ワイルドハント異伝   作:椿リンカ

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「なんで俺のベッドに入ってくるんですか?!」

ドロテアさんの研究所にある仮眠室に宿泊することになった。数日間仕事があるなら、ワイルドハントの詰所に戻るよりもこちらで寝泊りするほうが楽だからだ。

 

研究所にあるシャワールームを借りてから、ドロテアさんに仮眠室まで案内された。

 

どうやら仮眠室は休憩室と併設されていて、畳が敷かれたコーナーもあるようだ。ベッドは二つあったので、たぶんこのベッドをドロテアさんとオリヴァーさんが仮眠用に使っているのだろう。

しかしシングルベッドじゃなくてダブルベッドか・・・意外と幅があるよな。

 

部屋の内装自体は宮殿内の部屋よりも簡素だが、掃除が行き届いていて清潔感はある。

オリヴァーさんが掃除をしてから出張したのだろう。あの人・・・貴族のお屋敷で働いていそうな執事さんみたいだ。

家事もできるし掃除もできて、仕事もできるって、すごいかっこいい。

 

「普段はここでオリヴァーと寝泊りしておるが、クローゼットには布団もあるし、寝袋も完備しておる。お主が眠りやすいので選ぶと良い。」

「それじゃあ・・・ベッドを借りますね」

 

「うむ。そうか。妾はシャワーを浴びてくるから、先に寝ると良い」

「そうさせてもらいますね。それじゃあ、おやすみなさい」

 

 

 

一日仕事しただけなのにえらい疲れたよな・・・でもまぁ、ウェイブとクロメと仲良くなったのは嬉しかったな。帝国が荒んでいても、国の為に頑張ってる軍人もいるんだ。

 

・・・オネスト大臣については、今のところ良い印象はない

 

リンネさんやシュラさんの実の父親だし、悪いことは言いたくない。けど、リンネさん自身がヘイトを貯めて、俺に大臣のことを言っていることや、帝都で聞いた悪い噂なんかを聞いてきた。

 

・・・だから、そんな相手を善人だとは、今の俺には思えなくなっていた。

 

それでもシュラさんのように慕っている人間もいるみたいだし、皇帝陛下も随分と懐いていた。だからこそ、俺は・・・悪人なのかそうじゃないのか判断を下せないのだ。

エンシンさんと話した時みたいに、【どんな悪事を働いていても、自分の家族には優しくしている人間】も世の中にはいるわけだしさ。

 

悪いことは悪い、俺はそれを許せない。

目の前で酷いことをしている悪人がいたなら、俺は斬ってしまうかもしれない。

 

そもそも・・・軍属になるなり、この組織に残るなりすれば、人間相手に剣を振るうのだからあり得ない話ではない。この国は盗賊も多いし、国境近くでは異民族相手に帝国軍が戦っているのだ。

 

俺だって人を殺すことは覚悟して帝都までやってきた。自分が殺されるかもしれない覚悟だって、承知の上だ。

 

けれど、もしも・・・

 

猟奇殺人鬼(チャンプさん)がエリオットさんを気にかけているように

西の国の魔女(コスミナさん)をセシルさんが心配しているように

南国諸島の海賊(エンシンさん)がコハルさんを大事にしているように

人斬り(イゾウさん)をアオイさんが好きでいるように

マッドサイエンティスト(ドロテアさん)とオリヴァーさんがお互いに信頼しているように

 

 

・・・自分以外の誰かに優しくしているところがあると知ってしまったら

 

 

俺はその時に、迷うことなく、目の前の相手を殺せるのだろうか。

 

 

「はぁ・・・」

 

なんだか思考がまとまらなくて、寝付けなくなってしまった。

 

「・・・む、まだ起きておったのか」

 

急にドロテアさんの声が聞こえてきたので、扉のほうへと寝ながら向き直る。

ドロテアさんが寝間着姿で立っていた。俺が考え事をしているあいだにシャワーも終わったらしい。

 

「あー・・・寝付けなくて」

「ふむ・・・まぁ、妾も今日はオリヴァーがおらんから寝付けないじゃろうしなぁ・・・」

 

そんなことを返されて、どういう意味か俺が考えようとした。が、ドロテアさんが俺のベッドまでやってきて、そのままベッドに入ってきた。

 

「ドロテアさん?!なんで俺のベッドに入ってきてるんですか!!?」

「ん?嫌か?」

 

思わず飛び起きた俺に、ドロテアさんは不思議そうに俺を見上げていた。

 

「嫌とかそういうのじゃないです!」

「ほほぉ、妾の色気にやられたか?」

 

「色気とかそういうのじゃないですよ?!というかドロテアさんからは色気を感じな・・・」

「頭蓋骨割るぞ、お主」

 

おっと口が滑った。

って、そうじゃなくて!

 

「俺が寝付けないのはともかく、ドロテアさんが寝付けないからってなんで俺のベッドに入るんですか!?」

「んー・・・オリヴァーが来てから、よく抱き枕代わりにしておってな。あやつが起きてる時なんかは狼姿のあやつを枕代わりに寝ておる」

 

オリヴァーさんの帝具を完全に抱き枕代わりにしているって贅沢な使い方だな?!

っていうか、俺もそれをやってみたいと思ったのは言わないでおこう。

 

「・・・・・・オリヴァーは偶々拾っただけじゃったが、存外気に入っててな」

「・・・はぁ」

 

「あやつが子供の頃に共寝していたせいか、妾も癖になって」

「・・・なるほど、分かりました」

 

つまり、オリヴァーさんの小さい頃から世話をしていた名残があるのか。

 

「じゃからお主を代わりにしようかと」

「・・・それなら、いいですよ。あ、でも血を吸わないでくださいね」

 

「チッ」

「舌打ち!舌打ちしないでください!」

 

・・・なんというか、ドロテアさんにもかわいいところがあるなぁ。

俺も緊張しないわけじゃないけど、まぁドロテアさんだったら大丈夫そうだし。異性っぽさが少ないというか、胸を押し付けてきたり抱きついてくるコスミナさんと比べたら全然大丈夫だ。

 

「お主、今失礼なことを考えなかったか」

「気のせいです」

 




ロッドバルト「ドロテアさんのターンはここで終了です。次回からはまた他のメンバーが出演しますよ。お楽しみに」

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