ワイルドハント異伝   作:椿リンカ

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ロッドバルト「次はイゾウさんのターンですね。確かここは・・・そう、刀工となったモブ転生者・・・アオイさんの半生です」


「あの人と私で、生きようと思った」

私の半生はおよそ侮蔑と冷笑に塗れている。

私はとある刀鍛冶職人と妾の娘として生まれ、その為から本家の人間から疎んじられ続けていた。両親はすでに鬼籍に入っており、本家は父の弟が仕切っていた。

私は半分は父の血が入っているということで引き取ってもらえたが、ろくにご飯も貰えず、屋敷の下働きをさせられていた。

 

「まったく、○○様もなんであのような妾との間に・・・」

「しかも女子なんて、ただの穀潰しじゃ」

「なんていらんものを残してくれたのか・・・」

「しかし捨ててしまえば家名に傷が・・・」

 

そんな言葉を幼い頃から言われ続けていた。

嫌だと思う気持ちもいつしか薄れ、自分が人間だと思う気持ちも次第に薄れていった。

そうだ、私はこの家にある家具とか道具とか、そういうものだと思えば楽だと・・・だって、人間だと思っていたら辛いままだ。

割り切ってしまえばいい、諦めてしまえばいい、あぁそうだ、ワイルドハントの誰かを殺すだけの、ただそれだけの道具としてこの人生を生きよう。誰か一人を殺しただけで、何百何千の人間が救われる。

それだけで、かまわない

 

「お前の刀は気持ち悪い」

「なんだこの刀は、怖気が奔る」

「こんなのなまくらと一緒だ」

 

私の刀は、込められているものが歪だ

そう言われていた。

まるで妖刀みたいだと言われ、刀はなまくら刀と一緒に安く売られることになった。

 

認めてくれなくてもいい

どうせ私は、お前たちに認められるために生まれ変わったわけじゃない

もっと大勢の人間を救うために生まれたんだ

感謝してほしいぐらいなのに、どうせこいつらは知らないままなんだろう

いい気なものだ

 

そんなことを思いながら、ただひたすらに鍛冶に打ち込んだ

何本何十本何百本と刀を作り出した。でもそれは家業に必要だったから作っていたし、それが出来なければ私は本当に捨てられてしまう。

来る日も来る日も刀を作っていた

日雇いぐらいお金しかなかったけれども、それでもかまわない、どうせ私は人としては生きてないのだから。

 

そんな生活をずっと続けていた。

敷地の中にある小さな襤褸小屋でずっと鍛冶に励んでいる私に尋ね人が来た。

 

「失礼、この刀を打ったのは貴殿だと聞いた」

 

黒い髪で浪人風の男が襤褸小屋の戸口に立っていた。

どこかで見たことがあるような気がするが、その頃の私は精神も体も疲弊していたせいか思い出すことができなかった。それが、ワイルドハントのイゾウだなんてことを、私は忘れていたのだ。

 

「この刀はとても良い。ぜひ貴殿に拙者のための刀を作って頂きたい」

「・・・私に、か。それなら本家の人間に頼めばいい」

「いや、貴殿が打ったこの刀は素晴らしい。貴殿の思いが込められている・・・そう、強い念だ。そんなものを感じた。だから貴殿に頼みたいのだ。この通り頼む。金なら支払う」

 

そう答えて男は麻でできた少し小ぶりな袋を出してきた。中には少しくすんだお金が山ほど入っていた。

 

「貴殿は素晴らしい鍛冶屋だ。拙者が求めていた刀を作れるのは貴殿しかいない」

 

賞賛の言葉や自分の存在を肯定される感情なんて、私には縁遠いものであり、きっと永遠に手に入ることはないと思っていた。けれど目の前の男は自信を持って私のことを肯定してくれている。

生まれてきてから、そんなの初めてだった。

 

「・・・作る」

「本当か!?」

「金はいらない」

「いや、それはダメだ。貴殿が受け取るべき報酬だろう。いや、これは前金だな。刀が出来たらもっと支払う」

「・・・いい。私が、作りたくなった。初めてなんだ、私の刀が求められたのは」

「受け取ってくれ。頼む」

「・・・仕方ねぇな。あと、畏まった言い方はやめてくれ。性に合わない。アオイでいい」

「・・・アオイ殿、どうかよろしく頼む」

 

それから1か月半かけてずっと刀を作り続けた。

今までの人生の中で最高の刀を作ろうと必死になって、それこそ命を削るぐらいに作り上げようとした。

男は私に付き合うと言って自らも襤褸小屋で寝泊まりしていた。

昼夜問わず必死に刀を作り続ける私に付き合った。

 

そうしてできたのが、二振の刀だった。

銘は打っていなかったが、自分ができる最高の刀ができたはずだ。

 

「これは素晴らしい・・・!この色艶、妖しいまでの刀の輝き・・・あぁ、本当に素晴らしい」

「・・・そりゃあ良かった。二本とも持っていくか?」

「いや、こちらの刀が良い・・・あぁ、美しい・・・銘は?」

「そういや付けてねぇな。好きに付けてくれ」

「・・・そうだな・・・刃の煌めきがまるで雪のようだ・・・あぁ、そうだ、江雪、江雪はどうだろうか」

 

江雪

 

その銘を聞いた瞬間、目の前の男がやっとイゾウだと思い出した。

 

・・・もう一振りの刀は私が持っている。今ここで刺し殺せば・・・

そうだ、私はそのために

今まで・・・・・・

今までの苦労が・・・・・

 

「感謝する、アオイ殿」

 

本当に嬉しそうに私に声をかけてくるイゾウを見て、躊躇した。

 

「え、あ・・・」

 

「貴殿のような刀工に巡り会えてよかった」

 

笑った顔を、初めて見た

 

・・・本当に、殺しても、いいのだろうか

本当にそれでいいのか?

自分をやっと認めてくれた相手を殺して、それで今後殺される人々を救ったと満足できるのだろうか?殺される人々は、自分たちが殺されることを知らずに、私がやったことすら知らずにのうのうと生きていくのだ。

・・・本家の人間のように、私のことなんて何も認めずに、ただただ道具のように

 

そう考えると、途端に嫌な気持ちがわいてきた

・・・馬鹿なことだな。確かに知りもしない大勢の人間を救うのは良いことだ。けれど、それが自分にとって何のためになるんだ?

人助けをしましたっていう自己満足じゃないか

・・・そんな自己満足に浸るなら、もっと、もっと人間らしく生きたい

 

「・・・なぁ、あんた」

「なんでござるか?」

「・・・刀の手入れもあるだろう。刃こぼれしても困る。責任持って、私も一緒に付き合ってもいいか?」

「それはいいでござるが・・・」

「・・・その刀で人を斬るんだろう?」

「!」

「かまわねぇさ。刀なんて人を斬るものだ・・・私は、ここにいても無駄な人生を送るだけなんだ」

 

一緒に落ちてもかまわない、だから私と一緒に生きてくれないか

 

 




ロッドバルト「さぁ、いよいよラストを締めくくるのはシュラさんですね!長丁場にならないように気を付けましょうか!」

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