私の名前はアカメ、以前は帝国の暗殺部隊で働いていたのだが、今はナイトレイドで革命の手助けをしながら暗殺家業をしている。
・・・少し昔のことを話すとしよう。
私は幼い頃から、他人には見えないモノが見えていた。それは真っ黒な塊だったり、角の生えた赤い肌の生き物だったり、様々だ。
最初はみんなが見えているものだと思って振舞っていたせいか、両親や村人から気味悪がられてた。・・・むしろ、私がクロメと共に親から帝国に売られたのはそれもあるだろう。
その見えないモノ・・・例えば世の中で言えば『化け物』『怪物』『妖怪』、そういった類のものなのかもしれない。
それは私のことをからかうこともあれば、興味深そうに眺めることもある。優しくしてくれるモノもあれば、騙し打ちのように攻撃してくるモノもいた。
・・・私の周りは、誰も彼も、私と同じモノが見えない。
幸か不幸か、そういった存在を相手にしながら暗殺者として育成されたことによって私はかなり鍛えられた。
危険種だけでなく、敵対組織の人間だけでもない、誰も見えない『ナニカ』を相手に一人で戦うこともよくあった。
任務で帝都の宮殿に滞在していた頃・・・リンネと出会った。
ブドー大将軍と鍛錬をしているところへリンネがやってきたのだが、彼の傍には短い角の生えた紫色の髪の男がいた。
「・・・!」
今まで見たことがないぐらい、『怪物』の中でも強い気配がした。
心臓の鼓動が早くなるほど緊張してしまい、向こうも私に気が付いたらしい。
唇に人差し指を当てて、その男は私にウィンクをしてきた。
「どうした?」
不意にリンネに声を掛けられた。
「大丈夫?鍛錬で疲れちゃった?」
「アカメ、疲れてるなら早く休んだほうがいいよ」
仲間たちにも心配されてしまってので、適当に誤魔化して私はその場をすぐに離れた。
・・・離れたが、あの男はついてきていた。
「珍しいですね。認識阻害の魔術を使っていたのに私のことが見えるなんて。うーん、魔術のレベルでも落ちちゃいましたかね?」
「・・・お前はいったいなんだ?」
少しだけ距離を離して私は男に尋ねる。そいつは軽く「帝具ですよ。リンネ様の所持する帝具、メフィストフェレスでございます」と説明をした。
・・・すぐに嘘だと分かった。
父さん・・・ゴズキが当時所持していた帝具である村雨とはまるで違う。
「・・・嘘だ」
「あ、分かりました?やはり私が見えるだけありますねぇ」
危険な存在なのは、雰囲気で分かる。今まで私が出会ってきた、私にしか見えない存在の中でも、背筋が凍るようなものを感じた。
・・・人を害するモノだ。
「おい、そこで何してんだよ」
聞こえた声に振り向くと、先ほどであったリンネと瓜二つの・・・顔に十文字傷がある男がいた。
その男の近くにも、メフィストフェレスと同じ雰囲気のする男がいる。大きなヤギのような角が生えて、翼が片方だけしかない銀髪の男だ。
「っ・・・!」
「お、もしかして暗殺部隊の奴か?へぇ・・・上物もいるじゃねぇか」
リンネと瓜二つの顔をした男がすぐに私の近くに近づいてきた。・・・が、すぐに誰かが私の背後からやってきたようだ。
「シュラ、何をしてる」
「げっ・・・んだよ、兄貴か。こいつ、暗殺部隊の奴だろ?珍しいからよ。薬漬けにしてないみてぇだから・・・」
「何かをする気だったのか」
「・・・珍しいから近くでみただけだろ」
・・・その時に、シュラがリンネの兄弟であることが分かった。
それと同時に、メフィストフェレスと銀髪の男は愉快そうにクスクスと笑っている。どうやらこの二人のやりとりをみて楽しんでいることは分かった。
「・・・暗殺部隊のアカメだったな。あまり宮殿内をうろつくな。休むならさっさと自分の宛がわれた部屋に戻れ」
「・・・分かった」
「シュラ、この後に鍛錬があるのを忘れているようだな。少し本気で相手してやる」
「殺すつもりかよ!?」
彼らのやりとりを少し眺めて、すぐに部屋に戻った。
走って、走って、部屋に滑り込んで一息ついて・・・顔を見上げたら、あの銀髪の男とメフィストフェレスが自室にいた。
「並行世界ともなると、同一存在でも個体差が出るんですね。まさか我々の認識阻害の魔術も看破するとは・・・」
「ロッドバルト、どうします?面白そうな人間だと思いますが」
「っ!!」
あぁ、これだから人に見えないモノが見えるのは・・・嫌なことばかりだ。
奴等に・・・メフィストフェレスとロッドバルトで出会ったことで、私は奴等から真実を聞かされた。
これから私が辿る道も、これから私が立ち向かうべき苦難も。そして私の半生は、他人にとっての物語だと。
実に愉快そうに、悪魔と名乗った二人は私に語った。
「あぁ、今ならサービスで契約してもいいですよ?クロメさんと一緒に幸せに暮らすのも有りですよ。誰だってそんな面倒なことはしたくないし、危ないことはしたくないでしょう?メフィストフェレスの名にかけて、クロメさんと貴女が一生幸せに暮らせるようにサービスいたします。」
「もしくは誰にも負けない力はどうでしょうか?今までだって死んだ仲間はいたでしょう?ならば死なないために相手をすぐに殺してしまえる圧倒的な力を手に入れてもいいでしょう。それならきっと、全部守れますよ?どうです?」
悪魔たちの言葉はとても甘美な言葉だった。
これから仲間がもっと死んで、クロメと離れ離れになって、民のために戦ってもどんどん仲間が死んでいなくなる
それが本当なら、本当に未来に起こることなら・・・嫌だ。
「せっかく我々の魔術を看破できるほどの能力があったのですから・・・これも縁ですよ。ね、ロッドバルト」
「そうですよ。これも何かの縁です。どうですか?」
「私は・・・」
・・・・・・・・・嫌だけど、こんなズルをするのは、もっと嫌だ
「私は、お前たちの力は借りない」
「・・・おや、借りないそうですよ、ロッドバルト」
「これはこれは、意外ですね」
「私は・・・私ができることをするまでだ。」
クロメのことを考えると辛いが、それでも私はこいつらの言葉に耳を傾けるわけにはいかない。その誘惑に乗るわけにはいかない。
「今もそうですが、人殺しの業からは逃げられませんよ?たとえ革命軍に行ったとしても、仲間を大事だと思っていたとしても、貴方の才能は人殺しに向いていることに変わりはありません」
「仲間を思っていても、民を思っていても、結局貴方は人を殺すことしかできないんですよ?そのうち妹を殺すかもしれないのに、本当にいいんですか?」
そうかもしれない、私は、人を斬ることで幸せになると思っている。
自分にできることはそれしかないと思ってもいるのだ。
「生きている限り、私は業を背負い続ける。悔いたりしない、嘆いたりしない。例えその先に何があったとしても」
・・・私の人生が、他人にとってのただの架空の物語として俯瞰されていると、悪魔たちに教えられた。
「誰かに責められても、誰かに馬鹿にされても、これは私が選んだ、私の人生だ。」
・・・・・・長くなったが、それが私の今までの半生だ。
結局、私は革命軍に寝返ったし、クロメとは離れ離れで・・・いつかは殺し合うかもしれないことになってしまった。
「リンネ、それじゃあな」
「・・・」
リンネに声を掛けて、席を立つ。リンネの傍にいるメフィストがにっこりと笑うが、私はすぐに視線を逸らして店から出た。
・・・リンネはずっとあの悪魔に付きまとわれている。
私に何かできることがあればいいのだが・・・いや、できることからやっていくしかない。
次回「アオイ、恋人面をする」「エスデス将軍の初恋」「ニャウ、嫉妬の炎に身を焦がす」の3本立てです
※予定ですが未定です