転生先が平賀さんな件   作:スティレット

45 / 57
 サイト君のいつもの地味なお仕事。サイト君の強さはこうやって支えられています。


根回しの大事さ

 俺はバハムートに乗り、動物からの認識を阻害するためにみょんみょんと呪いを飛ばしながらバハムートの背に乗っていた。ガリアから直接アルビオンに向かっているのだ。日程には手紙を送ったこともあり、予定はあるが。

 

 次のアルビオンは慎重に行かなければ行けない。そもそも前回のオリヴァー・クロムウェルも水の先住魔法を利用した平民出身の司教だったのだ。やってらんないね。

 

 アルビオンから脱出したときと違って航行ルートも大丈夫だ。雲よりギリギリ下を飛んでいるので地形も把握出来ている。

 

 何よりバハムートが方角とアルビオンへのルートを覚えているため、俺は呪いを発し続けるだけでいいのだ。

 

 そして問題なくアルビオンの首都、ロンディニウムに到着した。現在ガリアに砲撃を喰らったので急ピッチで再建を進めている。

 

 俺は適当な人間を捕まえ――。

 

「私はサイト・ヒラガ子爵と言う。トリステインからの手紙の通り、日程に合わせて陛下のご尊顔を伺うため、やってきた。どなたか案内を着けて頂けまいか?」

 

 と、言うとアルビオン貴族は震え上がり、若干腰を抜かしながらも衛士を呼んできてくれた。ああ、俺こっちじゃ死神か魔王扱いだっけ。

 

「こちらでお待ちください」

 

「案内ご苦労」

 

「そんな、あの七万殺しの英雄からねぎらいの言葉をかけられるなんて恐れ多い!」

 

 と、貴族になるとこういう言葉遣いにまで気を使わないといけないから面倒だ。

 

 応接室で茶を控えめに、菓子は美味いので多めに食べながら待つことしばらくし、ウェールズ「陛下」が来た。

 

「久しぶりだね!話は聞いているよ。サイト。大事で内密な話なんだって?」

 

「お久しぶりです。それと、無事戴冠おめでとうございます。ウェールズ陛下」

 

「君から言われると面映いな。しかし慣れないとね。サイレントをかけるから落ち着いて話そうか」

 

「はい、お願いします」

 

 そう言ってウェールズは杖を抜き、サイレントをかけてから話を続けた。

 

「して、今回はどのような用向きかな?手紙では重要な話とあったが」

 

「ええ、このたびの戦で洗脳を受けた味方ごと殺めねばならず、その人材は多大なる被害を受けたことでしょう。それの水増し案を持ってきたのです」

 

「それは素晴らしい!して、その案とは?」

 

「まあ、その前に前置きがあるのです。この案は平民を徴用するので十分に信の置ける人材を選んでください」

 

「分かった。任せてくれ」

 

「では、改めて、その案とは、俺が日ごろから使っているこの魔術、これを信頼出来る人材に教え、平民でも魔術を扱えるようになれば末端の警邏から近衛まで水増し可能と言うことです。俺もここに来るまでに復興しながらのロンディニウムに戸惑ったので、そこら辺の人を捕まえて衛士を呼ばせました。少し足りてないかなと言うのが個人的な俺の意見です」

 

「そうか・・・・・・確かにその通りだ。今回の戦争で大きく人員が失われ、人材をやりくりするのに苦労しているのが正直なところだよ。しかし、異端に引っかからないか?」

 

「そのためにトリステインのヴァリエール公爵家と、ガリア王家に声をかけて同時発表してもらう予定です。ゲルマニアは、ツェルプストーの家くらいしか繋がりが無いので平民上がりの貴族には隣国に赴いて習得してもらうとしましょう。これは免許制にし、兵達の間でも使い方に制限を加え、漏らしたら罰則を与えるのがよろしいかと。魔術は大源(マナ)と言う、空気や大地に含まれる精神力のようなものを消費します。よって、ここアルビオンで使いすぎると風石が減少し、採れなくなるでしょう。最悪、すぐとは言いませんが浮力を失いどこかに不時着することにもつながります」

 

「なるほど、見返りが大きい分、危険もある、か。しかし、兵達に選民意識を持たれても困る。どうしたものか」

 

「それならば出力に制限をかけた火と水の魔法を他の平民にも公開するのがよろしいでしょう。きちんと調節すれば平民が生活に使ってもそこまでの脅威となりません。脅威となるのは争いごとに際限なく使われる場合なので」

 

「そうか、それもそうだな。制限をかけられるなら問題も無い、か。次の話をしよう。教育方法はどうする?」

 

「本を記しますので、それを写本して貸し出し不可の状態で使ってください。免許を取っていないものが使っていたらその都度捕まえると言うことで」

 

「その無免許者と言う小を捕まえるとしても、兵の水増しと言う大が出来るなら、取るべきは大だな。ありがとう、サイト。ここで作業していくか?」

 

「ええ、郵送は危険ですから。本自体は一日で終わると思います。写本は信頼出来る人物を集めて置いてください。その方に任せます」

 

「分かったよ」

 

「それと陛下だけのお耳に入れたいことが」

 

「何かな?」

 

「実は、王弟の娘、つまり貴方の従姉妹が居ます。その娘は最近まで、サウスゴータ地方に住んでいました」

 

「!?・・・・・・その娘はどこへ?」

 

「今はトリステインに居ます。しかしここからが問題でして、エルフとのハーフなのです。本人は先住魔法は使えませんが、虚無を受け継いでいます。非常に立場的な扱いに困るのと、本人は静かに暮らしたいとの希望だったので、フェイスチェンジに似た魔術をかけ、耳を隠しトリステインの魔法学院に通わせています。万が一、あの娘の親身になれるのは、今面倒を見ている平民落ちした女性と、従兄妹である貴方やアンリエッタ王女殿下くらいです。そのため、話しておこうと思いました」

 

「分かった、胸に留めておく。その娘の名前は?」

 

「ティファニアです。何か危機に陥ったらこちらから助けを呼びますのでそっとしておいて貰えるよう、お願いします。もちろんロマリアにも内密で。立場が危うすぎてどのような扱いをされるか想像が難しいです。想像出来る範囲と言えば、都合のいいときだけ祭り上げられ、終わると同時に異端審問にかけられ処刑されると言ったところでしょうか。なので、重ねて、内密にお願いします」

 

「気をつけるよ」

 

 こうして、アルビオンにも渡りを着け、ついでに水面下でガリアとトリステインで魔術アカデミー設立によりこの際同盟を組ませる案も出しておいた。今のアルビオンは何かと不足しているから、同盟による援助はとても魅力的だろうよ。

 

 

 

 さて、今回も強行軍を終え、トリステインに帰ってきた。忘れてたエルフの指輪はテファに返しておくとして、アンリエッタに報告に行かなければ。

 

「サイト・ヒラガ子爵だ。任務を終え、報告に戻った。アルビオンでの件と殿下に伝えてくれ」

 

「はっ!」

 

 今の俺は法衣貴族なので、土地を持っていない。だから間に余計な名前も入っていない。孤児院の分は買ったが、それくらいだ。しばらくして土地を貰ったらそこへまとめて引っ越してもいいな。地方は上下水道が発達してなかったりするから治水工事からしなきゃいけないのか。面倒だ。

 

「おかえりなさい、サイトさん。ウェールズさまは元気でしたか?」

 

「ただいま、殿下。ええ、精力的に復興に力を注いでいましたよ。とてもお元気そうでした」

 

「して、任務はどうなりましたか?」

 

「問題ありません。後は、殿下とヴァリエール公爵家、そしてルイズが名乗り出て、魔術を普及していくのがいいでしょう。今までルイズに魔術を覚えさせませんでしたが、それは虚無より先に魔術を覚えさせてしまえば虚無が疑われます。魔術を覚えている俺が召喚されて、それから虚無に目覚め、知名度や名声により正面からの敵に備え、そして最終的に覚えさせるべきと判断しました」

 

「そうですか。ところで、わたくしもあなたの器用さを見ているとちょっと習ってみたくなったの。今度ルイズと一緒に教えてくださらない?」

 

「もちろんですとも。そうそう、ロマリアはどうなりました?」

 

「わたくしに「圧倒的な力により戦わずして勝つ方法」をお話してましたが、ガリア王も改心した今、外国を攻める理由がありませんもの。国庫も空ですし。適当にはぐらかしておきましたわ」

 

 てへぺろって感じで舌を出すアンリエッタ。俺に毒されすぎだろう。

 

「そうですか。あの国は陰謀が主で、国力はそこまで高くないです。寄付金を聖騎士隊の増強に当てればいいのに贅沢するのに夢中ですし。あちらも陰謀を張り巡らせるために時間をかけた分、こちらも動けます。時間だけは平等に流れるので、後はいかに早く準備を終えるかが鍵です。引退したヴァリエール公爵には悪いのですが、魔術学院の学院長に公爵を、副院長にエレオノール様を付けて下さい。カトレア姉さんは希望にもよりますが、人当たりがいいので実際教えるのが妥当でしょう。色々な動物の面倒もよくみていましたし。しかし人事配置は公爵かエレオノール様を学院長に付ける以外はお任せします」

 

「分かりましたわ」

 

「後は裏でゲルマニアの平民上がりの貴族に情報を流すべきかと。優越感を与えるために二つまでなら多くの魔術を教えても構いません。ただし、より重い罰則が付くように取り計らいお願いします」

 

「他には無いかしら?そろそろルイズ達との生活を聞かせて欲しいの」

 

「ありませんね。では、最近作ったガーゴイルの話から・・・・・・」

 

 それから30分ほど談笑して、どうせなんで孤児院に顔を出してから帰った。うーむ、これが終わったらマチルダにワルドを紹介してみるか。原作でもコンビ組んでたし、上手くいけばくっつくだろう。姉御肌で包容力があるからマザコンのワルドと相性いいだろうし。

 

 

 

「お疲れ様、サイト。なんかへろへろね」

 

 ルイズが迎えてくれた。

 

「ああ、ガリアから直接アルビオンに行って、そこからトリステインの強行軍だよ。いや死の行進(デスマーチ)かな?」

 

「竜の上は寒いものね。コルベール先生が旅立ってゼロ戦の面倒もあんたとギーシュでみなきゃいけないらしいし」

 

「何よりゼロ戦は音が目立つから仕方が無い。バハムートは一度指示を出せば勝手に飛んでくれるが」

 

「なら、まずは温まるためにワインでも飲みましょう。シエスタが食事の準備をしてくれているわ。キュルケとシャルロットも待っているわよ」

 

「ああ、少なくとも笑いながら食事を取れば温かくなるね。そうしよう」

 

 仕込みは上々だ。一方あちらは共通の敵を作って必死に仲間を作ろうとしてるようだけど、これ以上の根回しは俺には考え付かんな。コルベール先生も旅立ったから火のルビーも渡されて無いだろうし。




 現王女、次期女王、公爵家。この三つを敵に回して生き延びれる奴は多分いないんじゃないかな(白目)
 サイト君はまだ子爵なので貴族的にはまだまだ発言権が低いです。よっておまけみたいなもんです。そのおまけに手を出したら死にますが。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。