転生先が平賀さんな件   作:スティレット

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VSドットメイジ(後)

 あれから飯を食べ終えた俺たちは現在、教室に居た。

 

 ああ、思い出したよ。これ異世界初の爆発イベントが待ってるんだった。

 

 そんなことを考えながら大人しく椅子に座っている。今朝の出来事で効果があったのかは分からないが、「床に座れ」と言われず少し詰めてもらいルイズと肩を並べている。

 

 それで考え事をしながらも大人しく授業を聴いているのだが、地球でも共通する項目は初心者すぎるし、「錬金」は等価交換の法則から喧嘩売っているので俺の使う魔術では相性が悪い。こっちに来て着火の魔術がライターから火炎放射器レベルまで上がったけど、主に使うのは状態回復と耐性、それと身体強化くらいだったし。

 

 ただ、魔力の流れを通して分かったことはこちらのメイジたちは小源(オド)しか使っていないようだ。しかもそれの余剰エネルギーで風石やらが出来る始末。馬力はあるんだが、エネルギー効率が悪いことこの上ない。

 

 一応エアカッターくらい防ぐことを想定にした装備だったんだが、ちょっと不安になってきたよ。

 

 そうつらつらと考えてると、ルイズが錬金の指名をされた。ちなみにこれまでマリコルヌを始めとした厭味な貴族はガン無視だ。ルイズには小声で「能ある鷹は爪を隠すと言います。それに周りが油断してくれればその分貴女を守りやすい。度が過ぎる輩はきっちり絞めますが」と言い含めてあるので我慢してくれている。

 

「さあ、ミス・ヴァリエール。自分の思い描いた金属を錬金して下さい」

 

「はいっいきます」

 

 今回の錬金の失敗は爆心地に居た二人が無傷で、ミセス・シュヴルーズがショックで気絶することくらいなのであえて身を隠さずに居る。キュルケが「あなた、危ないから隠れた方が良いわよ!」と警告をくれたが「せっかく主が張り切っているのです。結果を見届けずして何が使い魔ですか」と返してみた。いや、かっこつけてみただけだよ。

 

 結果。爆発。そして阿鼻叫喚。

 

 まあ、分かっていた。俺はルイズの無事を確かめ、スカートがちょっと破れていたのでマントで前を隠すと、「すみません、私はミセス・シュヴルーズを介抱しているので他の先生を呼んできてくれませんか? 私が行っても使い魔風情なので相手にされない可能性が高いのでお願いします」と、とりあえず自分に出来る対応を取った。

 

 この後原作通りに罰として教室の片付けを言い渡されたが、制服がボロボロになっているのを理由に一度ルイズを着替えさせるように交渉した。男性教諭だったのも理由の一つだったのかもしれない。マントで隠していたが、制服の話をしたら目が泳いでいた。このロリコンめ!

 

 ただ、ルイズは教諭が立ち去ってもそこに立ち尽くしたまま動かない。必死で何かをこらえているようだ。どうも俺が「何が使い魔か」云々発言をしっかり聞いていて、結果を出せずにしかも周りからこき下ろされた落差が地味に効いているらしい。しょうがないにゃあ・・。

 

「主よ」

 

 ビクッと震えるが下を向いてこちらを見ない。

 

「責めている訳ではないのです。主よ。あなた方は重大なことを見落とした上で、それを知らずにこうなっている。こう言った事は案外外様の第三者が気が付くものです。貴女はゼロなんかじゃない」

 

「でもっ! 結局錬金も失敗するし、皆私のことゼロだって・・・ッ!」

 

「魔力もある。爆発と言う形で結果も出る。使い魔の召喚も出来る。しかし四大属性のいずれにも当てはまらない。ならば話は簡単。残った属性が貴女なのですよ」

 

「で、でも・・・・・・それって」

 

 ふむ、若干持ち直してきたか。ルイズの頭の煤をやさしく払うように撫でながら続ける。

 

「聞いた所、あなたは王家の血脈に連なるそうですね? ならば、尚その可能性が高い。しかし、その系統が失伝してしまって周りが分からない。今までもそういった事例があったと思います。しかし頭の硬い連中が「無能」の烙印を押し付ける。始祖の再来ならば無能はそれを押し付けた者達だと言うのに。結果、負の感情を抱きながら歴史の影へと消えてしまった方々が居たはずです」

 

「じゃあ、どうすれば良いのよ? どうすればもうゼロと呼ばれずに済むの?」

 

 うーん、若干退行を起こしている。藁にもすがるって感じかな。

 

「そうですね。失伝していても何かしらの物品は王家に残っている可能性が高いかもしれません。まずそこから当たってみるのがいいでしょう。そして見返してやりましょう。貴女を見下してきた無能共を」

 

 ルイズが顔を上げると、若干瞼が腫れぼったかったが迷いが取れたような目をしている。これで大丈夫だな。

 

「あ、えと、その、・・・・・・ありがと。か、勘違いしないことね! まだあんたを認めたわけじゃないんだからね!」

 

「はい、どういたしまして。それより()()()。制服がボロボロなのですからあまり前を開かないでくださいね。正直目に毒です」

 

 パンツ見えてるし。

 

「ばッッッ! 着替えてくる!」

 

「はい、いってらっしゃいませ」

 

 飴と鞭・・・・・・こっち風に言うと杖とパンだったかな? ここまでちょろいとお兄さん心配だよ。ただツンデレ通り越してヤンデレだけは勘弁な!

 

 

 

 この後昼食まで俺は教室を片付け、その後何故か直接呼びに来たルイズと共に食堂に向かっていた。これからの食事も話を通してあるから心配ないって言うし、でもただ食べるだけじゃ居心地悪いから軽い手伝いくらいは許してくれるよね?

 

 そんな会話をしながら俺は厨房へ、ルイズは食堂と別れ、昼食を取ることとなった。しかし飲み物が水か安ワインくらいか。炭酸が飲みたいな。一応持ってきたものにスパークリングワインの作成方法もあったから、コルベール先生を取り込んでみるか。

 

 そんなことをつらつら考えながらも食事を終え、料理人の人たちにお礼を言ってから配膳の手伝いをする。メイドさんたちも人手が増えるのは歓迎らしく、特に問題無く配っていく・・・・・・が。

 

 案の定ギーシュがポケットから小壜を落とした。見てみぬふりをするのが一番利口だと思うのだが、シエスタが拾おうとしてしまっているため放置出来ない。

 

「ミスタ・グラモン、落し物ですよ。こちらに置いておきますね」

 

「おい、それはモンモランシーの香水じゃないのか?」

 

「い、いや、僕は知らない」

 

「嘘だ! さっきの話にモンモランシーも出ていたじゃないか!」

 

 マリコルヌ、怨嗟の雄たけび。

 

「では、私はこの辺で」

 

 シエスタを先に撤退させ、俺もそそくさと退場しようとしたら案の定栗色の髪の女の子が悲痛な顔でギーシュの前まで来ていた。どことなくたぬきっぽいと思ったのは秘密である。

 

「ギーシュさま・・・・・・」

 

「ち、違うんだ。ケティ!」

 

 ここから後はもう流れの通りである。哀れギーシュはビンタを喰らった後、モンモランシーに追撃のワインをかけられ精神ダメージは加速した。

 

「待ちたまえ」

 

 俺は未だに気取ったギーシュの声に内心うんざり、外面ニコニコしながら振り返った。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「君のお蔭で二人のレディの名誉に傷が付いた。どうしてくれるのかね?」

 

 なんか気障ったらしい動作で足を組み替え、俺に難癖付けて来る。

 

「ミスタ・グラモン。好色なところなどは嫌いではありませんが、あなたはもう少し上手くやるべきでしたね」

 

 平民もどきがこんな口を利くとは予想していなかったのか、周りのギャラリーも唖然としてこっちを見ている。

 

「貴族社会では血を絶やすと言うことはとてもいけないことです。そのため第二婦人をも娶ると言うことは当然のことだと思います。しかし、彼女達にも嫉妬や独占欲があると言うことをお忘れなく。それ以上政略結婚以外に愛で支配や依存をさせてしまえば「2番でもいい」と考えてくれるかもしれませんが、貴方には少々荷が重かったようですね」

 

「き、き、貴様は彼女達をなんだと思っている!」

 

「おや? 貴方がそれを言うんですか?」

 

 なんか責任転嫁して憎しみの目で俺を見てきた。ギーシュ。

 

「~~ッ! そういえば君はあのゼロの使い魔だったね。やはり使い魔は主人に似て無能だったようだ。いや、期待した僕が馬鹿だったか」

 

「ふむ、短絡的だと思っていましたが、そういう結論になりましたか。その言葉、そっくりお返ししますよ」

 

 「相手にならん」と言った態度で鼻で笑う感じで返答する。当然平民に馬鹿にされたと思っている貴族はヒートアップする。

 

「ふん、君に礼儀を教えてやろう。ヴェストリの広場で待っている」

 

 そう言ってマントを翻したつもりが、ワインで重くなっている所為でべしゃっと椅子にぶつけてギーシュは去っていった。見張りのつもりか一人残っている奴が居るけど。

 

「あ、すみません、貴族の方は魔法で戦うんですよね? ケーキを配り終えたら私の武器を取りに行ってもいいですか? 流石にメイジ相手に平民に素手で挑めとか恥知らずなことは言いませんよね?」

 

 そう言うと残った一人は慌ててギーシュにそのことを伝えに行った。

 

 それからざわざわとチラチラとこちらを見ては嗤ったりする奴らの居る中、シエスタが出てきた。

 

「あ、あなた・・・・・・殺されちゃう」

 

「何、大丈夫。それに君がひどい目にあわなくてよかった」

 

 今ので自分が小壜を拾おうとしていたのを思い出したのだろう。申し訳なさそうな顔をしている。

 

「大丈夫。軽く「お話」してくるだけだよ」

 

 本当になんでもない。こちらには武器を取りにいく余裕もある。そんな顔しなくてもいいのに。

 

「じゃあ、戻ったら後でお話しよう。こっちに呼び出されてから何も分からなくてね。あ、すまないけどあの調子じゃ先にご主人の方をなだめなきゃいけないようだ」

 

 そうして視線を向けた先には我が愛しのご主人様。なんかオーラっぽいものが見えそうになっている。

 

「なに勝手に決闘なんか約束してるのよ!」

 

「主よ、あの者は主まで「無能」扱いした。だがさっき私が言った事を覚えているか? あれだけ自ら能書き垂れておきながらいざという時に尻尾を巻いて逃げ出すようでは結局無能で終わる。私だけならどうとでも弁が立つが、あの者は主をも侮辱した。だから受けた」

 

 主人をヨイショしてポイントを稼ぐのを忘れない。しかし外面はシリアスである。

 

「ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。貴女は私に一言、「命令」してくれれば良いのだ」

 

「・・・・・・! 分かった。我が使い魔よ。私を侮辱した馬鹿に落とし前を付けて来なさい!」

 

 結論。トリステイン人はこういう寸劇に弱い。

 

「了解した。我が主よ」

 

 

 

「よく逃げずに来たな」

 

「よく逃げずに待っていましたね」

 

 そんな掛け合いをして対峙する。

 

「諸君、決闘だ!」

 

 なーにが決闘だ。公開私刑がしたいだけじゃないか。周りは無責任に「ルイズの使い魔とグラモンが決闘するぞ!」なんて騒いでるし。こんだけ人が居るんだったら普通教師の一人や二人来るだろう。常識的に考えて。ま、「なーんだ、相手は平民か。じゃあ面倒だしいいか」って思ってるかもしれないし、オスマン辺りは実力を計るチャンスだとでも思っているのかもしれない。俺がギーシュを殺したらどうするんだろうな?

 

「先手はそちらに譲ろう。どこからでもかかってくるといい」

 

 俺は鯉口を切り、居合いの構えを取る。しかしこちらでは居合いは無いらしく、どこまでも馬鹿にした表情だ。

 

「ふん、平民風情が。僕は「青銅」のギーシュ。君の相手はこの「ワルキューレ」だ」

 

「・・・・・・」

 

「だんまりか。いつまでその余裕が保てるかな? 行け!」

 

 その掛け声で青銅のゴーレムが向かってくる。ここであえて俺は、いつも使っている脇差での居合いではなく肉厚で重たい太刀で居合いを行った。

 

 

 交差は一瞬。

 

 

 ゴーレムはしばらく硬直した後、胴を横一文字に両断され倒れた。

 

 本来ならば金属を絶つなどまだ出来ないはずだが、低出力の「ガンダールヴ」でもこの威力か。それに握っている間は太刀でも軽々と振り回せる。自己暗示でアドレナリン全開にしたら一体どうなるやら。

 

 ここでギーシュを狙ってもいいんだが、見せ付けるようにゴーレムの四肢を落とし、最後に首を刈る。

 

「で?」

 

 どこまでも馬鹿にしたような、それでいてつまらなそうに促す。

 

「ほら、まだ何かあるんだろう? そこのゴーレムは徹底的に壊したから使うにしてもちょっと問題だよね? まさかもう何も無いって事はないよね?」

 

「無いってことは」

 

「君が死ぬ番だよね?」

 

 ゴーレムの破壊方法から楽に殺してもらえるなんて考え付かせなくした。もう退路は無いと思わせた。それを証拠に――。

 

「ワ、ワルキューレェ!」

 

 薔薇の造花を振り回し、さらに6体のゴーレムを作り出し、こちらに突進させる。それを俺はなで斬りにするが、青銅にも関わらずあっさり両断されていくゴーレム達。

 

 一気に攻めれば勝てると思ったのだろう。しかし未だ未熟な俺が即席で達人レベルにまで上がった状態。ましてや原作と違い持っているのは青銅の粗悪な剣ではなく鋼の太刀。負ける道理が無い。

 

 気がつけばゴーレム達はバラバラになっており、ギーシュは刃先を突きつけられていると言う有様。

 

「悪あがきでもしてみるかい? ノっても良いけどお前の首が飛ぶ方が早いと思うよ」

 

 気分が高揚する。自分でも半分何を言っているのか夢心地状態だ。しかし本当に悪あがきするなら斬るのも悪くない――。

 

「サイト!」

 

 誰かが俺の名前を呼ぶ。誰だ? そうだ、俺が内心(笑)とか(仮)とか付けながら呼んでいるご主人――。

 

「今回は我が主に感謝かな。で、降参する?」

 

「ま、参った・・・・・・」

 

 ギーシュは薔薇を手放し、ガクッと崩れ落ちた。無意識のうちに本気で出していた殺気に当てられていた様だ。

 

 広場が沸いた。まあ、平民が真っ向から向かっていってメイジを叩きのめせばそうなるかな。

 

「よし、今から君の事はギーシュと呼ぶ。敗者は勝者に従うこと。良いね?」

 

「あ、はい」

 

「うん、じゃあ、まず、うちのご主人に謝ること。そうしたらあの二人に謝ってきなさい。そうしたら今回の事は終わりだ」

 

「あ、ああ。分かった」

 

「サイト!」

 

 丁度良いタイミングで愛しの我が主が現れた。

 

「主、ギーシュから話があるそうです」

 

「何?」

 

 怪訝そうな表情でギーシュを見ている。

 

「すまない、ミス・ヴァリエール。僕は君の使い魔を貶めるばかりか、主人の君まで侮辱した」

 

「もう良いわよ。反省してるなら」

 

 ぷいっと目を逸らしながらぶっきらぼうに言うご主人。ほのかに顔が赤い。可愛い。

 

「それより見てたわよ。サイトの発言については後に回すけど、もう私のことは良いからあの二人に謝ってきなさい。土下座で」

 

「ああ、それだけのことを僕はしたんだね。許してくれてありがとう。改めてすまない。では、行ってくるよ」

 

 なにやらすっきりした顔をしているギーシュ。

 

「ああ、逝ってらっしゃい」

 

 満面の笑顔で送り出した。さて――。

 

 俺は感知した方向に対して声を出さずにこう言った。

 

 ミ・エ・テ・イ・ル・ゾ?

 

 日本とこちらでは翻訳の魔法がゲート越しに働いているのか、唇の動きと認識している言語が一致しないが、意図は十分伝わっただろう。魔力が少ない地球で、呪いやらなにやらを感知して返すために常に知覚魔術は働いている。魔力を使ったものにはさらに敏感になるのだ。

 

 これで後々の交渉が楽になると良いな――そう考えながら今後のことを考えるのであった。




 昔書いた奴とは若干違った内容にしてみました。どうでもいいけどたぬきっぽい子を見ると反射的にジョセフィーヌって呼びたくなるんだ。

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