雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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ちょっといつもより短いけど投稿します。


第19話「大西洋への道」その2

『陸上における深海棲艦との戦いは質の面では人類側が圧倒的に有利であった。

 上陸したばかり深海棲艦は動きは鈍いうえ、障壁の展開すらできず、ヨーロッパ戦線では歩兵の集束手榴弾程度で撃破した例もあるほどだった。

 陸上では不利なことをすぐに深海棲艦は学習したのか、上陸した後は陸の環境に適応するまで、無理に戦線を広げないようになった。(陸の環境に適応した深海棲艦の詳細については別項で記載しているため、ここでは省略)

 しかし、陸に適応した深海棲艦も現代兵器の前には大苦戦だった。イギリス戦線でのダイダロス作戦においてのことだが、孤立したチーフテンMBT1両が弾薬がなくなり、撃破されるまで、29両の戦車型を撃破した事例があった。他にもヨーロッパ戦線でのヴァン作戦ではAMX-30MBTの1個中隊が戦車型61両撃破する戦果を上げたこともあった。

 航空機による支援攻撃もミサイルやクラスター爆弾がふんだんに使用された場合、深海棲艦側は手も足も出ず、一方的に撃破された。

 ここまでの性能差が存在するのに陸上戦においても人類側が劣勢に立たされた理由は深海棲艦の「兵器コピー能力」である。人類側は艦娘戦力が充足するまで、ミサイルの使用禁止や粘着榴弾、成型炸薬弾の使用禁止などの枷をかけた状態で戦ったために、苦戦したのである。

 実際、この使用禁止令などの判断は間違いではなかった。ヨーロッパ戦線における最後の陸上戦であるダンケルクの戦いでは深海棲艦側はコピーに成功した成型炸薬弾やミサイルが使用され、フランス・ドイツ連合軍は小さくない被害を出している。もし深海棲艦上陸当初から現代兵器が使用されていた場合、戦没者の数は20倍になっただろうと言われている。

 しかし、深海棲艦が現代兵器をコピーするまでには時間がかかる。そのコピーにかかる時間内に深海棲艦を海に追い落とした代表例はアメリカ戦線でのレコンキスタ作戦である』

               『人類はどう戦ったか(2041年発刊)』より抜粋

 

 南ルートで進軍中の米陸軍は快進撃を続けていた。先陣を切るのはT-95戦車駆逐車30両。側面を固めるのはM103A2ファイティングモンスター重戦車50両。深海棲艦が構築したコンクリート陣地に向け砲火をものともせずに進んでいる。

「老いぼれだって舐めてもらっては困る!」

 T-95は自慢の装甲で砲台型、戦車型からの砲弾をことぐごとくはじき返していた。30年間近く死蔵されていたと言っても300㎜もの装甲圧は最新のMBT-70にだって負けはしない。

 T-95はM68 51口径105㎜ライフル砲を発射。敵のトーチカを吹き飛ばす。土に混ざって芋虫たちが舞い飛ぶ。滑走していく芋虫たちには20㎜機関砲弾の雨を与える。

 塹壕でハルダウン(地形を利用して砲塔のみを突き出し、車体部分を防御する戦術)をしていた戦車型が飛び出してきた。

「とち狂ってお友達にでもなりに来たのかい?」

 戦車型はやけくそ気味のようで、回避するそぶりもなく、まっすぐ突っ込んできた。T-95は遠慮なく、粘着榴弾をお見舞いする。命中した戦車型は爆散する。

 戦車隊が迫っている深海棲艦のコンクリート陣地の裏側ではヘリボーンした第101空挺師団が戦闘を行っていた。要は挟み撃ちにしているのである。

 事前爆撃から生き残った砲台型を全て始末し、芋虫型が潜むタコツボ群を火炎放射器で焼いていく。芋虫が這い出てきたところをM16ライフルで的確に始末する。

 ハルダウンしていた戦車型が壕から飛び出て反撃しようとするが、上空のAH-1TコブラのTOW戦車ミサイルで撃破される。

 やがて第101空挺師団はコンクリート陣地の上部を制圧した。しかし、内部の制圧は難しかった。

「穴だぜ。こりゃ無理だ。入れん」

 陣地内部への入り口は芋虫型が入れる縦横60㎝ほどの大きさで人間が入れる大きさではなかった。

 陣地は移動することができない。放置という選択もあったが、後方から攻撃される可能性はできるだけ排除しておきたかった。どうするか。方法はいくつかあったが、最も簡単な方法が選ばれた。

 兵士達はスコップを手にとって、入り口に土を入れていった。いわゆる生き埋めである。塹壕の構築ができるのだから、穴を別の出口を新しく作るかもしれないが、これが手っ取り早い。うまくいけば中の陸上深海棲艦は窒息死だ。出てきたとしても何個小隊か警備部隊を残していれば安心だ。

 コンクリート陣地は無力化した。無力化戦車隊はそのまま進撃、第101空挺師団は補給と再編成のため、一部の兵を残して後退する。

 

 ワシントンDCから西北に20㎞の平野では戦車戦が発生していた。事前攻撃により敵勢力はほとんど撃破していたのだが、残存勢力が残っていたのである。

 砲塔やキャタピラを持ち、すっかり成長した戦車型陸上深海棲艦35両がM48A5パットンの一個中隊に襲いかかる。

 M48A5パットンの各小隊は後方にいる機械化歩兵を守るため、楔形の陣形(小隊傘型隊形)を取り、迎撃する。M68 105㎜ライフル砲を戦車型陸上深海棲艦に放つ。APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)は音速の約4倍近くの1,490m/sで飛んでいき、戦車型に命中。しかし、

「なに!?」

 砲弾が命中した戦車型は動き自体は鈍くなるもののまっすぐ突っ込んでくる。その理由はAPFSDSの形状にあった。APFSDSは矢状の砲弾であり、生物である深海棲艦には大きな損害にはならなかったのだ。

 戦車型は走りながら何発も撃ち込むが、食事の角度(車体を相手に対して斜めに取ることで装甲を最大限に活用する方法)をとっているM48A5の装甲は砲弾を全てはじき返す。

 M48A5側の発見が遅かったせいもあり、戦車型との乱戦に持ち込まれる。

 戦車型の仰角なしの零距離射撃。真っ黒な砲身から放たれた徹甲弾はM48A5の丸い砲塔に弾かれる。

「HESH(粘着榴弾)装填! 撃てっ!」

 冷静に照準を合わせて、発砲。粘着榴弾は的確に戦車型の砲塔正面に命中。弾頭が装甲にへばり付くように潰れて起爆する。戦車型は砲塔内の臓器をぐちゃぐちゃにされて死ぬ。

 M48A5の中隊は敵戦車を全て撃破。1両の損害も出さずに進撃を再開させるが、再開させた矢先、戦闘の隊長車が爆発した。

 何事!? それは側面にある森にいた砲台型陸上深海棲艦の攻撃だった。M48A5が側面を晒した瞬間を攻撃したのである。戦車にとって側面は打たれ弱い。

 砲台型は次々と砲撃し、M48A5を次々と撃破していく。M48A5側も反撃を行うが、砲台型の正確な位置をつかめていないので、効果は薄い。5両、6両と撃破されていく。機械科歩兵はM113装甲車から降車し、森へ銃撃し始めたがあまり意味はない。

 救援要請でAH-1Tコブラ4機が駆けつけたが、森の中には対空砲もいたのか、いきなり2機が撃墜されてしまった。

 残った2機がハイドラ70ロケット弾を発射。森の中で何重もの爆発が起きる。それでも森の中にいる砲台型は沈黙せず、砲撃を行う。コブラ2機も被弾して後退してしまった。

「ポンコツ蛇が!」

 M48A5の搭乗員は悪態つき、航空支援もしくは砲撃支援を要請する。M48A5パットンだけではなく、機械科歩兵の方にも損害が出始めていた。

 そんなとき、森の中にいくつもの光の槍が飛んでいった。そして、ぶぉぉぉぉおおおおおおおん、という重低音。

 A-10サンダーボルトⅡ2機のGAU-8 30mmガトリング砲アヴェンジャーの射撃だ。とどめにナパーム弾を投下。森が2000℃の炎に包まれ、砲台型深海棲艦は燃え、融け、爆発四散した。

 陸からは歓声が上がる。A-10 2機は颯爽と飛び去っていった。

 

 

 サラトガが西の空を睨む。敵攻撃隊との距離は30㎞を切った。

 サラトガのレーダーには未だ130機ほどの敵機が映っている。こっちの生き残りは60。当初、迎撃に上げた120機のF4Fの内半分の60機が落とされて、敵機が150機落ちているのならば、かなり善戦したと言えるだろう。

「対空戦闘用意!」

 サラトガが命令を下す。それにしたがって各艦娘が高射砲を構える。この中でレーダー射撃ができるのはタイコンデロガ、プリンストン、アイ・ラングレー、ベネット、アトランタ、プリングル、ルースだけだ。VT信管砲弾はなし。サラトガの額に汗がにじむ。

 敵機編隊が射程距離内に入る。

「撃ち方はじめ!」

 各艦娘の高射砲が火を噴き、空に黒い花が咲き乱れる。敵機はそれにめげることなく、TF100に近づく。

 勘違いされやすいのだが、対空迎撃というのは敵機を撃墜することが主目的ではない。戦間期までは撃墜するのが目的だったのだが、第二次大戦では航空機の高性能化により撃墜することが非常に難しくなった。そのため、空域を飽和するような弾幕、敵機の飛行経路へ弾を送り続け、投弾などを妨害するようになった。攻撃機は爆弾や魚雷を落としてしまえばもう何もできないのだから、それで良いのである。

 しかし、TF100のほとんどが艦娘になってからの実戦経験は少ない。組織的な濃密な弾幕や進路予測攻撃は難しい。とにかくTF100は撃ちまくって撃ちまくって撃ちまくった。敵機は外見がほぼ一緒なので行動パターンで見分けるしかない。急降下爆撃機は縦陣。雷撃機は低空水平飛行。そんなおおざっぱな判断で艦娘達は回避行動を取った。

 一方、敵機の攻撃も統制が取れていなかった。空軍のECMによりお互い連絡が取り合えないのか、数機ずつばらばらに攻撃してくる。

 TF100は突っ込んでくる敵機編隊一つ一つに弾幕を集中させ、投弾を妨害する。

「きゃっ! ひ、被弾!」

 それでも被弾するときは被弾した。

 しかし、攻撃は20分ほどで止んだ。F4Fの攻撃で攻撃側もかなり消耗していたのだ。爆弾や魚雷がなくなった攻撃機は逃げ帰り、戦闘機は名残惜しそうに適当に機銃を撃って退散していった。

 サラトガは周りを見回して安堵する。沈没艦はいない。サラトガ自身は小破。ボーク、アイ・ラングレーも小破。タイコンデロガとナッソー、ルース、エリソンは中破。プリンストンだけが大破しており、そのほかは機銃のかすり傷程度だ。

「さて、そろそろかしら」

 サラトガは呟く。TF100が放った飛行隊が攻撃を始める頃だった。




 今回の補足解説。戦車型陸上深海棲艦などについて。
 砲塔とキャタピラが付いた奴→距離500mで貫通力130㎜くらいの砲、装甲圧は80㎜くらい。ドイツのV号戦車パンターくらいの性能。外見はまがまがしい。
 森の中にいた砲台型→距離500mで貫通力180㎜くらいの砲。装甲・機動力はない。性能的にはドイツの8.8 cm PaK 43。
 ちなみにM48A5パットンは装甲圧最大120㎜(傾斜装甲多用)。砲は距離500mで貫通力260㎜くらい(ゲームからの引用だから正確には分からない)の砲。
 
地上戦の描写難しい。海や空なら地形描写とかがあまりいらないから楽だけど地上戦は大変。バミューダの時は「島! 滑走路! 平ら! 夜! 暗い!」で済んでいたのが本土戦になると平地、丘、塹壕、陣地、森、空、市街、地下に加え、敵味方たくさんだから大変だ。ノーフォーク戦は地上戦が肝だから、私頑張る。(というか、吹雪が2話続けて出ていないのだけど良いのかな?)
 感想お待ちしています。

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