世の中には現実(リアル)が充実した通称リア充と呼ばれる奇っ怪な存在が確認されている。そしてトリニティ在住のリア充さんはこんなところにもいたようだ。
「姫!全くお前は何時も無茶を!心配するこちらの身にもなってみろ!」
長い黒髪を背中で束ねノートにも匹敵するであろうスタイルを持つ人族の少女は白鷺姫の無謀な行動に対して心配から来る怒りをぶつけている。
「ごめん紅、だけど……」
その怒りに対して白鷺姫も無謀を自覚して引け目を感じているのであろう強気にはなれないでいる。
「いや分かっている。お前の性格は……いやお前のことは、な」
「紅……ありがとう」
「あぁ、姫」
紅と呼ばれた少女は先ほどの怒りをどこにやったのか一転して熱い眼差しを白鷺姫へと向ける。そして白鷺姫も同様にそんな視線を紅へと向ける。
「「……」」
今二人の視線は交錯し自然と二人の美少年と美少女の身体は近づき……。
side非リア充
「ねぇパパ!あの二人チューしちゃうの!?」
どこからか白鷺姫の危機を聞きつけた美少女が悲しみ、怒りときて何故か人目をはばからずイチャイチャし始めた。
「パパってば!あの二人発進して合体するの?」
シャルの言っていることの半分も理解出来ない。いや本当は分かってはいるのだが認めたくはなかったのだが。もう黒翼さんとか頭から完全に抜け落ちていまさた。
「……?パパ、何で泣いてるの?」
「リア充じゃないからな」
悲しみからかはたまた怒りからか俺の目からはひたすらしょっぱい何かが流れ落ちる。
「シャルが大きくなったらパパと結婚してあげるね。だから泣かないで、ね?」
「ありがとうシャル、だがそれでは俺が別の意味で変態になってしまうのだが」
そう、シスコンとは別のレッテルを貼られてしまう。
「大丈夫だよ、この世界ならシャルは負けないから」
「なんだそれは?」
「さぁ?なんだろうね。それよりパパ助けてくれてありがとう」
「まぁ、それは構わないが結局何であの魔族の少年に目をつけられたんだ?」
「生理的に受け付けなかったから顔面にお水をぶちまけたの」
「それはお前が悪い」
むしろあの魔族少年に同情の念を禁じ得なかった。
side路地裏の少女
艶やかな黒髪を持つ少女はその顔に魔王の名に相応しい程の怒りの感情を貼り付けていた。
「白鷺姫!相変わらず気にいらない!!」
その声はとても低く白鷺姫に対して抑えようのない殺気を向けていた。
side赤髪の竜魔
息を吸えば彼と同じ窒素を酸素を吸うことが出来た。
そしてただそこにいるだけで彼の匂いを残り香を鼻でそして肌で感じる事ができた。
「全く我ながらどうかしていますね」
彼のことを想うだけで胸が締め付けられる。
できる事なら彼の身体の自由を奪い満足するまでその雪の様に白い肢体を貪り尽くしたい。そんな狂人じみた考えが脳裏をよぎるのは最早数えるのも億劫になる程だ。
「これではあの人のことを悪く言えないじゃないですか」
自嘲じみた笑いをこぼすと彼が普段身体の疲れを癒やしているであろうベッドに腰を掛けシーツを手にしておもむろに顔を埋める。
「くんかくんか」
そのまま息を吸い込むと柑橘系のまるで年頃の少女の様な甘美な芳香が鼻をつく。
「くんかくんか」
シーツで己の身を包むとまるで彼に熱い包容を受けている様なそんな感覚に陥る。
「くんかくんか。」
そして陥ったからこそ普段では犯さない様な失態を犯してしまった。
「……はい?」
「…………!?」
彼の匂いを堪能する余りに部屋に帰宅した彼に気づかづあまつさえその姿を晒してしまった。
非リア充side
皆さんは思春期時代に好きな異性の衣類もしくは普段から身につけている物が手の中にあったらどうしますか?俺ならまぁ、うん。嗅ぐね。
そして好きな異性に見つかって気持ち悪がられてしまうのだろう。
だがもしも逆に自分がそんな現場を目撃してしまったのらあなたはどうしますか?
どうか誰か教えて下さい。俺は切実に願います。
ことはシャルと別れて寮の自室に帰宅したのだがそこで異変に気づいた。自室の中に何者かの気配を感じた。我が愛すべき家族でも友でもない別の誰かの気配を。
(神族関連の情報を狙った侵入者か?仕方ないストレスの発散相手にでもなってもらうか)
一応自分も神族王家に連なっている。故に色々な方面から狙われることも少なくない。それ故にこの様なことも珍しくない。正直慣れている。慣れたくはないが。
そして俺は慣れているからこそ詮無きことと考えて何時でも戦闘に移れる様に気を引き締めて扉を開けた。否、開けてしまった。
「くんかくんかぁー♪」
「……はい?」
「……!?」
部屋の中には紅髪を持った小柄の少女がとろける様な笑顔でベッドのシーツの匂いを嗅いでいた。
彼女には見覚えがあった。否、忘れ様がない。
彼女の名はフォン=テルム。魔族のNo.2。もしも俺にライバルと呼ばれる存在がいるとするならば彼女のことをそう言うのだろう。
「何か言ったらどうですか?」
状況を整理しよう。今俺の前には竜魔の紅刃こと死神の二つ名で恐れられているフォン=テルムがいる。
どこで何をしている?俺の部屋のベッドの上でそのシーツの匂いを嗅いでいる。
「駄目だわけがわからん」
「そうですか。なら消し飛びなさい!!」
「は!?ちょっ!?おまっ」
ベッドにちょこんと可愛らしく女の子座りしていたフォンはどこから出したのか二振りのハーケンを取り出して魔力を乗せて斬りかかってくる。ただし油断したら首が胴体からさようならする程の速度で。
「ふぅ、流石にこの程度ではどうにもできませんか速さだけが取り柄の変態さん」
「ちょっと待て!意味もなく殺されかけたというのに変態扱いとか何なの!?泣いていいの!?」
「別に泣いても構いませんよ、その間に首を落としますので」
にこやかに微笑みフォンはゆっくりと歩み寄ってくる。ちなみに目は笑っていない。そして殺気のオマケ付き。
「先ほどのこと綺麗さっぱり忘れさせてあげますよ」
斬撃をしゃがんで避けるとバックステップで距離を取ろうと思ったのだが………自分が今どこにいたのかということを再認識させられる。
「流石のあなたもこの狭さでは実力を出し切れないようですね」
今自分の背中には壁があった。
ここは寮の二人部屋。現在は俺一人で使わせてもらってはいるがそこまで特質して広くはない。
そして俺は超スピードでの移動と攻撃を得意としている。
さらに俺が使う加速魔法は。純粋な攻撃魔法を無理やり変換して使っている為に使用しただけでこの部屋をとんでもない有り様にしてしまう。後は急な方向転換が出来ない為に壁に激突してしまう。
故にこの部屋では俺は実力は出せない。部屋を寮の損害を考えずに闘うことは可能だがそんなことをすれば寮の守護神もとい阿修羅を召喚してしまう。
「いや、もう遅いか」
「………何をですか?」
「お前は次に俺の後ろを見て『しまった』という」
俺は黙って自分の部屋の扉を否、扉だった物を指差す。
「なっ!?しまった……ハッ!?」
「あらあらこれはどういうことかしら?」
最初フォンが放った魔力を乗せた一撃は俺に当たることはなかった。だがその後ろにあった扉を原型を残すことなく破壊した。そしてそれは寮の阿修羅ことルアン=ルゥムを召喚するのには充分だったのだ。
「フォンとしたことが……。ユア=ルゥム相変わらずのようですね」
「そんな減らず口叩けるのも今だけだからな」
我が母のお説教はかなり怖い。
「少しは反省するといい」
此方を睨みつけるフォンを指差してそう告げて俺はゆっくりと部屋から離れていった。
どうやら世の中上手くいかないらしい。
「駄目でしょうユアちゃん、女の子に恥をかかせちゃ」
「はい、すいませんでした」
頭を下げていた。誰が?俺が。ユア=ルゥムが。
「まぁ感情に流されてしまったフォンにも責任はあります。ですのでここは怒りをお納め下さいお義母様。」
何故こいつが被害者みたくなっている?何故膝を地に付けている此方を見下ろす?
「良かったわねユアちゃん、フォンちゃんが心の広い子で」
「はい、恐悦至極にございます」
俺は一礼しつつ二人の様子を伺う。母さんがフォンに向ける目はとても暖かい母親の目。あんたらいつの間にそんなに仲良くなりやがった?
「素直でよろしい、でも最後にこれだけは言わせてね」
「はい?」
「男の子は常に女の子の理不尽な暴力を平気な顔で受け止める義務があるのよ」
「…………どういうことですか?」
「ユアちゃんも好きな女の子でもできればわかるわよ」
「はぁ」
母さんには悪いがその言葉の意味は今の俺にはわかりそうもない。
「それじゃあ私は行くけど扉はちゃんと直してね」
母さんの後ろ姿が見えなくなると溜め息を一つ吐き身体を起こす。
「ではさっそく扉の修理をお願いします」
「何を偉そうに……それよりお前には聞きたいことが…………」
「生憎ですがフォンは吹きさらしのプライベートのない場所で何かを語る程図太い根性は持ち合わせていません」
そう言うとフォンは再度ベッドに腰を掛けるとあの値踏み視線をこちらによこす。
「貴様はどこかの王女様かよ」
「とか言いつつも治すんですね」
だって母さん怖いから。
目の前には破壊前より完璧に修繕された扉。
「俺の復元魔法は神族一ィぃぃぃ!!」
「…………」
そして腕を組みそんな俺を冷めた目で見つめる主犯。
「そ、そんな目で見るなよ」
「全く、知りたいことがあったのではないのですか?」
「そうだ……お前!何でここにいる!?魔族のNo.2が神族第一王子の部屋で何をやっていた!?」
ちなみに先ほどのくんかくんかについてはもう言及するつもりはない。どうせまた俺が怒られるんだから。
「貴方の部屋と言うのは正しくありませんね、今日からフォンの部屋でもあるのですから」
ちょっと待て、今何か聞き捨てならない言葉があったような?
「どういう……」
「今日からフォンはこの部屋で生活します」
「な、ななな」
「貴方と同棲します」
「なんだってぇぇぇえ!」
拝啓天国のお父様。お元気お過ごしでしょうか?相変わらず無茶苦茶やって周りを困らせてはいませんか?
今日はご報告があります。
自分美少女と同棲することになりました。
あ、そこは嬉しいのですが相手はあの竜魔の紅刃フォン=テルムだったのです。
「同居人は美少女、良かったではないですか」
「自分で言うなよ!」
「事実ではありませんか」
あまりの事態に天国の父に助けを求めてどうやら現実逃避していたようだ。
「ったくそれで何が目的だ?」
「フォンは明日からトリニティ三階級槍のクラスに編入します」
「ある程度予想はついていたけど……」
生憎俺が聴きたいのはそういうことじゃない。
「理由でしょうか?」
「あぁ、何故魔界のNo.2とまで言われているお前がわざわざこのトリニティに俺と同じクラスに俺と同じ部屋に現れた!?」
それ程までに彼女の影響力は大きい。かの魔界の黒翼程ではないだろう、だがトリア=セインが魔界に不在の今それを彼女が様々な面で支えていたのは確実だ。先日の学園長との一件でもしやとは思ったが何故そんな彼女がフォン=テルムがここにいるのか?俺が聴きたいのはそういうことだ。
「別にそんなに難しく考える必要はありませんよ」
不適な笑みを浮かべるとフォンはゆっくりと此方に歩み寄り耳元で……。
「フォンはただ貴方が欲しいだけですから」
こう囁いた。
EX-ONEのフツウノファンタジーって面白いですよね。リブラちゃんマジ天使。