30歳の童貞男も来たそうです   作:ほろろぎ

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第20話 審議決議の結果だそうですよ?

 暗闇の中に閃光が走る。

 その光に照らされながら、黒ウサギはギフトゲームの中止を宣言した。

 審判を務める月のウサギである所の彼女に与えられた特殊な権限が、ゲームを強制的に中断できる審議決議と呼ばれるものである。これは突発的にゲームを強制する魔王に対抗する手段の一つでもあった。

 ゲームの停止に伴い、街に鳴り渡っていたハーメルンの笛の音も止んだ。

 正気を失っていた人々も徐々に意識を取り戻し始め、それを見たサンドラも胸をなでおろす。

 

「あら、残念」

 

 斑の少女は、ゲームを停止された事に気分を害されたといった雰囲気だ。

 

「興が削がれたわ。歌劇(オペラ)は一旦幕引きね。」

 

 少女はシラケ気味にそう言った。

 

「どーなってんの?」

 

 貞夫が隣にいるレティシアに質問する。

 

「ゲームは一時中断だ。この後、魔王側と我々でゲームの真偽を問うための会談が行われるはずだ」

 

 レティシアは少女を見据えたまま答える。

 少女も、また後でねと呟くと、その身に黒い霧を纏わせる。

 風に吹かれる様に霧が晴れた後には、少女のいた痕跡はかけらも残されていなかった。

 戦闘の疲労を癒す間もなく、事態は魔王一派との交渉の場へと移っていく。

 街中のいたる所では、負傷した人々がその身を横たえている。

 貞夫は人垣をかき分けて火龍誕生祭の運営本部まで足早に歩いて行った。

 レティシアは少女に吹きかけられた黒い霧の瘴気に体を蝕まれたダメージが大きいようで、共に会談の場に向かう事は出来なかった。貞夫は彼女に簡単な治療を施し、後は専門の治療ギフトを持っている者に任せる事にし彼女と別れた。

 運営本部も路上同様、怪我をした人達で溢れている。

 その人だかりの中から、ピョコンと飛び出ている青いウサギ耳が揺れているのが目に入った。

 

「お、皆無事だったか」

 

 駆け寄ると、黒ウサギの他に十六夜とジンも共にいた。

 

「こっちは問題ない」

「レティシア様は?」

 

 十六夜に続いて黒ウサギが聞いてくる。

 

「攻撃くらってダウン中」

 

 貞夫は手短に答えた。無論治療済みである事も。

 そして周囲を見渡し、いつものメンバーが足りない事に気づく。

 

「春日部ちゃんと久遠ちゃんはどこいった?」

 

 その言葉に黒ウサギとジンは顔を俯ける。

 貞夫の脳裏に嫌な想像が浮かんだ。

 

「おい、まさか……」

「安心しろ、死んじゃいねえよ」

 

 たぶんな、と最後に付け加えられたが、貞夫は十六夜の言葉にとりあえず安堵の溜息をついた。

 

「ですが、飛鳥さんは現在、姿が確認できていません」

 

 重苦しい雰囲気をまとわせながら、ジンはやっとの思いといった風にそう告げた。

 飛鳥は耀とジンと共に白夜叉の元に向かったが、そこに魔王の一味も現れ、彼女は2人を先に逃がした後行方が分からなくなったという。

 

「今は耀さんが、ウィル・オ・ウィスプの手を借りて飛鳥さんを捜索している最中です」

 

 黒ウサギがその後の状況を話した。

 ジンは何もできず飛鳥の元から離れてしまった事を悔いている様だった。

 しかしそれは飛鳥が恩恵(ギフト)を使った為であるらしいので仕方のない事だろう。

 

「顔を上げろ。ゲームはまだ終わっちゃいない」

 

 十六夜がジンの背を叩き、喝を入れると共にフォローする。

 

「白夜叉ちゃんの方は、相変わらず動けんのか?」

「参戦条件がクリアされていないらしく、どうにも……。白夜叉様が仰るには、故意に説明不備がなされているらしいんですが、それが何なのかもまだ不明です」

 

 ジンが契約書類(ギアスロール)片手に説明する。

 不意に人々のざわめき声が大きくなった。

 奥の間からサンドラとマンドラが姿を見せたためだった。

 

「これより魔王との審議決議に向かいます」

 

 サンドラは視線をこちらに向けてきた。

 

「同行者として、箱庭の貴族である黒ウサギ、兄のマンドラ、この他に『ハーメルンの笛吹』に詳しい者がいるのならば、交渉に協力してほしい」

 

 そう言ってフロアにいる人々を見回す。

 

「誰か、立候補する者は……」

「はいはい! はい!」

 

 サンドラが言い終わる前に、挙手する者がいた。

 

「ハーメルンの笛吹についてなら、このジン・ラッセルが誰よりも知っているぞ!」

 

 手を上げたのはジンだった。思わぬ人物の名乗り上げにサンドラもぽかんとしている。

 そして当のジン本人も、何故か表情が固まっていた。

 振り上げた手もギクシャクと不自然に揺れ、まるで操り人形の様だ。

 黒ウサギがハッと何かに気づく。

 

「めっちゃ知ってるぞ! とにかく詳しいぞ! 役に立つぞ!」

 

 貞夫がジンの後ろを覗き込むと、十六夜が二人羽織の要領でジンの体を動かし、声色を変えて喋っていた。

 

「……何やってんの?」

 

 十六夜は貞夫の問いかけを無視してジンのフリを続ける。

 

「この件でサラマンドラに貢献できるのはノーネームのリーダー、ジン・ラッセルを置いて他にいないぞ!」

 

 ノーネームという単語に、事態を静観していた周囲の人々がざわめきだす。

 

「どこのコミュニティだ」

「ありえねぇ」

「他にいないのか」

 

 口々に呟かれる否定的な言葉にジンも落ち込みを酷くした。

 しかし十六夜はそんな声を無い物の様にしてジンに声をかける。

 

「毎夜毎晩書庫で勉強してたのは何のためだ?ここで生かさなくてどうする」

 

 ジンの背中を小突き、彼にとって初めての言葉を口にする。

 

「お前は俺達の旗印だ。名を上げてやろうぜ、リーダー(・・・・)

 

 この一言でジンの決意も決まった様だった。

 十六夜と黒ウサギと共に会議の場へと向かおうとするが、貞夫は1人その場に残ると3人に向けて言った。

 

「僕は交渉なんて出来る頭は持ってないから、そっちは任せるよ。代わりに久遠ちゃんを探してくる」

 

 やる事が決まった双方は頷き合うと、それぞれの持ち場へ進んでいった。

 ジン達が奥に引っ込むのを見届けた後、貞夫はフロアの窓から空中に飛び立ち、そのままさらに街全体が視界に入る位置まで高度を上げた。そこで精神を集中し飛鳥の生命エネルギーを探るのだが、人の多さのせいかどうしても彼女の気配を感じる事が出来なかった。

 魔王一味とたった1人で対峙したとの事だから、恐らくだがその場で敗北し連れ去られたと見た方がいい。

 彼女の恩恵(ギフト)は人心を操るという物だが、格上の相手には通用しないという弱点がある事がルイオスとの戦いで証明されている。魔王が相手となると厳しい物があるだろう。おまけに身体能力は普通の少女と変わらないのだ。

 白夜叉の言伝の中で、魔王は新興のコミュニティであるらしい事が予測されていた。

 今日現れた4人が全勢力ならば、新たにメンバーを増やすため人材の確保に走ってもおかしくは無い。

 逆に考えれば安全は保障されていると言えるのだが、ここまで微弱な気配も感じられないとなると、眠らされていると考えるべきか。

 飛鳥の気配を直接探せないのであれば、あとは地道に彼女の居場所を調べ周るしかない。

 貞夫は今度は耀の気配を捜し、その場所へと向かう。

 彼女と会い、まだ探していない場所を聞くと、そっちの方面を見て回る事にした。

 数時間も探し待ったが、結局飛鳥の姿を発見する事は出来なかった。

 一旦耀達と合流し本日は解散、明日も再び捜索するという事に。

 貞夫と耀はジャックとアーシャに礼を述べ、緊急的な寝床になっている大祭運営本部へと帰った。

 

 翌日、起床早々に飛鳥を欠いたノーネームメンバーが集まる。

 前日に飛鳥捜索に出ていた貞夫と耀、ダウンしていたレティシアが、ジン達から審議決議の内容の報告を受けた。

 

「まず魔王側の人員についてですが、軍服の男の名は『ヴェーザー』、白服の女が『ラッテン』、そして斑服の少女は『ペスト』と言います」

 

 ジンの口から述べられたペストという名前に、貞夫達3人の顔に驚愕が浮かぶ。

 

「それって、14世紀に流行した疫病のアレ?」

「はい。グリム童話のハーメルンの笛吹に現れる道化が斑模様だったんです」

「そういえば、ペストが流行した原因もネズミの大量発生だったな」

 

 ペストの流行は知らない者はいないであろう歴史的な事件だ。

 そして名が知られているという事は、それほど強力な存在であると言う事。

 

「厄介な相手が出て来たもんだ」

 

 貞夫は呻くように呟いた。

 そして審議決議を開いた原因である、参加を明記しながら封印された白夜叉についてだが、黒ウサギが箱庭に問い合わせても不備は無かったそうだ。

 正当なゲームを中断させたペナルティとして、魔王側はゲームの再開の日取りを一月後と言い出した。恐るべき事に、ペストが自身のウィルスを街にばらまき人々に感染させた状態でだ。その事実はさらに貞夫達を驚かせた。

 ペストはウィルスの除去と引き換えに、参加者側の主力と白夜叉を自身の配下に加える事を提言したが、数々の攻防の末、最後にはジンの思い切った決断のおかげでゲームの再開は1週間後となった。

 引き換えに決着はゲームの再開から24時間後、時間を過ぎれば魔王側の勝利とする厳しい物となったが、1週間はペスト菌が発病しないギリギリの期限だという。参加者はその1週間以内に、何としてもゲームの謎を解き明かさねばならない。

 説明も一通り終わったので、貞夫と耀は再び飛鳥の捜索に向かおうとしたが、そこを十六夜に呼び止められる。

 

「お前らはハーメルンの笛吹についてはどの程度知ってる?」

 

 十六夜の質問に貞夫と耀はお互いの顔を見合わせる。

 

「私、体が弱くて学校にはあまり行ってなかったから、歴史とかはちょっと……」

「僕も、まじめに勉強してなかったから詳しくは無いぞ」

 

 耀は困ったように、貞夫も腕を組んで答えた。

 

「あ、でも」

 

 と貞夫が挙手し続ける。

 

「勝利条件にあった『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』ってやつは、ハーメルンの童話で死んだ子供達の本当の死因を当てろって事なんじゃない?」

 

 貞夫の答えに一同目を見開く。ただ1人、十六夜だけは冷静な目で貞夫を見つめていた。

 

「何でそう思うんだ?」

「他に解釈のしようが無いでしょ。色んな説があるって事は知ってたからね」

 

 貞夫は自分の回答がどうやら正解だったらしい事を、十六夜の満足気な顔から察した。

 

「よし、おっさんは残って俺らと謎解きだ」

 

 限られた猶予の中で少しでも人手の欲しい今、僅かながらも知識を持った貞夫は飛鳥捜索班から急遽、魔王のゲーム解析班に回される事となった。飛鳥の事は無論心配ではあったが、ゲームに負けてしまっては元も子もない。耀を残し、貞夫達は手掛かりを求めサラマンドラの資料室に向かうのだった。

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