雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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長々と放置していてすいませんでした。
9ヶ月も放っておけば、作者も設定を忘れる。プロットメモがあって良かった。


第41話「機雷の網」その2

 ニカラグアのブルーフィールズ湾はニカラグア東海岸中部にある湾で、細長いベナード島が湾のほとんどを塞いでいるのが特徴である。出入り口は南北に1つずつしかなく、南側は海底が浅いため、大型船は北側からしか出入りができない。

 艦隊は南側に目の細かい鋼鉄性のネット――いわゆる防潜網を設置して潜水艦クラスの深海棲艦が潜航状態で通過できないようにした。さらに艦娘を少数配置することで、水上航行での通過も許さない。こうして、北側の守りを重点的に固めていた。

 『ダルース』と『スワロー』。この2艦が機雷による破口を簡易的に修理するまでの時間。艦隊はブルーフィールズ湾からは動けない。

 

 CICには夜でも青白いモニターの光で染まっている。昼と何か違いがあるかと言われると、それは時計の針程度のものだ。

 時計の針はすで12時をとうの昔に越えて、朝の2時を回っている。

『レーダーに影。重巡クラスが5、駆逐艦クラスが7。距離22.5マイル(33km)。方位350より接近中』

 湾外で哨戒配置されていた駆逐艦艦娘から旗艦『ブルーリッジ』に通信が入る。しかし、『ブルーリッジ』のレーダーではまだ捉えられていない。そのため、CICのレーダー画面には手動で敵艦隊の推定位置に赤コンテナが表示される。

「やはり来ましたね。こいつらは水上艦クラスですし、囮でしょうか?」

「おそらくそうだ。アラスカと重巡クラスの艦娘で対応せよ。12マイル(20km)以内には近づかせるな。哨戒部隊は待機。潜水艦警戒を厳にせよ」

 

 アラスカに限らず、出撃する重巡艦娘達は喜び勇んでいた。

 それはなぜか。ゴールド・ダスト作戦が発令されていらい、大きな仕事がなかったからである。強いてやることと言えば、大出力で大型の対空レーダーCXAMを搭載して、艦隊の先頭でぼーっとしているだけ。「パナマ方面の深海棲艦には航空戦力なし」と事前偵察で判明しなければ、やる気に張りも出ただろうが、敵機一機もいないとなれば、出るものも出ない。重巡クラスの深海棲艦が少数ながら存在する、ということはわかっていたが、その数はほんの数隻である。どうせ空母艦娘に狩られて、重巡にはお役が回ってこないのだろう? そんな雰囲気が重巡艦娘の間では漂っていた。

 しかし、深海棲艦の巡洋艦部隊が来た。それも夜に。夜は空母艦娘達は艦載機を飛ばせない。ここばかりは重巡洋艦の出番である。

「さあ、深海棲艦と、お高くとまっている空母艦娘どもに目に物見せてくれよう!」

 さらにアラスカがこう焚き付けるものだから、重巡艦娘は燃えに燃えた。

 出撃した重巡艦娘はアラスカを含め、8名。ニューオリンズ級のアストリア、クインシー、ヴィンセンズ、ウイチタ級のウイチタ、ボルティモア級のボルティア、ヘレナ、シカゴである。全員、SG対水上レーダーを装備し、8インチ(20.3cm)三連装砲を3基ずつ備える強者である。

 特にニューオリンズ級の面々は3名とも第1次ソロモン海戦で戦没した艦なので、これを汚名返上とばかりに息が弾んでいる。

 湾外に出て、南東へ。大型巡洋艦アラスカを先頭とし、敵艦隊へと全速で一直線である。

 まず火蓋を切ったのは当然のことながら、アラスカだった。

 主砲がいかに数世代前で古くさい――戦艦ドレッドノートと同じ12インチ(30.5cm)砲だとしても、6インチ砲に比べれば、破格の射程と威力だ。

 撃ち出された9発の12インチ砲弾は綺麗な放物線を描き、敵艦隊に降り注ぎ、水柱で包み込む。さすがのレーダー射撃。初弾から夾叉である。しかし、命中弾は得られない。

 そのまま命中弾を得られないまま、8インチ砲……5インチ砲の有効射程に入っていく。

 艦娘と深海棲艦の双方が撃ち合うが反攻戦かつ双方全速力。距離が急激に狭まるためにレーダー射撃と言えども修正射撃がおぼつかない。一番距離が縮まる、すれ違いの瞬間も深海棲艦が魚雷を発射してきたため、回避運動を取らねばならず、命中弾は得られない。

 そのまま、同行戦に移行する。――――が、回避運動に伴う速力の低下、さらには深海棲艦の方が数ノットばかり早いせいで、アラスカ達は少しずつ距離を開けられていく。

「ええい! なんとしてでも当てろ!」

 アラスカが叫ぶ。同行戦になり、相対速度が小さくなったため、反攻戦時よりは狙いを付けやすくなったが、深海棲艦が蛇行、それも速度を落とさずにするので、なかなか当たらない。

 初めて命中弾を出したのは湾口近くで敵潜の警戒を行っていた駆逐艦娘が撃ち始めた頃だった。

「当たった!」

 ニューオリンズ級の末娘ヴィンセンズが最後尾の深海棲艦に命中弾を出し、歓喜の声を上げる。続いてアストリア、クインシーも命中弾を出し、敵の速度が落ちる。

「よし、このまま……!?」

 そのときであった。右腕がなく、肩辺りが妙に肥大化したリ級が被弾した最後部の深海棲艦をかばうように下がってきて、肥大化した部分から何かをポロポロと放出した。

 機雷だった。アラスカ達は敵艦に命中弾を出すことに必死で、投下された機雷に気付かなかった。

 アラスカ達の足下で爆発が次々と起き、転倒しただけなら良かったが、さながら派手な玉突き事故のように転けた艦娘同士が衝突、被害を増大させた。

 ウイチタのみが玉突き事故に巻き込まれず、追撃をしようとしたが、今度はリ級の砲撃を頭にもろに食らってしまう。障壁で防げたはいいものの、命中時の衝撃で意識が朦朧とし、追撃どころではなかった。

 

「前線を上げろ! 突破される!」

 ファラガットが周りの駆逐艦に叫ぶ。アラスカ達が敵艦隊にほとんど打撃を与えられなかった以上、駆逐艦と少数の軽巡で構成する、たった1つの防衛線で敵艦隊を食い止めることは難しい。

「バックレイとクレイブンは続け!」

 ファラガットは手近にいた駆逐艦を引き連れ、隊列から飛び出す。そのファラガット達の姿を見た軽巡アトランタやマーブルヘッドも近くでおろおろとしていた駆逐艦娘を叱咤し、小規模な水雷戦隊を編成して、敵艦隊に向かっていく。波状攻撃でもって、敵を疲弊させ、ちょっとした隙間に魚雷を撃ち込み、敵を粉砕するのだ。

 しかしながら、言うは易く行うは難し。砲の有効射程の差が大きく、かつレーダー射撃は正確。ファラガット達は幾多もの水柱に包まれ、うまく照準ができない。至近弾の炸裂によって引き起こされる大波に魚雷発射管が取られてしまう。砲も同じだ。

「ええい! 魚雷撃て撃て撃て!」

 曖昧な照準だが、撃たないよりはマシ。狙いの甘さは魚雷本数で補え。

 33本。ファラガット、バックレイ、クレイブンの魚雷すべてがほぼ同時に放たれた。水中で炸裂する至近弾の衝撃波に揺れながらも、魚雷は海中を進んでいく。

 深海棲艦は大きく回避行動を取った。メチャクチャな狙いで放たれた魚雷は散布界が広すぎて、艦隊陣形を崩さないまま回避するには、大きく動くほかなかったのだ。

 そこは大きな隙となった。

「叩き潰せ!」

 敵艦隊側方から接近した軽巡マーブルヘッドと駆逐艦娘3名が魚雷と砲を放つ。今度はファラガット達とは異なる正確な攻撃だ。

 数体のリ級、イ級に砲弾が命中。炸裂の炎が飛び散る。続いて魚雷も命中。海中からの衝撃波が命中した深海棲艦の体を引き千切る。しかし、他の深海棲艦はやられた仲間に気を取られることもなく、湾入り口の方向へ、突撃を続ける。

「絶対死守せよ!」

 湾外の最終防衛ラインでは軽巡アトランタを始め、ポーター級駆逐艦といった砲門数多い艦娘達がいたが、所詮5インチ砲。イ級などの駆逐艦クラスは撃破しても、重巡クラスの深海棲艦はは砲弾をはじき返し、突撃の勢いは止まらない。

 リ級達が砲撃を前面に集中する。放たれた8インチ砲弾は5インチ砲弾とは桁違いだった。アトランタ達を一挙になぎ倒し、深海棲艦は湾外最終防衛ラインは突破する。

 湾入り口はすぐそこだった。

 このままでは湾内に入られる! 残っている深海棲艦はすでにリ級3体のみといえど、通常艦艇では手も足も出ない。どうしようもないのか? 蹂躙されるだけなのか? そう皆が思った――――が、リ級達は湾口をシャトルランのように何度か横切る動きをするだけで、湾内に入らなかった。

 はい? 皆、あっけにとられた。深海棲艦が湾内に入って、『ロビン』や『スワロー』、『ブルーリッジ』などの通常艦艇を撃破するのだろう、それは防がなければならない。そう思って、深海棲艦を迎撃したのにどういうことだろうか。当の深海棲艦が変な動きをして逃亡するなんて、意味が分からない。

 リ級達はあっけに取られたままの艦娘達を一瞥すると、攻撃もせず、そそくさと離脱していった。

 艦娘達が正気に戻るのは、幾本もの雷跡が自分達目がけて向かって来たのを目にしたときだった。

 

 ベットでぐっすり眠っていた所を叩き起こされ、出撃した吹雪が始めに無線で聞いたのは「多数の潜水艦クラス深海棲艦が湾に向かっており、湾外の艦娘は苦戦中。至急応援に向かえ」という指示だった。

「さっき聞いたのと違う」 

 吹雪は独りごちる。出撃前に聞いた簡単な戦況報告と指示では『重巡クラスを中核とした深海棲艦が接近中。湾外で仕留めよ』ということだったが、現在では『敵は潜水艦』ということになっている。重巡クラスを中核とした深海棲艦はどうなったのか? 

 今の吹雪は5インチ砲に魚雷といった対艦兵装だけで爆雷投射器といった対潜装備は持ってきていない。緊急出撃だったため、必要な装備以外は付けなかったのだ。潜水艦が相手ということならば、装備を変えてこなければならない。

 吹雪は戦闘が行われている東を見る。ベナード島越しに魚雷の炸裂音と爆雷の爆発音がくぐもって聞こえてくる。

 突然、辺り一面が、照明弾を打ち上げたときのようパッと明るくなった。吹雪は突然の眩しさに目を瞑り、徐々に開ける。『アウル』、『ロビン』、『スワロー』もアスロックランチャーから対潜ロケットを発射したのだ。本格的に対潜戦闘が行われているらしい。

 事実、吹雪の後に続いてやってくる艦娘のほとんどは爆雷投下軌条や爆雷投射器を装備しており、新装備であるマウストラップ対潜ロケット発射器を手に持っている艦娘もいる。

「急いで母艦に戻らないと……」

 すでに湾口近くまで来ていた吹雪だが、引き返すほかない。潜水艦相手に対戦装備なしでは手も足も出ない。

 母艦に戻ろうと踵を返し、後続の艦娘達とすれ違った後、背後で爆発が起きた。そして次に鋭い悲鳴。

 思わず振り返ると、湾口近くで中破、大破した艦娘が倒れており、突然の爆発におろおろとしている艦娘達がいた。

「来るんじゃない! 機雷だ!」

 誰かが叫んでいた。呆然とする艦娘達。

 機雷? なんでこんな所に? 誰が敷設した? 深海棲艦? じゃあ、湾内と湾外は分断された?

 事態を推察する艦娘達。そんな中、艦娘達から少し離れた場所で長い髪と不気味な青白い肌の女が海面に頭だけを突き出す。紛れもなく、潜水艦クラスの深海棲艦だ。それは1体ではない。何体も、何体ものカ級、ソ級が艦娘達を静かに、かすかに蒼く発光する双眸で艦娘達を見つめている。

 彼女達、深海棲艦は今にも艦娘達に襲いかかろうとしていた。




 アイオワが本実装され、レキシントンもしくはサラトガ実装もほぼ確実という恐怖。「雪の駆逐隊」を書き始めたときは、米海軍艦の実装までの流れは、ナチス・ドイツ→イタリア→中華民国鹵獲艦→ヴィシー・フランス→イギリス→ソ連→アメリカ、という回り回って最後にアメリカという予想をしていたのですが……。曲がりなりにも枢軸側のヴィシー・フランス艦、お隣中国(正しくは中華民国)の鹵獲巡洋艦をすっ飛ばして、連合国筆頭のアメリカ、イギリスの艦艇から投入していくとは……。浮気なお転婆娘、帰ってきた連合国軍人こと、スチュワートまたは第102号哨戒艇は……。

 唐突な告知ですが、このゴールドダスト作戦が終了する3章で、「雪の駆逐隊」は終了します。この作品で準主人公であるファラガットも、史実の立ち位置的には吹雪のライバルですから、艦これ実装も十分にあり得る艦でして……実装の恐怖に怯えつつ、続けていくのは、かなり辛いです。
 当初のストーリー構想は7章(外伝含めば8章)までありましたが、さすがにそこまで続けていく気力も今はありません。気力低下の要因としては、米英艦の実装もあるのですが、最初辺りの文章力と軍事知識の甘さ、設定の甘さによる羞恥心もあります。(ドップラーレーダー使えば、深海棲艦航空機は捉えられるんじゃねーの、ということとか、当時のソナーは前方向しか探知できねーよ、何のためのハンター・キラー戦術だよ、とか)
 
 今ではUAが5万を越え、お気に入り登録数も294件です。更新の度に感想を書いてくださる読者様やオリジナル陸上深海棲艦の設定案をくださる、ありがたい読者様もおられ、本当にありがたく、嬉しい限りです。
 そして、自分の都合でこの「雪の駆逐隊」を短く終わらせてしまうのは本当に申し訳ないと思っています。
 この拙作に、もうしばらく、お付き合いくださる読者様がおられるなら、このベトナム帽子は嬉しい限りです。

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