雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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第21話「決戦、ノーフォーク!」その3

 陸軍はノーフォーク国際飛行場を奪還した後、そのまま北上。泊地水鬼のいるオシアナ海軍航空基地で熾烈な戦いを繰り広げていた。

 深海棲艦にとっては米本土東海岸最後の場所である。米軍が艦娘を保有することになった以上、ここが陥落すれば再び上陸することなど不可能に近い。まさに背水の陣だ。泊地水鬼は最後の精鋭を投入、自身のエネルギーも使って陣地、砲台を急造し、米陸軍相手に善戦していた。

 砲台からの巨弾がT-95戦車駆逐車のそばに着弾。強烈な爆風と爆圧で重量が86.2 tものあるT-95がひっくり返る。随伴していた歩兵は姿形すら残らない。

「敵の砲台火力は戦艦並み! あれを潰してくれ! 座標は――――」

 撃破されたM60A1パットンの影で上に報告をしていた通信兵や同じ部隊でM60機関銃を近づいてくる芋虫型に撃っていた兵士も降ってきた砲弾で吹き飛ばされる。

 泊地水鬼が急造した砲台は泊地水鬼自体とは分離しており、沿岸砲や艦艇の砲のように砲塔式で装甲も強固、その上障壁まで張って砲弾を弾くのだから始末が悪い。しかも三連装で1基だけではなく、2基だ。

 MBT-70の戦車小隊が厚い装甲と高い機動力を活かして攪乱を試みるが、敵陣地に突入する前にハルダウンした戦車型に履帯を切られ、停止してしまったところを集中砲火を浴びて撃破されてしまう。

「だんちゃ~く、今!」

 MLRSと自走砲による効力射。無数の砲弾とロケット弾が降り注ぐが、敵陣地上空で爆発する。全て障壁で防がれてしまうのだ。

「なんて弾幕だ!」

 航空支援もかなり難しくなっていた。泊地水鬼が大量の対空砲と対空専門の砲台型を生産し、濃密な弾幕を展開していた。その弾幕はF-4ファントムⅡやYF-17を撃墜するくらい濃い弾幕だった。

 その中、A-10は何とかくぐり抜けるも、攻撃しようと機速を落とした瞬間、

「ボルテス3被弾!」

 高角砲弾の直撃を受ける。ボルテス3のA-10は右翼と胴体が分離し、錐揉みをしながら焦げた大地へと突っ込む。

 他の機体が爆弾を投下するが、無蓋掩体壕に隠れた戦車型を撃破するだけの精密性はない。GAU-8アヴェンジャーやミサイルならば狙い撃ちできないこともないが、泊地水鬼の障壁で防がれるか、逆に狙い撃ちされて撃墜されるかだった。

 今まで快進撃を続けてきたというのに、最後の最後で米軍は攻めあぐねていた。

 各部隊に被害が続出する中、海兵隊第1海兵師団の歩兵部隊は比較的被害が少なかった。

「やっぱり深海棲艦ってのはとんだファッキンモンスターだぜ! マイケル、北北西、距離80に芋虫!」

 第9歩兵小隊は爆弾穴に隠れ、敵弾を避けながらも必死に抵抗していた。

「了解! 北北西、距離80!」

 マイケルと呼ばれた一等兵が復唱し、M79 グレネードランチャーをかなりの急仰角で構える。マイケルのM79には標準の照準器ではなく、変わった形の照準器M15と負い紐が付けられていた。マイケルは爆弾穴から頭を出さず、中に隠れたままだ。

 放たれる40㎜グレネード弾。それは迫撃砲の様な放物線を描いて、80m先にいた十数体の芋虫型の一団の中央に着弾した。中央部にいた芋虫は吹き飛び、周りの芋虫は破片で傷つく。

 そして動きが鈍った芋虫型を他の海兵隊員がM14ライフルで狙撃していく。M16ライフルの5.56x45mm弾よりもストッピングパワーの強いM14の7.62x51mm弾は芋虫型を一撃で死に至らしめる。

 曲射ができるM79グレネードランチャー、フルオート射撃は難しいがセミオートならなかなかの射撃精度のM14ライフル。両方とも米軍の中では旧式兵器の部類だったが、相手が人間ではなく深海棲艦、そして敵弾が飛び交い長時間頭が上げられない開けた土地ではこの2つの旧式兵器が多くの海兵隊員の命を救っていた。

 だが、前進は不可能だ。敵陣地は強固で旺盛。航空機の攻撃も支援砲撃もほぼ無効化されている。

 泊地水鬼は前線だけではなく、後方まで砲弾を撃ち込んでいた。射程は約40㎞。後方に待機していた予備部隊などや一部の自走砲部隊にも被害が出ている。

 最初からその砲台の存在が分かっていれば、そんな被害はなかったはずだが、砲台は米軍がオシアナ海軍航空基地まで約5㎞という距離にまで迫ったときに突然現れたのだ。いわば米軍側は深海棲艦に引き込まれた形になる。

「Fuck! これじゃあ煙幕張ったって逃げれるかどうか……」

「でもこのままじゃじり貧だ。俺のマガジンはもうコイツだけだ」

「40㎜も榴弾はこれで最後。散弾やマーカーはあるが――――うわッ」

 隠れている爆弾穴の右70m先に泊地水鬼の砲弾が着弾。マイケルやその他の兵に爆風で巻き上げられた土が落ちてくる。土だけではない、人間の腕や足といったものも落ちてくる。

「誰かやられたのか!?」

 小隊長であるダーマ軍曹が叫ぶが、誰も首を縦に振らないし、悲鳴も上げない。

「だったら――――」

 軍曹は爆弾穴からちょっとだけ頭を出した。この小隊が隠れている爆弾穴よりもずっと大きい穴が開いていた。別の爆弾穴で頑張っていた第11小隊は爆弾穴ごと吹き飛ばされて消失している。

「Fuck! もうどうにもならん! ありったけの煙幕を焚いて後退するぞ!」

 軍曹は懐から煙幕手榴弾を取り出しながら言った。他の海兵隊員も煙幕が出せるものを取り出して準備する。

「いや、どうにかなるかもしれませんよ」

 ジミー上等兵がレミントンM40狙撃銃から外したスコープで空を見てながら、言った。

「ジミー、なぜだ!?」

 軍曹は当然のことながら、ジミーに尋ねる。ジミーは空を指さして答える。

 

――――空から女の子が。

 

 

 C-130Gのランプを思いっきり蹴り、吹雪は空中に飛び出した。バミューダ諸島強襲の時と違ってHALO降下ではなく、今回は高度4000mほどからの降下だ。

 風を切る音に混じって爆音が聞こえてくる。風よけのゴーグル越しにオシアナ海軍航空基地の方を見ると、前のナパーム攻撃の跡だろうか、焦げた大地が広がっていて、深海棲艦と米陸軍がそこで戦っている。とりわけ目を引くのが、飛行場の脇にある巨大な砲台だ。砲塔形式で連装砲。大きさ的には縦横20mといったところか。

 運が良いことに砲身はこちらを向いていない。もし泊地水鬼が三式弾の様な対空砲弾を持っているならばTF100、TF101ともに空中で撃墜されてしまう。艦娘が障壁を張ることができるのは水上のみで空中では7.7㎜弾も防げない。対空砲火も航空基地を攻撃するF-111やF-105、A-10に集中しており、TF100、TF101には撃ってこない。

 高度600m。パラシュートのフックを思いっきり引っ張り、開傘させる。それと同時に空挺補助装備のダイブブレーキが展開。急激に発生した空気抵抗がベルトなどを介して体を締め付ける。これが結構苦しいがもうしばらくの辛抱だ。

 さらに高度が下がっていく。高度200――――150――――100――――50――30。背部艤装と補助装備を連結していた爆砕ボルトが自動で点火。パージされると共に吹雪は脚部に装着したロケットモーターの作動索を引っ張る。

 ロケットモーターの推力が最後の制動となり、吹雪はほぼ着水速度ゼロで海面に降り立つ。推進剤がなくなったことをロケットモーターのセンサーが感知し、爆砕ボルトに点火させ、パージする。

 今回は陸上砲撃が主目的ということで普段は魚雷発射管を付けている太ももには5インチ単装砲を搭載している。三年式12.7㎝連装砲ではこのようなことはできないが、Mk.22 軽量な5インチ単装砲では可能だ。これでも少しばかり積載量に余裕があるので機銃と少しばかりの爆雷なども搭載している。

 周りを確認する。他のみんなも無事に降りられたようだ。制空権があるというのはなんと良いことだろうか。

 100門近くの砲がオシアナ海軍航空基地に照準を合わせ、発砲した。

 

 

 泊地水鬼は撃たれて初めて艦娘の存在に気がついた。何十発という榴弾が炸裂し、フィードバックが泊地水鬼の体を痛めつける。

 数時間前、ノーフォーク海軍造船所の生んだ子は親孝行か知らないが、大西洋の索敵情報を送ってきた。それによれば東海岸に敵影は存在しないことになっていたが、敵である艦娘はすぐそこにいる。

 どうやって来たのか。空挺降下してきたなどと泊地水鬼は思いつきもしなかったが、何にせよ、こちらを攻撃してくる以上、艦娘は敵で撃破するしかなかった。

 泊地水鬼は海岸側に小口径の砲台をいくつも新設し、先ほどまで陸上部隊を砲撃していた大口径砲の砲台の1基を海側に向けた。

 艦娘達は砲撃される前に大口径砲を撃破しようとするが、大半の砲弾が障壁によって阻まれる。12インチ、14インチ、16インチ砲弾は何とか障壁を突破するが、砲台自体の装甲に弾かれ、効果がない。

 今度は泊地水鬼側の攻撃。照準と装填を終えた各砲台が発砲する。こちらも大半が小口径砲なのだが、泊地水鬼ほどの障壁を展開することはできない。十数隻が被弾し、大口径砲弾の一発が戦艦オクラホマに命中し、大破させる。

 泊地水鬼は高笑いをするが、今度は手薄になった陸上側から米軍の攻撃が届き、舌打ちする。

 泊地水鬼も常時障壁を展開できるわけではない。米軍の反攻以来、泊地水鬼は立て続けの攻撃を受け、消耗。広域かつ全方位をカバーできる障壁を展開するだけのエネルギーはもうない。戦車や自走砲程度の砲撃はともかくとして、ミサイルなどの攻撃は障壁を一点に集中させ、強固なものにすることで防ぎきっているのだ。航空爆弾は数が多いし、たいした精度もなく、被害が小さいので放置しているが。

 土地のエネルギーを使用すれば、飛行場としての機能も強固な障壁も復活させることができるが、それはできるだけ避けたかった。

 土地のエネルギーは大量に使ってしまえば再回復はほぼ不可能である。泊地水鬼に限らない、基地型深海棲艦達は陸上型深海棲艦の生産にこのエネルギーを使っていた。ここで使い切ってしまえば、襲いかかる米軍と艦娘を壊滅させても再侵攻は難しくなる。しかし、ここでやられては元も子もない。

 使うか。使わないか。

 

 F4Fワイルドキャット、SB2Uビンジケーター、SBDドーントレス、TBDデバステーター、TBFアヴェンジャー、瑞雲、F4F-3Sの編隊、総勢309機が空を覆い尽くしていた。今回はウルヴァリンやセーブルも参加している。

「やっとか! 遅い!」

 ファガラットが悪態をつく。すでに砲撃部隊には少なくはない被害が出ている。

 TF100の空母艦娘は泊地水鬼の射程外から攻撃するため、他の艦娘より後方に降りており、航空機の到着に時間がかかったのだ。

 一番手はF4Fワイルドキャット。

 F4Fの役割は敵対空砲台を沈黙させ、後続する攻撃機を援護することだ。6門もの12.7㎜機銃が火を噴き、対空砲台を撃ち抜いていく。なかな沈黙しないものに対しては翼下につり下げた100ポンド(45㎏)爆弾を投下して撃破する。

 泊地水鬼は目一杯迎撃するが、艦娘の航空機は深海棲艦航空機と同じく小さい。大型で高速な米軍の通常機の動きに慣れた今の泊地水鬼に迎撃は困難だった。

 続いてSB2Uビンジケーター、SBDドーントレスの急降下爆撃隊。これらは泊地水鬼自体を攻撃する部隊とまだ残っている対空砲台を撃破する2つに別れた。

500ポンド(226㎏)爆弾があちこちに投下される。狙いは米空軍機のものよりも優秀だ。艦娘の航空機は小型なので、通常の航空機よりも低空を飛ぶことができ、30mで機首を引き上げるくらいにまで急降下する。その分、撃墜される可能性も高くはなるが、命中率も高くなる。SB2Uビンジケーター、SBDドーントレスの爆撃によって、大半の対空砲台が撃破された。

 

 泊地水鬼は爆撃の痛みを堪えながらも、大口径砲を2基とも接近するTBDデバステーター、TBFアヴェンジャーに向けた。泊地水鬼に三式弾のような対空砲弾はないが、ただの榴弾でも時限信管で空中爆発させればそれなりの効果はある。しかも相手は急降下爆撃でもない、水平爆撃を行おうとしているのだからなおさらだ。

 泊地水鬼にもう余裕はない。これ以上の攻撃を受けたら、死ぬことは確実だった。この爆撃隊をやり過ごしたら、自身に残っているエネルギーだけではない、土地のエネルギーも使用し、飛行場としての機能を復活させ、大口径砲をさらに増設し、艦娘も米軍もすべて吹き飛ばすつもりだった。

 

 つもりだったのだ。

 

 そんな皮算用は今までで一番痛烈なフィードバックで打ち砕かれた。痛みの元は爆撃隊に砲口を向けていた大口径砲だ。

 大口径砲は2基とも内部の弾薬に引火して、大爆発を起こした。

 

「敵大型砲撃破!」

「やった!」

 大爆発を起こし、バラバラになる大口径砲を見て、兵員達が歓声を上げる。

 戦艦艦娘の砲にも貫けなかった障壁と装甲を持つ泊地水鬼の大口径砲を撃破したのはアメリカ軍がレコンキスタ作戦に合わせて開発したM308ミョルニル自走迫撃砲システムだった。

 M308ミョルニルの存在意義でもある砲はT-95戦車駆逐車と同じく、要塞攻略用に開発され、博物館に死蔵されていた重迫撃砲「リトル・デーヴィッド」である。「リトル・デーヴィッド」の口径は実に91.4㎝。戦艦大和の46㎝砲どころか、ドイツの80㎝列車砲「ドーラ」「グスタフ」よりも11.4㎝も大きい。砲弾重量自体は「ドーラ」「グスタフ」は7.1 t、「リトル・デーヴィッド」が1.678tと威力面でいえば「ドーラ」「グスタフ」が強いが、威力は並みの戦艦の砲よりもずっと強い。

 自走砲と言えば、戦車や装甲車の車体の上に大砲を載せて1両で完結するのが普通だが、M308ミョルニル自走砲システムは6両で構成されたシステムである。ベースとなったのは全てM60パットンで、砲身輸送車、砲弾輸送車、砲弾装填車、砲架ブロック輸送車、工作車、弾道計算車によって編成される。砲架ブロック輸送車に至っては2両1組なので実質的には7両である。

 発射態勢に移るためには何段階もの手順がある。工作車で周囲の木々を切り倒し、地面を水平にする。そして水平にした地面に砲架ブロック車が移動し、砲身輸送車が砲身を砲身ブロックと接続させる。そして砲弾装填車が装備されている特殊クレーンで砲弾輸送車から直径91.4㎝のコマのような砲弾をつり上げ、砲身に砲口から入れる。そして弾道計算車が周囲の環境からいろいろなことを計算して、照準角度やら何やらを算出してようやく、である。普通の自走砲なら1両で完結することを7両で行うのだ。すべては91.4㎝もの迫撃砲を扱うためである。

 レコンキスタ作戦が始まる前、アラバマ州のとある田舎町でキース少年、ドミニク少年がT-95と一緒に見たものはM308ミョルニル自走砲システムとして改造される前の「リトル・デーヴィッド」だったのだ。

 今回投入されたM308ミョルニル自走砲システムは4基で、4基とも初の実戦投入だったのだが、その威力は古ノルド語で『破壊するもの』、『打ち砕くもの』という意味をもつ「ミョルニル」の通り、十分に発揮することができた。

 実をいえば、威力を発揮できない可能性は十分にあった。M308ミョルニル自走砲システムの射程距離は7㎞ほどでしかない。もし泊地水鬼が飛行場の5㎞手前まで米軍を誘い込んでいなかったらM308ミョルニル自走砲システムは威力を全く発揮できなかっただろう。

 泊地水鬼は実に運が悪い。

 大口径砲の破壊により、米軍は活気づき、再び前進を開始した。

 ノーフォークの深海棲艦最後の拠点、オシアナ海軍航空基地の陥落は目前だった。




 霞の秋限定ボイスに少しばかり困惑しているベトナム帽子です。私は霞の本質を見抜けていなかったのかもしれない。

 ともかく、今回の補足解説。
 M308ミョルニル自走砲システムなんて存在しませんからね! 存在しませんから! 私の創作兵器ですから! でも「リトル・デーヴィッド」は存在しますよ!
 「リトル・デーヴィッド」は元々航空機用爆弾の試験装置なのを迫撃砲として流用した、とか言われていますが、あれはおそらくデマです。そもそも914㎜もある爆弾自体が例外的にしか存在しませんし、砲弾は爆弾とは似て付かないコマみたいな形しています。そしてライフリングがあるのも不自然です。「航空機用爆弾の試験装置」というのはおそらく秘匿のためでしょう。
 M308ミョルニル自走迫撃砲システムは炎頭さんの「リトル・デーヴィッド出して欲しい!」という応募によって実現しました。アイデアありがとうございました! さすがに砲架ブロックを埋めるための穴を掘って、埋めて、砲身を付けて……なんて悠長なことできないので、M60の車体を使った迫撃砲システムになりましたが。
 
 あとちょっとだ……(レコンキスタ作戦が)。

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