ワイルドハント異伝   作:椿リンカ

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ロッドバルト「先にこちらが仕上がりましたのでアップいたしますね。今回はコハルさんの物語・・・楽しみながら読んでください」


「人に謝ることは、簡単でいて難しい」

貧乏は人の心を豊かにする

 

・・・んなわけねぇだろばぁああか!!

 

実際に貧乏っつーか貧困に追い込まれてない幸せ者の勝手な理屈じゃねぇか!ってことを私は転生してから嫌というほど思い知り、そしてかつての自分の認識の甘さに自分自身が呆れた。

私の半生を振り返ろうじゃないか

 

私が転生した先はあの元海賊の絶倫レイプ野郎のエンシンのところだった。正確に言えば私はエンシンの実の妹としてこの世に生を受けた。

おかっぱレイパーの妹とか本当吐きそうになったけど子供ならばいつだって殺せる

そう思っていた時期が私にもありました。

 

 

 

現実は生きるので精一杯で殺すも何も、自分が死なないことが第一に考えないと自分が死ぬような環境だった。

右を見たら餓死した子供の死体、左を見たら盗みがばれてリンチで殺された子供の死体

日々の食料を得るにはエンシンと協力して盗んだりしないと生きていけないぎりぎりの状況が続いた。

 

たまに恵んでくれそうな人がいたり優しくしてくれる人がいるので、当時の私はほいほいとついていったりしたこともあった。しかし大体が人身売買の商人や子供専門の性的嗜好者などろくなもんじゃなかった。

そのたびに自分で逃げ出したり、時にはエンシンが減らず口を叩きながら助けに来たこともあった。

 

真面目に生きようと靴磨きをした時だって、お金をくれないことも多いし、時には売春しようと持ちかける客もいた。売り上げをチンピラや他の大きな子供に盗られたことも少なくは無い。

 

真面目に、普通に生きようとするといつも馬鹿を見る

人の優しさを信じようとするといつも騙される

そのたびにエンシンは私の頭を叩いてこう叱るのだ。

 

「だから言っただろうコハル、自分が好きなように生きなきゃ食い潰されて死ぬぞ」

 

そんなエンシンにもちろん最初は反抗した。そもそも嫌いだから反発しまくったが、それでも危なくなったら助けてくれたし、2人で協力しないと食料を得られないことも多かった。

少し成長してからは私はとある小さな飲食店の手伝いができることになった。

 

「まだ真面目に生きようってのかよ、馬鹿らしい」

「うるさい!エンシンのばか!悪いことしたくないだけだもん!」

「貧乏人に優しくするやつなんざ、優越感持ってるか利用しようとする奴ぐらいだぜ」

「そんなことないもん!ばか!ばーか!」

 

お店の賄い料理をもらえるようになって、エンシンや近くの同年代の子供にあげるようになった

・・・これで油断させて、エンシンを毒殺すればいい

あとは店の人に正式に雇ってもらって普通に暮らせばいいのだ・・・なんて思っていた。

 

「店主さん、私、真面目に生きたいんです。人の役に立ちたいんですよ」

「君は優しい子だね、人の役に立ちたいなんて・・・孤児なんだろう?」

「貧しくても、心まで貧しくなってはいけませんから」

「そうだねぇ、本当に君は優しい子だ」

 

お店ではなるべく人に気に入られるように接客をした。幼い子供である私が懸命に生きる姿を御客は憐れんだのか、それとも気に入ったのか、よくおこずかいをもらえるようになった

あぁ、やっぱりちゃんと他人のことを考えて生きるのは良いことだ

 

・・・その生活から1年が経過した。

そろそろ持ち帰った賄いに毒を混ぜてエンシンに食べさせようと思っていた矢先に事件が起きた。

 

ある日、いつものように小さな体でお店にやってくると、店主が怪しい男と話をしていた。

「店主さん、こんにちは」

「あぁ、こんにちはコハルちゃん」

「この子かい?いやぁ、ちょっと目つきが悪いがまぁまぁの顔立ちだね」

怪しい男がじろじろと私を見てきて、嫌な感じがした。人身売買の商人やペドフェリアな大人たちと似たような感じと言えばいいのか・・・そう、人間をモノとして見てるやつの目だ。

じりじりと後ずさるけれどすぐに腕を掴まれてしまう

「離して!やだ!」

「コハルちゃんは、人の役に立ちたいんだよね?じゃあ私のためにちょっと売られてくれないかな」

「うちの娼館でばっちり仕込んであげるよ」

頭の中で警報が鳴り響く。やばい、やばい、やばい、これはやばい

早く逃げないといけない。

必死に振りほどこうとするが、男の力が強い。すぐに俵抱きされてしまい、店の外に出てしまう。

「やだあああ!離して!嫌!」

「孤児のクソガキがまともに生きようっていうのが馬鹿らしいぜ」

「っ!うるさい!」

「うっせぇガキだなぁ。どうせ替えが効くんだから殺してもいいんだが・・・まぁ、娼館に入れないといけないからな」

そんなことを言っていた男の動きがとまり、地面に倒れた。

もちろん私もそのまま地面にたたきつけられてしまう。

「何してんだ!逃げるぞ!」

見上げると、そこにはエンシンがいた。片手には血にまみれた錆びついたナイフがある。どうやら男をあれで刺したらしい。そのままエンシンに手を引かれながら必死に逃げた。

 

追手がこないことを確認しながら、誰もいない裏路地を歩いていた。

 

「・・・どんだけお前が他人様のために生きようとしたところで、利用されるに決まってるだろ」

「・・・」

「俺達みたいな貧乏人はな、金持ってる奴らからしたらただの道具なんだよ」

「・・・」

「一度しかない人生を、そんな金持ってる馬鹿共に使われるだけのもんにするなんて・・・俺は絶対に嫌だ」

「・・・」

 

分かっている

転生してからの生活で、貧困の中で生きるのがどれだけ大変か思い知った。だから、“そんな当たり前のことなんて分かっているのだ”。

けれども転生前の、普通の・・・普通だけど、恵まれた生活を、真面目に生きていける人生を歩んでいた私はそれを認めたくないのだ。

認めてしまえば、エンシンの生き方を認めてしまう

認めてしまえば、エンシンが生きてきた人生(あくじ)を認めてしまう

為るべくして為った人生だとしても、それでも自分だけのために、利己的に生きるのは悪いことだ。どんな理由があったとしても、悪いことは悪いことだ。許しちゃいけない

 

・・・そんなエンシンが何度も妹(わたし)を助けてくれているのも事実だ

でもエンシンは絶対に「私の為」なんて使わない

いつも自分のために助けていると豪語している。

でも、本当に自分のためにしているならば、私みたいな足手まといなんて放置するんじゃないだろうか、とか。ちょっとだけ思い上がってしまうのだ

 

随分このおかっぱクソ野郎に甘くなってしまったなぁ

でもまぁ、一緒に生活していたら仕方ないだろう

 

「・・・あのっ」

「んだよ」

 

謝ろうと思ったが、次の言葉が出てこない

いや、なんというか素直に謝るのが嫌なのだ。気恥ずかしいというかもどかしいというか、もやもやする。

 

「・・・なんでもない」

「変な奴だな・・・さっさと行くぞ」

 

それから十数年経過したが、幼い頃の悪口や反抗の数々について私は謝ってない。

・・・いい加減、謝ったほうがいいとは、思うけれどね。

 




ロッドバルト「エンシンさんの妹さんの物語が終わりました。次回はストックで言うとドロテアさん・・・でしょうかね?他の方と同時並行していますので、どなたになるか分かりません。それでは次回をお楽しみに!」

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