TF100、TF101、全艦娘がかぶり物を外した。T字金具を抜くだけなので、非常に早い。砲を構える。
12.7㎜機銃、20㎜機銃、28㎜機銃、40㎜機銃、3インチ砲、4インチ砲、5インチ砲、6インチ砲、8インチ砲、12インチ砲、14インチ砲、16インチ砲、大小様々な砲弾がニューポート・ニューズ造船所に発射された。造船所本体が障壁を展開することはなく、砲弾はその勢いを保ったまま、造船所に飛び込む。
乾ドックの黒い膜も、ワ級の頭が生えた工場も、爆発と破片によって引き裂かれ、中身の深海棲艦の幼体があふれ出す。
工場建屋の間と間から砲台型陸上深海棲艦などがのそのそと出てくるが、射線を艦娘に合わす間もなく5インチ砲や3インチ連装速射砲の餌食になる。工場本体が伸ばす触手も爆発の熱と破片でちぎれてしまう。
「砲撃やめ!」
メリーランドの声で砲撃が止まる。第4次までの爆撃で一切の傷もつかなかったニューポート・ニューズ造船所はわずか10分ほどで瓦礫と肉の山となった。
次はノーフォーク海軍造船所。ニューポート・ニューズ造船所と同じように簡単に壊せるだろう。しかし、ここからノーフォーク海軍造船所に行くには湾を横切り、エリザベス川を遡上しなければならなかった。
敵艦との交戦は避けられない。艦娘達は砲身内の砲弾を榴弾から、徹甲榴弾に込め直す。
A-10サンダーボルトⅡのアルバトロス隊は当初はオシアナ海軍航空基地の泊地水鬼や付近に点在する砲台型にちょっかいをかけつつ、駆逐艦級の注意を引くのが任務だったが、B-52のナパーム攻撃は予想以上に炎が広がり、飛行場だけではなく、飛行場北のウィロビー湾や東のクランビーストリート付近の廃墟になった家々まで広がっていた。下手に炎の上空を飛べば、強烈な上昇気流に襲われて機体のコントロールができず、墜落してしまう可能性もある。
そのため、アルバトロス隊は作戦を変更し、オシアナ海軍航空基地の業火に寄ってきた駆逐艦級を攻撃していた。
A-10サンダーボルトⅡの武装といえば、機体中心に装備されたGAU-8アヴェンジャー30㎜ガトリングガンである。元々対戦車用に開発されたガトリングガンであるが、それが放つ焼夷徹甲弾と焼夷榴弾は深海棲艦にも十分すぎる威力を発揮した。
劣化ウラン製の焼夷徹甲弾はイ級の硬い外皮を容易に貫き、溶解して1200度もの温度でイ級の体内を焼く。それを何十発と食らうのだからたまらない。掃射を受けたイ級は何が起こったのか良くわからないまま、一瞬で絶命する。
一方、駆逐艦級からA-10への攻撃はさほど意味を成さなかった。flagshipや後期型の類いならいざ知らず、この駆逐艦級は黄金のオーラも赤いオーラもなにもないただの駆逐艦級深海棲艦。レーダー射撃ができるはずもなく、無数のA-10に翻弄され、やたらめったに対空砲かを上げているだけだった。時たま、A-10に機銃弾を命中させるのだが、A-10はその程度ものともせず、飛び続ける。
TF100とTF101がニューポート・ニューズ造船所を砲撃している間にアルバロス隊はすでに20隻ほどの駆逐艦級を沈めていた。
TF100とTF101がニューポート・ニューズ造船所を壊滅させた頃になってようやく気づいたのか、対空攻撃、回避行動に専念していた駆逐艦級はA-10からTF100とTF101に焦点を移した。
アルバトロス隊は駆逐艦級にさらなる追い打ちをかけることはなかった。アルバトロス隊の元々の任務は深海棲艦の注目を引くのと、艦娘達を攻撃する沿岸の砲台型を撃破するのが任務だ。TF100とTF101の存在に気づかれてしまった今、前者の任務続行は不可能であり、アルバトロス隊は後者の任務に移行した。これは駆逐艦級を狩るよりかは幾分か楽な任務だった。
ナパーム弾によって起こされた火災は今も外へ、外へと広がりつつあったが、ナパーム弾が着弾したオシアナ海軍航空基地では10分ほどで消えた。
これは燃えるものが最初から何もなかったからである。連日の空襲によって綺麗に整地されていた飛行場は穴ぼこだらけになり、滑走路とエプロンの間にあった草地も爆弾によって掘り返さ、枯れていた。可燃物があった燃料や航空機を製造するところも初日の爆撃によって燃え尽きていた。だから、燃焼剤が燃えただけで終わったのである。
そうはいっても、オシアナ海軍航空基地の有様はひどいものだった。ナパーム弾の高温で表面の土は広範囲が溶解、ガラス化していた。風景、という点においてはある意味、美しいものかもしれないが、航空基地としては悲惨としか言いようがない有様だ。
もう飛行場とは言えない、そんな場所に泊地水鬼は立っていた。いつか千切られた足は基地と自分の損傷の修復を繰り返している内に生えていた。
泊地水鬼を中心として半径1mの地面はガラス化していなかった。泊地水鬼自身の障壁で熱を防いでいたのだ。しかし、完璧に防げたわけではないらしく、泊地水鬼が纏っている服の様なものの端などは焼け焦げている。外見は周りの様相と比べてマシに見えたが、泊地水鬼自身は基地の被害のフィードバックを受けており、体の中が燃えるように熱かった。
泊地水鬼は空を見上げた。星も月は見えず、雲しかなかった。
初雪達はイ級やロ級といった駆逐艦級と交戦していた。と、言ってももはや一方的な掃討戦になっている。
逃げるロ級に対し、初雪はわざとロ級の左側手前に撃った。ロ級は水柱に驚き、進路を右に切る。そこにハルの5インチ砲が放たれた。すでに手負いだったロ級は5インチ砲弾1発で浮遊能力を失い、海中に没する。
イ級やロ級は勇猛果敢にもTF100とTF101に突っ込んできたが、その大半が自身の射程内に入る前に永遠なる潜行を余儀なくされた。
決め手になったのはレーダーである。メリーランド、ネバダ、アラスカ、吹雪には最新のSG対水上捜索レーダーを装備していた。吹雪は射程の関係ですることがなかったが、メリーランドとネバダ、アラスカはSGレーダーの精度と砲の長射程を活かして、突っ込んでくる敵艦をアウトレンジ攻撃したのだ。30隻近くいた敵艦は次々と沈められていき、暗闇の中、海に沈んでいく味方を見て恐怖におののいたのか、残った7隻のロ級とイ級は潰走していた。
駆逐艦はまるで猟犬のようにイ級とロ級を追いかけて沈めた。eliteやflagshipではない、ただの駆逐艦。実戦経験すらない駆逐艦級深海棲艦は為す術もなく沈んでいった。
全ての駆逐艦級を沈めた頃になってようやく陸上にいる砲台型からの攻撃が来た。先ほどからドカドカと大砲を撃っていたので、砲炎で位置はばれている。初弾から挟叉だ。
初雪は陸の方に5インチ砲を向けたが、撃たなかった。この暗闇で正確な狙いが付けられるわけもないし、無数いる内の1門や2門を潰したところで意味はないからだ。
「散開してジグザグに!」
ジグザグに動けば、非常に当てにくくなる。動き遅れた戦艦娘数隻に砲弾が命中したが、それほど大きい損害は与えられない。
アルバトロス隊A-10のコックピットのHUDにはTF100とTF101に対して砲撃する砲台型がFLIR(赤外線前方監視装置)を通してはっきり映っていた。
各機はAWACSの誘導でそれぞれの攻撃位置につき、AGM-65マーベリックを発射する。動きのとろい砲台型だ。気づいたときにはもう当たっている。さらにGAU-8アヴェンジャーの機銃掃射。装甲も何もない砲台型は簡単に弾薬に引火して爆発炎上する。そばにいた芋虫型や対空専門の砲台型がA-10を迎撃するが、夜間ということもある上に、A-10の装甲に機銃弾が阻まれて有効打にならない。
砲台型の中には周囲をコンクリートのような硬いもので固め、アヴェンジャーや爆弾でも簡単には破壊できない要塞に近いものもいたが、AGM-65 マーベリックの弾頭57㎏成型炸薬弾のメタルジェットはそれを簡単に貫き、中の弾薬を誘爆へと導く。
A-10は我が物顔で夜空を駆け、砲台型を一つ一つ撃破していった。
砲台型からの砲撃もたいしたことはなく、湾を横切ったTF100とTF101はエリザベス川を遡上していく。
川の沿岸にも砲台型がいたのだが、昼の爆撃で大半が潰され、補充された砲台型もアルバトロス隊の攻撃で壊滅していた。そうはいっても、撃ち漏らしというのはあるもので、時たま左右の沿岸が光って、砲弾が飛んでくる。
TF100、TF101は戦艦と重巡を外側に配置して、防御力の低い駆逐艦や軽巡洋艦を守りながら、遡上していく。撃ってきた敵に対しては大量の砲弾をお見舞いし、粉砕した。
そしてさらに遡上し、フォートノーフォークという所を過ぎたころ、
「ねえ、何か聞こえない?」
艦隊の列中央辺りで航行していたファラガットが横のアトランタに聞いた。
「いや、特に……何か聞こえたの?」
「なんか、うん……レシプロエンジンの始動音みたいなのが――――」
ファラガットが言葉を詰まらせながらも、アトランタに説明し始めた時、それは襲いかかってきた。
『TF100、前方に敵!』
「前方、ボート!」
アルバトロス隊隊長の警告と先頭のメリーランドが気づき叫んだのは同時だった。ファラガットはアトランタへの説明をやめて、前方を見る。
小型船が3隻、さらに人が乗っていない水上オートバイクが10艇。それらは大きく波を切って、高速で接近していた。レーダーの仕組み上、陸地の影は観測できない。ファラガットが聞いた『レシプロエンジンの始動音のような』音はこの船団だったのだ。水上バイクや小型船に人影は見えない。間違いなく、深海棲艦の類いだった。
「迎撃! 撃て!」
まず、外側にいた戦艦と重巡が攻撃を開始した。それが始まる寸前、水上バイクは猛烈な加速を見せた。さっきとは比べものにはならないくらいの水しぶきを上げて、TF100とTF101に突っ込んでくる。砲弾は水上バイクの上を掠め、小型船3隻に降り注いだ。小型船は粉々になって吹き飛ぶ。
水上バイクはそのまままっすぐ、まっすぐTF100とTF101に向けて加速し続けていた。
「カミカゼだ!」
避けろ! 誰かがそう叫んだ。だが、間に合わなかった。200ノットもの豪速で近づく水上バイクをいきなり避けろと言われても避けれるものではない。
水上バイクの自爆攻撃が集中したのは先頭のメリーランド、そしてメリーランドの右斜め後ろのルイビルだった。水上バイクはメリーランドとルイビルに体当たりして大爆発を起こした。爆発の威力は250㎏爆弾級で、メリーランドは大破、ルイビルは中破する。
「散開! 固まるな!」
大破したメリーランドに代わって戦艦オクラホマが前に出て、叫んだ。固まっていてはそれぞれの射線が味方にぶつかるし、敵にとっては体当たりがしやすい。
右前方に再び水上バイク。今度は最初から全速力だ。散開したことで艦娘達は撃ちやすくはなったものの、200ノットもの速度を出す水上バイクに砲弾や機銃弾を当てるのは至難の業だった。しかし、水上バイクが体当たりをする目標を定め、その目標目がけてまっすぐ突っ込む時には、突っ込む寸前には撃破することができた。ただノーダメージとは行かない。水上バイクの破片や爆風は容赦なく、目標になった艦娘を襲った。
一方、アルバトロス隊はうまく援護ができないでいた。
TF100とTF101を襲う水上バイクの大きさは極めて小さい上、速い。一秒に63発放つことができるGAU-8アヴェンジャーでもなかなか当てるのは難しかった。当たれば当たったで簡単に撃破できるが、水上バイクはジグザグに動き、当てるのはさらに難しくなる。
「奴らが出てくる場所は――――」
アルバトロス隊は水上バイクが出てくる場所を攻撃して、一網打尽にしようとした。小型船や水上バイクの航跡とHUDに映した地図を見比べ、確認する。
ポーツマスのホリデー港。小型船を停める小さな埠頭がある所だった。TF100、TF101がいる地点のちょうど真南、600mほどの所だ。そこにはまだ小型船や水上バイクが止まっている。今、始動を始めているのだろう。
隊長であるのアルバトロス1は僚機3機を引き連れ、ホリデー港に30㎜弾の雨を降らした。鋼鉄さえ飴細工のように貫く30㎜弾はFRPの船体をバリバリに砕く。何度も往復攻撃を繰り返し、ホリデー港にいた小型船と水上バイクは海に漂うゴミになる。
これで後続する敵を撃破することはできたが、すでに港から出てTF100、TF101を襲っている水上バイクや小型船を撃破するのは、下手すれば艦娘を誤射する可能があったので、アルバトロス隊は見ていることしかできなかった。
今回の補足解説。
この世界のA-10はまだ全てA型ですが、全ての機体が前方監視赤外線カメラを搭載していて、夜間の戦闘もバッチシです。マーベリックの赤外線カメラを使うことはほぼありません。
今回、水上バイクが特攻していますが、たぶんノーフォークにはそんなに水上バイクはないと思います。小型船の方がたぶん多いです。
UAが2万。タイトルの話数だと20話だけど、投稿したもの全てでは32か。結構書いたものだなぁ。