転生先が平賀さんな件   作:スティレット

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 新型の竜牙兵は意思疎通用の両刃の斧に「どちらさまですか?」と刻んで持っています。旧型は威嚇しつつ待機し、新型を呼び寄せる役。


へいわなにちじょう(白目ver.)

「サイト、今日もお疲れ様。貰ったお札でお湯を沸かしたから、汗を流して」

 

 村に来てさらに幾日か、マチルダに何か吹き込まれたのか最初は遠くから伺うように見ていたテファも、賊騒ぎで大分距離が縮まった。

 

「最初は姉さんから怖い人って聞いてたけど、私のことを怖がらないし、あの怖い人たちから守ってくれた。子供達とも遊んでくれて聞いた話ほど怖い人じゃないんじゃないかって思ったの。そうしたらあまり話したくなかったことも、あなたなら聞いてくれると思ったわ」

 

「信頼してくれると嬉しいな。テファみたいな綺麗で可愛い娘と友達になれるのは嬉しい。もしよかったら友達にならないか?」

 

「友達・・・・・・はじめてのおとこのこのおともだち」

 

 ここウエストウッド村は姉貴分のマチルダと、面倒を見ている子供達しかいない。同世代が居ないのだ。それでちょっと混乱してるのかな?

 

「テファがいいならって事だから、そうしたらまた遊びに来ても良いかなって思ったんだよ。無理にとは言わない」

 

「ううん、嬉しい。サイト、友達になろう?」

 

「うん、ありがとう、テファ。改めてよろしく」

 

「よろしく、サイト」

 

「貴様は何をやっているんだ?」

 

 なんかもじもじしてるテファの甘酸っぱい雰囲気をぶち壊すハスキーな声。

 

「その声は覚えがあります。確か殿下の」

 

「銃士隊のアニエスだ。全く、長旅になるかと思ってこの大荷物を持ってきたというのに、あっけなく見つかるとは・・・・・・で、貴様は何をやっていたんだ?」

 

「待っていたんですよ。俺も無敵ではないし、味方が撤退してたから安全にアルビオンから脱出するには単独では難しいと思いまして。敵の竜を奪ってもアルビオンが移動してるから方角なんてわかりませんし」

 

「そうか。予定より早く見つかったが、流石の私も連日の任務で疲れた。しばし休ませてもらう。そこの娘、いいか?」

 

 咄嗟のことだったのでテファは帽子を被っておらず、そのエルフ耳がぴょこんと出ている。

 

「あ、あの、私が怖くないんですか?」

 

「なんだ?エルフか?」

 

「ハーフです・・・・・・」

 

「エルフだろうがなんだろうが、脅威に感じないものを怖がる習慣は持ち合わせては居ない」

 

 きゃーアニエスさんオトコマエー。

 

「サイトさんを探しに来たって言うし、分かりました。許可します」

 

「ああ、頼む。ついでに7万殺しの英雄の腕前を見せてもらおうか。あれだけの証拠を見せられては逆に現実味が無くてな」

 

「仕方あるまい。かかってくるが良い」

 

 アニエスが荷物を置いてからまた一汗かくことになった。

 

 

 

「くっ」

 

「命は投げ捨てるものではない」

 

 そこら辺の木の枝で打ち合おうとしたが、まさか一合も交えず俺が得物を投げるとは思わなかったのだろう。そこから素手で枝を持ち手近くからへし折り、当身でアニエスは地面の味を知ることとなった。どうせお遊びだから消耗とか考えてない。

 

「動けるようになるまで少しかかるだろう。それまで武器の調子でも見ておいてやる」

 

「勝手に触るな・・・・・・!」

 

「みぞおちに綺麗に入ったのにそこまでしゃべれるとはな。まずは剣からかな。テファも決着が着いたから近くに来ても大丈夫だよ」

 

「う、うん」

 

「分かってはいたが鋳造品か。おまけに荒い。もう少し純度を上げれば粘りが出てくるから折れにくく、曲がっても反対側から力を加えれば元に戻るようになるぞ。じゃ、錬金しとくか」

 

 地下水を抜いて錬金を唱える。ついでに抽出で余計なものも取り除く。

 

「これでいい」

 

 何度か振ってバランスを見る。

 

「一応バランスも大丈夫だと思うが、個人的な好みがあるからな。動けるようになったら調整してやる。次かな」

 

「だから触るなと言っている・・・・・・!」

 

「よいではないかー」

 

 さらに懐に吊るしてある銃を見てみる。

 

「うん、これも甘い。火薬の量を2倍にしても吹き飛ばないくらいの強度にしておいてやろう」

 

 このフリントロック式は口径が大きいから散弾を詰めても大丈夫そうだな。

 

「弾はどうしてる?火薬と一緒に買っているのか?」

 

「・・・・・・そうだ」

 

「なら、母型を用意しておいてやる。それさえあれば銅か鉛を溶かして注げばいい。防毒マスクも用意してやるから弾がなくなった時に着用してから作るように。溶かした金属は毒性が強いのが多いからな。それと、散弾を詰めて布で栓をしておけば牽制には十分だろう。最悪砂利や石を砕いて詰めれば良い」

 

 出来上がった銃はわずかに重くなっていたので、冷却兼肉抜きのフルートを入れる。そこで固定化をかけた。

 

「完成だ。これも後で感想を聞かせてくれ。そうそう、俺から一本取ったら新型の銃をやる。手段は村に迷惑をかけなければいつ、なんでも良い。飯食ってる間でも、湯浴みしてるときでも、寝てるときでもな」

 

 ちょっと最近たるんでるから鍛えなおさないといけないんだよ。竜牙兵に任せきりでこないだ人攫いが来たし。

 

 その間錬金している様子をテファは興味深そうに覗き込んでいた。

 

 

 

 それからというもの、アニエスとの熾烈な攻防が繰り広げられた。

 

 最初のうちは食事中に鞘のついた短剣を首筋に当てようとしたりと可愛いものだったが、次第に湯浴みで目を瞑った瞬間、用を足してるとき、会話の途中脈絡も無くなど、寝ている間のは初日に対処したので数日置きにしかしてこない。

 

 そもそもこちらはガンダールヴなしでも素手でりんごを握りつぶせるくらいに筋力がついたし、脳内術式が複数常駐しているので間合いに脅威判定を受けたものが入ったら体感速度が変化して周りがゆっくりになる。使おうと思えば常に使えるのだが、そうすると会話するときとか面倒なのだ。主に会話相手がスローになると言う意味で。自然治癒向上の術式も常時起動しており、それに合わせて不随意筋も異物が体内に侵入、もしくは刺さったりしたときに押し出すようになっている。よくよく考えると立派な人体改造だが、術を切ると元に戻るのであまり気にしてはいない。

 

 そんな中寝る前にぼーっとしていると、ハープの旋律が聴こえてきた。

 

 こう、どこか望郷の念が浮かぶ。俺はルイズのワールド・ドアがあるのでこちらのごたごたが片付いたら一度帰ろう。そのときはルイズも一緒に、シエスタも紹介しよう。キュルケも最近アタックが激しくなってきてるから振るか受け入れるか答えを出さないといけないのだが、原作通りだったらコルベール先生になびくんだよな。でも、万が一の秘薬を持たせたからどうなったのか分からない。それに、何の関係も無い俺が唐突にアニエスにコルベール先生のことを尋ねても、平民上がりをマークしてるなんて警戒心をいたずらに刺激するだけだと思う。よって聞くことは出来ない。学院に帰ったらどうなったかわかるんだろうから、別にいいか。タバサは・・・・・・まずはガリアだな。あの躁鬱病の王様は無駄に高性能だから相手にするのは面倒だが、俺も情に絆されたか。それでこないだ7万相手にしたって言うのもあるんだが。ギーシュとモンモランシーは保留だな。贅沢を覚えると帰ってきたとき不便になるって言うし。覚悟もなしに取り上げるのはよろしくない。マリコルヌは・・・・・・うん、今のところ別にいいや。

 

 つらつらと考えていると何故か泣けてきた。

 

「なあデルフ、この曲ってなんで涙が出るんだ?」

 

「こりゃブリミルが故郷に帰りたいって想いを乗せた曲だからさ。そういや相棒の故郷はどこなんだ?」

 

「日本って国だよ。他の国からはジャパンとか呼ばれてる」

 

「聞いたことねえな」

 

「そりゃこの大陸には無いからな」

 

「六千年生きてるけど大陸の外に出たこたあねえから知らねえや」

 

 ふと見るとハープを弾いているテファも泣いている。ハーフエルフだから生まれたのはこの地でも、母親からサハラのことでも聞かされていたのだろうか?邪魔しても悪い。こういうときはさっさと寝るに限る。

 

 その晩、アニエスからの奇襲は無かった。

 

 

 

 それからさらに1週間。そろそろいいか。

 

「あだっ」

 

「ふん、私をあまり甘く見るな!」

 

 アニエスがむきになってきりが無いので、一撃を甘んじて受けた。

 

「いたた、まあ、俺も無傷であの軍勢に勝利したわけじゃないからな。約束は約束だ」

 

 そう言って銃を取り出す。

 

「これはミニエー銃と言う。中に螺旋が刻まれていて、それがこのどんぐり状の弾丸の威力を高める。弾の尻に入っている木は衝撃で消し飛んで開くから、そこが螺旋に干渉して回転し、貫通力を上げるんだ。弾はまず、100発用意した。後は母型を作ってあるからそれで作った弾に適当な木を削って詰めてくれ。ただし、口径が厳しくなっているから大雑把な大きさの弾では撃てないから気をつけろよ」

 

 コルベール先生に習ったネジ切り技術、ついにものになったから作ったのだ。ちなみにこれの銃身は作った中で2番目に良かったものを使っている。一番目は20ミリ中折れ式単発砲「カルバリン」を作ったのでそっちに回したのだ。

 

「重いな」

 

「そりゃ口径が2サントでここまで色々技術をぶち込んだから仕方が無い。気になるんだったら風石でも仕込むが?」

 

「いや、これでいい。威力が高いんだったら反動も相応だろう。あまり軽いと押さえ込める自信が無い」

 

「そうか。それはそれとして、そろそろ方針を決めるか」

 

「ああ、少し長く留まりすぎたかもしれないな」

 

「才人!探したわよ!」

 

「心配しました!才人さん!」

 

 あれ?このパターン前に無かったか?

 

 そこには仁王立ちするルイズと、今にも飛び掛らんばかりのシエスタが居た。




 きりがいいので4千字行かなかったけどここまで。

 カルバリンは昔の携帯式大砲にあやかって名づけました。

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