第13話「米とパンと味噌汁とスープと」
ショートモント基地内の食堂。深雪はため息を吐きながら、コツコツとフォークで皿をつついていた。
「深雪ちゃん、行儀悪い」
「ん、うん……」
白雪に注意されて、深雪は皿をつつくのをやめ、半分残っていたミートローフに突き刺し、口の中に放り込んだ。ミートローフは日本で言うハンバーグを長方形パン形状にしてオーブンで焼いたものである。
うまい。うまいのだけれども……。
あのMREとは比べものにならない味で、アメリカ料理もバラエティー豊かでよろしいのだが、どうも深雪はバミューダ諸島強襲作戦以来、なんだかアメリカンな料理に飽きが来ていた。
別の言い方をすれば、米が食べたい、である。
「ミユキとシラユキはアメリカに来てから、2ヶ月?」
向かい側の席に座るクレムソン級駆逐艦エドサルが尋ねた。ワイン色に近い色のくせ毛を持つ艦娘である。太平洋戦争では戦没しているが、戦艦と巡洋艦計4隻からの砲撃をよけまくったことがあるだとか。
「そのくらいかな? もうそんなになるのか」
アメリカに来たのが1月の中頃。今は3月の終わり。2ヶ月と半分くらいだ。
アメリカの艦娘が建造され始めたのは2月の中頃なのに、今では空母戦艦も含めた38隻の艦娘しかない。日本の場合は1ヶ月で40隻以上の艦娘を建造したというのに。アメリカの技術者は艦娘の建造に大きく関わっているらしい妖精との折り合いがうまくいっていないのだろうか?
「そろそろ、アメリカの味に飽きがきましたか?」
「うっ……」
鋭い質問をしたのはグリーブス級駆逐艦エリソンだ。ツーサイドアップした栗色の髪が特徴的な艦娘である。
「正直なところを言うと……そうだな」
「白雪さんもそうでしょう? 深雪さんと違って、顔に出していませんが、手が余り動いていませんよ」
「あれ、ばれた?」
「そりゃもう、ばればれです」
白雪は自分とエリソンの残っている料理の量を比べる。エリソンはもう少しで食べ終わるという量なのに、白雪のは半分近く残っていた。
これは白雪と深雪だけではない。この場にはいないが、吹雪と初雪も同じように食の進みは遅くなっている。
「日本の料理はおいしいですからね。日本生まれの日本育ちでは飽きが来ますよね。さすがに」
「あれ、エリソン? 日本料理食べたことあるの?」
「エドサルさん、私が日本の軍隊に所属したこと言いませんでしたか? 正しくは軍隊じゃないですけど」
「いや、聞いたことない」
「私自身が食べたというわけではありませんが、まあ味くらいは知っていますよ」
エリソンは戦後に日本海軍の後継組織である海上自衛隊という組織に「あさかぜ」として所属していたらしい。そのため、日本語はしゃべれるし、戦後の日本のことについて色々知っている。
「そのことは、とりあえず置いておくとして、私としても日本の味は恋しいですね。最後は台湾で部品取り艦ですから」
「私達もそりゃ、恋しいさ。でもアメリカじゃ、米なんて手に入らないだろ?」
「手に入りますよ」
「えっ」
深雪と初雪の声が重なった。
「いや、だから手に入りますよ、お米。作ってますよ、アメリカでも」
「嘘でしょ?」と白雪。
「いや、作ってますよ」とエリソン。
「そうなの?」とエドサル。
「ええ、確かカリフォルニアとかアーカンソーとかで作ってます」
初耳だった。米作っているのはアジア圏だけだと決めつけていたと言えるが。まさか、米国でも米を作っているとは。
「そうか……そうか。作ってたのか……」
深雪は驚愕が収まってくると、頬がつり上がってきた。
そうか、そうか、作っていたのか。アメリカでも米食べれるんだ!
吹雪達は主計課の窓口に押しかけていた。主計課は庶務・会計・被服・糧食等々の管理をするところである。
吹雪達が押しかけた理由はもちろん、米を食堂の料理にだせ! だ。
「不可能です」
窓口の兵はそう、簡素に返答した。
「なんで!? アメリカでもお米は生産しているんでしょう?」
「確かに生産していますけど……」
「けど?」
窓口の兵は身を乗り出して聞く吹雪に気圧される。艦娘は見た目は子供であっても士官待遇であり、一等水兵である窓口の兵にとってはかなりの階級差がある。窓口の兵は吹雪の聞く勢い、階級差、両方で気圧されていた。
「ええっと、去年、米は病害がひどくて、収穫量はないに等しいのです」
「で、でも……ないの?」
「……ないんです。すいません」
吹雪達の目は輝きが消え、場の雰囲気がどんよりとしたものに変わっていく。初雪は窓口の兵を睨む。いや、俺のせいじゃねぇよ。 窓口の兵は目で訴える。
最初の元気で明るい雰囲気はどこかに立ち消え、寒さすら感じるようなぐらい雰囲気。何とか打開せねば。窓口の兵は必至に考える。そしてあることを思い出した。
「い、いえ、あ、あるかもしれませんよ!」
うつむいていた吹雪達が顔を上げる。目線が窓口の兵に集中する。
「え、ええと、MREの中で米系のMREもあったはずです! それなら在庫も――」
「結構です」
言い切る前に拒否されてしまった。初雪だけではなく、4人全員が冷酷な目で窓口の兵を見つめる。MREを勧めるとかどんな頭してるの? そういっている風にに窓口の兵は感じた。
理不尽だ! 米が病害だったのも、MREがまずいのも俺のせいじゃない! 窓口の兵はそう叫びたかった。でも叫べない。相手は上官なのだ。
「ちょっと、吹雪どうしたのよ? 動きに切れがないし、砲の命中率も低いし」
夕方の演習の終わり、服や髪をペイント弾で青くしたファラガットが吹雪に尋ねた。ファラガットが真っ青なのは珍しいことではないが、吹雪は珍しく緑色に染まっている。吹雪はいつも演習1発2発の被弾か、無被弾で終わるのに、今回は6発以上の被弾。
「大丈夫……。きっとファラガットの腕が上がったからよ」
「絶対違う。朝の演習でエドサルに全て避けられたもの。なんかあるんでしょう?」
「何にもないよ。塗料がべたべたして気持ち悪いから、早くシャワー浴びに行きましょう」 吹雪は無理に笑顔を作って、基地の方向に舵を切る。嘘だ嘘だ、とファラガットは執拗に聞くのだが、吹雪は答えなかった。
そしてシャワー棟の女性シャワー室。湯煙の中、ファラガットは最近吹雪達と仲の良いグリーブス級駆逐艦エリソンに聞いてみた。
「深雪さんが言ってのですけど、あと7ヶ月近くはお米は食べれないそうで……」
「米……?」
「はい、お米です」
いわゆるホームシックというやつか……。ファラガットは全てを察した。
艦娘になって、他の艦娘とは違う全く違う、自分の体、というものを手に入れたわけだが、それによって自分自身のアイデンティティが固まってきた感じがある。ただの艦のころは乗員は変わることも多いし、特に自分の存在について考えたことはないのだが、艦娘になることによって郷土愛などが強まるのかもしれない。
吹雪達は少し食にうるさいところもあったし、ご飯の面でホームシックになるのもおかしくはない。
「主計課にもう一度行ってみる?」
「もう一度行っても変わらないと思いますよ。米自体が出回っていないらしいですから」
「どうにかしてあげたい話よね……いや、しなきゃならない話ね」
艦娘の訓練を行っているのは吹雪達4人だけであり、本来は嚮導艦として建造されたオマハ級軽巡洋艦、もう戦艦と言った方が良いようなアラスカ級大型巡洋艦ですら吹雪達に訓練・指導を受けている現状なのだ。彼女達なしでアメリカ海軍の早期再建は不可能と言っても良い。
晩の食堂。多くの人で賑わう中、ファラガットは食事をしながら横目で吹雪達を見ていた。吹雪達はそれぞれの部隊の艦娘と談笑しながら食事を取っている。
艦娘も大所帯になり、現在では38隻。1つの部隊として運用するには大きすぎるので、5つの部隊に分け、吹雪、白雪、深雪、初雪、そして吹雪達を除いた駆逐艦娘で最優秀のファラガットを旗艦とし、編成がされている。
エリソンが言っていたように吹雪達は食べるのが他の艦娘よりも遅い。以前、向かい合って食べることもあったが、そのときは自分より少し早いペースだった。
米をどうにか。自分達で作れれば良いのだが、作物である以上きちっとした管理の上で作られなければできるものではないし、米というのはすぐできるようなものでもない。
自分達で作れれば……
「何見てるの、姉さん?」
向かいの席のハルが聞く。ファラガット級3番艦でコブラ台風で沈んだ艦である。姉であるファラガットは金髪なのに、赤い髪である。艦娘の髪の色は何で決まるのだろうか。ファラガットは時々疑問に思う。
「ちょっとね」
「分かった。またフブキを見てたんでしょ-」
「別にそんなんなんじゃ……」
実際にフブキの砲を見ていたのも事実ではあるので、しっかり否定はできない。
「姉さんはフブキのことが大好きだもんねー」
「違うわよ……」
ファラガットは皿のよそわれた豆にフォークを刺そうとする。しかし、口元を押さえるようにして、きゃー、とはやし立てるハルに反論しようとして、ファラガットは手元をよく見ていなかった。豆はフォークにうまく刺さらず、皿を飛び出る。
「あっ」
豆は放物線を描いて、床に落ち、転がっていく。ファラガットはそれを目で追う。そのとき、ファラガットの脳内に電流が走った。
「そうよ、丸めればいいのよ」
「え、丸める?」
「ハル、あんたちょっとご飯食べたら手伝いなさい」
「え、まあいいけど」
いったい何を思いついたのだろうとハルは首をかしげながら、ベーグルをかじった。
人影もまばらになり、調理室で食器を洗う音だけが響く食堂。
ファラガットはハル以外にも翌日の朝に予定のない艦娘を集めた。誘って断られた艦娘もいたが、7人集まった。
ファラガットは椅子から立ち上がる。
「えー、こほん。皆さん、吹雪達が最近元気がないのは知っておられると思います。そこで私達、アメリカ艦娘で彼女達を元気づけることをしたいと思います」
賛成、と艦娘達が声を上げる。
「具体的には?」
フロリダ級戦艦ユタが質問する。金髪ワンレングスカットの落ち着いた雰囲気がある艦娘である。
「日本料理を……まあ、ライスとミソスープってところね」
朗らかに言い放つファラガット。エリソンは首をかしげる。お米はないのにどうするのか。そして味噌汁は名前の通り味噌がいるのだが、どうするのだ?
「米ってあるのー?」
フレッチャー級駆逐艦ベネットが手を挙げて聞く。ファラガットはにんまりと微笑む。
「米はね……作るのよ」
ファラガットは机の下からあるものを取り出す。それはクッキングシートと水、小麦粉だった。
それはパンの材料ではございませんか、ファラガットさん。皆がそう思った。しかし、ファラガットは不敵に笑っている。
「水加えてこねるのはパンと一緒よ。でも違うのはそこから。米粒大にちぎるのよ」
なるほど、それなら行けそうだ、と感心する声が艦娘達から上がる。しかし、その中で苦笑いしている艦娘がいた。「あさかぜ」として15年間、海上自衛隊に所属していたエリソンである。
あの不味いと有名だった人造米じゃないの。あれやるの。
艦娘達が知っている歴史の第2次大戦後、食糧難の日本は食料問題を解決する手段として麦やトウモロコシのでんぷん質を加熱糊状にしてから米粒の形に圧縮成型する方法で米の代用品を製造する方法が開発された。これが人造米である。
日本政府は製造が簡単な人造米の製造を推進したのではあるが、「外米より不味い」とか「細かく刻んだうどんみたい」というひどい評価であった。当初の物珍しさがなくなれば、全く売れない代物だったのである。
まあ、いっか。他にあてもないし。エリソンは人造米の評価のことを黙っておいた。
「米はいいけど、ミソスープの方は?」
そうだ、味噌汁は味噌がなければ作りようがない。味噌は人造米のように簡単にはできない。あの世界ではアメリカに味噌上陸という話を小耳にはさんだが、この世界のアメリカに味噌はあると聞いたことはない。
嫌な予感がした。
「エリソン」
「はい?」
「ミソスープ、よろしく」
やっぱり。エリソンはため息を吐いて立ち上がった。
「メデューサ、来て……」
潜水艦母艦のメデューサを誘う。味噌汁ができるあてはないのだけれども、やってみよう。何とか気合いを入れて、調理室に向かった。
ファラガットはボールに小麦粉とを適切な量の水を入れ、粉っぽさがなくなるまでこねる。そしてできた生地をそれぞれに分配していく。
後は米粒大にちぎっていくだけだ。
とりあえず味噌の原料は大豆、塩、麹だ。大豆、塩は手に入っても麹はどうしようもない。1ヶ月ほどあれば培養することもできるのかもしれないが、そのための知識や技術を知らない。
とりあえず、大豆をつぶすために蒸すことにした。その間、役に立ちそうなソースや材料を集める。とにかくあり合わせの材料で近い味を出すしかない。
食堂の大机。ファラガット達はちまちま、ちまちまと小麦粉を米粒大に一つ一つちぎり、敷いたクッキングシートに置いていく。みんな黙って真面目にちぎっていく。時計の秒針の音、波の音だけが聞こえる。
「ねぇ……」
水上機母艦ラングレーが静寂を破る。皆が手を動かしながら、ラングレーの方を見る。
「これ棒状に伸ばしてナイフで切っていった方が楽なんじゃ……」
1人を除いて皆の手が止まった。
「そうでしょ。わざわざこうやって手でちぎっていくことないわよ」
「あるわよ」
ファラガットが反対する。皆がファラガットの方に視線を送る。
「一つ一つちぎることで吹雪達への感謝の気持ちを込めるのよ」
「でも、生地見てご覧なさいよ! もう30分くらいやってるけど減ってる感じがしないわ!」
ラングレーが自分の生地を指さす。実際、生地の量はあまり減っている気がしない。そしてあまりにも単調な作業で、でも米粒大にちぎるのは結構難しい作業で大変だ。他の艦娘も面倒くさい、もっと効率の良い方法があるはずだ、と感じ始めていた。
ちなみにこの作業はチネリともいい、並外れた労力と根気を必要とするといわれる。
「これ4人分作るのに何時間かかるの!?」
「……さあ?」
ファラガットはチネリ米製造にかかる時間など考えてはいなかった。安易にすぐ済むだろうと考えていた。この見通しはものすごく甘いものだった。おそらく2時間しても終わらないのではないだろうか。
「ラングレーうるさい。他のみんなも手が止まってる」
一喝したのは唯一手を止めていなかったアラスカ級大型巡洋艦アラスカ。空色の髪を長くのばした艦娘である。
「こんな作業で根を上げてたら、秩父型大型巡洋艦に勝てないわよ」
チチブなんて艦、いねぇよ。アラスカ以外の全員がそう思ったが、口には出さなかった。それを言うとアラスカは顔を真っ赤にして怒るのだ。エリソンがチチブ型なんて計画すらない、と言ったらアームロックをかけられた。そのときはサラトガが、それ以上いけない、と咎めたが、この場は非力な駆逐艦と水上機母艦、超旧式の戦艦だけ。またアームロックをかけられるようなことがあれば、引きはがすことはできないだろう。チチブ級以外のことでは気の良い艦娘なのだが。
アームロックをかけられることを恐れたラングレーはしぶしぶ席に座って、チネリを再開した。
蒸した大豆をつぶし、とりあえず大量の塩を投入、かき混ぜる。そして味見。
「塩辛いねぇ。こういうものなの? 味噌って」
「いや、全然違います」
これではただ塩辛いだけだ。圧倒的にうま味が足りない。
「ケチャップ」
決断的にケチャップである。トマトのうま味と酸味がうまいこと味噌らしさを醸し出してくれるかもしれない。
と思ったのだが、そんなことはなかった。それはそれでいい感じの味にはなったが決して味噌ではない。
「昆布系は……ないか」
探しても昆布を初め、海藻類はなかった。アメリカは日本と違って海藻を食べる習慣はない。世界的に見ても海藻を食べる国は少ないらしい。
「動物系のうま味は?」
メデューサの言葉にエリソンは「名案です」と指をぱっちんとならす。ブイヨンを投入。味見。
「いや……これでもない」
たしかにうま味は増したが方向性が違う。うまいといえば、うまいけど違う。
発酵という菌が織りなす所行はうま味の相乗効果でどうにかなるものではないのかもしれない。
時計の秒針と波の音だけが聞こえる食堂。
ファラガット達はうつらうつらとしながらもチネリを続けていた。正直、チネリが単調すぎる作業なので眠気が出てくるのである。ここに集まっている艦娘は午前午後とも演習を行った艦娘ばかりなので、疲労が溜まっている。それもあって眠たさ倍増だ。
「寝るんじゃ……ない……」
言い出しっぺのファラガットは眠らないよう、唇をかんで、チネリを続けているが、眠たくなるとそれも緩んでしまう。姉妹艦のハルと戦艦ユタは机に突っ伏して寝ていた。ベネットは生地をつまんだ状態で固まっている。
ラングレーは目をつむりながら、ゆっくりではあるがチネリを続けていた。目をつむっているだけかとファラガットは思ったが、呼吸の様子などから見るに間違いなく寝ている。
一方、アラスカは目をぎらぎらさせてチネリを続けている。チチブ型への執念というかライバル心というか、すごいものだなぁと思う。アラスカを見習って、自分の吹雪型に対するライバル心を奮い立たせてみるが、睡魔に懐柔されてしまう。
言い出しっぺが寝てどうする。自分は旗艦なのだぞ。リーダーなのだ。頭を拳でぶん殴る。チネリを続ける。
「なんとかものになったか……なぁ」
お湯で溶いた味噌もどきをエリソンとメデューサは小皿にとってすする。
「これが味噌……なの?」
「作り方は全然違いますけど……確かこんな味だったはず……です」
エリソンはいまいち自信がなかった。なにせ自分が味わっただけではないし、何度も味見をしたせいで味噌の味かどうかの判断がうまくできなくなっている。
最終的な材料は大豆、塩、ケチャップ、ブイヨン、ヨーグルト、ウスターソース、オイスターソースである。これを適当な割合で混ぜたら味噌「らしい」ものはできた。一番の救いがオイスターソース、牡蠣から作った魚醤である。醤油とはかなり味が違うが、これで、ぐっと味噌に近づいた気がする。気がするだけかもしれないが。
「もう0時ですか……。とりあえずこれで良しとしましょう」
もう夜も更け、これ以上試行錯誤しても良いものもできそうもない。味噌もどき造りはこれで終わることにする。
「ファラガット達に何か持っていってあげましょう?」
「そうですね」
調理室の冷凍庫にはアイスクリームがあるのだが、ここを使う前、コックさんにアイスは食べちゃ駄目! と言いつけられているので無難にオレンジジュースにしておく。7つのグラスに冷えたオレンジジュースを注いでお盆に載せ、持っていく。
「みなさーん、差し入れですよー、…………ってアラスカ以外寝てるじゃん」
アラスカ以外の艦娘は寝ていた。ハル、ユタは机に突っ伏して、ファラガットは力尽きたように頭を下げ、ベネットは背もたれに体を預け、ラングレーは生地をつまんだ状態で固まって寝ていた。唯一アラスカだけが寝ていない。
「終わったっ!」
アラスカがガッツポーズ。手元を見てみると生地はない。クッキングシートに並べられた大量のチネリ米を見るに全てチネリ終わったのだろう。
内心エリソンは思う。味噌もどき造りを任せられて良かったと。
吹雪達は朝食を取りに食堂に行こうとしたところを銀髪ショートの潜水艦娘ダンバー級潜水艦ツナに止められていた。ちなみにツナは英語でマグロの意味である。
「まだ、まだ行かないで」
「なんで?」
「それは……なんでだろう?」
ツナも実のところよく知らないのだ。アイスおごってあげるから、というファラガットの頼みで吹雪達を制止しているだけなのである。
「なんなんだよ、ツナ」
「いやぁ、そのぅ……」
入るからな、と深雪がツナを強引に押しのけて、食堂に入る。そして角から突然現れたファラガットとぶつかった。
「あ、ごめん。大丈夫?」
「痛いわねぇ、もう。まあいいわ。こっち来て」
ファラガットにおとなしくついて行く吹雪達。案内された机の上には――――
「白ご飯と味噌汁!?」
思わず吹雪達は歓声を上げた。
「お米はないんじゃ!? どうやって」
「頑張った」
どこからか、ハル、ベネット、エリソン、ラングレー、アラスカ、メデューサが現れて答える。
「食べていい……の?」
「もちろん」
おもむろに吹雪達は席に着く。箸ではなくフォークとスプーンだが、細かいところは置いておくとしよう。久しぶりの日本食だ。思いっきり楽しませてもらうとしよう。
フォークで米をすくう。ぱらぱらした感じがあるが、それは米の違いなのだろう、と吹雪達は思って、口に運んだ。
ん? いや、これ米じゃないぞ。吹雪達は変に思った。感触は品種の違いということで良いとしよう。しかし、味はまるで味はうどんのようだ。品種が違ってもうどんみたいな味になるだろうか? 気を改める為に味噌汁をすする。
待て待て待て、これは味噌の味じゃないぞ。それっぽいと言えば味噌っぽいし、不味いわけではないけど、違うぞこれは。
吹雪達4人で顔を見合わせる。4人とも同じように感じているようだ。
「やっぱり……」
エリソンが小声で呟いていた。
「やっぱりって?」
「ええっとね……言ってもいいよね?」
エリソンは恥ずかしげにファラガットの方を見る。ファラガットはエリソンが何言ってるか分からない、といった感じで首をかしげる。
「白ご飯は練った小麦粉を米粒大にちぎって茹でたもので、味噌汁はそれっぽく色々ソースとか使って、合成したというか、なんというか……。とりあえず、本物のお米と味噌ではないです。はい」
吹雪は手元の白米もどきと味噌汁もどきを見つめる。確かによくよく見てみれば米もどきには透明感がない。味噌汁もどきも肉系の味とケチャップっぽい味がした。
「でも、それっぽくはできてるよ」
「ある意味……新鮮」
「不味くはないしね」
「むしろうまい」
白ご飯と味噌汁とはかなり違う味なのだが、決して不味いわけではないのだ。それっぽいというだけでも、吹雪達にとってはかなり嬉しかった。吹雪達の言葉で少し暗めの表情になっていたファラガット達は明るさを取り戻す。
ファラガットちゃん達は本当に心配していたんだな。ありがたい話だ。吹雪は心のの中で感謝する。
さて、今日は一層頑張るぞ! 吹雪はフォークでご飯もどきを口にかき込んだ。
チネリをしながらイベント攻略をしたのは世界中で私しかいないと思います。
この話を書くためにチネリ米と味噌汁もどきを作りました。チネリ米はいわずもがなですが、味噌汁もどきはそれっぽいのができました。それっぽいのが。不味くはなかったです。
実際、チネリをやってみて、チネリの何がキツいのかよく分かりました。本文で書いてますが、単純作業すぎて面白くないのです。無人島で疲労が溜まっている状態であれをやると寝てしまうのは無理もないと思います。何か映画などを見ながらするのならば、かなり精神的に楽だと思いますが。
今回、ウルヴァリン、セーブル、ファラガット、ショー、カッシング以外にたくさんのアメリカ艦娘を出しました。これからも増えていくでしょう。
まだ出して欲しいアメリカ艦娘の募集は以下のURLでやっているので、よろしくお願いします。米軍兵器の方もよろしくね!
http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=67657&uid=85043
余談ですけど、艦これ2015春イベントはすべて難易度甲でクリア。戦艦ローマ、駆逐艦磯風、朝雲を手に入れて最高です。磯風をドロップしたときは思わず側転してしまいました。やったぜ。