雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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 霞改二および改二乙カワイイヤッター!! 


第37話「手紙」

 ファラガットは吹雪達の部屋にいた。部屋にはファラガットただ1人。

 窓は開いていて、入り込む風でカーテンが揺れている。窓の手前にある机の上には1つの封筒が、封を切られた状態で置かれていた。

 ファラガットは封筒に手を伸ばし、触れようかというところで少し思いとどまった。プライベートである。手紙か書類か何かかは知らないが、他人のプライベートを盗み見ても良いものか。しかし、すでに部屋の中まで入ってしまっている。これは十分にプライベートの侵害ではあるまいか。部屋の前を通ったとき、部屋の机の上に置かれている封筒が目に入ってしまって、気づけば部屋の中にいた、なんて言い訳にならない。

 ファラガットは封筒に書かれた文字を見てみる。漢字と感じとは違う丸みのある別の字が書かれている。日本語だ。ただ「日本語」、ということしかファラガットには分からない。

 読んでも、あたしには理解できないだろう。

 ファラガットはそう思い、踵を返して、部屋から出ようとした。

 そのとき、部屋に突風が入り込んできた。カーテンが大きくはためき、ファラガットの髪を揺らし、封筒が机から押し出され、床に落ちて、その中身を散らばる。

 ファラガットは反射的に散らばった封筒の中身を見て、拾ってしまった。

 封筒の中身は、折りたたまれた紙――――裏にインクが少しにじんでいることを考えれば手紙だろう。そして10枚の写真だった。

 ファラガットは部屋に入ったときと同じように、なんとなく折りたたまれた手紙を広げてしまった。

 

『拝啓 第十一駆逐隊様

 お久しぶりです。叢雲です。

 この手紙が届いたときも4人とも元気にしているでしょうか?

 私達駆逐艦は年がら年中、船団の護衛に就いたり、哨戒をしたり、前線に立ったりと忙しいもので、同じ鎮守府ならともかく、違う鎮守府なら顔を合わすことなんて大規模作戦時くらいしかありません。私と姉達が顔を合わせたのも平成26年11月の渾作戦のときが最後だと思います。それなのに海向こうに渡ってしまったと思うと、少し寂しく思います。

でもノーフォーク解放という知らせや連絡機の運んでくる新聞などを読んで、姉達のことが書いてあると、元気にやっているんだ、ということが分かって嬉しく思います。

 

 日本の方では数ヶ月前、十一号作戦が発動されました。この作戦はスエズ運河を奪還する欧州連合軍のエーグル作戦に呼応して、カレー洋の深海棲艦を殲滅する作戦です。欧州連合軍はスエズ運河を解放したのですが、リランカ島(セイロン島)には陸軍が上陸しただけで完全奪還には至っていませんし、アンズ環礁(カレー洋のど真ん中くらいにある環礁です。)を泊地にしていた深海棲艦は完全に殲滅できていません。しかし、人類側が常に優勢なので、心配することはありません。

 この作戦で私はリランカ島への敵増援部隊を叩く任務を受けました。深海棲艦もリランカ島が非常に重要なことを認識しているようで、敵は大規模でしたが、なんとか増援を防ぐことができました。今回の作戦でも沈んだ艦娘はいません。一方で、着任した艦娘は雲龍型航空母艦の葛城や飛行艇母艦の秋津洲、夕雲型駆逐艦の高波です。それとイタリア海軍の方からリットリオとローマという名前の戦艦(艦娘です)が派遣されてきました。スエズ運河を取り戻し、地中海は比較的安全になったと言っても、戦艦クラスの艦娘を2名も送ってくるなんて、イタリアは太っ腹なのか、外交で何かしらの取引があったのか。気になるところです。

 

 先日、呉に行く機会があり、呉の鎮守府司令官をお目にかかりました。聞いて驚くでしょうが、呉の司令官は立派な髭を蓄えられていました。ご本人いわく4月ごろから生やし始められたそうで、理由はご同輩から自分は少し威厳が足らない、と言われたからだそうです。確かに前に比べれば、威厳は増したように思いましたが、十六駆の時津風に相変わらず遊ばれていたので髭の効果は薄いようです。姉達も日本に帰ってきたら弄ってあげてください。

 

 私は5月末からラバウルにいます。ラバウルは赤道付近なのでとても暑く、近くの火山からは噴煙が立ち上っています。一応夏と冬があるそうですが、赤道が近いので目に見て分かる違いはないでしょう。ラバウルとは違って、アメリカは国土が広いので、様々な気候が見れるのではないでしょうか? 日本に帰ってきたらたくさん話をしてください。

 今、ラバウルにはたくさんの艦娘が集まってきています。それも戦艦や空母といった主力艦が集まってきています。噂によればサーモン諸島(ソロモン諸島)に大規模攻勢をかけるらしく、このラバウルで攻勢準備をしているらしいのです。元の世界では私と吹雪が沈んだところであり、この世界では2年前から戦い続けてきた因縁の地ですが、今回の作戦で終わりになるのでしょうか。

 そちらはノーフォークを落としたのならば、順に行けば西インド諸島、パナマ運河でしょうか。私達がサーモン諸島を攻略するのならば、深海棲艦はサーモン諸島に増援を送るでしょう。西インド諸島やパナマ運河からも増援は出るはずです。攻略の時機にもよるでしょうが、西インド諸島とパナマ運河は意外に簡単に落とせるかもしれませんね。

 

 便箋の行が尽きてきました。貨物重量の関係で便箋の枚数は指定されているのです。まだまだ書きたいことはありますが、そろそろ終わりです。

 何卒、あまり無茶をなさらないようお気を付けください。そして武運長久を。

 

吹雪型5番艦 叢雲より

 

 追伸

 五枚ほど写真を同封します。私が撮影したものではないですが、遠いアメリカで日本を思い出してくれる品になると嬉しいです』

 

「やっぱり読めない」

 ファラガットは日本語で書かれた読めない手紙を置いて、10枚の写真の方に手を伸ばした。もう手紙を開いてしまった。ここまで来たのなら、写真も見てしまえ。

 拾い集めて重ねた5枚の写真の一番上にあった写真は、噴煙が昇る山をバックに撮った十数人の女子と数人の男性の集合写真だった。

 男性は飾緒がついた白い軍服を着ている。女子は吹雪と同じようなセーラー服にスカートの子もいれば、紺のブレザーにスカートの子、ワンピース型のセーラー服を着た女子もいる。地面は白色と黄色のラインが引かれたコンクリートで、写真の端っこには小さく双発ジェット機が映っている。

 この十数人の女子が艦娘なのだろう。ファラガットはそう思った。日本の艦娘はみな、吹雪のようなセーラー服を着ているものかと思っていたが、別にそういうわけではないらしい。しかし、ワンピース型のセーラー服というのはいかがなものか。いや、ワンピース型なのはいい。問題はその丈だ。短すぎやしないか。

 裏面を見ると、「Rabaul june 14,2015」と書かれていた。

「ラバウルか……」

 ラバウル。パプアニューギニア東北のニューブリテン島にある都市の名前だ。ファラガットにとってラバウルは見たことがある土地ではない。しかし、船員達がなんども言っていた覚えはある。

 聞く話によれば、ラバウルからは日本軍機が毎日のように飛び立ち、ガダルカナルの海兵隊や輸送艦を攻撃していたらしい。ファラガットはソロモン諸島東部の方でシーレーン護衛やサラトガの護衛をしていたのでラバウル航空隊の攻撃を受けたことがなければ、迎え撃ったこともない。カエル跳びされて、取り残された戦場。そんなイメージだ。

 2枚目の写真を見る。今度はウェーブのかかったブロンドの髪をアンダーポニーでまとめた垂れ目ぎみの女性と丸めがねをかけた癖毛の茶髪の女性が映っていた。黄色人種ではなく、白人だ。日本海軍に出向しているヨーロッパの艦娘だろうか。どちらかというとイタリア系の顔である。イタリアといえば地中海ではそれなりの海軍を持っていた、とファラガットは記憶しているのだが、あまりイタリア海軍の話を聞いたことはない。正直言って、ファラガットにはイタリアは対戦終結間近に枢軸国を裏切って連合国側についたイメージしかない。

 3枚目の写真。ピンク色の花が咲いた木だ。ニューヨークにもあるサクラだろうか。建物の中から撮影したのか、窓のサッシが映っている。

 4枚目の写真は机に座って書類仕事をする男性の写真だった。黒い軍服を着ていて、口ひげを蓄えている。写真は男性に断りもなく撮影したのか、男性は顔を上げ、大きく目を見開いていた。階級章が少し見える。上下端に黒のラインがあり、白い花の飾りが2つついている。写真のように書類仕事をしていると言うことは決して低い階級ではない。はたしてこんな突然写真を撮っていいものやら。ファラガットとしてはは撮影者の安否が気になるところだ。

 5枚目は携帯食糧らしきものを海上で交換し合う2人の艦娘の写真だった。片方はおそらく戦艦クラスの艦娘、もう片方はグレーのブラザーベストとスカートを着た艦娘だ。吹雪と同じ12.7㎝連装砲を持っていることを見るに駆逐艦だろう。ただ戦艦クラスの艦娘の肌が白い。写真の裏面を見ると「West Arabian Sea May 23,2015」とある。

 西アラビア海。インド半島とアフリカ大陸の間にある海の西側ということだろう。スエズ運河は深海棲艦から取り戻されたと聞くし、戦艦クラスの艦娘はヨーロッパの艦娘だろうか。よくよく見てみればイギリス王立海軍の小さい旗がマストにある。イギリスの戦艦。ウォースパイトあたりだろうか?

 日本の艦娘がイギリスの艦娘に渡している物は銀紙に包まれた黒い棒だ。吹雪が話していたヨウカンというものだろうか。

 イギリスの艦娘が日本の艦娘に渡している物はビスケットだ。MREにもビスケットはあるが、この写真のビスケットの方がはるか美味しいだろう。イギリスは普通の料理に関してはともかく、お菓子は美味しいと聞く。

 ファラガットは写真を見て微笑んだ。第二次大戦では日本とイギリス。両方、敵同士だったのだ。イギリスの威信であった東洋艦隊のプリンス・オブ・ウェールズやレパルスはマレー沖海戦で日本に沈められ、後々には空母ハーミズも沈められている。日本側だって終戦間近で巡洋艦あたりをイギリス海軍に沈められている。

 それが今、この世界ではこうして携帯食糧を交換し合っているのだ。もちろん吹雪達がアメリカに来て、アメリカ軍の一員として(あくまで第一次大戦のロシア軍団と同じような形だが)作戦に参加していることから考えて当たり前なのだが、こうして写真として示されると、戦争は終わったのだと、そう思う。

 

『 私達、第十一駆逐隊はみな元気です。アメリカの風土にも慣れ、アメリカの艦娘達もみな優しく、訓練も良く励んでいます。

 アメリカは資源大国なこともあり、ノーフォークの湾港機能回復の為の資材輸送もほとんどが鉄道で賄われているので、日本にいたときのように輸送船団の護衛というのはあまりありません。なので海に出るのは演習や訓練、哨戒、作戦時くらいのものになっています。

 日本駆逐艦の本領である対艦戦闘の訓練ではアメリカの駆逐艦娘に引けを取らないのですが、対潜戦闘ではかないません。水雷戦の訓練などではこっちが教える立場ですが、対潜戦闘の訓練ではこっちが教えられる立場になっています。それに探針儀や電探の性能がかなり違うのです。探針儀は明瞭に聞こえますし、配備されているSKレーダーという電探はちょっと頭を出した潜水艦でも捉えることが可能です。22号電探を久しぶりに使ったらノイズが多くて、びっくりしました。日本の装備開発の妖精さんや技術者の皆さんにはもっと頑張って欲しい所です。

 手紙が日本に届くくらいにはもう始まっているでしょうが、ノーフォーク、西インド諸島に続いて、アメリカはパナマ運河を攻略する予定です。パナマ運河には潜水艦クラスの深海棲艦がたくさんいるそうなので、ノーフォークのときのように活躍するのは難しいかもしれません。教えに行って教えられるのは不思議な気分です。

 

 アメリカの艦娘は日本の艦娘にライバル意識を持っている艦娘が多いです。ファラガット級一番艦のファラガットは私を常にライバル視していて、なんとか追いつこうと熱心に訓練しています。他にも最近着任した戦艦サウスダコタは「今度こそ、霧島には負けない!」と息巻いていました。多くの戦艦艦娘が言うのですが、機動部隊ではなく、戦艦対戦艦の砲撃戦がやりたい、とのことです。大艦巨砲主義への夢は日本もアメリカも捨てていないようです。一方で空母の艦娘はそういう戦いに関しては興味がないようです。

 そういえば、日向さんが渡してくださったあの瑞雲は水上機母艦ラングレーが大事に使用しています。ラングレーはアメリカ初の航空母艦のあのラングレーです。つい最近、瑞雲は火星から2000馬力の米国製エンジンに換装されたり、機銃をアメリカのものに変えたり、改造されました。性能も結構上がったようです。

 

 アメリカの食べ物は基本的に量が多く、味が濃いです。あと肉料理も多いです。種類は多民族国家名こともあって、様々な種類があります。主食だけでもパンや豆料理やジャガイモ料理、パスタやシリアルとたくさんあります。デザートも充実していてゼリーやアリスクリーム、ドーナツと毎食変わります。アメリカの食糧生産事情は日本に比べれば、かなり良かったようで、食料量販店やドーナツ屋さん、ハンバーガー屋さんなど飲食店も普通に営業しています。やはり豊かで広大な土地を持っているというのはそれだけで強みですね。

 だいたいの食事は美味しいのですが、「MRE」と呼ばれる戦闘糧食はとにかく美味しくありません。あれは別の領域です。あくまで戦闘糧食なので毎日食べる、という代物ではありませんが、食べるのなると皆、露骨に嫌な顔をします。私達が食べるのは艦娘用のMREなのですが、これは整備兵達に言わせると通常のMREよりもまずいそうです。

 

 アメリカ海軍はもう十分なくらいに艦娘戦力を整えました。おそらく、パナマ攻略が終了してから、私達は日本に帰国することになるでしょう。具体的な月日はまだ分かりませんが、そう遠くはないと思います。

 その日まで、アメリカ海軍の指揮下の元、日本海軍の一部隊として一生懸命、頑張っていきたいと思います。

             第十一駆逐隊一同』

 

「うまくやっているようだな」

 日向はラバウル基地の宿舎でコピーされた手紙を読んでいた。

「瑞雲を改造か……」

 手紙と共にコピーされた写真の一枚には改造された瑞雲の写真もある。ネイビーブルーで白星の国籍マーク。一回り大きくなった機首、翼から飛び出した銃身。しかし、確かに瑞雲だ。

「こちらだって誉を積みたいものだ……」

 誉は紫電改や流星、彩雲に搭載されているエンジンだ。小型軽量の2000馬力エンジンである誉を瑞雲に積めば、アメリカで改造された瑞雲以上に高性能を示せるのは間違いない。しかし、誉の生産数にはあまり余裕がない。流星や彩雲に搭載する分で一杯一杯だ。とても瑞雲用に回してくれるほど余ってはいない。火星の改良型で何とかするしかないのが現状だ。

「イギリスの水冷エンジンが積めれば……いや、それだと被弾に弱くなる。水冷エンジンは冷却水が漏れてしまえばお終いだからな」

 うーむ。ベットに寝転びながら、いろいろと考えていると部屋の戸をノックする音が聞こえた。

 日向は手紙と写真を机に置いてから、立ち上がり、戸を開けた。

 扉の前にいたのはカーキの軍服を着た陸軍兵だった。制帽は手に持っており、胸に拳銃のホルスターを下げている。二の腕には「憲兵」の赤文字が入った腕章。

「ラバウル基地憲兵隊から参りました。土井匡憲兵大尉であります」

 土井憲兵大尉は憲兵手帳を取り出し、身分を明かす。

「憲兵が何か?」

「艦娘、伊勢型航空戦艦日向。貴殿には『艦娘装備品の不正持ちだし』に加え、『書類偽造』の疑いがかけられています」

「『艦娘装備品』とは具体的に何だ?」

「水上偵察機瑞雲一一型です」

 なぜばれた? おそらくこの土井とやらが言っている瑞雲はミッドウェイで吹雪に与えた瑞雲に違いない。あのときの瑞雲は書類上は戦闘で消失したことになっているはずである。写真でもなければ、ばれようがない――――いや、あるじゃないか。写真。さっきまで私も手に持っていた。

「ご同行お願いします」

 日向はおとなしく従った。

 さあ、日向の明日はどっちだ!




始末書と謹慎をさせられることになりましたとさ。日向はいろいろなところにパイプを持っているからね。軽く済むのさ。普通の兵がやったら重営倉入りだぜ。


 今回の話はkouyouさんの「集合写真とかどうかな?」との要望で書いたのですが……写真と言うよりも手紙になっていますね。はい。
 大まかなプロットを考える段で、「ちょいと待て。日頃からあんな格好しているわけがない。私服は極めて普通だろ。常識的に考えて」となってしまい、「アメリカの方でも過激な服装あるんじゃないか? 別に変に思わないんじゃ?」という風になって「写真より手紙の方が良くない?」という風になりました。kouyouさん、ごめんなさいね。


余談
 霞改二および改二乙カワイイヤッター!! 改二の服装は実際おしゃれでかわいい。中破しても失わない凛々しさと覇気との対比により霞のかわいさは実際倍。スカートからのチラリも実際奥ゆかしい。しかし、一番の魅力は中破時に魚雷発射管が取れた左足の太もも。魚雷発射管が左腕から両足に移ったのは陽炎型や特型、夕雲型との艤装共通化の思惑が見え、ポイント重点。左手に持つ機銃座は末期に砲塔を一基降ろして機銃を搭載したことを意識している!
 つまり何が言いたいか。霞改二および改二乙カワイイヤッター!!
 というわけでケッコンカッコカリしてくる。

 霞は第十八駆逐隊の皆さんと一緒に外伝で登場します。
 本州や北海道の方は雪やら強風やらで大変ですが、皆さん、お体を大切に。風邪も引かないようにね。

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