俺の今日の仕事はセシルさんの手伝いだ。
セシルさんは包帯を巻いてて怪我人にも見えるけど、セシルさんはワイルドハントの中でも熱心に仕事をしている人である。
いや、ほかの人が仕事してないって意味合いではないけど・・・一番外回りをして、帝都の人たちに関わってるのだ。
仕事っていうか・・・見回りとか調査よりも、もっと一般人からの依頼に応えている便利屋係みたいなことをしている。
その影響か、ワイルドハントの中で帝都の人たちに一番顔を知られているそうだ。
そんなこんなで俺はセシルさんと共に帝都の地下水道へとやってきた。
「タツミ君、耳をふさいでくださいね」
「はいっ!」
俺が耳あてで耳をふさぐのを確認すると、セシルさんが持っていたギター型の楽器を鳴らした。そうすると、地下水道をねぐらにしていたであろう鼠が大量に現れた。
小さいものがたくさんいると気持ち悪く感じるというが、それは確かのようだ。これは俺でも怖いと感じる。
どうやら音を鳴らす作業が終わったらしい。セシルさんが俺の肩を軽く叩いた。
「タツミ君、いいですよ」
「あっ、はい」
「これで支配下に置いたので、あとは帝都の外まで連れて行くだけです。それでは歩きましょうか」
「はい!・・・それにしても、セシルさんのその、帝具ってやつはすごいですね」
セシルさんの帝具【天空響鳴スカイハイ】
変わった形のギター型の帝具で、音が聞こえる生物ならば催眠できるらしい。
「そうだね。でも、僕のは距離が離れてると効果が薄くなっちゃうし、生物によって催眠出来る音が違うんだ。そもそも、音が聞こえない状態だと効果もないしね」
「それは癖がありますね。あんまり戦闘向きじゃないっていうか・・・」
「うん、だから僕は戦闘には出たことが無いんだ。戦闘になるとお荷物になっちゃうからね」
「お荷物って・・・でも、こうやって人のためになってるじゃないですか!」
何も戦うことばかりが人のためになるわけじゃないはずだ。
こうやってみんなから頼まれごとをされるのだって、良いことのはずだし・・・もっと自信を持ってもいいんじゃないだろうか?
「ありがとう。でも、僕のは・・・僕のは、姉さんたちが悪く思われたりしないためにしてることだから」
「え?コスミナさんたち・・・ですか?」
「普段から良いことをして信用されないと、いざ正論を言っても誰も味方をしてくれないからね」
その言葉が、やけに響いて聞こえた
無事に鼠たちを帝都の外へと追いやることができた後、セシルさんの定期検診に付き合うことになった。
定期検診はイェーガーズ所属の人間が見てくれているらしい。どうやらシュラさんの知り合いらしいけれど・・・
「あらぁ、セシルったら彼氏でも連れてきたの?」
開口一番にセシルさんと恋人扱いされるとは思ってなかった。
男同士なんだけど、なぜそう思った!?あっ、いやあれか、オカマか!オカマだからか!!
「違います!!!」
「えっと、彼はワイルドハントで試験雇用してるタツミ君です」
「あら、噂の新人研修の子?かわいい子ねぇ、ちょっと田舎臭いけど」
「えっと、このオカ・・・この先生が、イェーガーズの?」
「はい、Dr.スタイリッシュです」
・・・まさかこんなに濃い人間とは思わなかった。
本当にシュラさんはどうしてこう、人間性が濃い相手ばかりと知り合いになったり、仲間にしたりするのだろうか・・・
「スタイリッシュ先生、お願いします」
「はいはいっと・・・火傷の傷、全部消さないの?アタシならやれるわよ?こんな検診もしなくてよくなるし」
「いいんです。これは・・・戒め、ですから」
「せっかくかわいいのにもったいないわねぇ~」
二人の会話を聞きながら、俺はセシルさんの火傷の傷を少し離れた場所で眺めた。
セシルさんとコスミナさんは故郷で色々あったらしい。
詳しいことは・・・エリオットさんみたいに話してくれないのでわからないが、あまりよくないことなのは俺でもわかった。
「ドクター、失礼します!少し早いですがメンテナンスに来ました!」
元気そうな女性の声が聞こえたのでそちらを向くと、ポニーテール姿の女性と、中性的な男性の姿があった。
男性のほうは確か・・・エリオットさんがよく一緒にいるイェーガーズの人、だっけか。
「あら、セリュー、早いわね」
「はい!今日はランと一緒に・・・・・・ワイルドハントの人、ですか」
女性はセシルさんを見ると、少し渋い顔をして、目を逸らした。
「セリューさん、セシルさんに失礼ですよ」
「でも、ワイルドハントは悪人が多いです。ランのように、私は割り切れません」
・・・気持ちは分からなくはない。そういう経歴の人たちだし、今もそういう傾向はあるし。
でもまぁ、ちゃんと付き合えば良いところもあるんだけどなぁ
「・・・ドクター、そちらは?」
「そっちが噂の試験雇用の子だって」
部屋に入ってきた二人の視線が、ドクターから俺に向けられた。
「イェーガーズ所属、セリュー・ユビキタスです」
「ランです。貴方は確か・・・」
「あっ、あの、ワイルドハントに試験雇用されてるタツミです!故郷への仕送りのために頑張ってます!」
元気よく挨拶をすると、女性のほうは少し笑顔になってくれたようだ。
よしっ!よその組織の人でも好感を持ってくれれば、ちゃんと帝都で働けるかもしれないわけだし・・・
「タツミ君、そろそろ行きましょう。その、先に・・・出ますね」
セシルさんに声を掛けられた。セシルさんは少し、居心地が悪そうだ。セリューさんとランさんに会釈をして部屋から出てしまった。
・・・うーん、もしかしてこのセリューさんという人が苦手なんだろうか?
「あっ、は、はい。えっと、イェーガーズの皆さんも、その、よろしくお願いしますね!」
そういって、すぐに俺もセシルさんの後を追っていった。
ロッドバルト「さて、次回はいったい誰のメインでしょうね?それでは」