亜人の耳を換金した俺達は、シルフィードに乗ってタルブの村に向かった。いや、一つ訂正がある。俺以外の全員はシルフィードに乗っていたのだが、荷物も多くなったし、地下水によって俺も系統呪文が使えるようになったのでフライで訓練がてらシルフィードの横を飛んでいた。単発火力が高いが燃費の悪いハルケギニアの魔法使いと違い、俺は
到着した俺達はシエスタの指示で草原に降り、それからは各自自由行動となった。
ただ、ギーシュは今回の金でワインを購入しに行き、モンモランシーもそれに付いて行ったが、村を案内すると残ったシエスタ。今回の宝探しで俺に良いところを見せたかったらしいけれど最後にルイズに色々持っていかれたと思っているキュルケ。使い魔、平民と言われる俺が正に鬼を凌駕する力を出し、それを見てさらに興味と警戒の目でこちらを見るタバサ。そして、まだ覚悟は決まっていないようだけどシエスタに対抗心を燃やしているルイズが残った。結局ほとんどじゃないか。
「それじゃあ竜の羽衣まで案内しますね。ただ、本当に期待出来るほどの物じゃないです」
「シエスタ、大丈夫、実物がどんなものでも誰も君を責めたりしないよ」
「そうよ、今度のは余興として来てるから見終わったらあたしもワインを買いに行くわ」
俺の言葉に軽い調子で便乗フォローを入れるキュルケ。
「分かりました。では、こちらです」
そうして通されたのがどう見ても日本家屋的な寺院だった。木造建築に漆喰の壁。戸は丁寧に木と紙製である。羊皮紙が主流のハルケギニアにとって、植物由来の紙は完全な採算度外視だ。おかげで破れないように固定化をかけているらしい。
「大きいけど、どう見ても羽衣じゃないわね。破壊の杖の時もそうだったし、最近言葉とは何か違う印象の物が多くなってきた気がするわ。なんて言うか、「場違いな工芸品」を見ているような感じ」
「ツェルプストーの家は収集家でもあったわね。あんたがそういうのならそうなんでしょう」
キュルケとルイズが感想を漏らしている。
「ね? どう見ても飛びそうにないでしょう?」
シエスタが自嘲気味に言う。
「いや、これは飛べるんだ。ただ、燃料を燃やして飛ぶから、その燃料が無いか、どこか壊れているだけだ。その証拠を今見せよう」
そう言って俺はメモ帳から用紙を1枚取り出す。
「羽ばたけなくても、こうして空を行く事は出来る」
メモ用紙で紙飛行機を折り、飛ばしてみせる。
「この竜の羽衣の場合、その風車で自身を前に飛ばす風を作り、翼の一部や尾翼が可動式になっているからそれを動かして高度を稼ぐんだ。これらを俺の国では飛行機と呼んでいる。その中でもこの竜の羽衣は戦闘機と呼ばれるもので、文字通り空で戦うものなんだ」
一同唖然としている。
「じゃ、じゃあ、ひいおじいちゃんは本当にこれで・・・・・・」
「ああ、大方燃料が切れて不時着したんだろう。ちなみにこれは「ゼロ戦」って言って俺の国ではその昔一目置かれた存在なんだ」
「すごい、すごいです、サイトさん!」
紙飛行機で実演しながら説明したためすんなり信じたようだ。
「この紙飛行機はシエスタにあげるよ。ご家族に竜の羽衣はこんな風に飛んだんだって説明する時にでも使うと良い」
念の為地下水を抜いて固定化をかけ、シエスタに渡す。
「ありがとうございます、サイトさん・・・・・・」
潤んだ瞳で見つめてくるシエスタ。紙はまだ余ってるからシエスタの家にお邪魔したときに他の折り紙でも作ってやるか。あれは外国人にもウケがいいからな。
「それじゃあついでに壊れてないか確かめてみよう。これを飛ばす燃料は学院にあるから、無事だったら村のみんなの前で飛ばして驚かせよう。タバサ、悪いけど明日俺と学院へシルフィードで一旦戻って欲しい。樽にしてざっと5本分だから、タルブに戻るときは樽というか金属の容器を縄と荷馬車でまとめてレビテーションをかけるから、頼む」
「分かった、私もこれが飛ぶところを見てみたい」
「そういうわけだから、重量制限的に3人は待っていてくれ。その間にワインの味の感想を聞かせてくれればありがたい」
そうだ、即席で作ってもらったスパークリングワインも持ってきて、ここで量産してもらえるか交渉しよう。金貨より宝石で投資すれば見た目のインパクトの分成功しやすいかな?
この後ゼロ戦を何十年かぶりに起こし、どこも壊れていないことを確認したところで、貴族は村長の家、俺はシエスタの家に泊まることとなった。
シエスタが知らない男を連れてきたせいで当初、父親に苦い顔をされたが、シエスタの説明と、紙飛行機、さらにシエスタの曽祖父の墓の文字を読んだことから歓迎され、シエスタの弟妹達の面倒を見たり父親と酒を飲んでいたりしていた。俺がここに居る境遇を聞かれ、最初は同情の目で見られたが、俺は気にしていないし、来た頃はともかく今は別に帰れなくても構わないと思っていると伝えると、婿に来いとか言われた。その事で今はシエスタの事は大事な友達と返し、使い魔兼護衛として就職している為、先のことは分からないがシエスタがうちの主に共に仕えるのならばお嫁さんも良いかもしれないとまんざらでも無い調子で返しておいた。親から酒を禁止されているシエスタはぶどうジュースを飲みながら、隣で顔を赤くしていたのが可愛かった。
そして酔い覚ましに草原で水を飲みながらぼーっとしていると、いつものメイド姿とは違う、村娘スタイルのシエスタが近づいてきた。
「私はこの草原が大好きなんです」
シエスタは一面に広がる草原を見渡しながら言った。
「ああ、俺の国からこっちに来たときは空気が綺麗だなって思ったけど、ここはさらに清々しい。それに眺めもいい」
俺の言葉にシエスタはにっこり笑う。
「サイトさんはどこか不思議だなって思ってたけど、ひいおじいちゃんと同じ国の人だったなんて、なんか運命を感じちゃいます」
そう言って俺の隣に座り、肩に頭を預けてくる。
「それに、最初はお兄ちゃんが居たらこんな感じなのかなって思ってたけど、それより今は別の感情があるんです」
その独白に俺は黙って耳を傾ける。
「サイトさん、好きです。確かにミス・ヴァリエールは怖かったですけど、この気持ちはミスに負けません」
「俺もシエスタの事好きだよ。ただ、他に好いてくれる女の子も居て、今までの俺は複数の女の子から同時に好かれるって経験が無くて、友達からの関係を壊すのが怖かったんだ」
今度は俺の独白をシエスタが黙って聞いてくれる。
「そんな未熟者だから、好きだけど未だに一人を選べない。ギーシュにも言ったけど、貴族だったら一人だけ選ぶ必要なんて無いかもしれない。でも俺もシエスタも違う。シエスタも出来れば自分だけを見て欲しいだろう?」
日本だったら最低なへたれ野郎の烙印を押されるようなことを言っている。これも酒の力か。
「分かりました、サイトさん」
へたれな俺にシエスタは決意のまなざしを送ってくる。
「サイトさんは凄い人です。強いし、優しいし、頭も回るし。他にもいっぱい凄いところがある人です。だから、もっと凄い人になって下さい。そうなったら、私だけじゃ支えきれないから、他の女の子を見ても全然気にならないと思います」
「ふふっ、シエスタ、君の言っていることはむちゃくちゃだけど、君がそれでいいのならやってみよう」
思わず苦笑が出てくる。なんか自己嫌悪してたのが馬鹿みたいに思えた。
「はい、私もサイトさんがもっと凄い人になるのに協力します。頑張りますのでサイトさんも頑張ってください」
「ああ、分かった、シエスタ」
そう言って俺達はどちらともなく顔を近づけ、距離がゼロになった。
個人的な感想ですが、どうしてシエスタ相手だと甘くなるんだ!あんまり甘くなるとにやけ面の自己嫌悪で執筆できなくなるじゃないか!(責任転嫁)