雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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第15話「米軍、東へ」

 アラバマ州のとある田舎町。その町外れにある踏切がカンカンカン、と甲高く、けたたましい警報機の音と共に遮断機が下り始める。

「急げ!」

 少年2人が警報器の音を聞いて、踏切の方へ走り始めた。渡れなくなる! 2人は全力疾走。しかし、その努力虚しく遮断機は少年達を通す前に完全に下りきった。

 少年2人はうなだれる。道路の縁石に腰を下ろした。

「あーもう。最近、列車長いんだよなぁ。嫌になるぜ。ドミニクもそうだろ」

「しょうがないだろ、キース。戦車とか、軍事物資とか運んでるんだから」

 最近、この踏切を通る列車は軍用列車が多かった。貨車に乗せているのは戦車や装甲車、野砲、時にはヘリコプターの時もあった。

「たしか深海棲艦への反攻作戦近いんだろ?」

「らしいね」

「らしいね、ってミリタリーマニアのドミニクがそう言うのか? もっぱらの噂だぞ」

「だって正式発表でもないし。ただの噂話じゃん。信憑性は高いけどさ」

 ドミニクはそういいながら、ゆっくりとやってくる軍用列車の方を見た。先頭は大型のディーゼル機関車だ。機関車が汽笛を鳴らす。

「今日の積み荷はなんだ? なんだ、またM60か」

 貨車には砲身を後ろに向けたM60A1パットンが2両ずつ乗せられている。そんな貨車が何両も続く。

「一昨日はM728戦闘工兵車が見られたから良かったけど、だいたいM60ばっかだ。面白くない」

「そう言われたってねぇ。M728戦闘工作車ってどんなのだったっけ?」

 ドミニクは流れていく貨車のM60A1パットンに指さして説明する。

「主砲をL9A1 165mmデモリッションガン(多目的破砕榴弾砲)に換えて、車体にクレーンとかドーザーとか付けたやつだよ。まあ、戦闘工作車なんて輸送するってことは本気で反攻する気なんだろうな」

 戦闘工作車は最前線での工兵作業に用いられる車両だ。例を挙げるとデモリッションガンで頑強な障害物などの破壊、損傷し、動けなくなった戦車の回収などに用いられる。

「へー。しかし反抗するといっても、海はどうするんだ。海軍は壊滅してるし、深海棲艦は海からいくらでも補給するんじゃないのか? それじゃあ、じり貧だろ、こっちは」

「艦娘のことは忘れたのかよ。この前大きなニュースになってたじゃないか」

「ああ、艦娘ね。今思い出した」

 艦娘が一般に報道されたのはセントローレンス湾攻略時であり、吹雪達や日本人技術者がアメリカに来たことも極秘にされていたが、バミューダ強襲作戦なども成功した昨今、艦娘は一般国民にも知られるようになっている。

「艦娘の女の子って美人だよなぁ。何でなんだろ」

 キースが呟く。キースの言うとおり、艦娘の容姿はかなり良い。かわいい系から美人系まで幅広い。

「確かに美人揃いだよなぁ。でも駆逐艦娘とか、あからさまに子供もなんだが。あれ良くないだろ」

「確かに子供だよな。軽巡洋艦娘に至っては俺たちと同年代くらいじゃないのか? ジュネーブ条約とかどうなったのやら」

 ジュネーブ諸条約第二追加議定書には非国際的武力紛争における15歳未満の児童の徴募及び敵対行為への参加を禁止、という文章があるのだが、艦娘が見た目通りの年だとすると完全に条約違反である。ちなみに女性軍人は深海棲艦本土上陸以来、増加の傾向があり、現在では珍しくはない存在になっている。

「かといって俺たちも今度、学校で銃撃訓練するじゃないか。まだ14歳の俺たちが徴兵されるとなると、これまたジュネーブ条約違反だぜ」

 キースとドミニクは今度、学校で軍人指導の下、実銃で射撃訓練を行うのである。今、ドミニク達が徴兵されるとすれば条約違反には間違いない。

「非常時だからいいの。しかも相手は人間じゃないし。それにしても銃撃訓練かぁ。絶対、委員長のジェーンがうるさくなるぜ」

「ちょっと男子、真面目にやってよ! って? さすがに銃を扱うんだぜ。みんな真面目にやるだろ」

「危ないもんな」

 キースは列車の方を見る。列車の列はまだ続いていて、踏切の遮断機は下りたままだ。しかし、貨車にのっているものが変わっていることに気づいた。キースはドミニクの肩を叩く。

「おい、ドミニク。コイツはなんだ? M60じゃないぜ」

「コイツ? コイツは……」

 ドミニクはすぐに貨車にのっているものの名前が思い出せない。車両であることは確かだ。

 砲塔はなく、ケースメート方式で105㎜級の戦車砲が備え付けられている車体。砲身が突き出ている所には丸い防楯。車体正面は上から見ると八の字になった傾斜装甲。車体後部上面にある巨大なラジエターと放熱板。そして古くさい形のキャタピラ。

 この車両の特徴を1つ1つ観察し、ドミニクが導き出した答えは――

「T28重戦車だ」

「T28? 聞いたことないぞ」

「そりゃそうだろう。T28重戦車は40年以上前に造られたやつだぞ」

 T28重戦車、またの名をT95戦車駆逐車ともいう。ドイツのジークフリート線建造計画や発展めざましかったロシア陸軍戦車、ドイツ陸軍戦車に対抗する為に開発された戦車だ。開発当初に装備した主砲はT5E1 105mm砲。当時の戦車砲としては最大級のものだ。そしてT28の装甲も300㎜と破格の厚さを誇っている。ただ、低馬力エンジンを採用したせいで走行性能は低い。

 おそらくは装甲の厚さを買われて倉庫から引っ張り出されてきたのだろう。さすがに40年前そのままというわけではなく、いくつか改修もされているようで主砲はM60パットンと同じロイヤル・オードナンス L7 105㎜砲に換装されているし、車体上部には遠隔操作式の20mm機関砲砲塔が新設されている。おそらくエンジンも高出力の物に変えられているだろう。

「この国はかなり逼迫しているのかもしれんな……」

「ドミニク、また別のが来るぞ」

 キースが指を差す。指を差された貨車には黒光りする大きな筒と灰色四角形のコンクリートの塊が載っていた。

「これは何だ?」

「これは……わからん」

「わかんないの?」

「さっぱり、わからん。おそらくは臼砲だとは思うが……」

 大きな筒は砲身だろう。しかし、その口径は1メートル近くはあるだろう。人が2人はすっぽりと入るくらいの大きさだ。こんな砲、見たことも聞いたこともない。さらに謎を大きくさせるのはコンクリート塊だ。いったい何に使うのかさっぱり分からない。大きな砲身とセットではあるのだろうが、一体何なのだろう? ドミニクは分からなかった。

 

「あれがA-15か……」

 テネシー州アーノルド空軍基地の滑走路に直線的な形状を持つ新型双発攻撃機が着陸した。基地の整備員は次々と着陸するA-15を興味津々な目で見つめる。

 A-15。愛称はストライクイーグル。第4世代ジェット戦闘機として開発されていたYF-15イーグルを攻撃機として設計し直した攻撃機である。

 戦闘機YF-15が攻撃機A-15として設計し直されたのは簡単な話だ。

 ヲ級やヌ級が発進させる深海棲艦航空機は20㎝程度と小さすぎて、通常の戦闘機では空戦ができない。逆に深海棲艦航空機にとってはジェット機はは速度差もありすぎて、攻撃ができない。陸と海では大激戦を繰り広げたが、深海棲艦と人類の間に空戦はあまり発生したことがないのだ。

 純粋な戦闘機は深海棲艦相手には役に立たない。攻撃機こそが必要だ。ということで、戦闘機の開発計画凍結された。

 凍結された計画の中にはYF-15もあった。YF-15もそのままお蔵入りになるはずだったが、開発元のマクドネル・ダグラス社が待ったをかけた。YF-15は機体強度や機動性が良いため、本格的な対地攻撃機として設計変更する声明を出したのだ。そして完成したのがA-15である。

 A-15はYF-15から大幅に設計変更し、防弾性や生存性を高め、米空軍が運用しているありとあらゆる対地兵器を装備できるようになった。元が戦闘機なので運動性もよく、米空軍はするに採用、量産指示を出した。

 その量産期が今、アーノルド空軍基地に降り立ったのだ。

「数は18機、一個飛行隊分だな。昨日はYF-17とYF-16が一個飛行隊ずつ来たが、機種がこんなに多かったら、整備が大変だな」

 ある整備員がぼやく。アーノルド空軍基地は今降り立ったA-15も含めると、YF-16、YF-17、F-105、F-111Aと実に5機種の航空機がある。その内、新型機は3機種で、この数を整備するとなると徹夜仕事どころではないだろう。

「YF-17とYF-16、A-15はメーカーの整備員がやるらしいぞ。ジム、だから俺たちは今まで通りだ。F-105とF-111Aの整備だけやればいいの」

 ジムと呼ばれた整備員の隣にいた整備員が答える。ジムと呼ばれた整備員はなるほど、とうなずく。

「こうなると今度ある攻略作戦は兵器の見本市になりそうだな」

 ジムは呟く。今度ある作戦、ノーフォーク攻略作戦のことだが、空軍がこの作戦に投入する予定の機体は何種類もある。

 まず、空軍の主力戦闘機であるF-4ファントム。低空侵入爆撃などを請け負う攻撃機F-105サンダーチーフやF-111Aアードバーク。そしてCAS(近接航空支援)任務を行う新型攻撃機A-10サンダーボルトⅡとAC-130。絨毯爆撃や巡航ミサイル発射母機となるB-52とB-47。電子戦を行うEF-111レイブン。偵察機のU-2や新型機攻撃機のA-15ストライクイーグルや実戦でトライアルを行うYF-16とYF-17。さらに海軍から移籍したA-4、A-6、A-7、EA-6なども投入する予定だ。

 

 戦車車輸送用大型キャリアカーであるM1070トラクターが何台も、ある戦車を載せて工場から出て行く。

 戦車工場の主任と社長がそれを見送る。

「社長、ようやくMBT-70の出荷がすべて終わりましたね」

「まったくだ。陸軍は発注はしておきながら、陸上型深海棲艦が弱いとしてると発注キャンセルして、今になって、製造途中だったものを完成させて明け渡せ、だからな。それも正式採用はしないときた。ふざけてるよ」

 M1070トラクターに載せられていた戦車の名前はMBT-70。ドイツと共同開発していた戦車だが、深海棲艦の跳梁により共同開発は不可能になった。しかし、アメリカは深海棲艦上陸に備えて、独自に開発完了した。

 主砲には120㎜ライフル砲。副武装は20㎜旋回機銃と7.62㎜機銃。装高厚は最大250㎜。1500馬力ディーゼルエンジンを積み、最高速度は時速60㎞。攻守走共に全てそろった戦車である。

 高い性能を持つMBT-70だが、完成した時点で深海棲艦はアメリカ本土上陸していた。米陸軍はM48パットンやM60パットンで迎撃を行ったが、その結果、「陸上型深海棲艦は予想していたまで強くはない」ということが明らかになった。強くないといっても数はかなりのもので、米陸軍は後退をし、山脈地帯に陣地を築いて防衛することにした。

 アメリカ陸軍は当初、MBT-70を1000両以上発注していたが、既存の戦車でも十分、深海棲艦に対抗できると知ると、MBT-70の発注をキャンセルした。開発した会社は憤慨した。製造ラインまでもうできあがっており、組み立て途中のMBT-70は100両以上あったためである。

 つい最近まで法廷で賠償などについて争ってきたが、1月ごろに製造途中だったMBT-70を完成させて、出荷しろという要請がきた。陸軍のわがままにこれまた会社は憤慨したが、元々の出荷額の倍は払うということで納得した。こういうことで法廷も決着はついた。

 そして今、最後のMBT-70が出荷されたのである。

「もうこりごりだね。あんな陸軍のわがままは」

 社長は悪態をつくと、踵を返して工場の方に入っていった。

 

 アメリカ軍は投入できる戦力すべてでノーフォークを攻略する。失敗は許されない。そのために西海岸側の戦力もある程度引き抜くこともするし、倉庫に眠っている旧式兵器だろうと、一度発注キャンセルした戦車だろうと、試作の航空機だろうと何でも投入する。

 もうすぐアメリカ史に残る大規模な作戦が始まろうとしていた。

 




 試作兵器、旧式兵器だろうが投入です! T28重戦車なんてゲデモノを書く機会なんてこれ以外ない!
 A-15についてですが、愛称の通り、こっちの世界でのF-15Eです。F-15Eほどの能力はありませんが。ちなみにYF-17はF/A-18ホーネットの試作機のことです。
 物量と質を両立しているアメリカ軍が深海棲艦に挑みますよ! はてはてどうなることやら。ご期待ください。

 今日朝起きて、小説情報を確認して、調整平均評価のところが真っ赤になっていて驚きました。そして一気に10以上増えたお気に入りにちょっと恐怖しました。皆さんありがとうございます。これからも頑張ります。

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