イギリス作家:ジョージ・エリオット
ここ数日、帝都ではとあるニュースが人々に不安を齎していた。
ウマトラ劇場で勤務していた人間のほとんどが1日の間に行方不明になったのだ。行方不明になっていないのは、その日に仕事が入っていなかった人間のみ・・・
この異常事態に帝都警備隊も動いたが何も証拠が見当たらない。
突然、煙のように消えたかのようにいなくなったのだ。
この事件に帝都の人間は不安を覚え、情報が錯綜した。噂が噂を呼び、次は自分じゃないかと怯える人間までいる始末である。
______________帝都宮殿、謁見の間にて
「余の耳にも届いた。至急、この事態を解決してくれ」
「はい」
謁見の間にてエスデスが部下を引き連れて皇帝に頭を下げていた。特殊警察イェーガーズの中には新入隊員が二人ほど追加されており、その挨拶として謁見していたようだ。
謁見の間から出たあと、新たに追加された二人にエスデスが「最初の任務としては、荷が重いか?」と尋ねる。
「いいえ、そんなことありません!・・・私もできることをします」
「まぁ、折角の栄転だ。さくっと解決させてもらいますよ」
チョウリ前大臣の娘スピア、監獄の職員であり帝具スペクテッドに適応した処刑人のザンク
彼らはエスデスにそう返事をする。エスデスも満足したのか、「ワイルドハントに負けないようにな」とだけ伝えた。
______________一方、ワイルドハントの詰所にて
ワイルドハントの詰所ではタツミを筆頭にメンバーたちは暗い顔をしていた。
そう、ウマトラ劇場の一件があった日からセシルの姿が見当たらないのである。
コスミナはすぐにタツミと共に秘密にしていたこと・・・ウマトラ劇場の人々と交友関係があり、セシルに秘密にしていたことを他のメンバーにも伝えた。
「それを知ったセシルさんが劇場にいた時に事件に巻き込まれた可能性もありますね」
「・・・それはまぁ、そうじゃな」
タツミの推測にドロテアは少し言葉を濁しながら返答した。
オリヴァーも何か顔色が悪い。
「セシルちゃん・・・もし巻き込まれていたら」
「安心しろ、きっとあいつも無事だ。帝具使いだし、チャンスをうかがっているかもしれない」
「そ、そうだって!帝具使いは強いし。セシルはほら、ちょっと臆病っていうか慎重じゃん?きっと生き残れるように気を付けてるって!」
不安がるコスミナをアオイとコハルが元気づけていた。
・・・エンシンとイゾウは何も言わない。
というより、ドロテアやオリヴァーと視線を交わしていた。
「アオイ殿、コハル殿。コスミナ殿を部屋に・・・今は不安だろうから休むと良い」
「それもそうよね。ほらコスミナ。とりあえず情報が入るまで待ってましょう」
「そうだな。イゾウ、気を遣ってくれてありがとう」
「・・・」
コスミナたちを部屋に下がらせてすぐに、エンシンは「セシルの奴じゃねぇのか?」と発言した。
「あいつの帝具ならできるだろ」
「な、なに言ってるんですか!?セシルさんがそんなことするわけないじゃないですか!」
「タツミよぉ、あいつの帝具の能力は覚えてるだろ?」
「それはそうですけど・・・」
エンシンの言葉にタツミは反論できなかった。しかし、彼はセシルがそういったことをする人間じゃないと信じている。
今までも帝都の住民に率先して触れ合っていたし、コスミナにも優しかった。
「セシルさんがやる動機がないですよ」
「それならば、脅された可能性もある。セシル殿は好戦的ではないだろう?相手に脅迫されるような何かがあれば従ったかもしれない」
イゾウの推理を聞くと、タツミも少し考えた。
「それは・・・そうかもしれません。もしかしてコスミナさんの命が狙われたとか、目の前で人質をとられたとかなら・・・」
「とにかく、そういった可能性があるのは情報共有しておきましょう」
「オリヴァーの言うとおりじゃな。コスミナには後でコハルかアオイから話してもらおう」
________________帝都、とある店にて
「・・・リンネ、帝都で多くの人々が消えた事件があるだろう。ナイトレイドでも少し探ることにした」
「勝手にしろ。イェーガーズに殺されても知らないからな」
アカメの言葉に冷たく突き返すようにリンネは言うと、帰り支度を始めた。
「・・・革命軍には話を付けている。いつでも受け入れるぞ」
「悪人を全員殺したら考えておく」
それだけ言って、リンネは店から出て行った。
・・・メフィストがアカメにウィンクを返しながら、だが。
「お前さぁ、兄貴が気が付くわけないだろ。いい加減、資金提供の話はやめろよ」
会話が終わると隠れていたシュラがアカメに話しかけてきた。
無論、シュラの近くにはロッドバルトが控えている。
「そうですよ~?リンネさんからしたら、まさかシュラさんが資金提供して革命軍を支援してるなんて発想になりませんよ」
「・・・兄貴が分かるわけねーっての。いい加減遠回しに気が付かせようとしなくていいだろ」
「・・・直接言ったところでリンネは聞き入れない。自分で気が付かないとだめだろう」
目を伏せがちに沈むアカメを見て、小さくため息を吐きながらシュラが隣に座った。
「ったく、それよか依頼だ」
「・・・ナイトレイドにか?」
「あぁ。ウマトラ劇場の事件があっただろ。多分あれはうちの・・・兄貴と同じ、転生者がやった」
「!」
シュラの言葉にアカメがすぐに彼のほうへと顔を上げる。
「兄貴が面談したが、あいつも面倒な奴だったみたいでな。・・・ったく、せっかく足抜けさせようってコスミナに劇場を勧めたのが裏目に出た」
「・・・話に聞いていた、西の魔女か。だが証拠は?」
「帝具の効果が届かない場所で目撃した奴がいるんだよ。そいつに詰所に行って事情を話してもらうつもりだ」
「・・・だがいいのか?仲間だろう?」
アカメの言葉に、シュラは答えない。
代わりにロッドバルトが愉快そうに返答した。
「だって、契約内容から外れてますもんね?」
「・・・」
「・・・・・・本当に意地が悪いな」
アカメの言葉にロッドバルトは「選んだのはシュラさんですよ~?」とにやにやと返した。
「助けようと思えば助けられますよ。彼のことを肯定してあげればいいんです」
肯定すればいい、と簡単に言ってのける。
しかし肯定してしまえばそれは・・・
「やったところで、兄貴が殺すだろ」
「・・・お前が見せた未来と、何も変わらなくなる」
「そうですよ、でもほら・・・本来ならお互いに殺しあう側でしょう?それにいいじゃないですか・・・姉への愛に溢れたための嫉妬心なんてかわいいものですよ。それがたとえ歪んでいたとしても、愛には違いないですし」
彼の軽口にシュラとアカメは侮蔑のまなざしを向けるが、ロッドバルトは気にしないままにこやかに二人に話しかける。
「さて、そろそろお二人ともお仕事でしょう?アカメさんはお仲間を待たせてますし、シュラさんも詰所に戻らなくては」
「・・・ったく、これだから悪魔ってやつは面倒だな」
「それには同感だ」
ロッドバルト「不変のものなどありはしないのに、どうして人間は絶対に変わらないものがあると思うんでしょうね。まぁ、そこら辺を分かっていて煽るのが楽しいんですけどね」