仕事がひと段落したってことで、ワイルドハントで打ち上げがてら宴会をすることになった。あのリンネさんもなんとか参加してくれるらしい。
よく休んでくれたな・・・とか、考えていたが、シュラさん曰く「皇帝陛下から休めって言われたんだとよ」と説明してくれた。
言われたというか、恐らくは皇帝陛下からの勅命扱いだろう。それならばリンネさんとしては従うしかなかったようだ。
「陛下からも心配されてたんですね・・・リンネさん」
「そりゃまぁ、ぶっ続けで仕事していたら宮殿でも噂になるからのぅ。じゃが、仕事熱心なのは妾好みじゃ。男前な顔立ちじゃしなぁ」
「コスミナちゃん、そういうリンネちゃんもかっこよくて好きですよ?ストイックでちょーっと塩対応ですけど、そういうのも素敵です。」
ドロテアさんとコスミナさんからは好感をもたれているようだ。
シュラさんも「そうだろ!兄貴ってすごいだろ!」と話に乗っかってくる。イゾウさんたちは苦笑しながらも「あぁ、すごいすごい」と話を合わせていた。
そのうちコスミナさんたちもシュラさんとの会話に混ざっているようだ。
ふと、俺の隣を歩いていたチャンプさんが呟いた。
「まぁ、確かにあいつの悪人への厳しさってすっげぇよな」
チャンプさんの言葉を聞いて、この間のイヲカルの屋敷への立ち入りのことを思い出してしまう。今でも悲鳴の声や拷問をしている音が、何度も鼓膜に響いてこびりついているような感覚。
ふとした瞬間に思い出してしまう。
正しくはないことだったかもしれないけれど・・・それでも、何度も何度も拷問しては戻して、また拷問するのはやりすぎている。
けれど拷問室に放置されていた死体の山を思い出せば、「やられても当然だ」と囁く自分もいるのだ。
・・・あんな奴は、あぁされても仕方なかった。
そう思い切ってしまったらいいはずなのに・・・
・・・何故だろう、ものすごく胃がむかむかするというか、モヤモヤとしたものがつっかえているのだ。
「・・・そう、ですね」
「暗い顔だな。立ち入りしてからやけに思いつめてるけどよ」
チャンプさんに心配そうに声を掛けられた。なんとか言葉を濁すが、彼は「立ち入りの時になんかあったのかよ」と尋ねてきてくれた。
「・・・えぇっと、なんて言ったらいいんですかね。自分で説明できなくて」
「・・・」
「なんというか、拷問とかそういうのはやりすぎだって思う反面、人を人と思わない奴を倒すのは間違ってないって思う自分もいて・・・」
「まぁ、合わねぇってんならやらねぇほうがいいだろ。俺たちは犯罪者相手なら何してもいいって言われて、好きでやってるしよ」
チャンプさんにも言われるが、合う合わないとは少し違う。
「あんまり真面目に考えるなよ。“自分がどうしたいか”でいいだろ」
「あはは・・・そうなると、故郷の仕送りが優先になりますね」
「そういうことじゃねぇだろ。それもお前の目的だけどよ・・・なんつーの?今の自分が一番大事なもんを優先すりゃいいだろ」
「・・・自分の、一番大事なものですか」
故郷への仕送りとか、いまだに再会できないイエヤスとサヨのこととか・・・
でも、今の自分が一番大事にしてるものってなんだろう
「なんかそういわれると延々考えますね。チャンプさんはあるんですか?」
「お、俺か?・・・いや、いいだろ別に」
「えー、人に振ったなら教えてくださいよ」
「・・・・・・誰にも言うなよ?バラしたら殺すからな」
「大丈夫ですよ、言いません!」
「・・・・・・・・・なんだかんだでエリオットだな」
その言葉を聞いて、少し反応が遅れた。
「おかしいのかコラ」
「なんとなく予想はしてたんですけど、予想通りっていうか。エリオットさんにはなんだかんだで判定甘いところあるんで、みんなわかってますよ?」
「えっ?」
「・・・なんで驚くんですか・・・」
・・・・・・あぁ、なるほど・・・チャンプさん、周知されてる自覚が無かったのか・・・
宴会の買い出しも終わり、詰所に待機していたリンネさんたちと合流した。
俺もセシルさんやオリヴァーさんと一緒に宴会に出すおつまみを用意することになり、手際良く進めた。
そうして料理を出して、宴会が始まった。
俺は酒はあまり飲まないが、他のメンバーは全員、お酒を飲み始めた。
「タツミ君、どこかの居酒屋さんとかで予約しても良かったんだよ?」
「そうですよ、ドロテア様も少し気にしておられましたし・・・」
セシルさんやオリヴァーさんに言われてしまった。シュラさんは「どういうことだ?」と二人に尋ねる。コハルさんやエンシンさんも興味を持ったようだ。
・・・そう、今回の宴会、おつまみを俺が作るから詰所でやろうとリンネさんに言ったのだ。
「えーっと・・・試験雇用期間ももうすぐ終わるじゃないですか。貴重な経験とか、いろんな話とか聞いたりできて・・・そういう感謝の気持ちをどこかで返したかったんです。正規の隊員じゃない間なのに良くしてもらいましたから」
ちょっと気恥ずかしいけど、俺がそういうと数秒ほど場が静かになった。
だが、すぐに場が明るくなった。エリオットさんやエンシンさんが「んなこと気にするなよ!」「当たり前だろー!」と声を掛けてくれた。
「タツミちゃんももう仲間ですよー!」
コスミナさんはそう言いながら俺の左腕にしっかりと胸を押し付けながらしがみついた。また胸を押し付け・・・ううおおおお、だめだダメだ、意識をどこか違うところに・・・
「コスミナ姐さん、タツミ君が困ってるから・・・」
セシルさんがコスミナさんを止めようとしてくれる。た、助かった・・・
・・・が、エンシンさんが「いいんじゃねぇの?」と茶々をいれてきた。いやいや!良くないって!俺としては嬉しくないわけじゃないけど、いやその、恥ずかしいというかなんというか
「せっかく女の胸を堪能してんだぜ?ちょっとぐらいはいいだろ」
「い、いやいや、そのですね・・・」
俺もなんとかコスミナさんにお断りを入れようとしたら、コハルさんが「ちっがーーーう!」と立ち上がった。思わず、他にもお酒を飲んでいたメンバーがそちらへと視線を向ける。
「胸なんて無くてもいいもん!女の子の魅力はおっぱいだけじゃにゃいし!」
「やっぱり女は胸だろ、胸」
「そんなことにゃいもん!タツミ君は胸は無いほうが好きだよね~?」
コハルさんもそう言いながら俺の隣に座って・・・右腕にしがみついてきた。コスミナさんほどではないが、一応柔らかいものが当たって・・・
良く見ればコハルさんも顔が赤くなっていて、酔っぱらっているらしい。
「・・・」
「・・・」
エンシンさんからの視線がやばい。殺意が籠ってる。
セシルさんは心配そうにじーっと俺を見つめている
「コスミナちゃんですよね?」
「わたしだもん!ね?」
二人が俺に尋ねる中で、エンシンさんがジェスチャーで「コハルを選んだら、てめぇ表に出ろ」とやっている。正直滅茶苦茶怖い
セシルさんの視線もなんかこう、きつい、つらい、視線を合わせるのがめちゃくちゃ負担だ。
【Side:エリオット】
宴会で騒いでる時に、詰所の入り口近くで見慣れた影が視界に入った。他の奴らには「酔い覚ましのため、涼みに行く」という振りをして、扉から出る。
そこには、イェーガーズのランとセリューが外に立っていた。
「ランさん・・・と、セリューさん、ですか」
「こんばんは、エリオットさん。貴方の兄を罠にかける計画が本日実行できそうです」
ランの言葉に、酔いも覚めて「本当か!」と聞き返した。やっと、やっとこれで安全で平和な生活ができるんだと思った・・・
けれど、セリューがいるのはなぜだろう?」
「私もランから聞きました。お手伝いしようと、思いまして」
「・・・お、おおおおお!まじか!でもあんた、こういうのはだめなんじゃないのか?」
「・・・いえ。確かにワイルドハントの隊員が、過去に悪事を働いていたのは事実です」
すげぇ!これならチャンプの野郎の帝具で反撃されることなく殺せる可能性が高くなるじゃねぇか!
「エリオットさん、計画の説明のためについてきてください」
「あぁ!行く行く!すぐに行くぜ!」
これで、これであいつさえいなくなれば、俺は何も怖がることなく暮らせるんだ。
もうあいつが子供を襲っているのを止められずにいることもない
成長しないままの不利な体つきでも安全に帝都で暮らせる。
やっと、俺の手で悪役(あいつ)を殺して、俺がヒーローになれるんだ