結局エレオノールに伝授し終わったのは明け方で、緊急時の呪符まで作らされたので、寝れなかった。しょうがないので茶を煮詰めて抽出を使いカフェインに適当に味をごまかしたものを服用して眠気を覚ましていた。
そして早朝、四頭の竜に下げられた馬車っぽい乗り物に乗って公爵が帰ってきた。あれ竜が放したら落ちるって考えると怖いんだが。
俺は先に手早く朝食を摂り、ルイズの後ろに控えていた。戦争への参加をフォローするためだ。
「全くあの鳥の骨め!」
公爵は王宮で嫌なことがあったようだ。
「どうかなさいましたか?」
「このわしを態々トリスタニアに呼びつけて、何が「一個軍団編成されたし」だ!わしはもう軍から身を引いているというのに!」
「承諾なさったのですか?」
「するわけなかろう!軍から身を引いてる!世継ぎもおらん!これでおとなしく承諾すると言う考えが出るほうがおかしいと言うものだ!」
公爵激おこである。ムカ着火ファイヤーである。
「そうですね。でもいいのですか?祖国は今一丸となって攻めるべしと言っておりますが、謀反の恐れ有りと噂されるのでは?」
「そもそもわしはこの戦争に反対なのだ。いくらウェールズ殿下が滞在なさっているからと言って、積極的に攻める必要が無い。それに何も知らぬ王女殿下に鳥の骨が何か言ったに違いない」
マザリーニ枢機卿の扱いの定評はおおむね貴族の間ではこんなもんである。
「父さまに伺いたいことがあります」
「いいとも。だが、久しぶりの父に接吻でもしてくれんかね?」
末の娘で若い頃のカリンちゃんにそっくりだからね。猫可愛がりもしたくなるんだろうよ。
「この度はトリステインにアルビオン王統派、ロマリアと、牽制だけらしいのですが一応の義理としてゲルマニアが空路の封鎖を行っております。追い詰められた獣はより獰猛になると言うもの。一息に討ってしまったほうがよろしいのでは?」
「おや、ルイズ、しばらく見ない間に戦争にも明るくなったのか。雰囲気も以前とは違って見える。良き巡り合いでもあったか?」
「はい、父さま。昨日の晩餐で発表しましたが、私、魔法が使えるようになりました。そして、そのきっかけを作り、また最初に成功した魔法の成果である使い魔が私の後ろに控えているものです」
また自己紹介か。昨日と大体同じでいいや。
「ご紹介に預かりました。初めまして、ヴァリエール公爵。異国より参りました、サイト・ヒラガと申します。この度は我が主、ルイズ・フランソワーズ様を導くため、召喚に応じました。また、大事を取ってお部屋にて休んでいただいていますが、昨日、カトレア様の治療をカリーヌ様とエレオノール様の許可の下、そして、主の命により行いました。原因ははっきりしていて今後快復するでしょうし、カトレア様本人からご様子を聞いてみるのもよろしいでしょう」
「何?カトレアが快復すると言うのか!?」
「ええ、わが国で習得した魔術を使いまして。こちらで言う先住魔法では無いので心配もありません。エレオノール様が率先して習得してくださったので、それを家族内であれば伝授しても構いません」
「そうか、そうか・・・・・・カトレアが・・・・・・感謝するぞ。サイト・ヒラガと言ったな?その方の国ではさぞや名の通ったメイジか医師に違いない」
「それが、父さま。サイトは治療が専門ではなく、これはあくまで戦闘の補助でしかないらしいのです。ワルド様と模擬戦で引き分けたり、亜人の群れに一番に切り込む胆力、また、タルブでの戦いでは20騎程居た竜騎士を全滅させ、とある用でトリスタニアに赴いていた時、一個中隊を素手で無力化させていました。他には元々学校に通っていたとのことで、算術などは完璧でした。ただ、異国出身との事で最初は文字が通じませんでしたが、これも数日で覚えてしまって・・・・・・私には過ぎた使い魔です」
うーん、他人の口から聞くとすごい事したような気がするけどいまいち実感無いな。
「なんと・・・・・・!それは失礼した、ヒラガ卿。後でカトレアを治療した方法を聞かせて欲しい」
ルイズが俺を持ち上げすぎたせいで公爵の脳内での階級まで上がってるでござる。
「恐縮ですが、こちらでの立場は使い魔にして平民となっております。ヴァリエール公爵様。そのほうが主を支えるのに何かと都合がいいので」
「名すら投げ打ってルイズに忠義を尽くすと言うのか・・・・・・!ならばわしが報いよう。なんでも申してみるが良い」
あれー?なんか原作と違う流れになっているんだが?
「それなら」
ここでルイズが申し出る。
「私、才人の事が好きなの。他にも才人が好きな娘が居るけど、交際を認めてください。父さま」
ルイズの急な申し出に公爵もこれには困惑。
「う、しかし、平民となったヒラガ殿では現在わしのルイズでは釣り合いが・・・・・・」
「「サンドリオン」様、貴方もそれを認めてもらえず実家と対立したことがあったでしょう?」
「何故それを!?」
「話せることは話してもかまいませんが、娘達の前でお話するには少し酷かと」
主に黒歴史的な意味で。
「ぐっ・・・・・・!仕方あるまい、考えておこう。話を戻す。戦争だったな。ネズミ捕りで間諜も始末した。後はレコン・キスタが干上がるのを待つだけでよいのだ」
「ここで閣下達のお耳に入れておきたいことがあります。殿下達にはもう伝えてあるのですが、レコン・キスタの虚無、あれは水の精霊の秘宝であるアンドバリの指輪による水の先住魔法です。よってその効果は遠隔の敵を洗脳し、死者に仮初の命を吹き込むほど。現在は首魁オリヴァー・クロムウェルが使うとのことですが、あくまでマジックアイテムによるもの。秘密を知るものがクロムウェルに代わってトリステインで工作活動を行わないとも限らないのです。それに私は水の精霊と約束しました。私が死ぬまでにアンドバリの指輪を水の精霊の元に返す、と。約束をするまでの間、水の精霊はラグドリアン湖の水かさを増やしていました。そうすればいつかは秘宝に届くという理由で。指輪がもし戦争のどさくさで紛失してしまえば、また水の精霊は水かさを増やし、トリステインはいつかは水に沈むでしょう。かと言って水の精霊を退治してしまえば、もう水の秘薬は作れません。こういった理由から、オリヴァー・クロムウェルの確保、そしてアンドバリの指輪を回収することだけはしなくてはならないのです」
「ふむ、つまり、あちらが攻勢に出る前に攻め入って、秘宝を回収してこないと最悪クロムウェルに逃げられ、水の精霊を討伐するしかなくなると言うわけだな。たしかに、カトレアの件では水の秘薬には散々世話になった。そう考えると戦争で失われる命とこれから助ける命を天秤にかけなければならないと言うわけか」
少なくともこれから助ける命と言う点ではそちらのほうが多いと思うけどね。
「そういえばルイズの系統を聞いてなかったね。どの系統に目覚めたのだ。ルイズの口から言ってごらん」
「虚無です。父さま」
「虚っ・・・・・・!」
「ええ、王家から始祖ゆかりの品を貸与しまして、それでめでたく分類不明の失敗魔法から虚無へと判明したのです。ただし、これは燃費が悪く、スペルを全て唱えきって放つとこのおうちが消滅する規模が撃てる代わりに再現するには何年も精神力を溜めなければなりません。そこを才人に指摘され、レコン・キスタの旗艦の風石のみ狙ったので、結果的に無傷で鹵獲することが出来ましたが」
「補足させていただきますと、主の魔法は破壊、もしくは消滅させる対象を
そう言ってグローブを脱ぐ。公爵たちに見えるよう高々と掲げた。
「いいでしょう。それならば、私があなた達を戦争に行っても大丈夫か、見極めるとしましょう」
「カリーヌ!」
やばい、カリンちゃんが来た。公爵も焦ってるしやるしかないか?
「では、こうしましょう。まず、主の魔法の証明のために台を用意してもらいます。その台に破壊対象となるものを乗せていただき、主にはそれのみを破壊してもらいます。主は台を破壊しないようお願いします。これまで失敗してきた例を省みるに、制御も不完全で狙った的に当てられすら出来なかったでしょう。消耗を避けるためと言う意図も含まれます。そして私は、単独で力量を測っていただきます。理由は先ほど話したように主の消耗を避ける意図もあります」
仕方が無いのでせめてルイズの消耗を抑える策で行く。俺一人だったらまだなんとかなる。
「いいでしょう。では、昼食2時間後、エレオノールにつき合わされたヒラガ殿の疲労が抜けてから行うこととします。ルイズも準備しておきなさい」
こうしてカリンちゃんと戦うことになった。
午前中は切継さんほどで無いにしろ、暗示により普段は警戒できなくなるのでやらないほどの深い眠りを得て、その後昼食を取ってから軽いウォーミングアップ、後、まずはルイズの魔法の証明を行うこととなった。シエスタは二日酔いでダウンだ。
「おちび、後でデータを取らせてもらうわよ!」
「ルイズー頑張ってー」
二人の姉が対照的な声援を送っている。
「はい。では、エオルー・スーヌ・フィル・・・・・・エクスプロージョン」
今回的になったのは赤子の頭ほどの石だったので、ルイズも詠唱を三節で止めて撃ち出した。
「どうです?」
そこには焦げ目一つ無く無傷な台だけが残っていた。石は完全に消滅して姿すらない。
「主の魔法は一節ごとに長くしていくことによって威力を増します。今回はあの程度の大きさの石だったので、あの長さだったのでしょう」
「ちびルイズ、本当に成功したじゃない!」
「やったわね、ルイズ」
エレオノールは珍しく褒めているらしい。カトレアはマイペースだ。
「あの小さかったルイズが始祖の系統を継ぐとは・・・・・・立派になって・・・・・・」
公爵とカリーヌも温かい雰囲気だ。特にカリンちゃんは目元がとても優しげになっている。
俺はしばらく邪魔しては悪いと思ったのであちらから申し出るまでそっとしておくことにした。
「お待たせいたしました」
今俺は優しげな雰囲気から再びキリッとした表情に戻したカリンと対峙している。
「いえ、では、公爵様、合図をお願いします」
「分かった。双方、準備はいいか?」
「はい」
「ええ」
「それでは、始め!」
その合図の瞬間、ポケットから投げナイフを取り出し投げつつ、それに追従するようにデルフリンガーを逆手で盾のように構えながら突進する。
しかし相手もさるもの。難なくナイフを避け、バックステップで距離を取りながら短めの詠唱で済む魔法を選択していた。
「ウインド!」
なるほど、まず距離を離す戦法か。ここでリボルバーを使ってもいいが、これは出来るだけ秘密にしておきたい。454カスールだから攻撃力高すぎるし。
その暴風に距離を離されるのを嫌い、俺はデルフリンガーを順手に構えなおし暴風へ上段から切りかかった。
「やはりその魔剣は厄介ですね」
「いえ、あくまでこいつも取れる手札の一つですから」
サービスで他にもまだあることを匂わせる。警戒して慎重になってくれればそれだけ近づける。
「では、今度はこちらから向かうとしましょう」
まずい、ブレイドでの白兵戦か。俺は地下水を手に入れてから固定化を重ねがけした脇差を抜き、その
キンッキンッと打ち合い、鎬を削りながらなんとか対応するも、逆に考えた。別に相手の土俵で戦う必要ないじゃん。
デルフを振り下ろしたときにわざと地面に突き刺す。爆発したかのように土煙が上がるが、カリンはミスだと思ったのかデルフを持っている手の方向から突っ込んでくる。
「甘い!」
脇差を投げ、地面に刺さったままのデルフリンガーを左手で逆手に構えなおし、こちらからも走り出し、距離がゼロになる。
「タイ!」
デルフの柄頭で杖を持った手を強打する。
「ラン!」
反対の手でその体勢を崩し――。
「レイブ!」
巨大な炎をまとった一撃で吹き飛ばす。
「そこまで!」
ヴァリエール公爵の合図で、勝敗が決まった。ヘヴィだぜ。
いつも風呂を温めたりライター代わりにしか使われてない火魔術も、豊富なマナがあるハルケギニアではここまで強力になります。
貴族などのメイジはオドの余剰分をマナや属性石にしてしまっていますが、地球産の魔術師の場合は逆で、自身のオドを着火剤にマナを取り込んで発動するため、風石などはむしろ近くにあると減ります。