30歳の童貞男も来たそうです   作:ほろろぎ

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第4話 チュートリアルは簡単にしてほしいそうですよ?

「あ、あり得ないのですよ……。

話を聞いてもらうだけなのに、30分も消費してしまうとは……」

 

 まるで学級崩壊中の生徒の対応に苦労する担任の気持ちで黒ウサギは呟いた。

 十六夜達に好き勝手弄りたおされた彼女は、地面に膝をつき肩で息をしている。

 散々弄ばれた両耳は萎れかかり、折れそうな勢いで根元からぶら下がっていた。

 

「何か、悪いね……」

 

 貞夫が3人の問題児に変わって謝罪した。

 励ますように彼女の肩に手を置いて、その背中をさすってやる。

 さっきの経緯だけで、この子は苦労をしょい込むタイプなんだなぁと、何となく察する事が出来た。

 

「いえ、貞夫さんが止めてくださらなければ、あと一時間はかかっていたでしょうし……」

 

 黒ウサギの目からはすっかり光が失われていた。無理やり口角を上げた作り笑いが痛々しい。

 そんな二人を置いて、当の問題児たち3人は後ろの階段状に段差の付いた岸辺に座り込んでいる。とりあえず話だけは聞く気になったらしい。さっさと進めろ、と十六夜が無情にも告げる。

 貞夫も黒ウサギから離れ十六夜の横に腰を下ろした。

 前の方には飛鳥と耀が隣並んで座っている。

 同時に黒ウサギも何とか気を取り直して立ち上がる。

 彼女はコホンと一つ咳払いをし、両手を広げてにこやかにこちらを振り向いた。

 

「ようこそ皆様。箱庭の世界へ!」

 

 先ほどまでの疲労を感じさせない明るい笑顔だ。

 やはり、箱庭というのはこの異世界の地の名称だったらしい。

 

「我々は皆様に、ギフトを与えられた者たちだけが参加できる

ギフトゲームへの参加資格をプレゼントさせていただこうかと御招待いたしました!」

「ぎふとげーむ?」

 

 初めて聞く単語をそのままくり返し呟く耀。

 

「YES! すでにお気づきかもしれませんが、皆様は普通の人間ではございません。」

 

 十六夜の人間を遙かに超越した身体能力と、飛鳥の動物を操る力は目の当たりにしたが

耀にも何かしらの能力が備わっているらしい。

 

「皆様の持つ特異な力は、様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた贈り物(ギフト)

つまり恩恵なのでございます。」

 

 4人を見回しながら言う黒ウサギ。

 

「ギフトゲームとは、その恩恵を駆使して、あるいは賭けて競い合う遊戯(ゲーム)の事。

この箱庭世界は、ギフト保持者たちがオモシロオカシク生活するためのステージとして造られたものなのですよ。」

 

 何だか話が大きくなってきたぞ、と貞夫は不安を感じ始めていた。

 他の3人は当事者だからいいだろうが、自分は招待状を貰っていない。

 最初から呼ばれていないのだから当然だが、これは早めに黒ウサギに言っておいた方がいいだろうか。

 しかし当の彼女は飛んだり回ったり派手にパフォーマンスを加えつつ、楽しげにゲームの詳細について説明している。

 3人も真剣に聞き入っている所に水を差すのも、空気を読まないようでためらわれた。

 そもそも話を聞いてもゲームのルールなどがイマイチ理解できないのは僕だけか……?

 おじさんの思考回路はショート寸前で今すぐ帰りたいよと悲鳴を上げている。

 そうこう考えている間にも黒ウサギの話は進んでいく。

 何やら実際にギフトゲームとやらをやってみようという事らしい。

 

 黒ウサギが指をはじくと空中に光が走り、そこから2メートル程の大きなテーブルが現れた。

 台に描かれた絵柄から、ギャンブルなどで使うトランプゲーム専用の物のようだった。

 

「この世界にはコミュニティというものが存在します。この世界に来られた以上

皆様にも必ずどこかのコミュニティに所属していただかなければなりません。」

「嫌だね」

「属していただきます!!」

 

 十六夜が即答で拒否し、黒ウサギも間髪入れず強要した。

 貞夫も集団行動は苦手なため、内心で嫌だなぁと思った。

 

「皆さんを黒ウサギの所属するコミュニティに入れて差し上げても構わないのですが

ギフトゲームに勝てないような人材では困るのです」

 

 彼女はどこからかトランプを取り出すと、プロのマジシャンかと思わせる慣れた手つきでカードをシャッフルする。

 

「俺たちを試そうってのか?」

 

 十六夜の目つきが変わる。挑みかかるように、獰猛な薄ら笑みを浮かべた。

 

「えっ、それ僕もやるのぉ……」

「自信が無いのであれば断ってくださって結構ですよ?」

 

 全く乗り気じゃない貞夫。黒ウサギは可愛らしく顎に手をやり、挑発するような視線を4人に向ける。しかし言葉とは裏腹に表情は硬く、冷や汗が垂れているのが感じ取れた。

 

「ゲームのルールは?」

 

 やる気満々の十六夜が問うと、黒ウサギはテーブルの上にトランプを扇状に並べた。

 

「この52枚のカードの中から絵札を選んでください。ただしチャンスは1回、1人につき1枚まででございます」

「方法はどんな事をしてもいいの?」

 

 飛鳥の問いに、ルールに抵触しなければOKだと答える。

 ただし黒ウサギは『審判権限(ジャッジマスター)』と呼ばれる特権を持っているらしく、彼女の目と耳は箱庭の中枢と繋がっているため、ルール違反は即バレるシステムとなっているそうだ。

 賭けるべきチップについては初心者のため免除、しいて言えばプライドだと黒ウサギは言う。

 参加者である十六夜たちが勝てば、黒ウサギが何でも一つ言う事を聞いてくれるらしい。

 

「何でもか……」

 

 十六夜の視線が黒ウサギの胸に注がれる。黒ウサギは恥ずかしそうに胸元を手で隠す。

 

「性的な事はダメですよ!?」

 

 慌てて付け加えた。飛鳥と耀が軽蔑の視線を十六夜に向けるが、彼は冗談だと笑って流した。

 そして2人もゲームをやる事に決めたため、貞夫も加わらざるを得なくなってしまった。

 

 空中に光が灯ると、そこから一枚の紙が手元に舞い降りた。

 ゲームに関するルールや条件等が記載された『契約書類(ギアスロール)』というものらしい。

 見ると、このゲームの名前や参加者、クリアするための方法に敗北条件等が書かれている。

 

「OK、分かった。だが始める前にそのカードを調べさせてもらおうか?」

 

 十六夜はカードの一枚一枚にしっかりと目を通していく。

 貞夫も手に取るが、特に変わった所もない普通のトランプに思えた。

 とりあえず、物質透過の魔法の応用である透視(スキャン)を使えば訳ないだろうと

いち早く調べるのを切り上げる。

 チラリと横を見ると、飛鳥は何やら意味ありげな笑みを浮かべていた。

 手元では、黒ウサギに気づかれないよう絵札のカードの裏面に爪で傷を付けているではないか。

 耀も三毛猫に指を舐めさせ、それをカードに押し付けている。マーキングだろうか。

 初めての地で初めての体験だというのに、初っ端から平然とイカサマという手段に出るとは、なんとも度胸のある少女達だ。

 そして黒ウサギの宣言によりゲームは開始された。

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