俺は今土煙の中荷物を持って佇んでいた。ハーフエルフの子はもっと穏やかな召喚だったと思うし本当にトリステインに来たらしい。
「ひと?」
「平民、平民だ! ルイズが平民を呼んだぞ!」
「やっぱりゼロね」
煙が晴れるに連れそんな罵声交じりの騒音が聞こえてくる。
「あんただれ?」
と、きょとんとした顔で尋ねてくるので俺も自己紹介することにした。やっぱ度が過ぎるツンデレがなけりゃ美少女だな。
「はじめまして、私の名は平賀才人。こちらではおそらくサイト・ヒラガになります」
「え、家名持ち?貴族?だけどマントしてないし……」
「ミス・ヴァリエール。時間がおしている。コントラクト・サーヴァントを」
とコルベール先生と思わしき頭部の寂しい人が急かしてくるが――。
「お待ち下さい」
冷静に、且つしっかりと聞こえるように静止を促す。
「はぁ? あんた平民でしょ? それなら大人しく従っていれば良いのよ」
「いえ、私も魔術を少々嗜みますが、サーヴァントと言う事は使い魔契約に関する事でしょう。まず、そこに関する交渉から始めないと話になりません。そちらの教諭。申し訳ありませんが交渉の仲介を頼めますか? 特に貴族は理不尽な契約で平民を家畜並みの扱いをするのであれば家名を落とすと思うのですよ。私は」
まっとうに扱われるのであればこんなことはしないのだが、使い魔契約とは基本的に動物や幻獣相手のものなので雇用と言う形から入って正当な賃金を得たいのだ。じゃないと待遇が改善するまでルイズのヒモ、いや、ペットである。かっこ悪い。
「えっいや、あの」
いきなりこんな事を言われて混乱するなと言うのも無理は無いだろう。ただ、俺がこのツンデレ魔法少女の使い魔になるって事はほぼ専属なので他からのチップは期待出来ない。死活問題なんだ。許せ。
「まず、何故か言葉が通じていますが、文字も通じるとは思いません。何か書くものを何枚か、それと雇用契約書などがあれば持って来て下さいますか? お願いします」
「何訳のわかんないこと言ってるのよ! 勝手に話を進めないで!」
「しかし、ええと間違えたら失礼。ミス・ヴァリエール? 私のような人間の使い魔は見回したところ一人も居ないようです。ならば、ここはお互い慎重に話し合うべきだと思うのですよ。もし、これが前代未聞だったら貴女の名前が歴史に残るかもしれないので」
「そそそそそうね、そういうことな、なら交渉してあげてもいいわよ!」
「はい、それがよろしいかと。そちらの教諭にも同席していただきますから、そちらにとっても悪い話では無いと思いますよ」
「しかしこの件は冷静に考えると家名持ちの方が使い魔と言う事ならば私の手にはあまりますぞ。ここはオールド・オスマンにも協力を仰ぎましょう。そういうわけで、私はお二人と用事が出来ました。授業はこれで終わります。解散」
「分かりました。ではそのようにお願いします」
「なんであんたが仕切ってるのよ!」
キャイキャイ元気なルイズを軽く相手にしながらオールド・オスマンとの面会に向かった。
「なるほどのう、別の大陸からの稀人か」
オールド・オスマンは俺とコルベール教諭の説明を聞いて、要領を得たように頷いている。
「つきましては、まず私はこちらのお金を持っていません。荷物整理の途中でしたから引きずり込まれる前に咄嗟にかばんを掴みましたが、それを除いたら着の身着のままです。「貴族」と言う王家に忠誠を誓う人々の模範だと言うのであれば、呼び出してしまった以上、「責任」と「義務」を履行する必要があると思います」
あんまり暴力的な交渉は好きではないので、こうして相手に責任を感じさせる言葉を選んでいる。ちなみにルイズは慇懃無礼に言い負かされた所為か涙目で我慢しながらこっち見てる。可愛い。キュルケの気持ちも分かるわ。
「そう言われると痛いところじゃな。立派な貴族を養成する由緒あるトリステイン魔法学院ならばこそ、そこのところをしっかりとしていかんといかんからの」
「お分かり頂けましたか」
「しかしミスタ・ヒラガよ。お主に何が出来るかによって待遇は変わるのう。能力に見合った賃金を出すのもこの場合はミス・ヴァリエールだしの」
「もちろんですとも。では」
人差し指を立て、軽く火を灯す。こちらは地球と違って
「先住魔法? ってことはあんたエルフ!?」
あきらかに警戒の目で3人に見られる。ちなみにミス・ロングビルはお茶の手配で席を外している。
「いえ、私の世界にもエルフの文献がありましたが、私は耳が長くないでしょう? 顔の作りがこちらの方々とは違うように別大陸の血筋と魔法と思って頂ければ幸いです」
ほんとはある程度の素養があればこれくらいは誰でも頑張れば出来るらしいけど、ルイズに教えなさいって言われるのも面倒なんでそういうことにしておく。気が向いたら教えてもいいけど。
「他には、武術を修めていまして、計算は学校に通っていたので少なくともそこらの商人よりは出来ると自負しております。ただ、どうも故郷とこちらとでは使っている文字が違うようなのでそちらはおいおい覚えていく必要がありますね」
「あいわかった。少なくとも下男にしておくには惜しい能力じゃのう・・・・・・して、ミス・ヴァリエール。お主はどう思う?」
「えっ!?」
緊張の中いきなり声かけられてビビるルイズ可愛い。
「えーと・・・・・・私は、もっと可愛いのを想像していたと言うか・・・・・・」
どうやらルイズの中で俺の評価が「平民」から「平民メイジ? それともほんとに他国の貴族?」辺りで揺らいでいる所為で場繋ぎにもならない事を言っているようだ。
「いきなり色々あって混乱しているようじゃの。儂からの評価じゃが、護衛と補佐ならば十分任せられると思うぞい? こちらの文字は図書館で本を借りてきて覚えるか、ミス・ヴァリエールに教わりなさい」
「えっ!?」
ルイズを取り残してとんとん拍子に話が進むので本人はとても不本意そうだけど、場を乱されるよりはなし崩しに待遇の高い方で雇用してもらう方が俺的には得なので少々可哀想だが多少無理にでも承諾してもらおう。信頼は後から積み上げるさ。
「では、次に住居について相談しましょうか。まさかレディの部屋に私が寝泊りするわけにもいきますまい」
「そうですな。女子棟と男子棟に分かれておりますが、いきなりミスタ・ヒラガを男子棟に住まわすのも無用な混乱の招きかねません。なので申し訳ないのですが、使用人の住居で個室を用意させますので今のところはそちらで容赦して頂きたい」
「ええ、こんな魅力的な女の子と一つ屋根の下だといつ間違いが起こっても仕方ありませんからね」
おべっかではなく本心でそう思っているので社交界とかで作り笑いに敏感そうなルイズも顔を真っ赤にして口をパクパクしている。俺はロリ系からおねーさんまでいけるぜ。へたれだからいざという時、手が出せないんだけどな! だけどからかうのは大好きSA!
「しかし護衛と言う形を取るならば後々ミス・ヴァリエールの隣の部屋を確保して頂きたい。対象から離れる護衛では本末転倒ですから」
「それはお主の行動次第じゃのう」
「では、最後に、お給金の話をしましょう」
「そうじゃの。人間生きていく上では大事じゃからの」
「私個人の意見としましては、こちらの使用人の値段から始めて、働きに応じて臨時収入や給金の上昇と言う形をとってもらいたいのです。もちろん何かしらの失敗があったら査定から引く形でどうでしょうか?」
「良いのかの? 魔法が使えるとなるとミス・ロングビルのように平民でも結構な額が出ているがの?」
「ええ、構いません。支払いはミス・ヴァリエールの私財から出るのでしょう? 彼女の実家の爵位は分かりませんが、学生ならばそれ相応のはず。後は信頼と共に勝ち取っていきますよ」
「ええ心がけじゃ。ミス・ヴァリエールもそれでええかの?」
「・・・・・・はい、構いませんわ」
なにやら憔悴している。蚊帳の外かと思ったら渦中に飛び込まされたり不意打ちの連続だったり俺が微妙に高スペックだった所為で疲れているのだろう。
「では、遅くなったがコントラクト・サーヴァントを」
「はい、ではよろしくお願いしますね。可愛いご主人様?」
これくらいのサービスは良いだろう。と、思ったらまた顔真っ赤にしてる。ちょろい。
「あああああんたなんかこき使ってやるんだから覚悟しなさい!」
そう言って何度か深呼吸した後、詠唱を始めた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そうして軽く触れるような接吻を交わす。その後の涙目の上目遣いがたまらんとです。
「これで契約は完了よ」
「そうか、別段変わったことは・・・・・・!?」
左手が激痛を通り越して熱い!
「グ、ウゥゥゥゥゥ!?」
「使い魔のルーンが刻まれているだけだから。命に別状は無いわ」
してやったりと言った顔でドヤ顔を見せるルイズ。ほっぺた抓りたい。
-精神干渉、レジスト失敗-
-精神干渉、レジスト失敗-
-精神干渉、レジスト失敗-
-精神干渉、レジスト失敗-
-
脳内で暗示と魔術による精神防壁が脳内音声でイメージとしてメッセージを表示する。これがうわさに聞く「主人に対して抱かせる親愛の情」か。これ弾いたってことは虚無詠唱中の鼓舞効果も受けられるか怪しいな。あとで解析しないと。
「ふぅ、終わったみたいだ。そういうものはあらかじめ仰っておいてくださいな。ご主人様」
「なんかあんたの敬語気持ち悪いからもっと砕けたのでいいわ」
「了解」
ともあれこれで一番最初の関門は突破したんだ。まだ人を斬る覚悟は出来ていないけど、盗賊なんかが出る世界なんだ。少なくともアルビオン出発までには悪人を斬る事に忌避感を抱かない程度には鍛えないとダメだな。後、手袋装備しないとか。
「ミス・ヴァリエール、ミスタ・ヒラガ。お疲れ様じゃの。ではミス・ロングビルの紅茶で一息入れたら解散じゃ。ミス・ロングビルや。ミスタ・ヒラガを使用人の宿舎に連れて行っておくれ」
「はい、かしこまりました。オールド・オスマン」
そうして色々あったがなんとか人権をゲットしたので、あてがわれた部屋に鳴子を設置して今日の疲れを癒すのであった。
最初は呪詛返しする案もありましたが、そうするとツンデレがただのデレデレになるので面白くないと思いこんな感じになりました。理論武装で爆発魔法を封殺しつつルイズをいじると子猫みたいで可愛い。