ワイルドハント異伝   作:椿リンカ

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ロッドバルト「恋慕というのは得てして厄介なものです。えぇ、そうですね・・・自覚していても、自覚がなくとも、ですね。それではどうぞ」


「アオイのことどう思ってるんだ?」

 

「はぁっッ!」

「・・・!」

 

「っ、うっへぇ・・・すごいですね、イゾウさん」

 

今日は帝都にある宮殿内、その中庭でイゾウさんに稽古をつけてもらっている。

ドロテアさんが特殊警察イェーガーズの人と合同で研究をしているとかなんとかで、その手伝いやらなんやらでやってきた”ついで”だ。

 

「拙者の太刀筋は人斬りのそれだからな」

「人斬り、かぁ・・・」

 

「タツミ殿の太刀筋は軍式剣術と見たが・・・田舎の出身なのだろう?」

「あぁ、村に軍を退役した人がいてですね・・・その人に色々教えていただきました」

 

「なるほど。対人にも向いているから良いだろう」

「そうですね・・・と、言っても危険種を狩るのが基本だったので、まだ対人は試合形式しかしたことがなくて・・・」

 

懐かしいな・・・あの人スパルタだったからなぁ

剣術も鍛冶も、ある程度料理も教えてもらったわけだし。感謝はしてる・・・もちろん。

 

「実戦経験が少ない、と・・・ふむ。リンネ殿に進言して盗賊狩りか何かの依頼か調査が無いか聞いてみよう」

「ありがとうございます」

 

・・・それにしても

それにしても、なんというか、イゾウさんは確かに太刀筋はすごいが、この人って人斬りとか言われてるし・・・

何より本人が自称してるし

 

「あ、あの・・・イゾウさんはなんで人斬りって自称したり、そう言われてるんですか?」

 

 

「この国に来る前は、拙者は辻斬りをしていたからな」

 

 

・・・辻斬り?

 

・・・辻斬り・・・

 

・・・えっ?

 

 

「辻斬りィ!?」

「あぁ、辻斬りだ。シュラ殿に誘われてこの組織に入ってからは依頼された件しかこなしておらぬから安心していい」

 

安心できないから!!

 

え、待って本当にまじか。シュラさん、チャンプさんといいエンシンさんといい、なんでこうも癖のある人ばっかりスカウトしてるんだ!!???

 

「大事な江雪への食事という意味合いもあるが・・・もともと人を斬るのは好きでござる」

 

余計にダメだろ!!!

 

「へ、へぇ・・・」

「戦って死ぬならば本望だが・・・拙者に何かあったら、アオイ殿は頼むぞ」

 

「え?アオイ・・・さんですか?」

「あぁ」

 

アオイさんのことか・・・

 

「あの、アオイさんも刀を使ってますよね?普通に戦えそうなんですけど・・・」

「アオイ殿はただの刀工だ。殺すことも守ることも、拙者たちの中では苦手としている」

 

そこまで言うと、イゾウさんは黙ったままになってしまう。

アオイさんのことを心配してるんだよな・・・?

 

「あ、あの・・・アオイさんと付き合ってたりするんですか?」

「・・・恋仲ではないな。あくまでもアオイ殿は刀工として尊敬はしているが・・・」

 

「すみません!なんか、その・・・」

 

俺が急いで謝るが、イゾウさんは気にしていないようだ。

気にしてないというか、慣れているみたいが正しいかもしれない。

 

「・・・アオイ殿は他人に認められることに飢えている。拙者に刀工として認めてもらえたことで依存しているのだろう」

「依存ってそんな・・・」

 

「アオイ殿がこのままワイルドハントの一員として、世の人々に認められれば・・・拙者から離れるはずだ」

「・・・」

 

なんというか、なんだろうか

そういうのって寂しいような気がする。だってあんなにアオイさんが懐いているわけだし、イゾウさんだって意外と面倒見いいのにな。

 

 

「人を斬る喜びを知っている拙者が戦場以外で死ねるとは思ってない」

 

 

そこまで言うか!!!

あっ、いやでもこれツッコミ入れれないな。

・・・エンシンさんもチャンプさんもアウトローなほうだけど、イゾウさんのアウトローっぷりは凄まじい

 

「・・・・・・本当にアオイ殿が拙者を恋い慕っているならば、なおさらその気持ちに応えるわけにはいかない」

 

「な・・・なんでですか!それは、その、アオイさんが可哀想ですよ」

 

「戦いの場で死ねることが本望だと思っている拙者が、女一人を幸せにできるわけがないだろう」

 

そこまで言われてしまうと、俺としては何も言えなくなる。

あんなにもアオイさんが慕っているのに、分かっていて応えないのは・・・

 

いや、でもイゾウさんの言葉はこう・・・アオイさんが嫌いではないっていうのは、俺にでもわかる。

だからこそ、なんというかもどかしいというか、モヤモヤすると言えばいいだろうか。

 

俺の中で、ちゃんと説得できる言葉が浮かばないのだ。

 

 

 

「・・・覚えておくといい。理由はどうあれ、人を殺す人間が楽に生きれる世ではないぞ?」

 

 

 

そう答えて、先にイゾウさんはドロテアさんがいる研究室のほうへと先に行ってしまった。

 

俺だって、兵士起用を目標に帝都にやってきた。

人を殺すことだって覚悟はしていたし、今も自分を守って、故郷へ仕送りするために頑張ろうと思っている。

 

・・・だけど、イゾウさんの言葉がなぜか頭の中で反芻されてしまう。

 

好きで人を斬っていたイゾウさんが、なぜそんなことを俺に言ったのだろう?

 

そりゃあ帝国に来る前はそうだったかもだけど、今は違う。今は、正しいことのために刀を振るっているのに

 

 

 

・・・人並みに幸せになってはいけないのだろうか

 

 




ロッドバルト「次回の内容はどうなるんでしょうね?そろそろドロテアさんがメインになってもおかしくないと思うのですが・・・では、また次回」

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