ワイルドハント異伝   作:椿リンカ

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ロッドバルト「人には誰にでも幸せになる権利があると、どこかの作品の魔女が残していましたね。一度でも誰かを不幸にした人間にも、その権利はあるのでしょうか?それでは今回もタツミさん視点です。どうぞ」


「こんな生活も、悪くはねぇな」

 

女性の買い物がこんなに長いと思っていなかった。

 

今日はドロテアさんやコスミナさんを筆頭に、ワイルドハントの女性隊員の買い物に俺とエンシンさんが付き合わされていた。

これも補欠の仕事と思えば・・・それに帝都を見て回るのもいいはずだ。

帝都の街は回り切れないほど広いし、なるべく店や道を覚えておくのもいいだろう。

 

・・・サヨとイエヤスは無事だろうか。

兵士の枠が空いてなかったけど、どこかの店とか、とにかく帝都に来ているはず。

・・・来ていてほしいし、無事でいてほしい。どうやら帝都はあまり治安も良くないところがあるらしいしな。

 

「おい、なんか考え事か?」

「あっ、す、すみません・・・」

 

「ま、いいけどよ」

「それにしても、女の人の買い物って結構すごいんですね」

 

ベンチでドロテアさんたちが買った荷物を置いているが、かなり多い。

特にコハルさんとコスミナさんの服の量が多い気がする・・・アオイさんはほとんど無いなぁ・・・

 

「あいつらなんでもかんでも買うからな。っと、噂をすればなんとやらだな」

 

どうやら目の前の店での買い物が終わったらしい。コハルさんが嬉しそうにこちらに駆け寄ってきて紙袋の中から2着ほど服を出してきた。

 

「ねぇねぇ、タツミ君!」

「はい、なんですかコハルさん」

 

「こっちのワンピースと、こっちのブラウスさ・・・どっちも買ったけど、どっちが似合うと思う?」

 

・・・どっちが似合う、かぁ・・・

 

「いやその、俺そういうの詳しくないですし・・・」

「えー、タツミ君の好みでいいんだよ?ほかの人の意見も聞いてみたいの!」

 

意見が聞きたいのか。じゃあ、ちゃんと選んだほうがいいよな。

・・・でも、どっちも似合いそうだとは思うし・・・こういう時ってどう答えたらいいんだろうか。

 

俺が返答に困っていると、エンシンさんが呆れた表情を浮かべつつコハルさんへ声をかけた。

 

「貧相な体なんだから、どっちを着たところで色気がねぇことに変わりはねぇだろ」

 

「バカ兄貴には聞いてない!そんな乳首丸出しのクソダサファッションのアンタにファッションセンスなんてないくせに!」

 

「うるせぇな貧乳。その腹回りと太ももの肉を少しでも胸に回せよ。あ、胸の肉が腹に回ってんのかもな。お前帝都に来てから少し太っただろ。二の腕たぷたぷじゃねぇか。どうした?家畜として出荷でもされんのか?」

 

「おうコラやんのかァァァッッ!!」

 

・・・うーん、エンシンさんもコハルさんも、こういう言い合いがなければ比較的付き合いやすいんだけどなぁ。

 

「まったく、往来でやかましいやつらじゃな」

「いつものことだ」

「ふふっ、エンシンちゃんとコハルちゃんは今日も仲良しさんですねー」

 

 

仲良しとはなんなのか、本当にツッコミを入れたい。

 

 

 

 

そんな騒ぎもあったものの、なんとか詰所に戻ってきた。女性陣はさっそく買い物したものを自室へ運んでいた。

まだ少し夕飯を作るには早いから鍛錬でもしようかな。

 

「おい、新入り」

「なんですか、エンシンさん」

 

「・・・お前、コハルには手ぇ出すなよ」

「えぇっ?!手を出すなって、そんな滅相もないです!」

 

びっくりした。いきなり何を言い出すんだこの人は!

 

「・・・あの~、コハルさんにはその、そういうのないです。というか、俺、まだ慣れてないしそんな余裕ないですよ」

「おう、そうかそうか。ならいいぜ」

 

「その・・・なんでそんなことを?」

「あぁん?そりゃあ、実の妹に変な虫がついたら困るからに決まってるだろ。ただでさえ馬鹿で騙されやすいんだからよ」

 

ううーん、コハルさんも帝具使いなんだから大丈夫なんじゃないだろうか。

というか、あんなやり取りをしてるのに・・・

 

「・・・心配してるんですか?」

「当たり前だろ」

 

否定されるかと思ったら、即答で答えられた。

 

「・・・」

「んだよ、何かおかしいのか?」

 

・・・なんというか、あんなやりとりを毎度毎度してるから仲が悪いのかと思ってたけど、普通に兄妹なんだな。

俺には兄弟がいないし、イエヤスやサヨもそうだったからよくわからないけど・・・

 

そもそもエンシンさんもコハルさんも、ワイルドハントの中ではかなり経歴が荒れている人たちだ。

 

南方でちょっと有名な海賊だったらしいし。あんな喧嘩とか、噂とか、そういうので怖いとか悪い人のイメージがあった。

けれど、それだけでもないんだな。

 

「あー、その。海賊してたとか色々聞いてたので。案外人間らしいなぁって」

「お前なぁ、犯罪者でも人間なんだからな。家族とか惚れた奴に情を持つぐらいするぞ?別の生き物か何かと思ってたのかよ」

 

「すみません・・・」

「・・・人を殺してる奴が子煩悩とかざらにあるしな。他人を自分が見てる範囲だけで判断すると騙されるぞ」

 

大きくため息を吐いてエンシンさんが俺の額を指で弾いた。

 

「痛ッ!」

「・・・本当はてめぇだけじゃなくて、シュラの奴にも言わないといけねぇんだけどな」

 

「え・・・?」

「お前は田舎者だから騙されやすいんだろうが、あいつはイイトコの坊ちゃんで、親父がお偉いさんだからな。」

 

「・・・」

「つっても、そのあたりはあいつの兄貴が再々言ってるからいいかもしれないけどよ」

 

「・・・シュラさんのことも心配してるんですか?」

「そりゃあ、つるんでる仲間だからな」

 

 

 

・・・海賊だし柄も悪いけど、それだけじゃないんだな

俺ももっと、人柄を見てから判断しなきゃいけないな。

 

 




ロッドバルト「さて次回もまだまだ日常編が続きます。それではまた次回」

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