雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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 最近、忙しくて3週間ほど投稿ができませんでした。すいません。
 
 それと「艦これ―variety of story―」で投稿していた「太平洋を越えて」を加筆修正した上で、「雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-」に第2話「太平洋を越えて」として投稿し直しました。
 大まかなストーリーは変わっていませんが、この第18話で第2話で出てきた話を書いています。なので、先に第2話から読まれた方がよろしいと思います。

URL:第2話「太平洋を越えて」その1:http://novel.syosetu.org/43325/2.html


第18話「レコンキスタ」

 艤装整備棟の隣にある広い道路で深海棲艦のイ級のようなものが跳んだり跳ねたりしていた。所々角張った形。変に光沢のある色。そのイ級のようなものの周りを工作艦メデューサと艤装整備員が囲って見ていた。

「じゃあ、頭の上の方の金具を引っ張って」

 メデューサがイ級のようなものに向かって叫ぶ。「分かったー」と中から返事。イ級のようなものが動きを止めた次の瞬間、真っ二つに縦に割れた。2つのパーツが地面に転がりけたたましい金属音を立てる。

 中から現れたのは大型巡洋艦アラスカだった。

「いい感じじゃないの。高さもちょうどいいし。すぐに外せるし」

「あと2人入るからね。実戦じゃ、あんな風に動けないから、そこはよろしく」

「えー」

 メデューサの言葉にアラスカは口をへの字にする。

 先ほどまでアラスカが被っていたイ級はメデューサと艤装整備員達が鉄パイプとキャンバスで作ったかぶり物だった。鉄パイプを溶接で骨を造り、キャンバスを接着剤で付けて、目玉や口、牙が描き込まれている。

「初めにフブキの話を聞いたときはイ級の死骸の中身をくりぬいて被るのかと思ったけどね」

「そんなわけないじゃない。遺骸の回収だって難しいのに」

 このかぶり物のアイデアは吹雪が発案し、すぐに採用された。

 湾に突入するのは夜。敵味方識別が難しい夜ならば、このかぶり物は効果をはっきするだろう。近距離戦になるのなら乱戦になるが、陣形を組んで戦闘をするよりマシだ。

「まあ、これをあと6つ作らなきゃならないのは大変だよ」

「へー、4つ。1つ3人で6つか。1つ作るのにどれくらい?」

「9時間くらいだったかな。慣れってものがあるから次からは短くなるだろうけど」

「へえ。これが一般装備になったら面白いかもね」

 メデューサはこのイ級のかぶり物が工場のラインに並んでいる様子を想像した。流れ作業で溶接組み立てがされ、キャンバスが被せられ、スプレーガンで塗装されていく。もし本格生産となったら実に不思議な光景になるだろう。 

 

 翌日の朝。艦娘達は司令部のブリーフィングルームに集められていた。

 ノーフォークの作戦が近い。作戦の話に違いない。

 いつもならディロンが入ってくるまでおしゃべりをしているのだが、今日は違った。きりりとした緊張感がブリーフィングルームに張り詰めている。艦娘になって初めて大規模作戦に参加するのは吹雪達、日本の艦娘を除けば全員だ。しかも戦場はアメリカ本土。気持ちの入れようが違う。

 ディロンと副官のロナルドが入ってきた。艦娘達は立ち上がり、敬礼する。ディロンは壇上机の後ろに立ち、ラップトップパソコンを開く。ロナルドはプロジェクターの準備をする。

「おはよう諸君。集まってもらったのは他でもない。ノーフォーク攻略作戦の概要を説明する」

 来た。艦娘達が生唾を飲み込む。明かりが消され、スクリーンにアメリカ東海岸の地図が映された。

「作戦名は『レコンキスタ』と決定された」

 レコンキスタ? はて? 吹雪達は頭の上に疑問符を浮かべた。吹雪は隣のファラガットに意味を尋ねる。

「スペインが中世にやった国土回復運動のことよ」

「ああ、意味的にはそのままなのね」

 レコンキスタ。日本語では意訳で国土回復運動、直訳で再征服運動になる。中世のスペインはイスラームが相手だったが、今回は深海棲艦。人間ですらない。

 副官のロナルドが吹雪とファラガットをしゃべるな、と言うように睨みつける。おー、怖い怖い、とファラガットは呟く。 

「作戦開始は2週間後の5月1日に開始する。前々から言ってきたことではあるが、レコンキスタ作戦は陸空軍との共同作戦になる。海軍は陸軍の動きに応じて行動することになる」

 ディロンは米陸軍の動きを簡単に説明する。

 米陸軍は2つのルートでノーフォークを目指す。ペンシルベニアからワシントンを経由して南下してノーフォークを目指すルートとウエストバージニアから東進してノーフォークを目指すルートの2つ。作戦としては縦深を重視した攻撃を予定しており、広い範囲での突破攻撃を行う。簡単に言えば、敵が反撃する暇もないくらいに雨あられの砲撃を行って、機械化部隊が突撃し続ける、という感じである。艦娘達には陸のことはさっぱりだったので、あまり理解できなかったが、スピードを重視した作戦ということだけは分かった。

「さて、我々の作戦の説明に入るが、まず君達を2つの部隊に分ける」

 ディロンはラップトップパソコンの画面を見ながら、名前を読み上げていく。空母サラトガ、タイコンデロガ、プリンストン、ラングレー、ボーク、ナッソー、戦艦ネバダ、オクラホマ、メリーランド、重巡ルイビル、軽巡アトランタ、エリソン、ベネット、プリングル、ルース、水上機母艦ラングレー。

「今呼ばれた者は第100任務部隊所属になる。以後TF100(Task Force 100)と呼称する。次に、」

 大型巡洋艦アラスカ、重巡ペンサコーラ、インディアナポリス、軽巡オマハ、マーブルヘッド、トレントン、駆逐艦エドサル、バリー、吹雪、白雪、深雪、初雪、ファラガット、ハル、モナハン、ショー、カッシング、ベンハム。

「今呼ばれた者は第101任務部隊所属になる。以後、TF101と呼称」

 続いてディロンはTF100とTF101の作戦について説明していく。

 TF100は敵航空兵力の吸引が目的になる。簡単に言えば囮だ。陸軍にとって撃墜できない深海棲艦航空機は一番の脅威であり、なんとしても排除しなければならない。

 そのためにTF100は深海棲艦の注意を引くために、陸軍よりも早くノーフォーク東海域に展開する。そして戦闘機を発艦させ、防空体制を整える。一方、深海棲艦が航空機を発進させるタイミングを狙って米空軍の攻撃部隊と米陸軍の巡航ミサイル砲兵によるノーフォークに空襲を行い、敵が空に上がる前に全て始末する、という具合だ。

 しかし、ヲ級などの空母は撃破することができない可能性が高いので、TF100は攻撃隊を発艦させ、敵空母を攻撃、撃破する。戦力的にはTF100が劣勢だが、攻撃は空軍の電子支援の下に行われるので、TF100は深海棲艦より圧倒的有利な状況で戦闘ができる。攻撃後は潜水艦部隊を残してすみやか撤退する。

 これを聞いてサラトガは胸をなで下ろした。せいぜい自分たちが相手する敵機は多くとも300機だろう。それなら数だけは同等、まだやりようがある。

 ディロンは次にTF101の作戦行動を説明する。 

 TF101はノーフォークに夜襲をかけ、敵艦隊を撃滅することが任務になる。

 湾内侵入までは深海棲艦のイ級に偽装し、湾内突入後に偽装を解除。戦闘に移る。湾内突入前には空軍による空襲が行われ、深海棲艦が混乱している間にTF100が撃ち漏らした空母を撃沈する。空母撃破後は他の敵を掃討を行う。しかし深追いはしてはならない。敵艦隊が反撃の体勢を整えたらすぐに撤退する。撤退時にも空軍による支援が行われる。

「レコンキスタ作戦の成否は諸君らの活躍にかかっている。しかし、決して無理はするな。死んだら元も子もない。それだけは分かっておいてくれ」

 ディロンは一人一人の艦娘の顔を見て言う。幼い少女達。自分たちが情けないからこんな少女達に任務を任せている。もし自分が戦場に出れるなら、出てやりたいものだ。

「何か質問は?」

「空軍の支援は信用できるのですか?」

 立ち上がって質問したのは吹雪だった。吹雪はバミューダ強襲以来、米空軍の能力を疑問視していた。TF100もTF101も米空軍ありきの作戦を行うのである。もし米空軍がきちんと仕事ができなかったとき、割を食うのは艦娘達である。

「今回ばかりは信用できる。レコンキスタ作戦では無誘導兵器だけではなく、ミサイルなどの誘導兵器が大量に投入される。火力だけで言ってもバミューダ強襲の時の比ではないぞ」

 吹雪は少し不満げな表情だったが、分かりました、と言って座った。

「他には?」

「TF100にもTF101にも呼ばれなかった艦娘は何をするのですか?」

 今度は不服げなセーブルから質問。TF100にもTF101にも呼ばれなかったのは空母ウルヴァリン、セーブル、戦艦ユタ、工作艦メデューサである。攻撃部隊に加えるには性能が低い者達である。

「呼ばれなかった者は基地の防衛を行ってもらう。みんなが帰る家を守る役目だ。重要だぞ」

 分かりました。セーブルは満足げにして座った。

 この後、質問はなく、ブリーフィングは終わった。

 

 偽装イ級のかぶり物を3人で被って航行できるか、即時に外せて戦闘には入れるかの試験をした後、吹雪達、TF101はおのおの休憩に入っていた。夕食を食べた後には実際に夜間演習である。

 休憩時間をどう過ごすか。基地外に遊びに行く者もいれば、部屋で本や映画を見る者、装備の点検をするもの、様々だ。

 吹雪は部屋で刀の手入れをしていた。ミッドウェーからアメリカに旅立つ前に日向から渡されたあの刀である。

 吹雪は拭い紙で刀身から古い油を取り除く。古い油は錆びの元だ。もっともステンレス刀なのだから、そう簡単に錆びはしないが。

「吹雪ちゃん、レコン……なんだっけ?」

 深雪に借りた漫画を仰向けの体勢で読んでいる白雪が吹雪に声をかけるが、言葉が詰まる。「レコンキスタ」と吹雪が補足。

「そう、レコンキスタ。レコンキスタ作戦でそれ使うの?」

「うん。たぶん乱戦になるから。せっかく日向さんに持たされたんだから、使ってあげないと」

 古刀ではなく、現代刀。それも人を切るためではなく、深海棲艦を切るために生まれてきた刀。せっかく砲より刀の方が早い距離の戦闘があるのなら、使ってあげないと可哀想だ。

「そういえば、刀以外にも日向さんに瑞雲を持たされてたよね。あの瑞雲どうしたの?」

「ラングレーさんにあげた。水上機母艦の方の」

 アメリカに来て、吹雪は日向に渡された瑞雲の扱いに困っていた。吹雪達、駆逐艦は使えないし、かといって使わずにどこかに飾っておくのももったいない。そう悩んでいた頃、ちょうど良く水上機母艦ラングレーが建造された。

『ズイウン?』

 吹雪がラングレーにズイウンを譲る際、機体性能などの説明をしたのだが、そのとき、ラングレーは瑞雲の性能についてあり得ない、という顔をして、次のことを言った。

 水上機のくせに448㎞/hも出て、250㎏爆弾積めて、急降下爆撃できる? ダイブブレーキまで付いてる? 空戦フラップが付いているから、いざというときは空戦もできる? なにそれ、わけわかんない。

 吹雪はラングレーの言うことはもっともだな、と思った。瑞雲は水上偵察機として開発されているのに、急降下爆撃機、戦闘機としての多用途性能を追求している。対米海軍戦略の漸減戦法の中で艦爆の数を補うためらしいが、実際に漸減戦法通りには行かなかった。吹雪が沈んだ後の実戦配備だったので、吹雪自身はよく知らないが、戦闘機としては活躍することはなかったらしい(空戦事例はあったそうだが)。夜間襲撃や魚雷艇迎撃では戦果は上げたらしい。

 今になっては、ラングレーは瑞雲に魅了されたのか、常に水上機隊の先頭に飛ばしている。実際、つい最近ラングレーに配備されたF4Fの水上機型F4F-3Sより性能が良いのだから、当然かもしれない。

「あげちゃっていいの?」

「かまわないと思うよ。日向さんも瑞雲のすばらしさを広めてくれ、って言っていたし」

 もし瑞雲をコピー生産するなんてことになったら、日向さんは大喜びするだろうな。もしかしたら踊り出すかもしれない。

 吹雪は打粉で刀身を叩きながら、ふとそんなことを考えたが、ないな、と思い直した。所詮下駄履きの航空機。艦上機に比べれば鳩と鷹だ。水上機母艦の千歳と千代田が空母に改装されたことを考えれば、瑞雲のコピー生産などあり得ないだろう。

 瑞雲のことを考えていると、日本のみんなが懐かしく思えてきた。

「みんなは元気にしているかな?」

「きっと元気にしてるよ。新しい艦娘も着任して、わいわい騒いでるんじゃない?」

「東雲とか薄雲も着任したかな?」

「どうだろう?」

 東雲、薄雲、白雲、浦波。姉として吹雪は妹がどのような姿なのかは気になる。どんな姿であっても、元気にやっているのなら、吹雪としては嬉しかった。

「みんな、元気だったらいいよね」

 吹雪は拭い紙で刀身を拭き、油塗紙で薄く油を塗りながら、言った。これで刀身の手入れは終わりだ。茎を柄に入れ、目釘をさして、鞘に収める。

 ちょうど鞘に刀を収めたとき、部屋の扉がノックされた。

「フブキ、ちょっと聞きたいことがあるのだけど……何それ?」

 ショーだった。ショーは吹雪の持つ刀を凝視している。

「え、えっと」

 吹雪は言葉に詰まった。果たして日本刀はどう訳したら良いのだろう? Jpanese blade? それともJapanese sword? しかし、swordは刃が付いていないらしいし、かといってbladeは薄い板という意味だし……果たしてどっちを使ったら良いものか。もしかしたらkatanaでも通じるかもしれない。

「ああ、日本刀(Japanese sword)ね」

 Jpanese swordらしい。日本人からしたら剣と刀は違うものなのだが、アメリカ人枯らしたら同じなのかもしれない。

「本当に日本刀? 本当に?」

「うん、日本刀だよ」

「持ってもいい?」

 吹雪は刀をショーに渡す。ショーは刀を掲げてみたり、腰に差してみたり、抜いてみたりする。そのはしゃぐ姿はまるで子供だった。いや、見た目は実際、子供だが。

「名前はあるの?」

「たしか、瑞草だったかな? 意味的には祝福の草って感じ」

 瑞雲の瑞の字を入れる辺り、日向さんらしい。

「面白い名前ね。これレコンキスタ作戦に使うの?」

 吹雪はうなずく。ショーは抜いた刀を鞘に戻し、吹雪に返した。

「いいなぁ。私もこういうの欲しい」

 ショーは両手を合わせ、目をキラキラさせながら、何か想像しているようだった。おそらく、自分が刀を持って暴れ回っているのを想像しているのだろう。

「でもアメリカじゃ、トマホークかしらね」

 トマホーク。ネイティブアメリカンが使っていた手斧である。現在では柄を強化プラスチック性にしたトマホークが米陸軍に採用されている。

「主計課に申請してみたら? 手配してくれるかも」

「そっか! 掛け合ってみる!」

 ショーは勢いよく部屋から出て行った。

「ショーちゃん、何か聞きに来たみたいだけど何だったんだろ?」

「さあ?」

 吹雪は日本刀を再び抜き、掲げる。紫電清霜の刀。「これがあればアメリカの艦娘に舐められることはないだろう」と言った日向さんの言葉は正しかったのだろうか? 微妙なところだ。

 




  現在の所、第100任務部隊(TF100)にはラングレーが2人います。水上機母艦ラングレーとインディペンデンス級空母ラングレーの2人です。混乱なきようお願いします。
 ちなみに他の艦娘は水上機母艦ラングレーを「ラングレー」、インディペンデンス級空母ラングレーを「アイ(I)・ラングレー」と呼んで区別しています。

 あと最後のトマホークの件ですが、こっちの世界でも米陸軍は採用しています。本当ですよ。イラク戦争で敵兵の頭をかち割った逸話があります。


 ようやく次話から「レコンキスタ作戦」に入ることができます。長かった。
 失踪したのではないか、と心配させてしまったかもしれません。すいません。
 これからしばらく投稿が不規則かつ、遅くなりますが、今後ともよろしくお願いします。質問や感想等は返せますので、どしどしどうぞ。

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