雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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 意外に書けたので投稿。

 前回のあらすじ
 発動されたゴールド・ダスト作戦。潜水水鬼達は敵艦隊に攻撃を仕掛けるものの、逆に殲滅されるという異常事態に陥っていた。なぜに殲滅されるか? 前線に赴くと共にそれを確認し、確信した潜水水鬼は夜明けと共にラングレーの瑞雲に見つかってしまった。



第39話「海中を走る閃光」その2

 何体の潜水艦クラスを沈めれるか? そんな競争が航空機を扱える艦娘の中で始まったのは昨日の朝からだった。トップを走っているのは対潜戦に関してはエキスパートのエセックス級イントレピッドで、びりっけつは水上機母艦ラングレーである。

 しかたないことだ、と瑞雲の妖精パイロットは思うのだ。

 イントレピッドの搭載機数は90機。そのうちの70機が攻撃機のTBF/TBMアベンジャーで占められているのである。一方、ラングレーの搭載機は6機。そのうちの1機が瑞雲で、他5機はOS2Uキングフィッシャーという瑞雲に比べれば超低性能な水上観測機。数と性能の両面で敵いっこないのだから張り合うのはやめたらどうだ、と瑞雲のパイロット妖精はラングレーに忠告するのだが、『ダルース』のアイスクリーム1週間食べ放題券がもらえるのだ、やらずにはいられるか、と息巻いて聞く耳を持たない。

 そんなことだから、瑞雲やキングフィッシャーは日の出した瞬間から対潜哨戒に飛ばされているのだった。少しでも戦果を出すために。

 涙ぐましい努力だが、それゆえに、瑞雲は潜水水鬼を見つけることができたのだ。

 しかし、日の出したばかりの今は空は明るくとも海はまだ暗い。そのため、瑞雲が潜水水鬼を発見するのは潜水水鬼が瑞雲を発見するよりも後だった。

 敵の潜水艦を発見! 攻撃する!

 そんな風に叫び、急降下した時にはすでに潜水水鬼の頭は海面にはなかった。潜行したのである。位置が分からなくなってしまっては、3.5インチFFARを放とうが、対潜爆弾を落とそうが意味がない。パイロット妖精は敵潜の頭があった所から目をそらさず、機首を向けた。

 当たってくれよ。パイロット妖精は発射レバーを引いた。瑞雲の翼下から6発の3.5インチFFARが発射される。緩降下状態で発射されたそれは小さな水柱を立てて、海の中に入った。

 さてどうなる。蒼い血が浮いてくれば命中、何もなければ大外れだ。

 瑞雲は周辺をぐるぐる飛んでいると、撃ったあたりの海から何か飛び出した。それは黒い長髪を持った人の頭。敵潜だ。浮上するということは放った3.5インチFFARが命中して、潜行不能になったに違いない。

 パイロット妖精は思わず舌なめずりした。もう瑞雲の武装はイスパノ・ノイザAN-M1 20㎜機銃しかないが、所詮潜水艦である。20㎜弾程度でも障壁は貫通できるし、反復攻撃すれば仕留めれる。

 潜水水鬼に機首を向けたとき、妖精パイロットは見た。敵潜からレールが延ばされ、そこから深海棲艦航空機が発艦するのを。

 

 自分の艦載機かと思って悠長に確認しようとしていたのが全ての失敗だ。それで潜行するのは遅れ、敵弾を2発も食ってしまった。

 敵弾は矢のような形をしたロケット弾だった。海中に急角度で突っ込んだと思いきや、起き上がってこっちに向かってきたのだから、驚きだ。

 潜水水鬼は水中で障壁を展開したが、悠々と矢は障壁を貫通し、1つは潜水水鬼の右腕に刺さり、1つは脇腹をかすった。泊地水鬼は右手に刺さった矢を抜こうと一瞬手をかけたがやめた。深く潜行したいところだが、それも駄目だ。水圧で押されて傷口から血が抜けていくだろう。敵の攻撃可能深度までしか潜れない。

 あいつを落とさなければならない。落とさなければ味方機を呼ばれ、敵の駆逐艦も来て

やられる。幸いにも艦載機は2機残っている。

 潜水水鬼は水中で艦載機を左手のレールにセットし、勢いよく海面に飛び出した。

 水の世界から戦いの世界へ。まだズイウンは上空にいた。左手を高く空に挙げる。

 行け。

 

 深海棲艦航空機の突然の発艦に気を取られてしまって、発射レバーが握れなかった。深海棲艦航空機なんて後でどうとでもなる。まずは敵潜を沈めなければならない。

 発射レバーを握った。両翼のイスパノ・ノイザAN-M1 20㎜機銃が火を噴いて、無数の砲弾が敵潜に向かって飛んでいく―――――――――――のは一瞬だった。

 なに!? なぜ出ない! 

 イスパノ・ノイザAN-M1は十数発放っただけで勝手に射撃をやめてしまった。発射レバーを握り直しても発射しない。

 くそったれ! 瑞雲は敵潜の前に十数本の水柱を立てただけで、敵潜の上を素通りする。 敵潜は再び潜行。今度は瑞雲が襲われる番だった。2機の深海棲艦航空機が追随してくる。後部座席の妖精がキャノピーを開けて後部機銃を撃つが、戦闘機動をする中、撃ってもなかなか当たらない。逆に敵機の機銃弾はびゅんびゅんと瑞雲のそばを掠めていく。瑞雲は振り切ろうと藻掻く。急旋回をしたり、2000馬力エンジンのパワーで引き離そうとしたり。しかし、深海棲艦航空機は白玉型ではなく、虫型のくせして、きちんと瑞雲の後ろに食いついてくるのだった。

 埒の明かない瑞雲はエンジンスロットルを思いっきり開き、宙返り。自動空戦フラップが作動し、水上機とは思えない小さな旋回半径で綺麗な宙返りを決め、敵機の後ろに付いた。

 もらった! パイロット妖精は機銃の発射レバーを握るが、イスパノ・ノイザAN-M1は黙りとしている。照準はしっかり捉えているのに機銃がうんともすんとも言わないとなると話にならない。

 敵機も瑞雲の機銃が発射できない、と理解するのには、このコンタクトで十分だった。敵機は二手に分かれる。1機が瑞雲を追い立て、もう1機が良い角度から射撃し、瑞雲を確実に仕留める気なのだ。

 味方機はまだか!? 瑞雲は味方艦隊がいる方角の空を見る。味方機はまだ見えない。このままでは蹂躙されてしまう。パイロット妖精は無茶を決意した。できるかどうか分からないが、できなければ落とされる。

 操縦桿を思いっきり押し倒すと同時にエンジンスロットルを前回に開く。動力全開にしたままの急降下。それも90度角のだ。いつもの急降下よりも速度が速い。当たり前だ。急降下をするときに必ず使うダイブブレーキ、今ばかりは使っていないのだ。

 瑞雲を追い立てる役の敵機は急降下する瑞雲についてくる。よし、そのままついてこい。そのままだ。ぐんぐん速度が上がっていく。高度計の針が下がっていく。海面に近づいていく。パイロット妖精は怖さのあまり、涙目になる。こんなこと普通、しやしないのだ。こんなことやったら普通死ぬ。でもやらないと死ぬ。どのみち死ぬなら……というわけだ。でもそれと怖いのとは別だ。

 もう海面の波すら分かるくらいだ。急降下性能は深海棲艦航空機の方が良いようで、瑞雲との距離を詰めてくる。

 ここ! そう思った瞬間、妖精パイロットは瑞雲のフロート支柱後方についているダイブブレーキを展開、エンジンスロットルを最低に絞りながら、操縦桿を力一杯引き起こした。もちろん自動空戦フラップも作動する。足が弾けそう、と思うくらい強烈なGを感じながら、瑞雲を急降下状態から引き起こした。引き起こしたら、気絶しそうなくらい朦朧とする意識を気力で保ちながら、エンジンスロットルを全開にした。

 ちなみに敵機はというと、母なる偉大な海と再開を果たした。ダイブブレーキもないくせして、急降下する瑞雲の尻に全速力でくっついていたおかげだ。旋回半径が大きすぎて、海面に突っ込むのは当たり前である。

 助かった――――――と思うのはまだ早い。もう敵機は1機いるのだ。水平飛行に戻ったばかりの瑞雲を狙って、機銃を放ってくる。瑞雲はエンジンの回転トルクも利用しながら、旋回して回避する。

 回避されたら回避されたで、今度は瑞雲の後ろにつく。今急降下してもさっきと同じ手は食わないはずだ。

 敵機の射線軸に合わないよう、左右にぐうんぐうんと振れる。敵機は何とか射線軸を合わそうとするが、瑞雲は横滑りさせたり、旋回したり、思いついたように宙返りをしたりする。しかも後部機銃まで撃ってくるものだから、なかなかうまくいかない。深海棲艦航空機はヤケになったのか、射線軸が近くなっただけで、銃撃するようになった。

 よしよし、その調子だ。パイロット妖精はほくそ笑む。そうするとどうだろう。しばらくして敵機は銃撃してこなくなった。弾切れである。

 そうこうしているうちに味方のF6Fヘルキャットが救援に来た。弾切れになった敵機はF6Fの接近に気づくとほうほうのていで逃げていく。 

 F6Fは逃げる敵機を撃墜せん、と追おうとするのだが、それは艦隊からの『航空機はただちに帰投せよ』という無線で止めざる得なかった。

 

 夜に対潜哨戒をしていた吹雪は朝日が出るちょっと前に床についたのだが、朝日が昇って十数分後、『ダルース』を突如襲った衝撃で目を覚ました。

 バッと飛び起き、何が起こったのか情報を五感で察知しようとする。

 触覚。柔らかい毛布。自分の体温と寝ていた形が残っているマット。髪が少し寝癖がついているような気がする。あと口の中が少しねばねばする。

 味覚。寝起きの時とあまり変わらない。

 嗅覚。塗料の揮発した溶剤と自分と白雪が使っているシャンプー、石鹸の匂いが微かにする。

 視覚。『ダルース』で自分にあてがわれた部屋。白い壁、緑のリノリウム床。ベット。難燃化木材で作られたサイドボード。倒れた写真立て。

 聴覚。人が走る足音。大声。波の音。そして微かに流れる水の音がする。

 流れる水の音。水の音。ミズのオト。みずのおと。水のおと。水の音。

 起きたばかりの頭がようやく回り出してくる。そう、水の音だ。

 魚雷が当たったりした艦に浸水が発生するときはこんな水の流れる音がしたっけ? あれは日本にいるとき、ちょうど1年くらい前の哨戒艇『軽鴨』に所属していてAL作戦に参加しているころだったかな? 島の影から突然現れた駆逐イ級が放った魚雷に運悪く当たった時、こんな音がしていた気がする。『軽鴨』は2基あるガスタービン機関の1基が破壊されたんだ。しかも破口が大きくて排水しても排水しても浸水するから、大変だったんだ。そう、自分の部屋も浸水していて大変だった。

 浸水―――――しんすい――――――シンスイ―――――浸水。そう、浸水だ。

「浸水!?」

 ようやく吹雪の脳みそは本調子になった。白雪ちゃん起きて! 浸水だよ! 浸水!

 白雪はまだ目覚めてはいなかったが、眠りから覚めかけの状態だったらしく、すぐに目を開けた。目を擦って、どうしたの、と尋ねる。

「浸水?」

「うん、水の音が―――――――」

 言葉は途中で途切れた。また衝撃が『ダルース』を襲ったからだ。鉄のひしゃげる音と水が流れる音が続く。吹雪は衝撃による揺れで地面に倒れた。衝撃で白雪の目もぱっちりと開いた。

 起き上がりながら、吹雪は思う。対潜哨戒をやっていた艦娘は何をやっているのだろう? 対艦戦闘はともかく、対潜戦闘は自分達、日本海軍よりも上手なはずだろうに。何をやっているのだ?

 

 魚雷なんかじゃない。ファラガットはそう思った。

 雷跡は見えなかったし、ソナーは発射管注水音も発射音も何も捉えていない。突然、『ダルース』から水柱があがったのだ。

 とんでもない潜水艦がいるのだろうか? 雷跡のない魚雷が使えて、静粛性が高い、そんな潜水艦が。

 魚雷はもしかしたら酸素魚雷かもしれない。あれは確かに雷跡はほとんど見えないし、ロングランスの異名を持つくらいの長射程魚雷だ。ソナーの探知範囲外から雷撃されれば探知しようがない。しかし、酸素魚雷は完全に無航跡なわけではない。近距離であれば青白い航跡を見ることができる。

「長距離から発射された酸素魚雷なら発射源を特定することはできない! 陣形をもっと広げろて魚雷を発見しろ!」

 同じ駆逐艦隊の艦娘に命令する。本当に長距離から放たれた酸素魚雷なら『ダルース』やそのほかの艦を守る手段はいち早く魚雷を発見し、それを知らせ、回避運動を取らせるほかない。ファラガットはそう判断した。

「『スワロー』がやられた!」

 後ろを振り向くと『スワロー』の左舷に水柱が立ち上っている。ファラガットは悪態をつく。曲がりなりにも自分の母艦。やられたのは悔しい。続いて空母艦娘のイントレピッドも水柱に包まれた。

「海面に目をこらせ! もう味方をやらせるな!」

 そう叫んで、ファラガット自身も海面に目をこらした。雷跡。雷跡。青白い雷跡。

 皆が雷跡を探した。被弾していない艦は水兵達が双眼鏡を片手に甲板にあがってきているし、艦娘達も辺り一面の海面を見渡し、見えない攻撃を警戒した。

 相手が深海棲艦だからだろう。もし相手が人間だったなら、すぐに疑ったかもしれない。もしくは『スワロー』などが搭載しているソナーで見つけられたかもしれない。魚雷と思い込んでいるから、それは足下にあるということに誰も気づかなかったのである。

 ファラガットの足に何か当たった気がした。なんだ? そう思って足下に目を向ける暇もなく、それは作動し、爆発した。ファラガットの体は痛みに包まれた。

 爆発したもの。それは丸く小さな突起が生えた待ち伏せ兵器だった。

 




 もうすでに分かる人にはお分かりかと思います。最近の物はホーミング魚雷を放ったりするそうですね。ちなみにこれの形状は丸い物だけではありません。日本をかつて苦しめたやつは円筒状をしていました。水中をふよふよしているものだけではなく、海底に鎮座している物もあります。鎮座って言っても、たいてい静かな奴らですがね。かのポル・ポトが「完全な兵士」と言った兵器の海バージョンです。最近は第二次大戦時から撒いてからそのままの物の外殻(外装か?)が腐食して中身のピクリン酸などが漏れ出して問題になっているそうです。南洋でダイビングする人なんかは聞いたことあるんじゃないかな?

 瑞雲が搭載しているイスパノ・ノイザAN-M1 20㎜機銃は非常に不発が多い鉄砲だったそうです。これはフランスのイスパノ・ノイザHS.404という機銃をアメリカがライセンス生産したものなのですが、どうも薬室の寸法がおかしかったらしく、不発が多発したらしいのです。改良型のAN-M2、AN-M3では薬室以外の改良をして、ある程度改善されたらしいのですが、やっぱり不発はかなりの数が起こったようです。そういうこともあり、瑞雲のAN-M1も不発になりました。イギリスもHS.404をイスパノ Mk.Iとライセンス生産しているのですが、最初こそ作動不良などが起こったそうです。しかし、Mk.IIではおおかた改善され、イギリス戦闘機の主力機銃となっています。
 アメリカはMG42のコピーといい、寸法関係でいっつもコピー失敗してないか? HS.404やMG42意外にも寸法でコピー失敗したヤツがあった気がするぞ。いい加減、メートル法、キログラム法に変えればいいのに。
 
 海の中に鎮座する兵器は艦隊を止めてしまっても、戦闘は止まりません。仲間達の恨みを晴らそうと深海棲艦が襲いかかってくるのです。艦娘達は自由に動けない海で艦隊を懸命に守ります。しかし、隻腕のリ級と潜水水鬼の攻撃は激しく…………。そんな中、アメリカ本土から補給物資と共に新兵器が届きます。艦娘達はそれを使い、状況を打破しようとするのです。
 次回、「機雷の網」。よろしくお願いします!

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