「機会があれば殺せばいいだろ。お前らが絆されたんだよ」
「乱闘になった際に殺すのが一番楽だな。できれば暗殺も好ましいが、いかんせん宮殿の化学班や医療班が目を光らせている」
「絆されるも何も、ちゃんと関わったら良いところもあるんだから仕方ないだろ。悪い部分だけしかないってわけじゃないんだ。」
「僕もできれば和解したいな・・・今だってイェーガーズの人たちともそれなりに協力できてるし。犯罪者には取り調べしてるけど、イェーガーズだってセリューさんみたいな人はいて・・・」
「あたしは保留。エンシンたちは悪人だけど・・・やたらめったら殺すのはやっぱ駄目よ!べ、別にエンシンに気があるとかじゃなくて、あいつらもそれなりに矯正したらいいってことで・・・」
週に一度行われている【転生者会議】もすでに3回目を迎えていた。
転生前は一致団結していたはずだ。少なくともワイルドハントを原作前に殺そうと殺意を持って、楽しくアカメの世界を生きて、感謝されて認められたかったはずだった。
しかし、いざ転生するとこうして意見が割れてしまったのだ・・・
特にオリヴァーとエリオットの対立が酷い。
オリヴァーはドロテアの助手らしいのだが、彼女にとても恩義があるらしい。確か転生前は一番殺しを楽しみにしていたはずなのだが、まるで別人のような発言をしている。
対してエリオットは多くは語らないが、チャンプを始末できるように準備を整えているらしい。そのうえ、暗殺を保留するコハルとセシルを含めてオリヴァーのことを見下しているようだ。
「お前らサァ、何言ってんの?あいつらは犯罪者で悪人で汚いんだ。この分じゃ俺がランと協力してあいつを殺すのが一番になりそうだな!」
エリオットはそう言って自慢げに宣言する。
コハルとオリヴァーは不満気な表情を浮かべ、セシルはそんな彼らを宥めているようだ。
・・・リンネは分からない。
暗殺の指針は変わらないけれど、オネスト大臣に堂々と殺すと宣言しているあたり・・・殺す気は本当にあるのだろう。
「あんたね・・・そりゃあ悪い奴らよ?畜生共よ。でもあんたさ、チャンプに世話になってたんでしょ?あんただって殺せてないじゃない」
「そっ、それは俺はガキのままで・・・いいじゃねぇか!今からランと協力すんだよ!お前とは違って俺はハンデがあったんだ!ガキの姿であんなデブを殺せるわけないだろ!」
「はぁ?なによそれ。ハンデがあったから自分は良くて、あたしたちは駄目なわけ?意味分かんない。自分のこと棚にあげてよく言えるわねチビガキ」
イラついた調子のコハルとエリオットが剣呑な空気を纏わせて言い合いを始めた。
まったくうるさい奴らだ・・・
「ッ、ハッ・・・どうせお前、エンシンとデキてんだろ?女ってどうせ強引にヤラれるのが好きとかって言うしな。あのエンシンなら実の妹でも抱きそうだ。」
エリオットの言葉で、一気に部屋の空気が氷点下になった。
仲裁しようとしたセシルも、様子を見ていたリンネとオリヴァーもさすがにこの言葉には驚いたようだ。
「・・・あんた、サイッテー。マジで言ってるわけ?」
コハルの声がやけに冷たく感じる。
だが、エリオットはにやけて笑いながら彼女に返答する。
「当たり前だろ?お前、あいつと喧嘩してても庇うしなぁ。もうあれじゃん?どうせ初めての相手とかそういうのなんだろ?あいつに何度かヤられて情でも湧いたクチだとみたな。今更レイプの被害者だからとか抜かすなよ。」
「・・・」
「ほーらな!当たったぜ。これだから女ってやつは信用できないんだ。すぐに女の人権がどうとか抜かすしな!それに”中古”のビッチなんてまともな奴はいないしな」
エリオットの言葉にコハルは何も答えない。顔を真っ赤にして瞳を潤ませている。
「エリオット、さすがにそれは言い過ぎだ」
「そうだよ。その・・・勘繰りすぎだよ」
オリヴァーとセシルがコハルの近くに駆け寄ってハンカチなどを彼女に貸している。
エリオットはそんな様子を見ながら不機嫌そうな表情になった。
「これだから女は・・・泣いたら許されると思ってやがるな」
「エリオット、少し黙れ」
リンネの殺気のこもった一言でエリオットもさすがに黙る。
「・・・意見が違うなら討論をしろ。人格攻撃は反論ですらない。」
「・・・う、うっせぇな!あんたは俺の味方じゃないのかよ!」
「個々人の味方じゃないぞ、俺は」
「!」
「それぞれでワイルドハントを殺すと決めただろう殺すならそれでいい。保留や様子見も結構だが、悪事を重ねるなら俺が殺す」
・・・保留や様子見を容認している、と見ていいのだろうか。
リンネがストッパーになっているとはいえ、ワイルドハントの全員が悪事を働いてないわけではない。
転生前からだが、この殺意はどこからくるのだろうか。
静かに私が様子を見ていると、エリオットが「おい」と声を掛けてきた。
全員の視線が私に集まる。
「お前はどうなんだよ」
「イゾウ以外は殺していいぞ?」
一言で私は意見を述べた。
しかし全員黙ったままである。
説明が足りなかったんだろうか・・・よし、しっかり説明しよう。
「イゾウはな、人を斬るのが好きだがとてもいい人間なんだ。私の刀をすごい褒めてくれて私のことを褒めてくれるんだ。私の刀が綺麗だといつも言ってくれるんだ。だからイゾウは良いところもあるんだ。だからイゾウだけは殺さない。あとは死んでも生きてもどうでもいい。」
説明が終わってみんなを見回すが、やはり全員私を見たまま沈黙していた。
もっと細かく殺してはいけないというべきなのだろうか・・・
私が説明を考えていると、セシルが小さな声で「あの」と話しかけてきた。
「どうしたセシル」
「あの、イゾウさんが人を斬るのは駄目なんじゃないですか?だって帝国の人たちや、ナイトレイドのラバックさんだって犠牲になるし・・・」
「だってイゾウを殺しても誰かが感謝するのか?」
「えっ、か、感謝ですか?」
「私たちがワイルドハントを殺しても、他の民衆や原作キャラが感謝するか?私たちがせっかく【良い殺し】をしてもそれが良いと分からない馬鹿ばっかじゃないか。そんな馬鹿を助ける必要ってあるのか?」
「・・・ッ!」
「だからな、イゾウだけは殺さないでくれ。他の奴はどうでもいいから生かしても殺しても私は文句はない」
なんでだろう。私は変なことを言ったつもりはないのだが、なぜかみんな不思議な表情になっている。
あぁ、そろそろイゾウたちがドロテアの工房の視察を終えて帰ってくる時間帯だ。
江雪の手入れをしてあげないといけないな
ふふっ、楽しみだ。
ロッドバルト「今回は原作キャラ不在でしたが、次回はまたエンシンさんのようにワイルドハントの誰かの視点になります。お楽しみに」