西の王国の片田舎に僕は生まれた。正確に言えば、転生したと言えばいいだろう。
前世の記憶が戻ったのは4歳ごろだったはずだが、なんだか嘘のように思えて仕方ない。最初の頃は何か妄想とか病気なんじゃないかと思ったぐらいだが、そこまでの思考ができる時点で妄想ではないと判断した。
僕は、魔女と呼ばれたコスミナの弟として転生したらしい。
魔女とは言うが、それもコスミナの歌姫としての才能を妬んだ人々が言い始めた言葉であって実際は普通の少女だった。それに彼女の家族もごくごく普通で、僕も普通の子供として育てられた。
「セシルちゃん、かわいい!」
「んー・・・あついよ、お姉ちゃん」
「コスミナずるいー!私もセシルとあそぶー!」
姉たちから抱き着かれたり、一緒に遊んだり、とても楽しかった。
家族仲はとても良好だから嫌に感じることもない。
元より、前世では自分の家族はとても険悪な仲で、僕も引きこもりのニートだったせいだろう。今のこの家族がとても心地よくてたまらなかった。
普通の家族といったものがよく分からなかったけれど、今の家族はそんな当たり前の“普通”を与えてくれた。
一緒にご飯を食べて楽しいとか、喧嘩したり仲直りしたり、遊びに行ったり、お手伝いをしたり
たかだかそれぐらいでって、なるかもしれないけれど・・・僕にとってはそういう、ちょっとしたことがとても嬉しく感じた。
コスミナについては・・・狂ってしまったという事実があるから、助けてもいいんじゃないかと思っている。
でもそのあと犠牲になる人々や革命軍の人々のことを考えると・・・
僕にとっては大事な姉だが、その姉の命と多くの人々の命のどちらをとればいいのか。
転生する前に6人でワイルドハントが集まる前に始末すると約束したから、果たさなくてはいけない。
他のみんなは上手くやってるのだろうか・・・僕はたまたまコスミナだったからよかったけれど、ワイルドハントは男性陣営がとても危ない。
子供だとしても油断はできないだろう
自宅の庭先にある木の下で読んでいた本を膝上に置いたまま、ぼんやりと景色を眺めてそんなことを考えていた。
これからどうしようかと、自らの指針を考えていると、可愛らしいフリルの服を着たコスミナがこちらに駆け寄ってきた。
「セシルちゃん、どうしたんですか?」
「えっ、あ、ううん。なんでもないよ」
コスミナの人の良い笑顔を見ると、罪悪感が湧いてしまう。
今後の憂いを絶つために、ここで殺してもいいのだろうかって。
実際に殺すとなると、やっぱり良心の呵責というものが発生するのだなぁ・・・特にコスミナはワイルドハントの中では比較的まともなほうではある・・・と、思う。
悪人というか狂人になってしまったのは周りのせいだしさ
「セシルちゃん、いっつも何か考え事してますよね?」
「えっ、あ・・・」
「お姉ちゃんだからそれぐらい分かります。何か悩み事でもあるんですか?」
「・・・ううん、楽しいことがいっぱいあるから、悩みなんて無いよ」
ただ、貴女のことを殺せるかどうかなんだ
「そうなんですか・・・あっ!でも何かあったらちゃんとお姉ちゃんに言ってくださいね?」
「・・・うん。分かったよ。ありがとう」
にこやかに笑いかけてくる貴女のことを、殺そうとしている僕のほうが狂っているんだろうか
それからしばらくして、コスミナが地元の町の人々から魔女ではないかと噂し始めた。コスミナの歌唱力・・・いや、人を魅了するほどの素晴らしい歌声に嫉妬した女性たちが噂を流したからだ。
歌が上手いだけの美少女・・・とはいえ、やっぱり目立ってしまうと釘を打ちたくなるのが民衆心理なのかもしれない。僕や他の家族、数少ない友人たちも必死に否定した。
けれども更に多くの人々がコスミナを魔女だと罵り差別した。
僕の前世は実際に差別されるようなことはなく、ニュースやネットでなんとなく知っていた程度だった。だから正直、自分にはあまり関わりのない話だと思ってた。
・・・まさかそれを、身を持って知るとは思わなかった。
コスミナ以外の、僕たち他の家族も差別されるようになったのだ。
何もしていない、何も隠すこともないのに、誰も彼もが石を投げて、侮蔑の言葉を吐く
僕たちが弁明しても聞いてもくれない。ただただ「魔女だから」の一点張りだ
そして、あの日が、来てしまった
僕たちの住む家を焼き打ちされたのだ。
「お前たちだけでも逃げろ!」
木の柱に挟まった僕を庇うように助けた父が叫んだ。
燃え盛る木の柱に下敷きになった父の断末魔の叫びが逃げる僕らの後ろから聞こえて、今でも夢に出る。
「いたいよぉ、あついよぉ」
「なんで、なんで」
他の兄弟たちの苦痛に塗れた声が今でも耳にこびりついている。
「セシル、コスミナ、貴方達だけでも」
僕とコスミナの代わりに家具に押し倒されて血を流して苦しみながら送り出してくれた母の声
「いっ・・・やっ、いやです!」
「コスミナ!ここで・・・死んじゃだめだ!父さんたちが助けてくれたんだから!」
「でもっ、みんな、みんな、焼かれて」
「ッ!だから!僕たちだけでも!」
泣き叫ぶコスミナを引っ張って、急いで外に出る
途中で炎にまかれて、片目と左腕に酷い火傷を負ってしまったけれど、必死に外まで出た。
あまりにも痛くてつらくて、それでも自分が助かったことに・・・酷く安堵してしまった。
隣ではコスミナは座り込んで、泣きながら笑っていた。
結局、コスミナはそれがきっかけで壊れてしまった。
壊れても仕方ない、焼きながら苦しむ家族の姿と、燃え盛る生家を目の当たりにしたのだから
・・・僕にはコスミナを殺そうと決心することができなかった。
コスミナが壊れてしまったのは、コスミナが悪いわけじゃない
だったらせめて、最期の瞬間までは一緒に生きようと、そう思ったのだ。
ロッドバルト「さぁ、次回はイゾウさん編ですね!ただシュラ編については未だにプロットがふらっふらなため、少し更新が遅れるかもしれません」