雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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第21話「決戦、ノーフォーク!」その4

 大口径砲が撃破され、艦娘の空爆をもろに受けた泊地水鬼は虫の息だった。

 自分で障壁も展開できない、砲を撃つこともできない。息をするだけで精一杯。まだ土地との接続はされたままで敵の足音や戦車のエンジン音、土を踏みしめる音がダイレクトに感じられる。艦娘からの砲撃もまだ続いている。

 ここで死ぬのだろうか。

 もう飛べないのだろうか。

 あの羽の再生を心の隅で微かに思っていたが、無理なのだろうか。

 

 飛びたい。

 

 飛びたい。

 

 

 第1海兵師団第9歩兵小隊の中で最初に異変に気づいたのは芋虫型にレミントンM40の照準を合わせようとしていたジミー上等兵だった。

 照準が定まらない。小刻みに揺れている。時間が経つにつれ、目標とスコープの十字線とのブレは大きくなっていく。手が震えているのだろうか。

 スコープを覗くのをやめ、手を見てみる。震えてなどいない。

 スコープの固定がしっかりされていないのか? ジミーはスコープを触ってみるが、動かない。

 ならば――――地震か?

「地面が揺れてる!? 地震!?」

 揺れに気づいた隊員達が慌て始める。アメリカ人にとって地震はほとんど経験することのない現象だ。

「落ち着け、伏せろ! 伏せるんだ!」

 ダーマ軍曹が叫び、隊員達を伏せさせる。近くには砲弾や爆撃により破壊されて基礎しか残っていない建物しかないが、地面が揺れている状態でまともに照準などできるわけがない。

 地面の揺れはどんどん大きくなっていった。

「神様……!」

 マイケルなどはM79グレネードランチャーやサブウエポンのM16を放り出して手を合わせている。

 ジミーは落ち着いて、この状況を考えていた。

 アメリカが属するプレートは北米プレートで、北アメリカ大陸の他、ユーラシア大陸の東端部、グリーランドを含む広大なプレートだ。東はアラビアプレート、ユーラシアプレート、南はカリブプレート、ココスプレートと接しているが、ここノーフォークとはかなり離れた位置にある。自然現象のことだから絶対とはいえないが、地震が起こる確率は極めて低い。

 もし地震ではないとすれば――――

「なんだあれは」

 ダーマ軍曹が航空基地の方を指さして、唖然としたような声で言った。

 地面が割れていた。亀裂は航空基地を囲むように広がっていく。

「地割れ? いや」

 ただの地割れではない。地割れの向こうの地面がこちらの地面に比べて高くなっている。地震の揺れは小さくなってきたが、地面の高低差は大きくなっていった。

「まさか……いや、まさか」

 そんなことができるはずがない。いくら深海棲艦といえども、そんなことができるはずがない。質量は莫大で、そんなことができる原理や理論があるというのだろうか。

 ジミーは己の目を疑った。

 

 TF100とTF101も地震には気づいていなかったが、異変には気づいていた。

「海流が変わった?」

 海流がオシアナ海軍航空基地の方に流れ始めていた。海流というのは基本的に変化しないものである。季節や高低気圧、潮の満ち引きによる変化はあるが、急激な変化というのはなかなかない。

 海流の流れはどんどん速くなっていく。浮いている航空機や船の残骸の欠片がオシアナ海軍航空基地の方向に引き寄せられていき、海中に消える。

「流れが速すぎる! 後進一杯!」

 しかし、海流の流れの変化、そして速さは異常だった。TF100とTF101の艦娘は砲撃などをやめ、オシアナ海軍航空基地から離れる。艦娘の重量は軽いので海流にも流されやすい。排水量数千tの艦でも影響を及ぼすのだからなおさらだ。

「何? あの港は」

 吹雪はオシアナ海軍航空基地の港の変化に気づいた。普段は海の中で見えない埠頭のフジツボが見えているのである。今日は干潮ではないし、海流が変化する前までは見えていなかった。

 そして目に見てわかるくらいに大地が動いた。コンクリートで埠頭に亀裂が入り、崩れる。地割れは広がり、地面の側面が大規模に見え出す。

 終いにはオシアナ海軍航空基地周辺の大地が他の大地と分離して、空へ上っていく。

「へ……?」

「と、飛んでる……」

 艦娘達はあっけにとられてしばらく何もできなかった。

 大地が飛ぶなんてあり得ない。誰もがそう思った。だが、これは現実。飛んでいるのである。

『飛行物体を攻撃せよ!』

 司令部からの通信で艦娘達と米陸空軍が正気に戻ったのはオシアナ海軍航空基地が高度1000mほどまで上がり、オシアナ海軍航空基地があった部分の穴が海水で満たされた頃だった。

 艦娘達は砲撃を開始するが、砲弾の大半は障壁にはじき返された。一部は貫通するが、下部の土を削るだけで撃墜とはほど遠い。

 戦艦の主砲ならばあるいは――――と考えるが、戦艦艦娘の主砲は構造や仰角の関係ですでに照準ができなかった。駆逐艦や軽巡の手に持つ5インチ砲や6インチ砲ならば砲自体の仰角が小さくても腕を上げれば照準が可能だが、戦艦や重巡の砲塔は手に持てないアーム式が多い。反動吸収や長距離射撃の観点からすれば手に持つタイプよりも利点は大きいが、対空射撃時などの観点からは自由度は低く、急仰角で発射すれば転倒してしまう。なのでメリーランドなどは副砲の高射砲を撃つのだが、それではいかんせん貫通力が足りない。

 米陸軍も戦車や自走砲の仰角が足りず、唯一攻撃ができたのはM42ダスター対空戦車のみ。しかし、M42の武装はボフォース40㎜機関砲。艦娘の6インチ弾が弾かれるのに40㎜弾が弾かれない道理はない。

 米空軍の攻撃も同様だ。M61バルカンの20㎜弾、GAU-8アヴェンジャーの30㎜弾も当たり前のように弾かれてしまう。AGM-62ウォールアイ、AGM-65マーベリック、中にはMk.82通常爆弾を側面に命中させる猛者もいたが、下部の土を崩すだけに終わる。その崩した土は地上にいる米陸軍に降りかかり被害を出していた。

 オシアナ海軍航空基地、泊地水鬼を乗せた大地は悠々と空を上っていく。米軍は有効打を与えることもできず、見ているしかなかった。




これでレコンキスタ作戦は終了です。長かった。それとまだ2章は終わりません。

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