで光る海。そして真下――大きく張り出した石の台の上で、豆粒のような人の群れが渦を巻いている。

 

(なんで!? ナザリックは!? 円卓の間は!? サービス終了は!?)

 

 顔に吹きつける風が冷たい。顔といっても皮も肉もない、ただの骨だが、その骨を叩く風が冷たい。

 

 漆黒のローブが、狂ったようにはためいた。手の中の杖――七匹の蛇が絡み合い、それぞれの口に宝玉をくわえたギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを、モモンガは骨の指で必死に握りしめる。これだけは、絶対に落とせない。

 

(そうだ。俺は、ついさっきまで――)

 

 DMMO-RPG『ユグドラシル』、サービス最終日。

 

 ナザリック地下大墳墓、第九階層。円卓の間には、四十一の席がある。

 

 埋まっていたのは、ひとつだけだった。

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長、死の支配者(オーバーロード)モモンガの席だ。

 

 最後に顔を出してくれたヘロヘロも、仕事の疲れのにじむ声で別れを告げ、先にログアウトしていった。また、どこかで。そう返した自分の声だけが、広い部屋に残った。

 

 壁には、ギルドの象徴である杖が飾られていた。仲間たちと素材を集め、皆で作り上げた、たった一本の杖だ。

 

 最後くらい、持たせてもらってもいいだろう。

 

 杖を手に取ったとき、ふと思いついた。

 

 たっち・みーさんとウルベルトさんの子を、最後くらい――。

 

 指輪の力で第七階層へ飛び、守護者を連れてきた。三つ揃いのスーツに丸眼鏡、銀の板に覆われた尾を持つ悪魔、デミウルゴス。創ったのはウルベルト・アレイン・オードル。

 

 同じ第九階層からは、執事を呼んだ。白髪と白い髭の老紳士、セバス・チャン。創ったのはたっち・みー。

 

 二人を、それぞれの創り主の席の後ろに立たせる。

 

 たっち・みーとウルベルト・アレイン・オードルは、顔を合わせれば言い合いになった。正義を掲げる聖騎士と、悪を愛した魔法詠唱者。円卓の会議が二人の口論で終わったことも、一度や二度ではない。

 

 その二人がいなくなって、もう何年になるだろう。

 

 主のいない席の後ろで、二人の子は黙って前を向いている。NPCだ。命令がなければ動かないし、喋りもしない。わかっている。

 

 それでも、こうして見ると、少しだけ――あの頃の円卓に似ていた。

 

「最後くらい、並べてやりたかったんだ」

 

 誰に聞かせるでもない呟きが、四十一の椅子の間に落ちていった。

 

 視界の隅の時計が、二十三時五十九分を指す。

 

 五十七。五十八。五十九。

 

 零時。

 

 目を閉じて、強制ログアウトの暗転を待った。

 

 次に感じたのは、足元がすっぽりと抜ける感覚だった。

 

(――で、なんで落ちてるんだよ!)

 

 風の音が戻ってくる。

 

 鼻の奥――鼻などないが――を、甘い煙の匂いがかすめた。香を焚く匂いだ。

 

(匂い……?)

 

 ユグドラシルで、匂いを感じることはない。そういう決まりだった。

 

(じゃあ、これは何なんだ。ゲームじゃないなら、いったい――)

 

 考えがまとまるより先に、石の台が迫ってきた。

 

(地面! 地面地面地面! 〈飛行〉! ……って、こういうときどうやって唱えるんだよ!)

 

 恐慌が胸の内でふくれ上がり――ある一点で、唐突に凪いだ。

 

 頭から冷水を浴びせられたように、思考が静まる。恐怖が、焦りが、すうっと引いていく。

 

(……え? なにこれ。急に落ち着いた)

 

 次の瞬間、モモンガは玉京台に激突した。

 

 石畳が砕ける音。土煙。

 

 痛みは、なかった。

 

(……生きてる? いや、アンデッドだから最初から死んでるけど。落下ダメージ、入ってないのか?)

 

 ひび割れた石の上で、モモンガはゆっくりと身を起こした。骨のどこにも欠けはない。杖も無事だ。

 

 すぐ両脇に、二つの影が音もなく降り立った。執事服の裾ひとつ乱さないセバスと、指で眼鏡の位置を直すデミウルゴス。

 

 土煙の向こうから、悲鳴と怒号が押し寄せてくる。何百という人間の目が、こちらを向いていた。

 

 モモンガは立ち上がり、周囲をゆっくりと見渡した。眼窩の奥で、赤い光が揺れる。

 

 支配者として練習してきた無数の台詞の中から、この場にふさわしいものを選び取る。

 

「――騒がしいな」

 

 低く、よく通る声だった。それだけで、広場の悲鳴がぴたりとやんだ。

 

(いや、騒がしいのは当たり前だろ! 何が起きてるのか一番わかってないの、俺だろ!)

 

「モモンガ様、お怪我はございませんか」

 

 右から、セバスの声がした。

 

(……え?)

 

「足元にお気をつけくださいませ、モモンガ様。人間が、ずいぶんと集まっておりますね」

 

 左から、デミウルゴスの声。

 

(喋った。セバスが。デミウルゴスが。NPCが、自分から)

 

 声も口調も、設定どおりだ。だがユグドラシルのNPCに、こんな受け答えができるはずがない。

 

(コンソールは!?)

 

 視界のどこにも、見慣れた画面は出てこない。GMコールも、ログアウトも、何ひとつ。

 

(落ち着け。……いや、落ち着いてはいる。強制的に落ち着かされてる。それはそれで怖い!)

 

 デミウルゴスが手で示した足元に、目を落とす。

 

 すぐ脇に、巨大な獣が横たわっていた。

 

 角をいただいた長い首が、砕けた石畳の上に力なく投げ出されている。鱗の一枚一枚が、磨いた石のように鈍く光っていた。美しい獣だ。そして、ぴくりとも動かない。

 

(……死体?)

 

「骸骨が……喋った……」

 

「帝君のすぐ後から、あいつらが空から降ってきたんだ!」

 

「帝君を……あの骸骨が、帝君を!」

 

 群衆のささやきが、また悲鳴へ変わっていく。

 

(帝君? 神様? これが? ――俺がやったことになってる!?)

 

「帝君が害されました。千岩軍、玉京台を封鎖。誰ひとり、外へ出さないように」

 

 祭壇の前に立つ白い髪の女が、張りのある声で告げた。

 

「はっ、凝光さま!」

 

 応じたのは、ひときわ立派な鎧の男だった。千岩軍の隊長らしい。その号令で、広場の四方から槍を構えた兵士たちがなだれ込んでくる。

 

 あっという間に、三人の周りに槍の穂先が林のように並んだ。

 

「動くな、神殺しの下手人ども!」

 

 隊長が吠える。

 

「帝君の御前だ。武器を捨てて、跪け!」

 

 跪け。その一言で、モモンガの隣の空気が変わった。

 

 デミウルゴスが、穏やかに微笑んでいた。微笑んだまま、眼鏡の奥の宝石の目が、すうっと細くなる。

 

「モモンガ様に向かって、跪けと?」

 

(あ、まずい。この顔はまずいやつだ)

 

「跪くのは、君たちの方だ」

 

 デミウルゴスは、ほんの少しだけ声を張った。

 

「平伏したまえ」

 

 次の瞬間、玉京台の上の人間が、一斉に崩れ落ちた。

 

 槍が石畳に転がる。兵士たちが、見えない手で頭を押さえつけられたように額を地につける。隊長も、その後ろの兵も、群衆も。商人も、船乗りも、母親も。

 

「ふぎゃっ!?」

 

 群衆の中で宙に浮いていた小さな子どもまでが、べしゃりと石畳に落ちた。

 

「な、なんだこれ! か、体が勝手にぃ!」

 

 見渡すかぎり、何百という人間が地に伏している。

 

 その中で、立っている者が二人だけいた。

 

 一人は、祭壇の前の白い髪の女。凝光と呼ばれた女は、膝ひとつ折らず、裾ひとつ乱さず、静かにこちらを見据えていた――骸骨ではなく、その隣の眼鏡の男を。

 

 もう一人は、群衆の只中。白い衣に金の髪、髪に白い花を挿した少女が、地に伏した小さな連れの傍らに立っていた。その手には、いつの間にか一振りの剣が握られている。

 

(……効いてない? 〈支配の呪言〉は、格下になら効くはずだ。じゃあ、あの二人は格下じゃないってことか。この世界で? まさか――プレイヤー?)

 

 胸の奥で、何かが跳ねた。もしもあの少女が、ユグドラシルのプレイヤーなら。去っていった誰かへ、繋がっているなら――

 

「立っている娘がいるぞ!」

 

 額を石畳に押しつけられたまま、目だけを横へ向けて、隊長が叫んだ。

 

「金の髪の娘だ! あの者どもの一味に違いない、逃がすな!」

 

「違う。私は――」

 

 少女が言いかける。だが地に伏した何百もの目が、今はもう、彼女の足元を見ていた。

 

(あー……巻き込んだ。完全に巻き込んだ)

 

「モモンガ様」

 

 デミウルゴスが、恭しく一礼する。

 

「呪言を退ける者が二人。いかがいたしましょう。始末いたしましょうか」

 

(始末って……これ以上ややこしくしてどうする!)

 

「不要だ」

 

 モモンガは、重々しく首を横に振った。それから、ぐるりと周囲を見渡す。

 

 砕けた石畳。動かない神の亡骸。その横に立つ、黒衣の骸骨。

 

「……退くぞ」

 

(神様が死んだ現場に骸骨って、どう見ても犯人だろ!)

 

 踵を返しかけて、モモンガは足を止めた。剣を握った少女を振り返る。

 

「そこの娘。共に来るがよい」

 

「どうして、私が」

 

「ここに残れば、お前も“一味”だ」

 

 デミウルゴスが、眼鏡の奥でうっとりと目を細めた。

 

「さすがはモモンガ様。呪言を退けるほどの駒、手元に置いておくに越したことはございませんね」

 

(駒って……いや、そういうんじゃなくて!)

 

 少女は唇を結び、足元に目を落とした。

 

「蛍ぁ……オイラ、動けないぞぉ……」

 

 石畳に張りついたまま、小さな連れが情けない声を出す。

 

 少女は剣を消し、その体を片腕ですくい上げた。それから、まっすぐにモモンガを見た。

 

「話は、あとで聞く」

 

◇

 

 玉京台から港へ下る長い石段を、五人は駆け下りていた。

 

 正確には、走っているのは四人だ。パイモンは蛍の腕の中で、ひれ伏した格好のまま、板のように固まっている。

 

「おい! これ、いつまで続くんだよ! オイラ、ずっとおでこが下なんだぞ!」

 

「静かに」

 

 石段の下から、鬨の声が上がった。

 

 呪言の届かなかった、下の詰所の千岩軍だ。二十人はいる。槍の穂先をそろえ、石段を駆け上がってくる。

 

「モモンガ様。この程度の人間ども、もう一度――」

 

 眼鏡の男が、一歩前へ出た。

 

「よい」

 

 骸骨が、短く遮る。

 

「しかし、モモンガ様。放っておけば、いくらでも湧いて出ましょう。いっそ、この街ごと――」

 

「よい、と言った」

 

 骸骨の声の温度が、一段下がった。眼鏡の男は口をつぐみ、深々と頭を下げる。

 

「セバス」

 

「かしこまりました」

 

 老執事が、蛍の横をすり抜けて前へ出た。

 

 速くはない。少なくとも、蛍の目にはそう見えた。散歩でもするような足取りで、老人は槍の林の中へ入っていく。

 

 最初の兵士が槍を突き出した。老人の手が、その柄にそっと添えられる。それだけで兵士の体はくるりと回り、石段の脇の植え込みへ尻から落ちた。

 

 二人目。三人目。突き出される柄を払い、足を払い、手首を返す。兵士たちは次々に転がり、尻もちをつき、気がつけば石段の両脇に積み上がっていた。

 

 誰ひとり、血を流していない。

 

「失礼。少々、道を空けていただきます」

 

 最後の一人の槍を指先でつまみ取って、老人は丁寧に一礼した。

 

「な……なんなんだ、このじいさん……」

 

 尻もちをついた兵士が、呆然と見上げる。

 

 蛍は走りながら、その背中から目を離せなかった。

 

 手加減だ。それも、ずいぶんと余裕のある。

 

 ――この人たちは、何者なの。

 

 石段を下りきり、港へ続く路地へ飛び込んだところで、腕の中のパイモンが急にじたばたと暴れだした。

 

「う、動く! 動けるぞ! やったー!」

 

◇

 

 港の外れの倉庫街。積み上げられた木箱の陰に、五人は身を潜めていた。

 

 遠くで、銅鑼が鳴っている。自分たちを探す合図だろう。

 

(とりあえず、撒いた……か?)

 

「おい、そこのガイコツ!」

 

 宙に浮き直ったパイモンが、モモンガの鼻先――鼻はないが――に、びしりと指を突きつけた。

 

「オイラになにしたんだよ! おでこに石畳の跡がついちゃったじゃないか!」

 

(ガイコツ)

 

「やったのは私ではない」

 

「じゃあ、そっちのしっぽメガネか!」

 

 パイモンの指が、くるりとデミウルゴスに向く。

 

 デミウルゴスは、にこやかに微笑んでいた。微笑んだまま、銀の尾の先が、こつりと石畳を叩く。

 

(あ、だめだ。その笑顔、さっきのやつだ)

 

「しっぽ、メガネ」

 

「そうだぞ! しっぽがあって、メガネだからな!」

 

「モモンガ様。この小さな生き物の舌を、少々――」

 

「デミウルゴス」

 

 モモンガが、低く名を呼んだ。

 

「……は」

 

 デミウルゴスは一礼し、それから、パイモンにだけ微笑みかけた。

 

「覚えておきますよ、小さなお嬢さん」

 

「ひっ」

 

 パイモンが、蛍の肩の後ろに隠れた。そこから顔だけ出して、今度はセバスに指を向ける。

 

「じゃ、じゃあ、じいさんは執事じいさんな!」

 

「セバス・チャンと申します」

 

「執事じいさん!」

 

「では、お好きなように」

 

(受け入れるのかよ)

 

 蛍が、木箱から背を離した。その手に剣はない。それでも、少しの隙もない立ち方だった。

 

「答えて。あなたたちが、帝君を殺したの?」

 

 小柄な少女だった。だが、その目には、骸骨の王を前にした怯えがひとかけらもない。

 

(この子、本当に何者なんだ。呪言は効かないし、骸骨相手に一歩も引かないし)

 

「知らぬ。我々は、空から落ちてきただけだ」

 

(本当に。本当にそれだけなんだって)

 

「そんな言い訳、通るわけないだろ!」

 

 蛍の肩の後ろから、パイモンがわめいた。

 

「帝君が落ちてきて、みんなが悲鳴を上げて――そのすぐ後に、おまえらが降ってきたんだぞ! 怪しすぎるだろ!」

 

(すぐ後……)

 

 眼窩の奥で、赤い光が小さく揺れた。

 

「名前は」

 

 蛍が、短く訊いた。

 

(名前。……ここで、どっちを名乗る?)

 

 鈴木悟、ではない。ここにいるのは、骸骨の魔法詠唱者だ。

 

「モモンガ。そう呼ぶがよい」

 

「モモンガ? 変な名前! ガイコツでいいだろ、ガイコツで!」

 

(よくない)

 

「オイラはパイモン、こっちは蛍だ! 言っとくけど、オイラたちは帝君のこととは関係ないからな。おまえらのせいで、とんだとばっちりだ!」

 

 わめくパイモンを眺めながら、モモンガは別のことを考えていた。

 

 ユグドラシルのプレイヤーなら、悪名高きギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の長の姿を、「ガイコツ」で済ませるはずがない。

 

(プレイヤーじゃ、ないのか……)

 

 蛍とパイモンが戸口へ寄り、外の様子をうかがい始める。その隙に、デミウルゴスが音もなく主の傍らへ寄った。

 

「モモンガ様」

 

 ひそやかな声だった。

 

「お見事でございました。この地の神が斃れた、まさにその刻に、御降臨なさるとは」

 

(は?)

 

「人間どもの悲鳴が上がった、その瞬間でございました。偶然であるはずがございません」

 

 眼鏡の奥で、宝石の目が楽しげにきらめく。

 

「――神の座が、空きましたね」

 

(やめろ)

 

 モモンガは、重々しくうなずいた。うなずくほかなかった。

 

(やめろ。その笑顔はやめろ。俺はただ、サービス終了を見届けてただけなんだって!)

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