______________帝都宮殿にて
ワイルドハントの執務室にて、リンネから任務が伝えられた。
それは僻地や田舎に飛ばされた文官の護衛任務である。
「護衛、ですか・・・でも、またなんでそんな」
「近々、民衆への備蓄配布などで外出する機会が増える。チョウリ前大臣に至っては帝都に戻ってくるとのことだ」
その言葉に転生者である者たちは背筋を伸ばす。
そう・・・原作軸においてはオネスト大臣がエスデスに命じ、配下の三獣士たちがナイトレイドを騙り良識派の文官たちを暗殺していった事件のことを思い出したのだ。
「護衛ねぇ、普通に雇われた奴がいるだろ。俺たちがわざわざ行くほどのもんかよ」
エンシンの言葉にリンネは「声が掛かっただけだ。俺も貴様らを外に出すのは不服だ」と答えた。
「コスミナには先に言っていたが・・・コスミナとセシル、タツミの3人でチョウリ前大臣と娘スピア嬢の護衛を頼む。無事に帝都まで連れてこい」
リンネの言葉にタツミは「よっしゃ!」と気合を入れる。彼にとっては帝都から外に出て、初めての任務である。
「初の遠征任務!頑張ります!」
元気よく答えるタツミに対してエンシンたちは笑っていたものの・・・転生者たちだけは表情を曇らせたり、リンネに対しての疑念のまなざしを向けていた。
・・・コスミナがセシルへと近づく
「セシルちゃんはコスミナが守りますからね!」
セシルに抱き着きながらコスミナは元気よく言ったが・・・セシルには分かった。コスミナが不安がっている、と。
「姉さんは僕が守るから、大丈夫だよ」
・・・今のセシルは、それだけしか言えなかった。
_____________同時刻、宮殿内
「リンネもめざといようで、私にとって邪魔になる文官を保護しようとしているようなんですよ」
ローストした肉の塊に齧りつきながらエスデスに自分の意見を伝える。それに静かに彼女は頷いた。
彼女にとってもリンネの言動は自分に対抗するもの・・・それだけなら彼女も嬉々として敵対するが、リンネは革命軍に行く素振りすら見せない。
「ちょうど良いですから、リンネの手駒と戦わせてみましょう。シュラが集めてきた自慢の帝具使いの腕試しにはいいでしょうし」
「フン、相変わらず厳しいものだな。だがいい、私も戦わせてみたいところだ」
「これで負けたらそれはシュラの人選ミスですし、帝具は回収すればよいですからね」
「・・・代わりに、分かっているだろうな?」
エスデスの言葉に、オネストは軽くため息を吐いて「はいはい」と答える。
「イェーガーズへの補充要員でしょう?まったく、ドSが過ぎますよね」
「それぐらいの見返りは必要だ。ダイダラとニャウの二人にでも任せよう」
「おやぁ、リヴァ”元”将軍は行かないのですか?」
「ランが抜けた穴にイェーガーズの参謀に就かせているからな」
そう、ランが抜けた穴をリヴァが代わりに埋めており、遠方に居るエスデス軍との連絡も彼が担っている。これ以上彼に仕事を担わせることができないのだ。
「裏切り者が出て大変ですなぁ~」
「そうでもないぞ。ランとセリューの二人も敵になるならそれで良い。敵は多いほど楽しみが増えるからな」
彼女がくつくつと笑うと、オネスト大臣も「貴方も好き者ですねぇ」とニヤニヤと笑うのだった・・・
____________リンネの執務室にて
護衛任務の通達のあと、転生者であるセシルとアオイの二人はリンネの執務室へと残っていた。残っている理由はもちろん・・・
「お前、三獣士が来ると分かっていて何故護衛任務を出すんだ!」
「・・・コスミナ姉さんと僕、それにタツミで勝てるはずないのに」
・・・直談判、である。
「・・・要件はそれだけか」
リンネは彼らの意見に対して、書類を片づけながら簡単に返答をするのみだ。そして彼は2人から異論が出る前に彼は更に言葉を続けた。
「死んだならそれまでだ。ワイルドハントは殺すと決めたのを忘れたのか」
その言葉に、アオイはリンネを睨みつける。セシルは・・・顔を少し青くして視線を逸らしてしまった。
「鎖や首輪がなければ、すぐに人を虐げ、辱しめ、殺す奴等だ」
リンネは吐き捨てるように呟いた。
・・・彼のその言葉で、セシルは原作での彼らの悪逆非道な行いを思い出して身震いをしてしまった。
現在は多少は落ち着いているものの・・・悪性そのものが、消えているわけではない。
「……多少、長所があったとして、それで重ねた罪は、消せない。罪を重ねようとするなら消すまでだ」
・・・そこまで言い切って彼はアオイとセシルに部屋から出るように促した。
大人しく執務室から出て、セシルはすぐに走り去ってしまったが、アオイはそこで立ち止まって壁を殴りつけた。
「許せない」
たった一言、小さく呟いた。
「何もしていない弟(シュラ)を、信じることすらできないあいつなんかには・・・分からない」
アオイは血が滲むほど唇を噛み締める。
「私は、イゾウに救われたのに。救われたから、今度は私が助けないと」
「あいつを、殺さなきゃ」