ロードバイク戦記 U.C.0087   作:しろやま

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第五話「再起動」

エウーゴ基地内、士官居住区。

少佐の私室には、いくつもの資料が広げられていた。

走行記録。

機体稼働率。

訓練時間の推移。

年間気象データ。

机上の端末には、複数のグラフが表示されている。

少佐は腕を組み、画面を睨んでいた。

「……なるほどな」

最も手前のウインドウには、直近の身体測定結果が表示されていた。

 

体重、前回測定比プラス3キログラム。

 

「…………」

少佐は、その表示を閉じた。

「問題は、そこではない」

誰に聞かせるでもなく呟く。

続いて呼び出したのは、この一年間の訓練実績だった。

実走距離。

出撃回数。

屋内訓練時間。

いずれも満足できるものではなかった。

「……やはりな」

少佐は一つの資料を拡大した。

年間気象データ。

近年、天候に恵まれない日が続いていた。

休日に限って雨が降る。

夏季には酷暑による活動制限。

冬には日照時間の短さが立ちはだかる。

たとえ出撃可能な日でも、強風によって予定した訓練を断念することがあった。

実戦機会の減少。

それ自体は、避けようのない問題だった。

だが、少佐にはもう一つ、心当たりがあった。

 

「……ZWIFTか」

 

屋内戦闘シミュレーションシステム。

ZWIFT。

 

実機の駆動系を専用装置に接続し、仮想空間内での走行負荷を再現する訓練設備である。

天候や時間に左右されず、平坦航路から山岳戦闘まで、さまざまな条件で継続的な訓練が可能となる。

かつて、そのシステムには一機の機体が常設されていた。

 

RMS-117、ガルバルディβ。

 

だが、機体の改修が進み、実戦配備が本格化すると状況は変わった。

新型ホイールへの換装。

ポジション変更。

可変機構の開発。

実走による性能評価。

出撃のたびにシミュレーション装置から機体を取り外し、帰還後には再び接続する必要があった。

専用トレーナーへの固定。

駆動系の接続。

前部支持装置の組み付け。

機体を傷つけないよう注意しながら行う一連の作業は、想像以上に手間がかかる。

少佐は、いつしか訓練設備への接続を後回しにするようになっていた。

「……いかんな」

少佐は椅子の背にもたれた。

このままでは、実走できない日の訓練が失われ続ける。

それが体力の低下を招き、結果として機体の性能を十分に引き出せなくなっている。

少佐は再び、身体測定結果を表示した。

 

3キログラム。

 

「…………」

画面を閉じる。

「……常設の訓練機が必要だ」

そして、保有機体の運用記録を呼び出した。

しばらく画面を見つめる。

一つの項目で指が止まった。

 

前部支持方式、特殊構造。

装置適合性、制約あり。

 

「……やはり、あの方式ではな」

少佐は小さく呟いた。

現在運用している別の機体には、シミュレーション設備の前部昇降ユニットと適合しない構造が採用されている。

だが屋内訓練そのものの可能性をすべて否定するわけではない。

しかし、少佐が求めているのは、既存の設備をそのまま使用できる常設訓練機だった。

毎回の脱着が必要になれば、結局は同じことを繰り返す。

少佐はその項目を閉じた。

そして、格納庫の保管機体一覧を開く。

一機の旧式機が表示された。

青いフレーム。

細身のシルエット。

長い年月を感じさせる、独特の造形。

少佐は、しばらく画面を見つめていた。

 

「……お前か」

 

その口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

次の瞬間、少佐は通信端末を手に取った。

「ステファニーを呼んでくれ」

 

* * *

 

コン、コン。

「少佐。ステファニーです」

「入れ」

扉が開いた。

深緑のツナギを着た若い整備兵が、書類端末を片手に入室する。

長い金髪は後ろで束ねられ、袖口には薄い油汚れが残っていた。

「お呼びでしょうか?」

「うむ。少し相談がある」

「……相談、ですか?」

ステファニーは眉を寄せた。

嫌な予感がした。

この男が「相談」と言い出すとき、大抵の場合、結論はすでに決まっている。

「まあ、座りたまえ」

「……はい」

彼女は向かいの椅子に腰を下ろした。

少佐は端末を操作し、壁面のモニターに資料を表示する。

「まず、これを見てほしい」

一年間の訓練実績。

天候と出撃回数の関係。

屋内訓練時間の減少。

「近年の気象条件によって、実戦機会が著しく制限されている」

「……確かにそうですね」

「加えて、ガルバルディβの実戦配備に伴い、屋内訓練の機会も減少している」

「ZWIFTですね」

「うむ」

ステファニーは資料に目を通した。

「確かに、毎回あの機体をトレーナーから取り外すのは大変ですから」

「その結果が、これだ」

少佐は次のグラフを表示した。

訓練時間の下降線。

「慢性的な運動不足だ」

「……なるほど」

「これが、現在の問題を引き起こしている」

「現在の問題、ですか?」

少佐は一拍置いた。

 

「……パイロットの身体能力の低下だ」

 

ステファニーは黙った。

ゼータプラスC-1との遭遇。

帰還後、ほとんど言葉を発しなかった少佐。

彼女も、何かがあったことは感じていた。

「……継続的な訓練が必要なのは、確かですね」

「そうだろう」

少佐は満足げに頷いた。

「そこでだ」

新しい資料が表示された。

 

屋内戦闘シミュレーション環境再構築計画。

 

「常設の訓練機を配備する」

「……それは良い考えだと思います」

「うむ」

「ですが少佐。現在保有している機体を転用するという方法は?」

少佐は、わずかに間を置いた。

「……難しいな」

「なぜです?」

「訓練設備との適合性に問題がある」

「……適合性?」

「特に前部支持機構だ。現在の昇降ユニットでは対応できん」

ステファニーは一瞬考えた。

そして、何かに気づいたように頷いた。

「……ああ。確かに、あの構造では」

「そういうことだ」

「ですが、別の構成なら……」

「それでは常設する意味が薄れる」

少佐は即座に遮った。

「既存設備を利用し、いつでも訓練を開始できる状態を確保したいのだ」

「……なるほど」

ステファニーは資料へ視線を戻した。

少佐の説明には、一応の合理性があった。

少なくとも、求めている運用条件は明確だった。

「でしたら、比較的安価な訓練用フレームを調達するという方法も……」

「必要ない」

「……はい?」

「候補はすでに決まっておる」

少佐は迷うことなく、次の資料を表示した。

画面いっぱいに、青い機体が映し出された。

細身のフレーム。

後方へしなやかに伸びる独特の構造。

見覚えのある、大きな白い識別文字。

ステファニーの表情が変わった。

「…………!」

 

MS-06R。

高機動型ザクII。

 

「……少佐」

彼女はゆっくりと顔を上げた。

「……この機体を?」

「うむ」

「……本気ですか?」

「無論だ」

ステファニーはもう一度、画面を見つめた。

「少佐……ザクですよ?」

「知っておる」

「一年戦争時代の機体ですよ!」

「それも知っておる」

「現在は主要装備が取り外され、フレームしか残っていない状態です!」

「だから再建するのだ」

「……そういう問題ではありません!」

思わず、ステファニーの声が大きくなった。

「設計思想そのものが古いんです! 今の機体と比較すれば制約も多いですし、再建に必要な部品だって……!」

「ステファニー」

「はい!?」

「最新鋭機を作るわけではない」

「…………」

「必要なのは、訓練を継続できる機体だ」

「……それは、そうですが」

「そして、あの機体にはまだ役割がある」

少佐は静かに言った。

ステファニーは口を閉じた。

画面の中の青い機体。

その姿は、彼女にとっても特別なものだった。

 

* * *

 

宇宙世紀0079年。

一年戦争末期。

まだ十七歳だった彼女は、ジオン軍整備見習いとして、一機のモビルスーツを担当することになった。

 

MS-06R。

高機動型ザクII。

 

そして、その機体を受領した若い士官。

当時、大尉だった男。

初めて顔を合わせた日のことを、彼女は今でも覚えている。

慣れない工具。

緊張でこわばる指先。

何度も確認した整備記録。

それでも、自分の担当した機体が出撃するときには、胸が締めつけられるような不安を覚えた。

帰還を知らせる通信が入るまで、落ち着くことなどできなかった。

やがて彼女は、失敗を繰り返しながら技術を覚えた。

機体の癖を知り、装備の特性を理解し、故障の原因を探ることを覚えた。

何より、パイロットというものが、必ずしも整備兵の忠告を素直に聞く人間ではないことを知った。

その筆頭が、彼だった。

長い年月の間に、機体は改修を繰り返した。

傷ついたこともあった。

整備不能かと思われた装備を、どうにか復旧させたこともあった。

やがて新しい機体が配備され、青いザクは第一線を退いた。

それでも、彼女にとって特別な機体であることに変わりはなかった。

 

* * *

 

「……懐かしいですね」

ステファニーは、小さく呟いた。

「うむ」

「私、まだ十七歳でした」

「そうだったな」

「少佐も、あの頃は大尉でしたね」

「……随分と昔の話だ」

少佐は微笑んだ。

「工具の扱いも危なっかしかったな」

「そ、それは新人だったからです!」

「ふっ……」

二人の間に、穏やかな沈黙が流れた。

だが、ステファニーはすぐに表情を引き締めた。

「……でも少佐」

「何だ?」

「思い出があるからといって、旧式機の限界がなくなるわけではありません」

「分かっておる」

「それに、あの機体をただ元どおりにするだけなら、もっと簡単な方法が……」

「元どおりにするつもりはない」

「……はい?」

少佐は資料を切り替えた。

 

MS-06R 山岳戦闘仕様再建計画。

 

「…………」

ステファニーは固まった。

「……少佐」

「何だ?」

「山岳戦闘仕様……?」

「うむ」

「……屋内訓練機では?」

「その任務も担う」

「その任務も!?」

少佐は平然としていた。

「元来、この機体は軽量なアルミ構造を有している」

モニターに、フレームの構造図が表示された。

「不要な装備を廃し、駆動系を再構築すれば、山岳戦闘に適した軽量機として再生できるはずだ」

「……待ってください」

「何だ?」

「話が変わっています!」

「変わっておらん」

「最初はシミュレーション環境の復旧だったでしょう!?」

「そうだ」

「では、なぜ山岳戦闘仕様が必要なんですか!」

「訓練だけのために機体を再建するのは、もったいなかろう」

「…………」

「実戦投入できる能力を残しておけば、運用上の選択肢も広がる」

「それは分かりますけど!」

「さらに軽量化を進めれば、山岳での優位性も確保できる」

「少佐!」

「何だ?」

「結局、山を登れる軽量機が欲しいだけじゃないですか!?」

少佐は腕を組んだ。

「……ステファニー」

「はい?」

「技術開発というものは、常に将来の運用を見据えて行うものだ」

「もっともらしく言わないでください!!」

少佐は端末を操作した。

山岳戦闘仕様の構想図。

装備配置。

駆動系の選定。

軽量化目標。

必要部品の一覧。

すでに相当な検討が進められていた。

ステファニーは、それらを順に見つめた。

「…………」

そして、少佐を見る。

「……もう決めていらっしゃるんですね?」

「大枠はな」

「では、これは何のための会議なんですか!?」

「整備担当者の意見を聞くためだ」

「私が反対したら?」

「理由を聞こう」

「納得できなければ?」

「検討する」

「計画を中止する可能性は?」

「…………」

「少佐?」

「……必要性はすでに説明した」

「全然、中止する気がないじゃないですかぁぁ!!」

ステファニーは天井を仰いだ。

八年間。

この男の下で整備を続けてきた。

一度こうと決めたら、簡単には動かない。

それは彼女が、誰よりもよく知っていることだった。

「……分かりました」

彼女は椅子に座り直した。

「では、現実的な話をしましょう」

「うむ」

「予算です」

少佐の指が、わずかに止まった。

「…………」

「少佐。まさか、新型機を一機組めるほどの資金があるとはおっしゃいませんよね?」

「……無論だ」

「では、どうやって山岳戦闘仕様の機体を再建するおつもりですか?」

少佐は小さく笑った。

「そこは考えてある」

「……本当ですか?」

「少しは信用したまえ」

「少佐の技術力は信用しています」

「うむ」

「ですが、少佐の購買計画は信用しておりません」

「…………」

ステファニーは真顔だった。

少佐は軽く咳払いをした。

「……今回の再建計画は、保有装備の転用を基本とする」

「保有装備?」

「そうだ。新規調達は最小限に抑える」

モニターに、整備庫のストックリストが表示された。

少佐は最初の項目を選択する。

 

Mavic R-SYS SLR。

 

「……これは」

「ガルバルディβの旧ホイールユニットだ」

画面には、独特なスポーク構造を持つホイールが映し出されていた。

「新型のLún HYPER R45を導入したことで、現在は保管状態にある」

ステファニーは頷いた。

「R-SYS SLR……確かに、山岳戦闘には適していますね」

「うむ。高速巡航ではR45に分があるが、軽量性を重視するなら、こちらの特性を生かせる」

「それに、すでに保有している装備です」

「追加予算は不要だ」

「……なるほど」

少佐は次の項目を表示した。

 

Shimano GRX RD-RX812。

 

Shimano CS-M7000 11-42T。

 

Shimano 105 FC-5800。

 

ステファニーの視線が、画面を追う。

「……これらも転用するんですか?」

「そうだ」

「GRXのリアディレイラーに、11-42Tのワイドレシオカセット……」

「フロントはシングルとする」

「……なるほど」

少佐は構想図を表示した。

「フロント変速機構を廃止することで構成を単純化する。同時に、山岳戦闘で必要となる低速側のギア比を確保する」

「変速機構の軽量化にもつながりますね」

「うむ」

ステファニーは数値を確認した。

「ただし、チェーンリングの歯数は慎重に選ばないといけません」

「分かっておる」

「平地巡航を犠牲にしすぎず、山岳で必要なギア比を確保する必要があります」

「そのために検討している」

「チェーンラインの確認も必要ですね」

「当然だ」

「スプロケットとの組み合わせによっては、チェーン保持性能にも注意が必要です」

「承知しておる」

ステファニーは資料を読み進めた。

さらに、保有する操縦系装備や周辺部品の一覧が続く。

すべてがそのまま使用できるわけではない。

互換性の確認も必要だった。

しかし、再建に必要な装備の多くが、すでに整備庫に存在していた。

「……少佐」

「何だ?」

「確かに、これだけ保有しているなら、再建費用を抑えられる可能性はあります」

「そうだろう」

「ホイールも、駆動系も、主要なものは揃っている……」

少佐は満足げに頷いた。

「必要な部品だけを追加調達すればよい」

「ですが少佐」

「何だ?」

「新規調達は、具体的にどの程度を想定していますか?」

「必要最小限だ」

「……金額を聞いているんです」

「中古市場には、時として掘り出し物がある」

「……少佐」

「機会を逃せば、かえって高くつく」

「それ、購入するための理屈ですよね?」

「……調達戦略だ」

「同じです!!」

 

しばらくの沈黙。

 

ステファニーは深く息を吐いた。

「……まったく」

そして、資料を閉じかけた手を止めた。

少佐の作成した構想図を、もう一度見つめる。

古いフレームに、新しい装備を組み合わせる。

失われた機能を取り戻すだけではない。

かつての機体に、新たな役割を与える。

その考え方自体は、彼女も嫌いではなかった。

むしろ。

整備兵として、胸が高鳴るものがあった。

「……少佐」

「何だ?」

「仮に、この計画を承認したとします」

「うむ」

「完成したMS-06Rは、ZWIFTに常設するんですよね?」

「……基本的にはな」

ステファニーの眉が動いた。

「……基本的には?」

「必要に応じて実戦投入することも考えられる」

「それでは、またシミュレーターから取り外すことになりますよ?」

「……運用上の柔軟性は必要だ」

「少佐……」

「何だ?」

「最初の問題に戻りませんか?」

少佐は答えなかった。

実際、そのとおりだった。

少佐自身、それを誰よりもよく理解していた。

新たなホイールを装着し、駆動系を組み直し、軽量化を施したMS-06R。

山岳戦闘仕様として完成したその機体を、ただ屋内シミュレーターに固定しておけるだろうか。

答えは、すでに出ていた。

 

恐らく無理だ。

 

あの軽い機体で、もう一度峠を登ってみたい。

かつて走った道を、今の装備で走ったらどうなるのか。

そんなことを考え始めれば、間違いなく実戦投入したくなる。

そして一度取り外せば、再接続するのは面倒になる。

ガルバルディβで繰り返してきたことを、今度はMS-06Rで繰り返すだけかもしれない。

少佐は、それを知っていた。

知っていながら、計画書を作った。

「…………」

ステファニーは黙って少佐を見つめていた。

「……少佐?」

「……運用方針は、完成後に最適化すればよい」

「…………」

「まずは、機体を再建することが先決だ」

ステファニーは額に手を当てた。

「完成したら、絶対に山へ行きたくなるんですよね?」

「……可能性は否定できんな」

「否定してくださいよぉ!!」

少佐は咳払いをした。

「……ともかくだ」

「まだ何かあるんですか!?」

「この機体を、私はもう一度走らせたい」

その声は、先ほどまでとは違っていた。

ステファニーは顔を上げた。

少佐は、モニターに映る青い機体を見つめていた。

「長い航路を走った。幾つもの峠を越えた。故障もしたが、そのたびに直してきた」

少佐は、ゆっくりと言葉を続けた。

「あの機体は、まだ走れる」

「…………」

「もう一度、走らせてやりたいのだ」

暫くの間

「……ずるいですね、少佐」

「……何?」

彼女はモニターに映る青い機体を見つめた。

「そんなことを言われたら、反対しにくいじゃないですか」

少佐は、わずかに笑った。

「……では?」

ステファニーは端末を手に取った。

計画書を開く。

しばらく内容を確認したあと、静かに口を開いた。

「……条件があります」

「聞こう」

「保有装備の転用を最優先とすること」

「うむ」

「新規調達品は、事前に適合性と必要性を確認すること」

「当然だ」

「予算は無制限ではありません」

「……承知した」

「そして」

彼女は少佐をまっすぐ見た。

「訓練環境の復旧という本来の目的を、忘れないでください」

少佐は、一瞬だけ目を伏せた。

「……分かっておる」

ステファニーは、小さく息を吐いた。

そして電子署名欄に指を置く。

ピッ。

 

整備担当承認。

 

少佐は頷いた。

「……よろしく頼む」

「はい」

ステファニーは微笑んだ。

「私も、あの機体をもう一度整備したいですから」

少佐は立ち上がった。

「では、早速格納庫へ向かおう」

「……えっ?」

「現物の状態を確認する。必要な部品の洗い出しも始めねばならん」

「少佐、もう夕方ですよ?」

「時間はまだある」

「私はガルバルディβの整備記録をまとめないと……」

「明日でよかろう」

「……少佐!」

だが、少佐はすでに扉へ向かっていた。

ステファニーは慌てて端末を抱え、その後を追う。

「少佐! 待ってください!」

「何だ?」

「今回の計画について、もう一つ確認があります!」

「うむ」

「そもそも、パイロットの体重増加が問題だったんですよね!?」

「……そうだ」

「なのに、どうして機体の軽量化計画になっているんですか!?」

少佐は足を止めた。

そして、ゆっくりと振り返った。

「……ステファニー」

「はい?」

 

「物事には、順序というものがあるのだよ」

 

「絶対に順序がおかしいです!!」

 

* * *

 

第三整備格納庫。

その最も奥まった区画に、一機の古いフレームが保管されていた。

かつて戦場を駆け抜けた機体。

青い装甲。

細身の骨格。

後方へと伸びる、独特な構造。

現在は主要装備が取り外され、往年の面影を残したまま静かに眠っている。

 

MS-06R。

高機動型ザクII。

 

少佐は、その前で足を止めた。

「…………」

ステファニーも、隣に並んだ。

二人はしばらく、何も言わなかった。

八年前。

この機体を初めて受領した若い大尉と、十七歳の整備見習い。

あれから随分と遠くまで来た。

少佐は、そっとフレームに手を触れた。

「……待たせたな」

ステファニーは、その横顔を見つめた。

そして、小さく微笑んだ。

 

「……また、よろしくね」

 

薄暗い保管区画に、静かに照明が灯る。

ガンブルーのフレームが、柔らかな光を受けて浮かび上がった。

こうして、MS-06Rの再建計画は正式に始動した。

 

それが後に、終わりの見えない軽量化計画へと発展することを、このとき二人はまだ知らなかった。

 

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