雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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いったい19話は「その○」まで続くんだろう?


第19話「大西洋への道」その3

 TF100が放った攻撃隊は敵機の妨害を受けることなく、まっすぐ西へ、敵艦隊の方へ飛行していた。

 攻撃隊の編成はF4Fワイルドキャット49機、SB2Uビンジケーター30機、SBDドーントレス35機、TBDデバステーター40機、そして最新鋭のTBF-1アヴェンジャー21機の総勢175機。

 TF100を襲った敵攻撃隊よりも100機近く少ないが、敵艦隊はECMでレーダーを使えない。そして攻撃隊を放った後。守りは薄いはず。これだけでも十分な打撃力を持つはずだった。

 視力の良いパイロット妖精は水平線に深海棲艦を認めた。様々な方向から攻撃するため。攻撃隊はそれぞれ別の方向に分かれる。

 25㎞。20㎞。15㎞。距離はどんどん縮まっていく。そして10㎞。このときになってやっと敵艦隊が高射砲を撃ってきた。しかし、かなり見当違いのところで砲弾は爆発している。

 ほう、ECMというのはすごいな。ドーントレスのパイロット妖精は感激する。

 深海棲艦はelite、flagshipクラスとなるとレーダーを持つものが多くなる。したがってレーダー射撃も行ってくるのだが、そのレーダーは空軍の電子戦機のECMによって無効化されている。レーダーを使ってきた深海棲艦にとって今は目隠しの状態で攻撃しているのと同じようなものなのだ。

 敵艦隊の編成は、空母ヲ級6隻、軽空母ヌ級1隻、戦艦ル級3隻、タ級1隻、重巡洋艦5隻、軽巡8隻、駆逐艦イ級、ロ級4隻。総 28隻。

 最重要目標は空母だ。空母7隻をすべて沈めてしまえば、TF100は完璧に仕事を果たし、TF101の役目はなくなると言っても良いだろう。

 やったろうぜ! 敵艦直上、ドーントレス隊はダイブブレーキを開いて急降下。隊長機の妖精は照準器にヲ級を捉える。

 敵艦の弾幕の中、ヲ級が照準器一杯になったところで500ポンド爆弾を2発投下。後続機も続いて落としていく。5発が帽子に直撃。爆撃を食らったヲ級は海面に倒れる。

 一番先に雷撃を敢行したアヴェンジャー隊は戦艦3隻の弾幕射撃の中を突っ込む。アヴェンジャーの狙いは敵旗艦らしきヲ級flagship。護衛のル級flagshipがヲ級を囲むようにして防御している。

 猛烈な弾幕。その中をアヴェンジャーは突き進む。次々と被弾。数機が海面に突っ込む。それでも残りのアヴェンジャーは止まらない。輪形陣を突き抜ける。ヲ級目がけて魚雷を投下。

 数本がル級が身代わりになって、そしてさらに数本が外れたが、3本がヲ級に命中した。 膝から先を失ったヲ級は崩れ落ちる。立ち上がろうと藻掻くところにビンジケーター隊が爆弾を投下。ヲ級は避けられもせず爆散した。

 数隻のヲ級が艦載機を発進させるが、機速が上がっていない状態の所をF4Fが打ち落とす。自分の艦載機が落とされるところに気を取られたヲ級は回避運動を怠り、被弾する。

 様々な方向からの波状攻撃。深海棲艦は次々と被弾していく。最初は比較的統一の取れていた対空弾幕はだんだんばらばらになっていき、効果を発揮しなくなる。深海棲艦はなぶられ放題だった。

 全機が魚雷、爆弾を投下し終わり撤退する。敵空母3隻撃沈。まずまずの戦果であろう。さすがに7隻全てを撃沈することはできなかった。

 一方、深海棲艦はレーダーが使えず、奇襲されたといっても善戦したとも言える。空母ヲ級は3隻が無被弾で健在だった。

 

 レコンキスタ作戦には500機以上の米空軍機が参加している。全てが常に前線にいるわけではないが、これらの航空機を「どこにいけ」、「どこそこに爆撃しろ」、「どいつと交代」と指揮管制を行うのは大変な作業である。

 刻々と状況が変化する戦場。そこで数多くの航空機を指揮管制するのはE-3セントリーAWACS(早期警戒管制機)である。旅客機B707を流用して機体上部に円盤状のレーダーレドームを備えた機体だ。

『レイピア隊、エリアD2から支援要請』

『了解、クロウ・アイ』

 AWACS、コールサイン「クロウ・アイ」がA-15ストライクイーグルのレイピア隊に地上支援の指示を行う。A-15の翼下にはAGM-65マーベリック。敵の機甲部隊を撃破しにいくのだ。

 AWACS最大の役割は強力なレーダーによる索敵。しかし、相手の航空戦力が壊滅してしまったため、もっぱら陸海空軍の情報共有、敵性・非敵性の判断と脅威度・優先度の判断、攻撃・要撃を含む指揮管制を行っていた。

『エンジンが黒煙を吹いてる! 後退する!」

「EA-6のジュリエット5が被弾、後退させます」

「敵予備隊と思われるものがエリアK8に出現。第21騎兵連隊を包囲しようとしています」

『イヤーフー! 目標を撃破!』

「ヴァイパー隊、目標を撃破」

「穴はジュリエット9で埋めろ。エリアK8の橋をオメガ隊だ」

「TF100、戦闘海域より撤退します」

「帰投航路はフォックストロット。いいな!?」

「エコー12から報告。デルタ(深海棲艦艦隊)残存数は18。空母4、戦艦4、重巡5、軽巡4が健在」

「エコー2から報告。X7で砲撃煙。砲台型を確認」

『オメガ11、交戦する(エンゲージ)

「オメガ隊、交戦します」

「アルファ(オシアナ海軍航空基地)が修復を開始」

「レイピア隊、目標を撃破」

「第7師団、エリアY9の陣地を突破」

「エリアX7にはヘイロー隊を向かわせろ。アルファにはトマホークを」

『こちら、オメガ1。橋を破壊! オメガ11被弾!』 

『オメガ11、脱出する(イジェークト)!』

「オメガ11、墜落」

「救援ヘリを回せ」

「ベータ(ノーフォーク国際空港)とチャーリー(北のラングレー空軍基地)の滑走路修復中」

「トマホークを撃て」

「第3旅団、ワシントンに到達。南下を開始」

「デルタ、航空機を収容中」

 次々と報告や要請が入ってきては指示を出していく。AWACS自体は戦闘空域にはいないのだが、AWACSの機内も戦場だった。

 

 夜になっても米軍の攻撃は止まらない。

 ノースカロライナの街シャーロットでは荒廃した住宅地でM42ダスター対空戦車がM2A1ボフォース40㎜機関砲の発砲炎で周囲を照らしていた。

 一般家屋の壁材など防弾対策もしていない木やレンガだ。40㎜砲弾は簡単に貫いて、向こう側に隠れるの陸上深海棲艦を引き裂いていく。

 戦車型が家の影からのっそりと現れるが、徹甲弾を装填したM42にチーズみたいに穴だらけにされ、爆発した。

 他の地区では一軒一軒の建物に芋虫型が立てこもっているらしく、米軍は風向きなどを考慮した上で火を付けた。

 火を付けるのはM202ロケットランチャーとM113装甲兵員輸送車に火炎放射器を取り付けたM132 自走火炎放射器。

「汚物は消毒だ~!!」

 兵士達がM202ロケットランチャーを発射する。4連装の砲身に装填されているロケット弾は66㎜の焼夷ロケット弾で命中すると増粘自然発火剤の有機金属化合物が1200℃の熱で住宅を燃やしていく。

 M132は消防車の放水並みの勢いで火の付いたゲル化ガソリンをまき散らし、住宅を炎で濡らしていく。

 焼け出されて出てくる芋虫型は随伴歩兵がライフルで確実に撃ち殺していった。

 街のシンボルであった鉄筋コンクリート造りの役所は陸上深海棲艦の拠点となっており、激しく抵抗していたが、夜間爆撃能力を持つYF-17とYF-16の爆撃により更地になった。2つの機種のパイロット達は命中率で競い合ったのだが、少しばかりYF-16の方が上回っていた。

 地上では一方的な反面、地下の下水道では暗視装置を付けた兵士達と陸上深海棲艦との間で激しい銃撃戦となっていた。

「くそ! 頭出せば穴だらけにされる!」

 暗闇の中、兵士は叫ぶ。兵士達はT字の曲がり角で進めずにいた。曲がった先は30mほどの通路があり、広いところに繋がっていた。そこに陸上深海棲艦の輸送型がいる。輸送型自体は触手で叩くしか能がないが、護衛の芋虫型がやっかいだった。小さい上に火力は一人前で頭を出せば弾丸の雨の応酬だ。

「他の部隊は!?」

「交信ができん! 地下だから電波状況が悪い!」

「くそったれ!」

 曲がった先の通路にはいくつもの死体。先行していた部隊だ。

 手榴弾は曲がり角ゆえに遠距離に投げれない。煙幕を張っても、こっちから進む以上意味がない。

「ええい!」

 兵士の一人は思いきったことをした。M16ライフルの銃口を地面に斜めに付け、銃身部分を踏んで曲げた。

「これなら!」

 M16の先端部は「L」のような形になっていた。曲射銃の完成である。

 兵士は曲がった銃先だけを突き出して射撃する。弾丸は曲がった銃身に沿って飛んでいき、芋虫型を牽制する。

 M72 LAWロケットランチャーを持った別の兵士が通路に飛び出す。伸ばしていた砲身を膝立ちして構えた。そして発射。さっきまで銃撃してきていた芋虫型を吹っ飛ばした。ついでに回転式チャンバーを持つグレネードランチャーダネルMGLで40㎜擲弾6発を撃ち込む。そして、

「突撃突撃突撃!」

 兵士達が突っ込んでいく。ちょうど他の部隊も広場に行き着いた所のようで、すでに輸送型と交戦していた。

 触手は兵士達をはじき飛ばしたり、たたきつぶしたりしていたが、数発のロケット弾を食らって沈黙した。

 

 雨が降る暗闇の海で、バラオ級潜水艦ホークビルは海面から顔だけ出して、2つの青い瞳で敵艦隊を見つめていた。TF100で唯一この海域に残っているホークビル、ポンポン、マッケレル、ツナはウルフパック(群狼)を編成し、昼間から見つからないように敵艦隊を追っていた。

 敵艦隊は4隻だけ残った空母ヲ級を中心に輪形陣を組んでいる。しかし、潜水艦を狩る敵駆逐艦は全て沈み、軽巡洋艦級4隻のみが、対潜警戒をしている。

 輪形陣の中、大破して他の深海棲艦に肩を貸されていたヲ級1隻が海面に倒れ、沈んでいった。これで空母の数は3隻。昼間の空襲による疲労と傷、そして絶え間ない緊張。力尽きてもおかしくない。

 でも同情する気はないわ。深海棲艦さん。

 ホークビルは両腕の艤装、6門の21インチ(533㎜)魚雷発射管に装填されたMk.14魚雷を放った。

 日本軍の酸素魚雷とは違い、空気式魚雷のMk.14は航跡が残るが、今は夜。敵艦隊は魚雷の存在には気づかない。放った6本中4本が敵の重巡洋艦、戦艦に命中した。

 魚雷攻撃を受けて初めて敵艦隊は潜水艦の存在に気づき、爆雷を唯一搭載している軽巡洋艦級は速度を上げてホークビルを見つけるべく、探し回る。

 軽巡洋艦級が艦隊から離れたとき、別方向からガトー級潜水艦ポンポンが魚雷を6本発射する。1本が空母ヲ級、2本が重巡に命中。水柱が消えたとき、魚雷が命中した重巡はいなくなっていた。

 ポンポンに続いてタンバー級潜水艦ツナが雷撃。6本の魚雷は2本が戦艦に命中した。

 一方、マッケレル級潜水艦マッケレルは浮上して軽巡洋艦級と交戦していた。軽巡洋艦級はマッケレルを認識し射撃したが外れ。マッケレルは発砲炎があったところに照準。3インチ砲を放つ。命中。怯んだところに雷撃して沈める。

 他の軽巡洋艦級3隻がマッケレルに殺到する。マッケレルは残った魚雷を扇状に放って急速潜行。軽巡洋艦級は爆雷で追撃するが、ポンポンやツナ、ホークビルの3インチ砲の斉射を食らう。

 この頃になって、やっと敵艦隊は混乱から立ち直ったようで、戦艦や重巡も潜水艦娘の発砲炎に目がけて砲撃をし始めた。

 潜水艦娘達は慌てて潜行。いくつかの砲弾は水中で爆発したが、大半は水面で跳ねてどこかに飛んでいった。

 軽巡洋艦級は執拗に爆雷を落としてくるのでホークビル達は潜航限界進度まで潜る。しばらく動かずに静かにしていると爆雷は止んだ。

 それを確認するとホークビルは水中で他の潜水艦娘達の肩を一定の間隔で叩いた。モールス信号で「撤退」の合図だ。

 ホークビルは漆黒の海中で海面を見上げる。月も出ておらず、雨の降っている夜の海は何も見えない。

 TF101うまくやってよね。ホークビルは心の中で呟いた。

 




 今回の補足解説。
 M202ロケットランチャーは映画コマンドーでシュワちゃんが使っていた4連装ロケットランチャーです。
 M72ロケットランチャーは映画トゥルーライズでアジスがタンクローリーで火炎放射して無双状態のシュワちゃんに撃ったロケットランチャーです。
 地下戦闘での曲射銃ですけど、たぶんあれはできません。できたとしても数発撃って銃身が完全に駄目になると思います。

 次回はTF101の戦闘ですよ! 3話振りに吹雪が出ます。それでいいのか主人公。

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