「人間とは自己保身をしてしまうものだ」
人の不幸は蜜の味、人の不幸は他人にとっての喜劇
そんな言葉を以前に知っていたけれど、身をもって味わうとは思ってなかった。
俺が生まれた先はシリアルキラーである小児性愛くそやろうのピエロことチャンプの家だった。
4,5歳頃から自分の意識がはっきりとしてきたのだが、すぐに嫌悪感に襲われた。
あんな子供好きの気持ち悪いデブの弟としてだなんて・・・今はそこまで太ってないけど
だがこの家は心地よかった。家柄も良くて裕福、両親はチャンプのことは虐待しているが俺には優しくしてくれている。
暖かいベッドで眠ることもできるし、美味しいごはんも食べれる
あいつのようにご飯を抜かれることも、熱湯を浴びせられることもない
奴隷のように働かせられることもないし、骨が折れるまで暴力を受けることもない
このままチャンプが死んでくれるならば僥倖だけれど、機会を見なければ・・・原作と同じことになるのは困る。何の罪のない子供たちが犠牲になるんだから
「貴方は可愛いわね、エリオット」
「お前は可愛いなぁ、エリオット」
今の名前を呼んでくれる両親は俺にはとても優しい
だから俺は両親のことが好きだった
チャンプとあまり会話することもなかったけれど、あいつもきっと俺のことは嫌いだろう。
けれどそれは、間違いだった
10歳になった誕生日、両親は新しい服やプレゼントをたくさん買ってくれた。
「ありがとう!」
俺がそう言うと、両親はにこやかに笑いながら俺の手を引こうとした。
ぐい、と俺の手をチャンプが引いたけど、すぐに母親が鞭で殴りつけた。
「ほら、こっちだよ」
父親は俺をとある部屋へと案内した。今まで入ったことの無い部屋で、父親がよく友人を連れて入る部屋だったことは覚えてる。中には父親の友人が数人待っていた。
「あぁ、エリオット君がきたようだよ」
「今日も可愛らしいね」
にこやかに笑いかけてくるが、なんだろう、違和感がする。
でも、その違和感の正体に気が付く前に父親に蹴り飛ばされ、すぐに父親の友人たちに縛り上げられた。
「なっ、なにするのっ!?」
「この時をずっと待ってたんだよ」
父親の友人の一人がいやらしい笑みを浮かべてきた。
無理矢理服が引き裂かれる。
そこから先は、思い出したくない
その日からほぼ毎日、入れ替わり立ち代わり色んな人間が屋敷に出入りし始めた。
俺の生活は誕生日から全部変わってしまった。ごはんも貰えるし、暖かいベッドで眠ることもできる、服だって前よりもいろんなものを着るようになった。
けれどそれは全部、俺を愛玩動物として扱ったうえでのことだった。
逆らおうとすると、もっと酷いことをされた。
逃げようとすると、焼印を押された。
「可愛いなぁ」
「可愛いよ」
「このまま成長しなければいいのに」
そんな言葉を何度も耳元で囁かれ、時には「綺麗に成長しないなら殺してもいいんじゃないか」とまで言われた。
3年が過ぎてもなぜか俺の身体は成長しなかった。
体質なのか心因的なものなのか、それは分からないけれどとても嫌だった。早く成長したいのに、早く成長できれば逃げ出せるのに。けれど成長の兆しを見せることもなく、幾度となく弄ばれる。
そんな鬱屈した毎日を送っていたと雨の日のこと、散々に遊び尽くされてベッドの上でぐったりとしていた俺に誰かが声をかけてきた。
薄汚れたコートを被ってるようだが、どうやらチャンプのようだ。
「・・・大丈夫なのか?」
「・・・チャンプか、なんだよ」
「俺と逃げないか?」
突然の言葉に、俺は驚いてしまった。
あまり言葉も交わしてこなかったこいつにそんなことを言われると思ってなかったからだ。
「なんで、いきなりそんな・・・」
「俺だけ逃げるわけにはいかねぇだろ」
「・・・ははっ、もしかしてあれか?自分が俺よりマシだって思いたいから、すぐ近くに置いておきたいから・・・そんなこと言うんだろ?」
「・・・」
「今まで自分だけ虐められてたのに、一緒のとこまで落ちてきたから本当は楽しくて嬉しくて仕方ないんだろ、なぁ?見下して嘲笑って、今度は俺のことを・・・」
俺がそう言っているとひょい、と担がれた。
体格が多少良くなったチャンプに簡単に担がれ、そのままどこかに運ばれる。
「なっ、なにしてんだよ・・・」
「静かにしろ、見つかるぞ」
「・・・なんなんだよ」
「うっせぇな。どうせこんなカス共しかいないとこ抜け出すならお前も誘ったほうがいいって思っただけだ。てめぇが考えてるようなことまで気は回してねぇよ」
めんどくさそうにそう言われ、そのまま屋敷から脱出する。周囲を見渡して、誰もいないかチャンプが確認しているようだ。担がれている俺はふと、あいつの腰にナイフがぶら下がっているのが見えた。どうやら武器として持ち出したらしい。
・・・もしかして、今なら殺せるんじゃないだろうか。
そうすれば子供たちも犠牲になることなく、ワイルドハントの一人を原作突入前に潰せることに・・・
「・・・」
今、殺せば、俺はどうなる?
もしここで殺してしまったら、もしかしたらチャンプにしていたような虐待を俺にもするかもしれない。
逃げ出せるチャンスが無くなるかもしれない
一生俺は、あの気持ち悪い大人たちの玩具として生きていかなくちゃいけないのか?
ずっとずっとずっとずっと、このままの生活を送らなくちゃいけないのか?
仮にここでこいつを殺して俺だけ逃げれても、俺のこの体は成長できるんだろうか
もしも子供のままだとしたらろくに働けないし、戦うことだってできない
この世界では子供というのは圧倒的に不利な生き物で、大人がいければ淘汰されてしまう。野盗も多いし、子供を専門に拷問や凌辱をする貴族も多い。
そんな奴らに狙われる可能性だって十分ある。何より危険種がうろついているから無事に街まで辿りつけるか分からないし、もしも屋敷の住人や関係者が追手を差し向けることをすれば・・・それからも逃げ切らなければいけない。
俺は一人で、生きていけるのだろうか
俺が嫌な思いや痛い思いをしてまで、チャンプが引き起こした事件の犠牲者を守る意味はあるのだろうか
だって、どうせ死ぬのが決まっているのに
なんでわざわざ俺が不幸になってまで助けないといけないんだろう
「よし、いねぇようだな・・・おい、どうした?」
「・・・な、なんでも、ない」
「急に大人しくなったな」
「・・・なんでもないよ、兄さん」
「!」
出来る限りの作り笑いを浮かべて、媚びるような言葉でチャンプにそう言った。
ロッドバルト「さぁ、次回は誰になるんでしょうね・・・おそらくは気分の問題でしょうけれども。もしもご要望があれば、要望の多いワイルドハントの関係者の方を優先してご紹介するとは思いますよ」