ワイルドハント異伝   作:椿リンカ

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ロッドバルト「ここのところレイオクオブスワンの仕事も増えて満足しております。・・・おや、この続きが見たいと?随分と奇特な方ですね。とはいえ、確かに転生した人間の悲喜交々を上から眺めるのはとても愉しいことです。えぇ、とても・・・では、どうぞ。今回はランさんの視点となります」


「あなたはどうなんですか?」

ここのところあまり熟睡できていない気がする。

 

気怠く感じながらもベッドから起き上がる。机の上にはエリオットから得た情報をまとめた書類が乱雑に置いてある。

その中には子供たちを殺した猟奇殺人鬼・・・チャンプの絵姿とデータが記載されたものもある。

 

自分の教え子たちを殺した犯人がこんなに近くにいるのに、手が出せないのはとても苦しい。ここのところは体調も少し悪い。

 

・・・情報を提供してくれたエリオットはチャンプの実の弟である。

体質なのか病気なのか、彼は成長することなく子供の姿のまま大人になったらしい。だからこそ、チャンプを止めたかったのに無理であったと弁明していた。

もしも殺したとして、そのあと自分が生きていくには厳しい状況であった、と・・・

 

・・・本当に、本当に愚かで浅ましい人間もいたものだ。

 

そんな弁明をしたところで殺人を止めずに一緒にいた貴方も同罪なのに

 

まるで自分は罪のない被害者といった態度ですり寄られて、真意がわからないわけないだろう。

・・・ウェイブならきっと、信じてくれるだろうけれども。私は違う。

 

チャンプを殺したあとにイェーガーズの、いえ、私の庇護下にいたいことぐらい、お見通しだ。

あれだけわかりやすい態度なのに、本人はきっと気づいてないか、わかっていてやっているのだろう。本当に甞められたものだ。

・・・チャンプよりも、腹立たしい存在であることには違いない。

 

考え込んでいると、部屋の扉がノックされる。どうやらイェーガーズの誰かが起こしに来てくれたらしい。

 

「ラン、起きてる?朝ごはんできてるよ」

「あぁ、クロメさん。すぐに行きますよ」

 

・・・さて、今日はエスデス将軍とセリューさんの二人と帝都を見回るはずだった。すぐに準備して朝食にしよう。

 

 

 

 

「今日も快晴ですね!いい天気です!絶好のパトロール日和ですよ隊長!」

「あぁ、そうだな。早速メインストリートから巡回して、歓楽街もみていこう。貴族の屋敷付近もだな」

「はいっ!・・・もちろん、悪がいれば処分しても・・・」

「あぁ、かまわん」

 

彼女たちの会話を聞きながら見回りについていく。メインストリートはまだ活気があるものの、やはり行きかう人々の表情はやや暗い。

・・・そうこうしていると、貴族の屋敷近くまで来た。しかし人だかりができているし、幾人かの兵士が正門に立っていた。

 

「何かあったのか」

「これはエスデス将軍!いえ、実はワイルドハントの方々が・・・」

 

兵士は言いにくそうに正門から先を指さした。

そこにあったのは警護していた傭兵や使用人の死体の山があった。いや、山というよりは・・・串刺しにされていたり、上半身と下半身が分けられているものもある。

面白半分に人間を殺しているようで怒りがこみあげてくる。

 

「なんですかこれは!」

「早く教えろ」

「えぇその・・・ここの貴族がどうやら田舎から出てきた人間を拷問していたとかなんとかで・・・」

 

【ワイルドハントはリンネが指揮していて、悪事を働いていた奴には犯罪者を拷問させることで欲望を発散させている】

 

エリオットの情報や他の侍女や兵士たちから聞いた通りだ。

人を斬ることで刀に食事をさせているイゾウや、海賊をしていたエンシン、そしてシリアルキラーのチャンプ・・・あぁ、そうだ。錬金術師のドロテアもその中には入るだろう。

基本的に他人を害することを厭わない人間たちが集まっている。

 

・・・集めたのは大臣の息子であるシュラらしいが、よほどの人材を集めたらしい。悪い意味で、だが。

 

今はまだリンネの影響が強いが、いつ帝都の住民に手を出すかわかったものではない。

 

そうこうしていると、セリューさんが一目散に屋敷へとかけていってしまった。エスデス将軍も呆れながら追いかけている。

私も追いかけ、屋敷の中に入るとさらに凄惨な光景が広がっていた。

 

ドロテアが屋敷の主人の血を飲み干し、エンシンが奥方を犯していた。

エリオットさんは・・・部屋の隅にいるようだ。自分は止めれなかったといわんばかりにわざとらしく怯えている”振り”をしていた。

 

「・・・あの、イェーガーズの方ですか。どうしましたか?」

 

ドロテアの付き人であるオリヴァーが何か調書らしきものを書きながらこちらへとやってきた。

 

「なんなんですかこれは!!こんな見せしめみたいなことやめなさい!!」

 

セリューさんの怒号が響いたが、オリヴァーは引く様子がない。

エスデス将軍は静観しているようだ。将軍の軍ならこういったことは慣れている可能性がある。

 

「これは悪人に対してだけ行ってますし、この貴族の方々がやったことと比べたら遥かに生易しいですよ」

「そういうことじゃないです!」

「・・・あなたはどうなんですか?」

 

セリューさんがオリヴァーさんの言葉を聞いて、言い返すことなく沈黙した。

 

「・・・イェーガーズにも犯罪者を独自に処罰していいという権限がありましたね。セリューさんも見つけた犯罪者をヘカトンケイルに食べさせてますよね。それと一体、何が違うんですか?」

「それは、だってあれは悪を滅ぼすためで、見せしめだなんて・・・」

「・・・民衆からみれば、俺たちもあなたも、そこまで変わらないんですよ」

 

オリヴァーはそう返して、寂しそうに笑った。

 

「オリヴァー、そろそろ帰るぞ」

「えぇ分かりました。・・・シュラ様は?」

「あやつはここの・・・そう、アリアと呼ばれた娘を連れて奥に行ったからのぅ。呼びに行ってくれぬか?」

「了解しました」

 

「・・・」

 

セリューさんは黙ったままうつむいてしまった。エスデス将軍が「さっさと帰るぞ」と、彼女の手を引いて屋敷から出ていく。

・・・ワイルドハントは危険なことに変わりない。だが、情報が足りない気がする。

・・・・・・危ないだけじゃない、彼らにはまだ何かありそうだ。




ロッドバルト「ランさん視点は次回も続く可能性があるそうですよ。とはいえそろそろ原作と合流したいものです。ほら、みなさんだって原作キャラに活躍してほしいでしょう?活躍=死亡フラグですがね。それでは」

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