・・・と、いう名言をどこかで見たが、これはそういう話。
【視点:チャンプ】
あの時に言われた言葉が、耳から離れない。
俺の理想が傍にあるのに手を出さずに、他の子供に手を出したのは・・・
結局、俺が嫌っていた大人と変わらないと。
目の前には、ベッドで死んだように眠るエリオットの姿があった
・・・最初から、最初からこいつを、選んでいなかったのは・・・
・・・このまま生きても実験台、もしくは殺すかの、どちらかだ。
エリオットの首に、手を添えた
【視点:タツミ】
エリオットさんは生きていた。・・・けれど、怪我が酷いことと、処置が遅かったこともあり、ほとんど植物状態になっていた。かろうじて生きているが、もしも延命をさせるならば、ドロテアさんとスタイリッシュさんの実験のような・・・
・・・人間ではなく、実験体としての道しか、残されていなかった。
いや、正確に言えばもう一つある。
・・・安楽死、というやつだ。
これに関しては、ドロテアさんから説明を受けて初めて知った。
「なんとかできないんですか」
「できんぞ。医療技術にも限界があるし、何よりも本人の生命力がなぁ・・・」
エリオットさんは子供の姿のまま生きてきた。だから、体力も人よりも少ないらしい。実験体にするにしても、本人の意識があるままかどうかすらも・・・
・・・・・・リンネさんが、今日は休みにしてくれた。他のメンバーの人たちも、きっと休まなければならないだろう。
特にアオイさんとコハルさんの顔色が悪かった。女の子にはあの有様は・・・いや、俺も結構きつかった。
・・・・・・エリオットさんを暴行した、子供たちの遺族は、みんな笑ったまま連行されていった。とても、満足そうにしていたのを思い出すと・・・怖くてたまらない。
その復讐が正しいのかどうか・・・・・・今の俺は分からない。
「・・・ランとセリューのこと、気が付けなくてすまない。俺が、俺がもっとはやく気が付いていれば・・・」
翌朝になって、ウェイブが詰所にいた俺のところまでやってきてくれていた。
「ウェイブ、気にしなくていいのよ。隊長だって”気にするな”って言っていたじゃないの」
・・・詰所にそのまま宿泊していたスタイリッシュさんがウェイブを慰める。ドロテアさんも「そうじゃぞ」と同意してくれた。
「でも、ランのことだって・・・セリューが、ずっともやもやしてたのが分かっていたのに、俺は・・・何もできなくて」
「コラ、そんなこと言わないの。仕方ないわよ・・・ランがまさか、チャンプが殺した子供の関係者だなんて。誰も知らなかったんだから」
「そうじゃぞ。妾たちも気がつかなんだ。別にお前だけの責任ではない」
「・・・すみません。ドクターは大丈夫なんですか?」
「あらぁ、あたしは中立よ?エスデス隊長はスタイリッシュだけれど、シュラは友人だもの。だから、今回の件もどっちが悪いだのなんだのはないのよ」
・・・・・・スタイリッシュさんはこういう時もなんだか、いつも通りでちょっと安心してしまった。
・・・・・・今は、いつも通りにしてくれるほうが、少し心強く見えてくる。
「・・・あの、俺、ちょっとお見舞いもしようかなって」
「・・・あ、じゃあ俺が案内するぜ」
ウェイブを連れて、エリオットさんとチャンプさんの部屋へと進んだ。
扉を開けると・・・何かが揺れていた。
「・・・え?」
ぎしり、ぎしり、と、縄が揺れる音がする
・・・チャンプさんが、首を、吊っていた。
ぎしり、と音がして、首と胴体が離れる。
首の無い身体が床に落ちて、とれた首が部屋の中に転がった。
・・・・・・そのあとのことは、少しだけ記憶がない。
あぁいった死体は、初めてみた。
・・・・・・エリオットさんの首を絞めて、首を、吊ったらしい。
二人とも埋葬されたが、葬式に参加できたのはドロテアさんにオリヴァーさん、イゾウさんとシュラさんに、エンシンさんぐらいだった。
・・・ほかの人は、参加できるほどに立ち直れてないらしい。
「・・・・・・生きていちゃ、駄目だったんですかね」
「・・・」
「・・・俺は、もっと、生きていて欲しかったですよ。それで変わるものだって、あったはずです。なのに」
「・・・兄貴から言わせりゃあ、自業自得なんだとよ」
「・・・リンネさんは、厳しい人ですね」
「・・・・・・ほんと、親父とは似ても似つかねぇよな」
シュラさんが静かに呟いた。
葬式が終わってから、俺は掃除やら家事をこなして・・・なんだか夜の帝都を歩きたくなった。コハルさんたちにも顔を合わせ辛いし・・・何より、仲間が死んだことで動揺しているのだ。
・・・・・・ランさんや遺族の人たちの気持ちが、悪いとは思わない
でも俺は、チャンプさんやエリオットさんだって、いい方向に変わることだってできたと思うんだ。
許すことはできないかもしれないけれど、それでも・・・・・・それでも。
・・・・・・こんな終わり方は、嫌だ。
「タツミ」
聞きなれた声がした。振り返るとそこには・・・イエヤスとサヨの二人がいた。
「イエヤス、サヨ・・・!!!」
「おう、しけた顔してるな」
「会いたかったよ、タツミ!」
やっと二人と出会えてよかった。
・・・良かったのに
「タツミ、ナイトレイドに入らないか?」
「イェーガーズの人も入ってくれたの。あとは、タツミも一緒にこの国を救いましょう!」
・・・・・・二人とも、ナイトレイドに入っていた。
いや、ナイトレイドは革命軍の部隊で、この帝国を変えるために働いているらしい。
・・・俺もそれは、とてもいいことだと思った。
けれど・・・
「タツミ!お前も一緒に行こう!」
「そうよ、タツミ・・・ナイトレイドは、国を変えるために活動してるの」
「・・・ごめん」
「何言ってるの!この国はおかしいのよ!?」
「そうだぜ、もう中から変えるのなんて無理なんだ・・・この国は腐ったやつらばっかりなんだ」
「・・・わかってる。でも、違うんだ」
俺は、イエヤスとサヨに語り掛けた。
「俺だって悪人は許せない。でも・・・悪人にも善人にもいろいろある」
二人に俺は謝ることにした。一緒に行きたいけれど・・・
「今の俺には、お前たちのいるところに答えがあると思えない」
あともちっとだけ続くんじゃ