「ご機嫌いかがかな?婿殿。イザベラと俺の絆をさらに深くしたいとあったが、無論、それだけではないんだろう?」
俺は今グラン・トロワに居る。テファの件も余裕が出来て、騎士隊もこの間の乱闘で少し休息を入れる必要があったので時間的余裕が出来たのだ。なので、この度に魔術を伝授してしまおうと思った。
「はい、陛下。俺には別の大陸で学んだ魔術があります。これを陛下たちに伝授し、親子で共通の話題作りと、これをガリア国内でも普及に努めて欲しいのです。この魔術は素養がさほどない平民でも扱えます。そして、ハルケギニアの大隆起。この魔術を使うと周りの大地が持つ精神力なようなもの、これを魔力といいますが、それを自身の精神力を触媒にして増幅させることにより、消費することが出来るのです。これを使えば火が苦手な水メイジでもさほど苦労せず着火することが出来るでしょう。ただ、使いすぎると各地の風石などが激減してしまいます。大隆起を止めるまではいいのですが、これをアルビオンにも広める予定なので、あの地が墜落してしまっては困ります。よって、初歩の火の魔術と水の魔術の出力に制限をかけ、それ以外は免許制にしようと言うのが俺の意見です。どうでしょう。それなりの脅威はありますが、見返りも大きいし、何より面白いと思いますが」
「ふむ、よかろう。俺もそなたの使う魔術には興味があったのだ。では、プチ・トロワに向かうとしようか」
この間馬車の中でシェフィールドを挟んで根掘り葉掘り聞かれた。流石は公式チートと言ったところか。初級は簡単に覚えてしまったよ。シェフィールドにはジョゼフ直々にレッスンするそうだ。とても嬉しそうだった。
「ああ、お前か。この銃を作った職人は」
目の前には高貴な雰囲気に矛盾するかのように粗野なしぐさが似合う不良王女、イザベラが居た。
「お初にお目にかかり光栄。いかがかな?それの使い心地は」
「悪くないわ。撃ち方は父上に教わったし、これは魔法だけじゃないと言う新しい世界を見せてくれたからね。固定化もスクウェアクラスのものがかかっているし、良い鉄を使っているかこの青みがかった色が私を引き立ててくれる。本当に感謝するわ」
大分素直になったようだ。
「そんな殿下に新しい技術を伝えようと陛下と相談してやってきた次第。あ、紹介が遅れました。シャルロットの恋人をやっているサイト・ヒラガと言います。よろしくイザベラ姉さん」
「シャルロットはともかくお前には姉呼びを許した覚えは無いよ」
「まあまあ、そう言うでない。イザベラよ。それに、今回サイト殿が持ってきたものは凄いぞ!おかげで俺も、ほれ」
指先からぼっとライター大の火柱を灯した。
「まあ、父上が魔法を?」
「これは魔術と言うらしい。平民でも扱えるようになるそうだ。これをみなに広めるためにサイト殿は合間を縫って来てくれた。水メイジであるお前も火の魔術を覚えれば楽に発火くらいは使えるぞ」
「そ、そこまで父上が言うのなら・・・・・・教わってあげてもよくってよ!」
「いいでしょう。出来れば今日の予定は白紙にしておいてください。王族であるあなた方には使える魔術はほぼ全部伝授して差し上げます。そこから二人で相談し、平民も使ってもよい魔術を選別してください。最初は無難に火と水だけでいいでしょう」
こうして、ジョゼフとイザベラ、そして俺の3人で魔術講座が行われた。ジョゼフは馬車の中で初級はマスターしたので敵意の感知と身体強化を。イザベラにはまず、各属性を教えた。土魔術は土くれを粘土状にし、形を作って火魔術で焼き、灰を水魔術で濯げば器として使える。風魔術はドライヤーかな。
後日ジョゼフが覚えた魔術はイザベラに伝授することとなり、少し時間が余ったので会食することとなった。
「しかしすごいね、お前は。アルビオンの噂は聞いているよ。剣術にも秀でていると言う話じゃない」
「それは日ごろの鍛錬とシェフィールドと同系統のルーンのおかげです。貴女こそ、飲み込みは早いほうだと思いますよ。特に光と闇の属性すら覚えたのが素晴らしい。あれは意外と難易度が高いんですよ?ジョゼフ王だけ覚えるのが早すぎるだけで」
「難易度高いだけで使いどころが悪いってのが難点だけど。それと、姉と呼ぶのを認めてあげる。シャルロットの恋人になるんだろう?ついでに、お前には色々な事に目を向けることを教わったし」
そっぽ向いて頬を染めるイザベラ可愛い。
「ありがとう、姉さん」
「うむ、善き哉。善き哉」
ジョゼフも上機嫌だ。
「あ、そうだ。陛下のところに今エルフ居ます?明日取り次いでもらいたいんですけど」
「うむ、居るぞ。明日だな。構わぬ。ところで、いかなる用件だ?」
「ちょっと今回で保険をかけておきたいなと思いましてね。トリステインは王女とヴァリエール家に根回しは済んでいるのですが、ガリアは今伝授したからこれから発表と言う形になりますし、大隆起を止めるには属性石を作り出せるくらいの相手じゃないとダメだと考えまして」
「それでエルフか。あい分かった。昼にでも会わせよう。そうだ、イザベラよ。寝るまで魔術の勉強をし、久しぶりに親子一緒に寝るか。お前には寂しい想いをさせたと思ってな」
「も、もう、父上ったら、サイトが居る前で!」
「ははは、照れるな我が娘よ!お前の言いたいこと、今夜全部受け止めてやろう」
「はい、分かりました。父上」
不良王女も父親の前だとしおらしくなるのね。
翌日、プチ・トロワに泊まったのでジョゼフ親子と顔を合わせた。
「おはよう、サイト。良い朝だな」
「おはようございます、陛下。そして姉さん」
「ああ、おはよう!サイト!」
一晩言いたいことを言ってすっきりしたのか良い笑顔をしている。涙目にするのもいいけどこういうのも悪くないな。
「では、朝食を取りながら話でもするとしよう。もう少し魔術について詰めるところがあるのでな。イザベラもそれで構わぬか?」
「はい、父上!」
政治に参加出来ると分かったイザベラもルンルン気分なのか。
「では、流石に朝から酒だと夜になったとき頭が回らなくなるからな。果実水で乾杯と行こう」
「それでは陛下と姉さんの親子の融和と、これからも仲良くしていけることを願って、乾杯」
『乾杯』
まずは国力のせいかトリステインより1ランク上のメニューに舌鼓を打つ。落ち着いてきたところで話を切り出そう。
「では、そろそろお話しましょうか。今回話したいことは、平民に使わせる魔術についてです」
「確かに、全て伝授してしまっては下手な革命で無駄に血が流れる」
「万が一私たちも断頭台に上がることになりますものね」
「よって、まずは制限をかけた火と水の魔術を開示し、平民に広めてください。これならば攻撃力が無いのでせいぜい小火で済みます。他、兵士が扱う魔術などを位分けし、警邏などの役に立ててください。後は魔術アカデミーを新設し、検閲を行うといいでしょう。最後に陛下にお願いが」
「申してみよ」
「陛下の虚無を開示してもらいたいのです」
「!?」
イザベラは知らなかったのか一度我慢して口の中のものを飲み込んでから咳き込んだ。
「真意を聞こう」
「始祖の再来である虚無が王だったと分かればシャルル派も少しはおとなしくなるでしょう。まあ、こちらはおまけですが。本当の理由は、虚無である陛下が率先して魔術を使っていただければ、ロマリアもうかつに手を出せないと言うことです。ただし、大隆起が迫っています。聖地に行けばなんとかなると思っているロマリアのせいで聖戦が近い。その前に牽制し、焦らし、準備不足のうちに攻めされれば叩きやすくもなります。トリステインでも王女と次期女王に伝授しておきましょう。そしてアルビオンにもツテがあるので。アルビオンは現在戦で人材不足です。魔術が使えれば平民でも徴用すると思います。ゲルマニアは、平民上がりの貴族がその憧れから魔術を自ら学びに来ると思うので、少し優越感を満たしてやるために平民より一つか二つ多くの魔術を授ければこちらに矛を向ける余裕はありません。どう思いますか?」
「うむ、なかなか良い案だ。それとイザベラ、今まで黙っていて悪かった。俺がこの虚無のことを知ったのは戴冠した後だったか。授けられた「土のルビー」と「始祖の香炉」により、虚無に目覚めたのだ」
「そうだったのですか・・・・・・でも、だったら父上は何故今まで無能王と蔑まれてきたのですか?虚無を証明すれば返上できるのに・・・・・・!」
「そのほうが都合が良かったからだ。俺を侮れば、その分動きやすくなる。政治は片手間で出来たのでな。一日の大半を遊びに費やしていれば働かない無能な王の完成だ」
「姉さん、これが魔法以外の能力を使うということだよ。人に決められた才能は一つじゃない。探せば出てくる。だから魔法は一つの道具として、陛下も内政の手札の一つとして伏せておいたほうが有利だったから公表しなかったんじゃないかな」
「おおむねその通りだ」
「そう、それが「自分の能力を使う」って事なのね」
「お前はまだ若い。自分の出来ることを探せば良い」
ジョゼフはそう締めくくった。
後は適当に話を詰め、ガリアでも無事魔術を公表する旨がまとめられた。残るはビダーシャルに合うだけだ。
「我に用とはお前か?蛮人」
「蛮人とは酷い言い草だ」
「それは失礼した。それで、いかなる用だ?」
「その前に、まず自己紹介でもしようか。俺は別の大陸より召喚されたサイトと言う。そして、これを見てくれ」
そう言ってグローブを外す。最近あったな。こういうやりとり。
「そちらで言う「聖者アヌビス」の後継だ」
「・・・・・・失礼した、サイトよ。我の名はビダーシャル。ネフテス、老評議会議員だ」
「うん、それで、単刀直入に言う。四の四を揃えないようにするから、力を貸してほしい」
「力とは?」
「貴公が言う蛮人が調子に乗って力を使いすぎたせいで、あちらこちらに風石が出来ている。それをなんとかしようとロマリアと言う国が聖戦を起こそうとしているんだ。だから、その理由を潰すために風石を危ない地域から順に分解して欲しい。サハラに攻め入ろうとしているロマリアは俺たちでなんとかしよう」
「我は信じていいものか迷う。だが聖者アヌビスの後継よ。お前のその証に免じて一度だけ信じてやろう。ジョゼフからも口添えされている」
「感謝する」
「話は終わりか?」
「二つある。シャジャルの娘がシャイターンの力を継いだ。だが、その娘は残る一を呼び出していない。危険が迫ったら呼び出す恐れがある。よって、娘を害さないで欲しい」
「了解した。名は?」
「ティファニア。ティファニア・ウエストウッドだ」
「覚えた。二つ目は?」
「今回のシャイターンには「予備」が居る。一人を殺してもそれが目覚める上、俺はそいつの居場所を特定出来ていない。よって、現在の四を殺しても残る四が揃う恐れがあるだろう。こちらは警告だ」
「なんと・・・・・・」
「特定は出来ていないが予備は現在何も知らずに暮らしているそうだ。寝ている竜を起こす必要も無い。以上だ」
「話は全て承った。我はいつ動けばいい?」
「一度帰って話し合うといい。時間稼ぎはしてある。一番まずいのは火竜山脈だが、まだ少しもつだろう。それから独自に動いてくれ。終わったら知らせてくれるとありがたい」
「了解した」
「では、さらばだ」
「また会おう、アヌビスの後継よ」
残るはアルビオンか。こういうのは同時に動かして敵の戦力を分散させないとダメだからな。もう少しだ。
開き直った全力のジョゼフ率いるガリアとロマリア、どちらが強いでしょうね?