ワイルドハント異伝   作:椿リンカ

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ロッドバルト「気が付けば50話突破だそうです。あっ、メタネタでしたねすみません(笑)」


「好きなんだよ、好きで好きで、愛してるんだ」

シュラは失踪事件の目撃者である人間を連れていた。

彼はコスミナに恋慕の感情を抱いている青年だ。仕事の折に目撃し、それからすぐにシュラへと報告したのである。

 

「コスミナさんの弟さんがなぜあんなことをしたのか・・・自分には分かりません」

「さぁな。会ってから聞けばいいだろ。それよりもさっさと詰所に行くぞ」

 

「・・・そうですね。コスミナさんも心配でしょうし」

「だろうな。さっさと行くぜ」

 

それだけ会話して、しばらくは黙ったまま彼らは歩いていた。

緊張しているであろう青年はシュラへと話しかける。

 

「あっ、あの」

「んだよ」

 

「コスミナさんの弟さんは、どうなるんですか・・・?」

「そりゃまぁ、良くて重い刑かもしれねぇし、それこそ死ぬかもな」

 

「・・・理由はまだ分からないです、けど・・・どうやったら助けられるんですかね」

「あぁん?んだよそれ」

 

彼の言葉にシュラが振り向いた。大臣の息子であるシュラに尋ねられて、彼はしどろもどろになりながらもこう伝えた。

 

「だって、コスミナさんのたった一人の大事な弟さんじゃないですか!もし何かあったら・・・俺も、妹がいるんでわかるですよ」

「・・・」

 

家族を愛する気持ち、というものに対してシュラは実際はまだよく理解できていない。

父親を尊敬している気持ちはある。実兄であるリンネに対しては・・・複雑だが、少なくともそれなりに慕っている。

でもそれが愛かどうか、本人もよくわかっていない。

 

「・・・ふーん、そっか」

 

・・・そのため、こうして答えることしかできない。

正直、他のワイルドハントのメンバーたちの兄弟愛だの恋愛だの、そういうものもあまり理解していないのだ。

 

そうこうしているうちに詰所に到着したのだが・・・

 

「シュラさん!!コスミナさんが誰かに攫われました!!!」

 

タツミの焦るような叫びによって事態は急変する。

 

 

 

 

_____________帝都内、とある場所にて

 

 

かさり、かさりと物音によってコスミナは覚醒した。

気怠さを覚えながらも、彼女が見回すと・・・なぜだか薄暗い場所に自分がいることに気が付いた。

 

「ここは・・・」

 

ここで彼女は自分が意識を失う前に何をしていたのかを思い出す。

自室に戻っていたのだが、窓からセシルが現れた。もちろん彼女は喜んで彼に飛びつこうとしたのだが・・・そこでセシルが、帝具を使って意識が無くなった。

 

「起きたの、姉さん」

「っ、セシル、ちゃん!」

 

セシルの声で薄暗い中を見渡した。

暗闇に慣れた目と汚水の臭いでここが帝都の下水道らしき場所ということは彼女には理解できた。

 

開けた空間、その数メートル先にセシルがいたことに彼女は安心した・・・だが。その背後にいるモノに気が付いて、息が止まるように詰まってしまった。

 

「それっ・・・それ・・・」

「姉さん。どうしたの?何か怖い夢でも見たのかな」

 

「それは・・・セシルちゃんっ、そのひとたちは!」

「え?あぁ、これ?姉さんに近づく悪い害虫を有効活用してるんだ」

 

それは三獣士との戦いでも披露した”人間の塊”である。

・・・ウマトラ劇場の人間を使った、”生きた人間の塊”だ。

 

悲鳴や呻き、絶望の嘆きが聞こえるそれに、コスミナは座ったまま腰を抜かして立てずにいた。

しかしセシルはそれに気が付くこともなく、いつものようなにこやかな微笑みを浮かべている。

 

「姉さん、こんな他人を切り捨てるようなモブはいらないんだよ。僕が一番大事ならモブと付き合っちゃだめだよ」

「なっ、何を言って・・・や、やめてください!」

 

「やめ、る・・・?何言ってるの?姉さんはこんなの平気じゃないか。姉さんにとっての唯一は僕だし、姉さんは他人への愛情がない魔女なんだし」

「!」

 

魔女という単語を使った弟に、さすがにコスミナも表情を曇らせた。

 

「姉さんが死ぬまで、僕がずっといればいいんだよ。モブなんていらない、必要が無いんだ」

「セシルちゃん・・・こ、こんなことは・・・」

 

「姉さんは僕だけいればいいし、僕には姉さんだけでいい。僕は姉さんのことが好きだし、姉さんも僕が好きなんでしょう?」

 

腰の抜けたコスミナのところにセシルはすぐに近寄っていく。

 

「好きだよ姉さん。好きだよ、好き、大好き、好きなんだ、愛してる。姉さんのことを僕は愛してるんだ」

 

コスミナの右腕を掴み、その手の甲に彼は口付けた。

 

「っ・・・セシルちゃん、姉弟同士でそんなこと・・・できるわけ・・・」

 

その言葉に、セシルの視線がコスミナへと移る。

 

「え?なんで?」

 

まるで、”問題なんて何もない”と言わんばかりの表情と目線にコスミナは・・・初めて、自分の弟に恐ろしさを感じた。

 

「皆さんは、・・・私の、セシルちゃんとお友達に、なれるように・・・」

 

なんとか弁明するが、コスミナの弁明も聞かずにセシルは「そんなものいらない」と答えた。

今までよりもとても幸せそうに、濁った眼で彼は答える。

 

 

「姉さんがいれば僕は何もいらない。姉さんがいてくれたらいいから・・・邪魔なものは、全部消すね?」


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